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そして婚約は破棄された
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この辺りの夏は、それほど気温も上がらず、夜は涼しかった。
昼は外に出て労働をすれば汗ばむ程度ではあるが、夜は肌寒く感じるほどだった。
アーベルを見つけ、問いただすと、俺を宮廷のバラ園へと誘ってきた。
何種類もの色とりどりの薔薇が咲き誇る広大な庭園。
中央には迷路のように配置された生垣があり、両脇にはツルバラで作られた長いアーチが続いている。
アーチを抜けると、迷路の中心に辿り着く。
そこにはベンチがあり、可憐な薄い花びらを持つ薔薇が咲いている。
バラ特有の高貴な芳香を放つものもあれば、フルーツのような甘い香りがするものもあった。
月光の下、濃い緑の影にひっそりと咲く薄紅色の薔薇が、少し俯きがちに揺れている。
俺はそれを眺めながら、アーベルの後をついて歩いた。
やわらかな月の光が、二人を静かに包む。
しばらく歩くと、バラ園の中でも開けた場所へ出た。
おあつらえ向きに二人がけのベンチが置かれている。
この場所は、薔薇庭ではヒロインにアーベルが告白をする場所だ。
ツルバラに囲まれたガラス張りのテラスハウスの内部には、たくさんの薔薇の鉢植えが並べられ、薔薇の豊かな香りに満たされていた。
「座って話そう」
アーベルはベンチに腰掛け、その隣に俺も座る。
気まずい沈黙が流れ、それを破るように、ずっと聞きたかったことを問いかけた。
「なんで、あんなことをしたんだ……? 愛する人って……お前、一体誰のことを……」
婚約破棄のことだった。
アーベルは何も話さない。
問い詰めることもしたくなくて、俺は黙った。
ふと見上げると、アーベルがじっとこちらを見つめていた。
その瞳の熱に押されて、俺は思わず目を逸らす。
「ずっと好きだった。……でも、僕は臆病で……告白する勇気がなかったんだ」
「え?」
やっぱり好きなやつがいたのか……。
いや、でも待てよ? なんでコイツは熱っぽく俺の手を握ってるんだ?
「リュシアン」
薔薇のアーチの下で、アーベルは跪き、俺の手にそっと口づける。
思考が止まる。意味をつかむ前に、アーベルは懐から何かを取り出した。
小さな、薔薇の花束――13本。
目の前が歪む。
アーベルが言っていた「13本の薔薇を本当に愛する人に渡すんだ」と言うセリフを思い出す。
その姿は、かつてゲームで見た“告白スチル”とそっくりだった。ただし、相手は女主人公のはずなのに、今は俺。
俺の喉が、ごくりと鳴った。
やめろ、こんな展開、俺の想定にはなかった。
しかも、これは――
頭を抱えそうになる。俺は死亡フラグを回避するために動いたはずだったのに。アーベルと女主人公の接触を避け、婚約破棄を阻止するために根回しをし続けた。
やっと回避したのにその婚約破棄を引き起こしたのはーーー
「リュシアン。僕は……君を愛してる。君と生きていきたい。だから、婚約は取りやめた」
俺だ。
昼は外に出て労働をすれば汗ばむ程度ではあるが、夜は肌寒く感じるほどだった。
アーベルを見つけ、問いただすと、俺を宮廷のバラ園へと誘ってきた。
何種類もの色とりどりの薔薇が咲き誇る広大な庭園。
中央には迷路のように配置された生垣があり、両脇にはツルバラで作られた長いアーチが続いている。
アーチを抜けると、迷路の中心に辿り着く。
そこにはベンチがあり、可憐な薄い花びらを持つ薔薇が咲いている。
バラ特有の高貴な芳香を放つものもあれば、フルーツのような甘い香りがするものもあった。
月光の下、濃い緑の影にひっそりと咲く薄紅色の薔薇が、少し俯きがちに揺れている。
俺はそれを眺めながら、アーベルの後をついて歩いた。
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しばらく歩くと、バラ園の中でも開けた場所へ出た。
おあつらえ向きに二人がけのベンチが置かれている。
この場所は、薔薇庭ではヒロインにアーベルが告白をする場所だ。
ツルバラに囲まれたガラス張りのテラスハウスの内部には、たくさんの薔薇の鉢植えが並べられ、薔薇の豊かな香りに満たされていた。
「座って話そう」
アーベルはベンチに腰掛け、その隣に俺も座る。
気まずい沈黙が流れ、それを破るように、ずっと聞きたかったことを問いかけた。
「なんで、あんなことをしたんだ……? 愛する人って……お前、一体誰のことを……」
婚約破棄のことだった。
アーベルは何も話さない。
問い詰めることもしたくなくて、俺は黙った。
ふと見上げると、アーベルがじっとこちらを見つめていた。
その瞳の熱に押されて、俺は思わず目を逸らす。
「ずっと好きだった。……でも、僕は臆病で……告白する勇気がなかったんだ」
「え?」
やっぱり好きなやつがいたのか……。
いや、でも待てよ? なんでコイツは熱っぽく俺の手を握ってるんだ?
「リュシアン」
薔薇のアーチの下で、アーベルは跪き、俺の手にそっと口づける。
思考が止まる。意味をつかむ前に、アーベルは懐から何かを取り出した。
小さな、薔薇の花束――13本。
目の前が歪む。
アーベルが言っていた「13本の薔薇を本当に愛する人に渡すんだ」と言うセリフを思い出す。
その姿は、かつてゲームで見た“告白スチル”とそっくりだった。ただし、相手は女主人公のはずなのに、今は俺。
俺の喉が、ごくりと鳴った。
やめろ、こんな展開、俺の想定にはなかった。
しかも、これは――
頭を抱えそうになる。俺は死亡フラグを回避するために動いたはずだったのに。アーベルと女主人公の接触を避け、婚約破棄を阻止するために根回しをし続けた。
やっと回避したのにその婚約破棄を引き起こしたのはーーー
「リュシアン。僕は……君を愛してる。君と生きていきたい。だから、婚約は取りやめた」
俺だ。
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