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弟の婿入り先
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応接室を辞した私たちは玄関ホールに向かった。父もミレーヌも追いかけて来ない。ここに着いた時には想像もしなかった状況に、何だか夢を見ているような気分だった。
「やっと実家と縁が切れたよ」
気まずい空気の中、エドモンの明るい声が響いた。
「リサジュー侯爵、ありがとうございました」
「いやいや、君を息子として公爵家に送り出せるのだ。私としても十分すぎるほどメリットがある。気にしないでくれ」
「そう言って頂けると嬉しいです、義父上」
「はは、義父上か。君にそう呼ばれるのは何だかくすぐったいな」
エドモンとリサジュー侯爵のやり取りの気安さに驚いた。上司と部下とは言え、実質的な部門の長と新人では直接関わることはないだろうに。いつの間にこんなに親しくなっていたのか。そういえば、どこの公爵家に婿入りするのだろう。
「姉上、これから義父上と職場に戻るね。この書類をさっさと裁可して頂かないと」
「わ、わかったわ」
色々聞きたいことはあったけれど、そう言われてしまうと何も言えなかった。段取りの良さからエドモンとリサジュー侯爵はこうなるように準備して来られたのだろうけど、何がどうなっているのか……
「詳しくはミオット侯爵に伺って。近々連絡するね」
「え? ええ」
二人は早々に馬車に乗り込んで行ってしまったので、私はレニエ様の馬車に乗り込んだ。レニエ様が私の隣に腰を下ろすと、静かに馬車が走り出した。
「ジゼル、説明もなくすまなかった」
手を取られて謝られてしまったけれど、とんでもないことだ。むしろ色々動いて下さって感謝しかない。
「そ、そんな! こちらこそ、何から何までお世話になってばかりで……」
それが心苦しかった。ルイーズ様に相談してお願いすることも出来たのだから。ただ、私的なことでルイーズ様を煩わせるのは申し訳なく、職権乱用と言われそうで出来なかった。
「ああ、気にしなくていいよ。実はね、公爵家の意向もあって内々に動いていたんだ」
「公爵家って……そういえば弟は一体どこの家に? お相手は?」
「ドルレアク公爵だよ」
「ドルレアクって……まさか、ラシェル様?」
「ご名答」
ご名答って……ラシェル様といえばミレーヌの元婚約者のエクトル様が懸想した相手なのに。でも、どうしてエドモンがラシェル様と? いつからそんな関係になっていたのだろう。全く気付かなかった……いや、その前に……
「でも、公爵家にはご子息が……」
「うん、そうだね。でも令息は生まれつき障害がおありでね。公爵は後継にするのを諦められたそうだ」
身体が弱いと言われているのは知っていた。十歳になっても子ども同士の交流会に出てことはないとも。では……
「爵位を継ぐのはラシェル嬢の婿だ。その候補に上がったのがエドモン君だったんだよ」
「候補って……」
まさかあの子とラシェル様とそんなことになっていたなんて。今まであの子からはラシェル様の名前が出て来たことは一度もなかったのに。
「エドモン君を推したのはリサジュー侯爵だ。彼は公爵と付き合いが長くて、内々に婿に相応しい令息を探すよう頼まれていたんだよ」
「でも、どうしてエドモンなんです? 他にも家格の合う相手はいくらでも……」
「それが、ラシェル嬢の意向が強かったそうだよ」
「ラシェル様の?」
それこそ理由がわからない。ラシェル様と接点なんてあっただろうか。年も違うし私が知る限りでは接点はないように思うのだけど……
「なんでも、学園で上位成績者の集まりの際、ラシェル嬢に付き纏っていたクルーゾー君を窘めたそうだ。ちょうど妹君との関係が怪しくなってきた頃だと聞いているよ」
それなら確かに可能性はあるかもしれない。私も出たことがあるけれど、学園では年に二、三度、上位成績者だけが招待される交流会がある。それは全学年の優秀者を集めるから確かに顔を合わせるだろうけど。ミレーヌとの距離が出始めた頃なら、婚約者の兄としてエクトル様を諫めたのだろうか。
「ドルレアク公爵はラシェル嬢に甘いし、リサジュー侯爵の推薦もあってエドモン君にと決めたそうだ。でも困ったことにクルーゾー君がね」
レニエ様が苦い笑みを見せた。
「それまでも婿になるのは自分だと言って憚らず、ライバルになりそうな令息に嫌がらせを繰り返していたんだ。もしエドモン君に決まったとなれば何をするかわからない」
「確かに……」
ミレーヌの時に思ったけれど、彼はプライドが高くて我が強く、思い詰めて暴走するタイプに見える。ミレーヌもよく愚痴を言っていたっけ。
「もしエドモン君が選ばれたと知れたら、ジゼルにも危害を加える可能性が高かったからね。公爵とリサジュー侯爵に頼んでクルーゾー君を無害化するまでは公表を待って貰ったんだ」
「無害化って……そ、それで、エクトル様は……」
「ああ、今までの嫌がらせの証拠を集めてクルーゾー侯爵に突きつけたんだ。そうしたら侯爵は廃嫡なさってね。令息はそのショックで倒れてしまったらしく、領地で療養することになったそうだ」
それって……数か月後に病死の知らせが来るあれだろうか。公爵家に睨まれてはさすがにクルーゾー侯爵も庇えなかったのだろう。それでなくてもミレーヌとの婚約を夜会で破棄したせいでルイ殿下やルイーズ様の不評を買っていたから。
「じゃ、エドモンは……」
「近々公爵家の夜会で養子縁組と婚約が発表されると思うよ」
弟が、エドモンが次期公爵だなんて全く実感が湧かないけれど、何となくあの子なら飄々と公爵もやっていけるような気がした。
「エドモン君の養子縁組の話の際、ジゼルも一緒にって話もあったんだ」
「私も?」
思いがけない話にレニエ様を見上げると、困ったような笑顔を浮かべていた。
「うん。エドモン君はジゼルこそ家から離したいと言っていたんだ。それでリサジュー侯爵が二人共養子にと言い出したんだけど……それはお断りしたよ」
「レニエ様が?」
「うん。もしそうなると私に嫁げるかわからなくなっちゃうからね」
「やっと実家と縁が切れたよ」
気まずい空気の中、エドモンの明るい声が響いた。
「リサジュー侯爵、ありがとうございました」
「いやいや、君を息子として公爵家に送り出せるのだ。私としても十分すぎるほどメリットがある。気にしないでくれ」
「そう言って頂けると嬉しいです、義父上」
「はは、義父上か。君にそう呼ばれるのは何だかくすぐったいな」
エドモンとリサジュー侯爵のやり取りの気安さに驚いた。上司と部下とは言え、実質的な部門の長と新人では直接関わることはないだろうに。いつの間にこんなに親しくなっていたのか。そういえば、どこの公爵家に婿入りするのだろう。
「姉上、これから義父上と職場に戻るね。この書類をさっさと裁可して頂かないと」
「わ、わかったわ」
色々聞きたいことはあったけれど、そう言われてしまうと何も言えなかった。段取りの良さからエドモンとリサジュー侯爵はこうなるように準備して来られたのだろうけど、何がどうなっているのか……
「詳しくはミオット侯爵に伺って。近々連絡するね」
「え? ええ」
二人は早々に馬車に乗り込んで行ってしまったので、私はレニエ様の馬車に乗り込んだ。レニエ様が私の隣に腰を下ろすと、静かに馬車が走り出した。
「ジゼル、説明もなくすまなかった」
手を取られて謝られてしまったけれど、とんでもないことだ。むしろ色々動いて下さって感謝しかない。
「そ、そんな! こちらこそ、何から何までお世話になってばかりで……」
それが心苦しかった。ルイーズ様に相談してお願いすることも出来たのだから。ただ、私的なことでルイーズ様を煩わせるのは申し訳なく、職権乱用と言われそうで出来なかった。
「ああ、気にしなくていいよ。実はね、公爵家の意向もあって内々に動いていたんだ」
「公爵家って……そういえば弟は一体どこの家に? お相手は?」
「ドルレアク公爵だよ」
「ドルレアクって……まさか、ラシェル様?」
「ご名答」
ご名答って……ラシェル様といえばミレーヌの元婚約者のエクトル様が懸想した相手なのに。でも、どうしてエドモンがラシェル様と? いつからそんな関係になっていたのだろう。全く気付かなかった……いや、その前に……
「でも、公爵家にはご子息が……」
「うん、そうだね。でも令息は生まれつき障害がおありでね。公爵は後継にするのを諦められたそうだ」
身体が弱いと言われているのは知っていた。十歳になっても子ども同士の交流会に出てことはないとも。では……
「爵位を継ぐのはラシェル嬢の婿だ。その候補に上がったのがエドモン君だったんだよ」
「候補って……」
まさかあの子とラシェル様とそんなことになっていたなんて。今まであの子からはラシェル様の名前が出て来たことは一度もなかったのに。
「エドモン君を推したのはリサジュー侯爵だ。彼は公爵と付き合いが長くて、内々に婿に相応しい令息を探すよう頼まれていたんだよ」
「でも、どうしてエドモンなんです? 他にも家格の合う相手はいくらでも……」
「それが、ラシェル嬢の意向が強かったそうだよ」
「ラシェル様の?」
それこそ理由がわからない。ラシェル様と接点なんてあっただろうか。年も違うし私が知る限りでは接点はないように思うのだけど……
「なんでも、学園で上位成績者の集まりの際、ラシェル嬢に付き纏っていたクルーゾー君を窘めたそうだ。ちょうど妹君との関係が怪しくなってきた頃だと聞いているよ」
それなら確かに可能性はあるかもしれない。私も出たことがあるけれど、学園では年に二、三度、上位成績者だけが招待される交流会がある。それは全学年の優秀者を集めるから確かに顔を合わせるだろうけど。ミレーヌとの距離が出始めた頃なら、婚約者の兄としてエクトル様を諫めたのだろうか。
「ドルレアク公爵はラシェル嬢に甘いし、リサジュー侯爵の推薦もあってエドモン君にと決めたそうだ。でも困ったことにクルーゾー君がね」
レニエ様が苦い笑みを見せた。
「それまでも婿になるのは自分だと言って憚らず、ライバルになりそうな令息に嫌がらせを繰り返していたんだ。もしエドモン君に決まったとなれば何をするかわからない」
「確かに……」
ミレーヌの時に思ったけれど、彼はプライドが高くて我が強く、思い詰めて暴走するタイプに見える。ミレーヌもよく愚痴を言っていたっけ。
「もしエドモン君が選ばれたと知れたら、ジゼルにも危害を加える可能性が高かったからね。公爵とリサジュー侯爵に頼んでクルーゾー君を無害化するまでは公表を待って貰ったんだ」
「無害化って……そ、それで、エクトル様は……」
「ああ、今までの嫌がらせの証拠を集めてクルーゾー侯爵に突きつけたんだ。そうしたら侯爵は廃嫡なさってね。令息はそのショックで倒れてしまったらしく、領地で療養することになったそうだ」
それって……数か月後に病死の知らせが来るあれだろうか。公爵家に睨まれてはさすがにクルーゾー侯爵も庇えなかったのだろう。それでなくてもミレーヌとの婚約を夜会で破棄したせいでルイ殿下やルイーズ様の不評を買っていたから。
「じゃ、エドモンは……」
「近々公爵家の夜会で養子縁組と婚約が発表されると思うよ」
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「エドモン君の養子縁組の話の際、ジゼルも一緒にって話もあったんだ」
「私も?」
思いがけない話にレニエ様を見上げると、困ったような笑顔を浮かべていた。
「うん。エドモン君はジゼルこそ家から離したいと言っていたんだ。それでリサジュー侯爵が二人共養子にと言い出したんだけど……それはお断りしたよ」
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