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夜会の後
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そのまま夜会は恙なく終わった。エドモンの婿入りに異議を唱える方が出てくるかと心配していたけれどそのようなこともなかったし、招待客の様子からもエドモンに対して否定的な空気は感じられなかった。それだけでもホッとした。実家の評判が悪すぎるから不安で仕方なかったのだ。
「すまなかったね、ジゼル」
「レニエ様?」
帰りの馬車の中で急に謝られてしまった。レニエ様が謝ることは何もなかったと思うのだけど……ちなみに今は隣り合わせで座っているけれど、腰にはレニエ様の手がしっかり回っている。馬車が揺れる度に身体も触れ合って、その度にドキドキしてしまう。
「ラギエ伯爵家のことだよ」
「ああ、あのお方ですね」
「彼女というか、ラギエ伯爵家は父の代では仲がよくてね。それで交流もあったんだが、どうにも伯爵は思った以上に空気が読めない方だったらしい」
ラギエ家は何度も釣書を送って来て、その都度婉曲に断っていたのだという。今日の夜会で共に参加してダンスを二曲続けて踊り、ドルレアク公爵に婚約者として紹介すれば理解くれると思っていたそうだけれど、通じなかったらしい。
「いえ、それはレニエ様の感覚が普通ですから……」
お互いに関係を悪化させないため婉曲に断るのが一般的だ。王家や公爵家の夜会は格式が高いから、そこで婚約者として遇すればそういうことだと察するのだが……
「まさかここまで空気が読めないとは思わなかったよ。明日もう一度ラギエ家には書簡を送って抗議しておくよ」
「そこまでしなくても……」
「いや、伯爵は令嬢には調子のいいことを言っているのだろう。今日の彼女の態度でそれを感じた。これ以上は令嬢にも気の毒だ。はっきり言うのは彼女のためにもなるだろう」
嫌な思いをさせた相手でも気遣いを忘れないなんてレニエ様はお優しい。確かにあの令嬢は何も聞いていないように見えた。もしかしたら伯爵も私の父と同じタイプの人なのかもしれない。そうであればはっきり言わないと伝わらないだろう。
「それにしてもジゼルは素晴らしいね」
「え?」
「いや、訳の分からないことを言ってくる相手に冷静に対処していただろう?」
「それは……騒いでは公爵様にもご迷惑をおかけしてしまうと思って……」
「そういう気遣いが出来るところがジゼルの好ましいところだよ」
「いえ、あれが普通ですから……」
「いやいや、大切に育てられたせいで自己評価が高くなり過ぎたのか驚くような不作法をする令嬢もいるからね」
「た、確かに……」
その最たるものがミレーヌだろう。身近にその一例があるのが居た堪れない。
「全く、知ればするほどジゼルの魅力は増すばかりだ。こんなに私を虜にして、困った子だね」
レニエ様の手に力が籠るのを感じた。心臓が一層高まって身体に力が入る。こんな触れ合いには中々慣れそうもない……
「れ、レニエ様、近過ぎです……!」
「そう? 婚約者ならこれくらい普通だと思うけれど……」
「ふ、普通じゃありません。それにさっきだって……」
「さっき?」
「リサジュー侯爵様とのお話ですわ。あ、あんな……の、惚気のようなことを……」
「ああ、あれね。でも仕方ないじゃないか。ジゼルはこんなにも可愛くて健気で素晴らしい女性なんだから」
真顔でそう言われてしまった。本気でそんな風に思っていらっしゃる、のだろうか……世の中には私よりも素晴らしい女性はたくさんいるから、とても信じられないのだけど……
「ジゼルの自己評価の低さは根強いね……あの家ではそうなってしまったのかもしれないけれど……許し難い」
悔しそうな、悲しそうな声に本気でそう思ってくれているのだと胸が熱くなった。
「わ、私はそこまで立派な人間では……」
「そんなことはないよ。ジゼルの魅力なら一晩中だって語れる自信があるからね」
「……へ?」
「ああ、でもそんなことをしたら、ジゼルの魅力に気付いた男が寄ってくるかもしれない。それは許し難いな。やっぱり虫除けは……婚約し……安心は出来ないか……」
レニエ様が小声で何かを呟いていた。そんな心配は無用だと思うのだけど、暫く何かを考え込んでいた。
「セシャン嬢、先日の夜会は大変だったみたいだね」
夜会から五日後、出勤した私にカバネル様が話しかけてきた。職場であの夜会に出た人はいなかったけれど、どこかであの夜会の話を耳にされたらしい。
「いえ、大変というほどでは……」
大変な面はあったけれど、特別害はなかったし語り草になるほどの何かが起きたわけではなかったと思う。あまり夜会に出たことがないから言い切れないけれど。
「いや~室長が惚気て大変だったって噂になっているよ」
「ええっ?」
の、惚気って……あのアネット様たちに話していたあれのことだろうか……
「ああ、俺も聞きましたよ~ミオット侯爵が嬉しそうにセシャン嬢の好きな点を並べたとか。人って見かけによらないですよねぇ。あの侯爵が……って話題になっていますよね」
「……」
最近異動してきたオドラン様まで加わってきた。カバネル様がうんうん頷き、ニヤニヤしている。絶対に面白がっている……!
「いやいや、皆室長に春が来るのはいつだって賭けまでしていたからな」
「あ、俺も一口乗りましたよ!」
「何だ? お前はどっちに賭けたんだ?」
「そりゃあ、ねぇ……惨敗でしたよ。まさか同じ部署にお相手がいるなんて思わないじゃないですか!」
「ふふっ、甘いなぁ」
「あ、じゃ、カバネル様は……」
「ああ、お陰様で娘に可愛いプレゼントが出来たよ」
何時の間にそんな事態に……しかも人のことで賭け事だなんて……!
「セシャン嬢、放っておきましょう」
呆れを通り越して嬉々として戦果を口にする二人に、マチルド様が私の代わりに冷たい一瞥を放ってくれた。
「全く、男性はどうして直ぐに賭け事にしてしまうのかしら」
「ええ。まさか自分がその対象になる日が来るとは……思いませんでした」
それなりに話題性にならないと賭けの対象にはならない。まさかそんなに私たちのことが、いえ、レニエ様のことが取り上げられていたなんて、思いもしなかった。
「すまなかったね、ジゼル」
「レニエ様?」
帰りの馬車の中で急に謝られてしまった。レニエ様が謝ることは何もなかったと思うのだけど……ちなみに今は隣り合わせで座っているけれど、腰にはレニエ様の手がしっかり回っている。馬車が揺れる度に身体も触れ合って、その度にドキドキしてしまう。
「ラギエ伯爵家のことだよ」
「ああ、あのお方ですね」
「彼女というか、ラギエ伯爵家は父の代では仲がよくてね。それで交流もあったんだが、どうにも伯爵は思った以上に空気が読めない方だったらしい」
ラギエ家は何度も釣書を送って来て、その都度婉曲に断っていたのだという。今日の夜会で共に参加してダンスを二曲続けて踊り、ドルレアク公爵に婚約者として紹介すれば理解くれると思っていたそうだけれど、通じなかったらしい。
「いえ、それはレニエ様の感覚が普通ですから……」
お互いに関係を悪化させないため婉曲に断るのが一般的だ。王家や公爵家の夜会は格式が高いから、そこで婚約者として遇すればそういうことだと察するのだが……
「まさかここまで空気が読めないとは思わなかったよ。明日もう一度ラギエ家には書簡を送って抗議しておくよ」
「そこまでしなくても……」
「いや、伯爵は令嬢には調子のいいことを言っているのだろう。今日の彼女の態度でそれを感じた。これ以上は令嬢にも気の毒だ。はっきり言うのは彼女のためにもなるだろう」
嫌な思いをさせた相手でも気遣いを忘れないなんてレニエ様はお優しい。確かにあの令嬢は何も聞いていないように見えた。もしかしたら伯爵も私の父と同じタイプの人なのかもしれない。そうであればはっきり言わないと伝わらないだろう。
「それにしてもジゼルは素晴らしいね」
「え?」
「いや、訳の分からないことを言ってくる相手に冷静に対処していただろう?」
「それは……騒いでは公爵様にもご迷惑をおかけしてしまうと思って……」
「そういう気遣いが出来るところがジゼルの好ましいところだよ」
「いえ、あれが普通ですから……」
「いやいや、大切に育てられたせいで自己評価が高くなり過ぎたのか驚くような不作法をする令嬢もいるからね」
「た、確かに……」
その最たるものがミレーヌだろう。身近にその一例があるのが居た堪れない。
「全く、知ればするほどジゼルの魅力は増すばかりだ。こんなに私を虜にして、困った子だね」
レニエ様の手に力が籠るのを感じた。心臓が一層高まって身体に力が入る。こんな触れ合いには中々慣れそうもない……
「れ、レニエ様、近過ぎです……!」
「そう? 婚約者ならこれくらい普通だと思うけれど……」
「ふ、普通じゃありません。それにさっきだって……」
「さっき?」
「リサジュー侯爵様とのお話ですわ。あ、あんな……の、惚気のようなことを……」
「ああ、あれね。でも仕方ないじゃないか。ジゼルはこんなにも可愛くて健気で素晴らしい女性なんだから」
真顔でそう言われてしまった。本気でそんな風に思っていらっしゃる、のだろうか……世の中には私よりも素晴らしい女性はたくさんいるから、とても信じられないのだけど……
「ジゼルの自己評価の低さは根強いね……あの家ではそうなってしまったのかもしれないけれど……許し難い」
悔しそうな、悲しそうな声に本気でそう思ってくれているのだと胸が熱くなった。
「わ、私はそこまで立派な人間では……」
「そんなことはないよ。ジゼルの魅力なら一晩中だって語れる自信があるからね」
「……へ?」
「ああ、でもそんなことをしたら、ジゼルの魅力に気付いた男が寄ってくるかもしれない。それは許し難いな。やっぱり虫除けは……婚約し……安心は出来ないか……」
レニエ様が小声で何かを呟いていた。そんな心配は無用だと思うのだけど、暫く何かを考え込んでいた。
「セシャン嬢、先日の夜会は大変だったみたいだね」
夜会から五日後、出勤した私にカバネル様が話しかけてきた。職場であの夜会に出た人はいなかったけれど、どこかであの夜会の話を耳にされたらしい。
「いえ、大変というほどでは……」
大変な面はあったけれど、特別害はなかったし語り草になるほどの何かが起きたわけではなかったと思う。あまり夜会に出たことがないから言い切れないけれど。
「いや~室長が惚気て大変だったって噂になっているよ」
「ええっ?」
の、惚気って……あのアネット様たちに話していたあれのことだろうか……
「ああ、俺も聞きましたよ~ミオット侯爵が嬉しそうにセシャン嬢の好きな点を並べたとか。人って見かけによらないですよねぇ。あの侯爵が……って話題になっていますよね」
「……」
最近異動してきたオドラン様まで加わってきた。カバネル様がうんうん頷き、ニヤニヤしている。絶対に面白がっている……!
「いやいや、皆室長に春が来るのはいつだって賭けまでしていたからな」
「あ、俺も一口乗りましたよ!」
「何だ? お前はどっちに賭けたんだ?」
「そりゃあ、ねぇ……惨敗でしたよ。まさか同じ部署にお相手がいるなんて思わないじゃないですか!」
「ふふっ、甘いなぁ」
「あ、じゃ、カバネル様は……」
「ああ、お陰様で娘に可愛いプレゼントが出来たよ」
何時の間にそんな事態に……しかも人のことで賭け事だなんて……!
「セシャン嬢、放っておきましょう」
呆れを通り越して嬉々として戦果を口にする二人に、マチルド様が私の代わりに冷たい一瞥を放ってくれた。
「全く、男性はどうして直ぐに賭け事にしてしまうのかしら」
「ええ。まさか自分がその対象になる日が来るとは……思いませんでした」
それなりに話題性にならないと賭けの対象にはならない。まさかそんなに私たちのことが、いえ、レニエ様のことが取り上げられていたなんて、思いもしなかった。
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