現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!

おとうふ

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魔法

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魔法スクロール
火属性魔法:火炎槍

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 広げた紙の上、空中に浮かぶ『使用しますか?』の文字。
 そしてその下に出現した、『使用する』『使用しない』の二つのボタン。

「……は?」

 もう大抵のことには驚かないと思っていたが、これには流石に開いた口が塞がらない。少しして、ようやく忘我から抜け出した俺は停止していた脳を再起動させた。

───これがどういう仕組みなのかは、まあいいとして、どうしよう、これ。

 非常に気になるし、ゲームならば迷わず"使用する"を選ぶところだ。しかし、これはやり直しの効かない現実だ。

 何か考えもつかないようなデメリットがあるかもしれない。

 実は使い切りのアイテムで、"使用する"を選択した瞬間に魔法が発動し、それで完全に終わりということもあるかもしれない。

 わからないことだらけで結論が出ない。

 だがそもそも、今この場で判断をしなければいけないものでもないだろう。使うかどうか決めるのは後でいい。


 『使用する』


 そうは思うものの、俺の目線は宙に浮かんだ4文字に釘付けだった。

 迷いを振り切るべくポケットにでも押し込もうと、その紙を再び丸めようとするが、やはり後ろ髪を強く引かれる。


 数秒躊躇ってから、俺は自分の我慢弱さにため息を吐いた。

───もう、使っちゃおう。

 保留にして考えたところで何かが分かるとも思えないし、これでいい効果が得られるのなら早めに使うに越したことはない。 そもそも使い切りだとしても、効果がよくわからなければ結局いざという時にも頼れないじゃないか。

 そんな後付けの理由を脳裏に浮かべた俺は、ドキドキしながら、宙空に浮かぶそのボタンに指を触れた。

 突き出した指は何ら感触を脳に伝達しないまま四角い枠を突き抜け、元から何もなかったかのようにフッと文字が消えていく。


『火属性魔法:火炎槍を習得しました』

 脳内に響いたその声は、俺の興奮とは無関係に、どこまでも機械的なものだった。それに一抹の寂しさを感じながらも、心の昂りは冷めやらない。


───習得ってことは、他のスキルみたいに何回でも使えたりするのか?

 当然その疑問に答えは返ってこないが、おそらくはそうだろうと思いつつ、早速試してみることにする。

 魔法...本当に使えるんだ...一体、どんなものなんだろうか。

 興奮と緊張のせいか、気が付けばカラカラになっていた喉を震わせ音を絞り出す。

「……火炎槍」

 魔法名を口に出す。しかし、何も起きない。 

「あれ、何でだ……?」

 固有スキルの霊化はこれで使えたのに。どういうことだ?

 期待が大きかった分不安に駆られて、俺はステータスカードを取り出した。

~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:5→6
スキル:剣術LV1 火炎槍LV1
固有スキル:霊化
称号: 探索者

体力:15→18
腕力:14→17
器用:12→14
防御:11→13
敏捷:12→14
魔力:14→16
~~~~~~~~~~~~~~

 レベルが上がっているのは嬉しいが、今確認するべきはそれではなく……『火炎槍LV1』...あった。

「ちゃんと習得したことになってるよな。何で発動しないんだ...?」

 固有スキルは、使うという意識でスキル名を口にすれば発動できた。なんとなく、この魔法も同じタイプだと思うのだが。


「火炎槍!」

 ......。

 もう一度、今度は気合を入れて発声してみるも結果はかわらなかった。それからはダメ元でイメージを変えて試していくが、無情にも結果は変わらない。

 魔法という、男子なら憧れぬはずのない空想上の異能を己が物にできたと糠喜びしたばかりに、その反動で徐々にフラストレーションが募ってきてしまう。

「えぇ、なんでだよ...」

 これではいけない。俺は深呼吸して心を落ち着かせ、クリアな気持ちでもう一度発動を試みた。


「どうすればいいんだ、これ?」

 それでもダメで、解決の糸口すら見えず、俺は半ばやけになって左手を抑えた。
 発声に問題はないだろうから、使うぞという気持ちが足りないのかもしれない。

 イメージするのは、強大なあまりに封印された力、それを再び呼び覚ますのだ。

 蹲るように、左腕を抱くように体を丸めてプルプルと震える。いいぞ、なんか気分が乗ってきた!今なら行けそうだ!

 そう確信した俺は満を持してゆっくりと口を開いた。
 
「...我が左腕に封じられし古の──」

『...攻撃魔法スキルを使用するには、標的をイメージしてください』

「......」

 俺は誰に見られているわけでもないのにひどい羞恥に襲われた。顔が熱くなるのを自覚しながら、ゆっくりと姿勢を戻す。

「な、なるほど!狙いを付けないといけなかったのか...」

 よ、よし、さっそく、とその場で手のひらを壁に向けたところで、あっ、と我に帰る。

「って、流石にこんな狭いところで使ったら危ないよな」

 俺は部屋を出て、少し歩いて長い通路に出た。10メートルほど先の壁に狙いを定め、満を持して口を開く。

火炎槍フレイムランス

 すると体の中に熱い何かが生まれたかと思うと、それが壁に向けた左の手のひらに向かって集まっていく。

「うわっ!?」

 手のひらから紅の輝きが流れ出て、それが槍の形を形成していく。間近に炎の塊があるというのに、不思議と熱さは感じない。

 長さは30cmほどだろうか、出来上がった槍は、観察する間もなく射出され、一直線に壁へと激突。ぼんっ!という音を立て、爆煙を上げた。


 すげぇ……。

 
 しばらく、それ以外の言葉が浮かばなかった。



 俺はしばし感動に打ち震えたあと、魔法の使い方を教えてくれたアナウンスに感謝した。

 ま、まぁ、どうせならもうちょっと早く教えて欲しかったけど...。



 俺はもう一度、今度は検証のために魔法を行使した。

 スピードは身構えていれば避けられそうな程度。だが、動きが鈍いゴブリンなら問題なさそうだった。

 威力はわからないが、迫力から見て、直感的には一撃で倒せるように思えた。


 早くゴブリン相手に使ってみたい、帰り道に出てきてくれ、と誰に対してなのかもわからずに祈りつつ、俺はウキウキしながら帰途に着いた。

 道順に関しては、分かれ道で必ず右に曲がっていたおかげで、特に迷うこともなく来た道を辿れている……はずだ。

 はずだ、というのは、ダンジョンの景色はどこも変わらないので、見覚えのある場所とかいう概念がないためだ。

「けど、もしこの中で迷ったりしたらやばいよな」

 倒したゴブリンの魔石が落ちていたのでそれも目印にはなるのだが、ずっとそのままの場所に残りづづけている保証もない。死亡時に発生する黒い靄のようにダンジョンに吸収されるかもしれないし、ゴブリンが持っていってしまう可能性もある。

 次来るときは壁に印でもつけてみるか?
地図を書いても、景色が変わらないんじゃあ現在地がわからなそうだし……。苦労して書いた正確な地図を片手に迷う自分の姿が想像できてしまう。うん、馬鹿らしすぎる。

 そんなこんなでしばらく歩くも、俺が恋焦がれているゴブリン先輩の姿はない。このまま、会えないまま出口まで着いてしまうかもしれない。

 もうなんだかんだで疲れたし、今から新しい道を開拓するのは気が乗らない……。

 帰り道に拾い集めた魔石でズボンのポケットも膨らんで、じゃらじゃら音を鳴らしている。それが、俺が何度も戦闘を繰り返したことの証拠だ。

 今日はお預けかもしれないと思ったその時、待望の瞬間が訪れた。

 角を曲がった時、俺の視界に深緑の小さな人型のナニカが飛び込んできた。もうすっかり見慣れたファンタジーな存在、ゴブリンだ。

「ゴブリンパイセン……!」

 感激のあまり、今までの人生でちゃんと使ったことがなかった先輩という敬称を自然とつけてしまう。

 笑みが溢れる。ゴブリン先輩はその個性的な顔を歪めてドタドタと走ってくる。彼も俺に会えたのがそれだけ嬉しかったに違いない。出てきてくれてありがとう、そんな優しい先輩は、俺の実験にも付き合ってくれるよね?ちょっとだけだから。

 俺に会えた歓喜のあまり、涎を撒き散らしながら近寄ってくる優しい先輩に手のひらを向け───。

「火炎槍」

 俺が魔法名を唱えると、瞬時に炎の槍が出現し、弾かれたように前方にすっ飛んでいった。
 中高速で放たれた炎の槍は、空気を割きながら狙い違わずゴブリンへと向かっていき、着弾と同時にボンと爆発。その上体をいとも容易く消し飛ばし、一瞬のうちにその命を刈り取った。

「すっげ……」

 その結果に俺は呆気に取られ、呆然と自分の左手のひらを見る。これを俺がやったのか……。

 それを理解すると、徐々に興奮の波が押し寄せてくる。そして……。

「魔法楽しすぎだろ!!俺最強!ふぉぉぉぉ!!」

 気分はバトル漫画の無敵の主人公。喜びの舞は数分は続き、その間奇声は無人の薄暗いダンジョンの中に響き続けるのであった。
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