【完結】望んだのは、私ではなくあなたです

灰銀猫

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とんとん拍子で進む話

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 私がエドモンと一緒にリサジュー侯爵の養子になる話があったなんて……でもどうしてそうなるとレニエ様に嫁げなくなってしまうのだろう。

「リサジュー侯爵はああ見えて相当な狸だよ。養女になったら決定権は侯爵の手の内だ。そうなればどこに嫁がされるかわからない」
「まさか……」
「ルイーズ様の覚えもめでたい君の評価は高いんだよ。申込がなかったのは実家のせいだから。リサジュー侯爵の養女になれば引く手数多だ」

 そう言われても信じられなかった。だって、あんなに嫁ぎ先が見つからなかったのだから……

「そうなると私との結婚もすんなり行くかどうか怪しい……きっと面倒な条件を付けてくるだろう。だからルイーズ様に協力して頂いたんだ。ルイーズ様はジゼルの気持ちを優先して下さるから」

 まさかそんなことが水面下で起きていたなんて……俄かには信じられなかったけれど、レニエ様の表情は真剣だった。リサジュー侯爵はそういう方だったのか。だったらエドモンは大丈夫なのだろうか……

「ああ、エドモン君は心配いらないよ。彼なら難なくリサジュー侯爵と張り合えるだろう。だから公爵も婿入りを許されたのだろうし」

 エドモンってそういう子だっただろうか。いつの間にか私の知らない顔が増えていた。でも、あの子は昔から要領がよかった。いや、ミレーヌのせいでそうならざるを得なかったのだろう。

「セシャン伯爵家は伯爵家の中でも最も古く由緒ある家系だ。私に嫁ぐのに何の不都合もないから安心して」
「は、はい」
「それで、どうする?」
「どうとは?」
「このまま寮に帰る? それとも……私の屋敷に来るかい? こちらの準備は終わっているからいつでも大歓迎だよ」
「え?」

 そ、そういえばそんな話だったような……あの時は混乱していてすっかり失念していた。でも、いきなり侯爵家に引っ越すだなんて……

「出来れば今からでも侯爵家に住んでほしいと思っているよ。私が一緒にいて欲しいのもあるけれど、安全も考えてことだ」
「安全?」
「セシャン伯爵家の令嬢となれば、繋がりを求める男は格段に増えるだろう。そうなれば既成事実を作って無理やり妻に……と思う輩が現れておかしくないんだ。セシャン伯爵家はそれくらいの力をお持ちだ」

 確かにルイーズ様のお母様の実家となれば繋がりを求める家も出てくるだろう。セシャン伯爵家は裕福で領地経営も堅実、特産品もあり伯爵はとても有能な方だ。

「寮の警備は厳しいけれど、誰かが手引きをする可能性は否めないからね。妹君に恨みを持つ者が何かをしないとも言い切れない。これからのジゼルの立場は大きく変わるんだ。どうか身の安全は今まで以上に気を付けてほしい」

 両手をしっかり握られてそう言われてしまうと、遠慮ばかりもしていられない。確かにミレーヌのせいで婚約者を失った令嬢の恨みはまだ残っているだろう。未だに婚約者が見つからず先の見通しが立たないから相殺されているだけで、彼女らにしてみれば私も同じ家族で同類なのだ。その私がレニエ様に嫁ぐと知れば、面白くない令嬢もいるだろう。

「わかりました。でも、少し時間を頂けますか? 荷物の準備もありますし」
「だったら侍女を寄こそう。何なら今からでも手配するよ」

 そう言うレニエ様はとても嬉しそうだった。これまで水面下で動いて下さったのだと思うと、その申し出を断るのも申し訳なく思った。

「で、では、お願いします」
「本当に? いいの?」
「はい。不束者ですがよろしくお願いします」

 まだ心の準備が……と思ったけれど、これ以上レニエ様に負担や心配をかけたくなかった。それに、いきなり居を侯爵家に移しても何か起きるわけじゃないだろう。あくまでも侯爵夫人としての仕事を覚えるため。それに仕事は続けていいと仰って下さっているのだ。

「ああ、ありがとうジゼル。嬉しいよ。私は何て幸運なんだ」

 目尻の皴を深めて笑うレニエ様はまるで少年のようだった。ふとミレーヌを相手にしていた時の冷たい表情が思い出された。あの時は別人のような冷たさを感じたけれど、やっぱりレニエ様には笑顔が似合うと思う。

 結局、その後レニエ様のお屋敷に向かい、休憩してから侍女と共に寮に向かって必要な物だけ取りに行くことになった。残業で遅くなった時のために残しておきたかったけれど、レニエ様は王宮内に部屋を賜っているとかで、いざとなればそこを利用すればいいと言われてしまえば強く言い張ることも出来ない。
 いや、それ以前に王宮に部屋を賜っているって……そんなの一握りの上位貴族の特権だろうに。いや、ミオット侯爵家は由緒ある家系であのお年で室長を務めていらっしゃるから当然といえば当然なのだけど……今更ながらに家格の差を感じて鳥肌が立った。

(これが……ミオット侯爵邸……)

 初めて訪れた侯爵邸は我が家の倍以上のそれは立派なものだった。装飾は控えめで上品だ。装飾が多い屋敷はその分汚れも目立って管理が大変だと聞く。ミオット家は無駄を嫌う家系なのかもしれない。レニエ様は確かにそういう方だし。

「さぁ、ここが私たちの家だ。ジゼルの部屋も準備してあるんだ。気に入ってくれるといいのだけど……」
「そ、そんな、恐れ多いです……」

 本当に勘弁してほしい。中に入れば趣味のいい調度品と躾の行き届いた使用人が出迎えてくれた。それだけでも我が家とは雲泥の差だ。あまりにも立派すぎて気が遠くなりそうだ……

「……す、素晴らしいお屋敷ですね」

 通された応接室だけでなく、出された紅茶の味まで立派だった。いや、侯爵家ならこれが普通なのだろうか。あまり裕福でなく、ミレーヌの散財で厳しい家計の我が家とは別世界だ。

「このまま夕食も一緒にと言いたいところだけど、王宮に戻らなきゃいけないんだ」
「あ、も、申し訳ございません。お仕事中でしたのに」
「いや、今日は私の問題でもあったからね。気を使わないで。それで、ジゼルはどうする? 寮に行くなら一緒に向かおう」
「よろしいのですか?」
「まだ時間はあるから大丈夫だよ。先にジゼルを下ろして、私を送っていく間に荷物を纏めておくといい。ああ、寮母殿にも説明が必要かな」
「では私からお話しておきます」
「ああ、頼んだよ」

 こうしてセシャン伯爵家の養女になった私は、その日のうちにミオット侯爵家に居を移した。あまりにも展開が早すぎて実感はなかったけれど、それでも念願の実家との縁切りを無事に終えたことに安堵していた。



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