【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵

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対峙

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マリーテレーズはそのまま母国に帰ることになった。
慌ただしく見送りが終わり、俺はそのまま、王子の部屋で一晩過ごすことになった。
俺の部屋は枢機卿の見張りがまだついているかも知れないからとのことだった。
ベッドの端に腰掛けて、俺はひどく緊張している。
(……やばいなこれ。今夜は、そういう展開になるってことか?)
隣に座っているアーベルも、心なしか少し表情が固い。けれどその横顔には、どこか決意のようなものが滲んでいて――肩にそっと手を回された瞬間、体がびくりと跳ねた。
「怖い?」
優しく聞かれて、俺はすぐに返事ができなかった。心臓の音がうるさい。こんなに近くにいるのに、ちゃんと呼吸できてるかすら怪しい。
「……アーベル」
「うん」
「……そのさ、一応、確認してもいいか?」
「なに?」
「こういうことするってことは……俺のこと、そういう対象として見てるってことで……合ってるんだよな?」
一拍の間のあと、アーベルはまっすぐに俺を見て、頷いた。
「うん。ずっと……好きだった」
ぐっと喉が詰まった。そう返されるのは分かっていたけど、実際に聞くと胸がざわついた。
「そ、そうか……」
俺は深く息を吸って、それでも落ち着かない心を無理に押さえつけた。
「……俺さ、正直、男が相手っていうのは初めてだから……自信とか、全然ないんだけど」
言いながら、顔が熱くなる。なのにアーベルは、微笑んで俺を抱きしめてくれた。
「大丈夫。僕も、君になら……いいと思ってる」
その言葉で、少しだけ安心する。
「キスしてもいい?」
そう訊かれて、思わず視線を逸らした。けど、すぐに絞り出すように答える。
「……いちいち聞くなよ、バカ」
それが合図だった。
アーベルは、そっと顎に手をかけ、俺の顔を上に向かせる。そして、柔らかな唇が触れた。触れて、離れて、また重なって――何度か繰り返されるうちに、自然と目を閉じていた。
「……ふっ」
唇が舐められた瞬間、背筋に震えが走る。思わず胸を押すと、アーベルは笑って唇を離した。
「ごめん、急ぎすぎた?」
「……っ、うるせぇ……」
息が上がっているのを自覚して、顔を隠した。なのに名前を呼ばれて――優しく、静かに。
「リュシアン……」
胸が、きゅっと締め付けられる。
(……なんなんだよ、もう……)
不意に、俺はアーベルの体を手で押しとどめた。
「……ちょっと待て。頭が追いつかない」
「うん」
アーベルは、俺の目をじっと見て、そっと手を引いた。
「無理はしない。でも、手を繋いでもいい?」
「……勝手にしろよ」
そう言いつつも、自分から手を差し出していた。アーベルがそっと指を絡めてくる。ぬくもりが心地よくて、思わず力を抜いた。
「……リュシアン。好きだよ」
耳元で囁かれて、返事ができなかった。けど、その代わりにアーベルの手をぎゅっと握り返した。
ほんの少しだけ目を閉じると、もう一度唇が重なった。
――こうして、俺たちは少しだけ、確かめ合うように夜を過ごした。
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