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魔法2
しおりを挟む初めて魔法でゴブリンを爆散させた俺は、しばしその感動に酔いしれた。
狂喜乱舞の末、壁に頭から激突してようやく一欠片の冷静さを取り戻した俺は、少し迷ってからゴブリンが残していった魔石を拾ってズボンのポケットに押し込んだ。
片方のポケットはもうパンパンで、もう片方にまで詰めればかなり動き辛くなりそうだが、敵は遠距離から魔法で瞬殺できるので大丈夫だろうと判断した。
行きに放置していた魔石はおそらく全て変わらずに通路に落ちていたので、それらも回収しつつ出口を目指す。
遭遇した1匹のゴブリンを魔法で瞬殺。2回目なので流石に我を失ったりはしなかったが、それでも感動はひとしおだ。魔法なんて、ファンタジーの中のものだったのだ。数多の映画やゲームに登場し、多くの中学生が恥ずかしい黒歴史を作ってしまうらしいほどに魅力的な力だ。
そんな魔法に憧れない人など、この世界にいないだろう。
かくいう俺も小学生の時には、国民的バトル漫画に影響されて、"気"を習得しようと頑張ったものだ。できるわけもないのに。
あと、意味もなく左手に絆創膏を貼ったり...。そこは包帯じゃないのかというツッコミがあちこちから飛んできそうだが、流石に包帯を巻くのは恥ずかしかったのだ。周りの目が気になったし。目立つし。ああ、思い出しただけで胸がむず痒くなってきた。
ともかく、そんな超常的な力を自分が使えるようになったのだ。
何度もステータスカードの文字を確認し、そのたびに湧き上がって来る感動に酔いしれる。
しかも、ダンジョンへの立ち入りが禁止されているため、使えるのはおそらく自分だけ。
───こんなの、漫画の主人公じゃん!
まあ、つまり何が言いたいかというと、俺が一人で奇声を上げて踊り狂って、壁に頭をぶつけてしまうのも仕方ないということだ。
脳内で、いやそうだろうかと冷静な自分が声を上げるが、そうなのだ。そうに違いない。異議を唱える彼は脳内議会から永久追放され、平和が訪れた。圧倒的民主主義万歳。
邪魔者がいなくなったので浮かれるまま上機嫌に鼻歌を歌い、スキップしながら進んでいく。
行きに倒してきたからかあまり魔物とは出くわさない。しばらくしてから、ようやく2匹のゴブリンと遭遇する。
まだまだ魔法を使い足りない俺はその出会いに感謝しながら、こちらに向かって来るゴブリンにいつものように右手を向けて魔法を発動......はせず。右手をくねくねとさせながら、しかつめらしい顔でウンタラカンタラと唸り始めた。
───橘冬夜は詠唱(適当)を始めた!
これがゲームだったなら、そんなログが表示されている事だろう。
こちらに走って来るゴブリンたちの顔を見ると、心なしか怒っているように見える。距離が5メートルほどに縮まったあたりで、得意げに口角を釣り上げて……
「ふっ…食らうがいい…火炎槍」
ボン。
1匹を爆散させ、得意げに残った敵に目を向けると───
「ギャギャ!!」
あ、近いってやばいやばい!!
内心で悲鳴をあげて慌てふためく。調子に乗って時間をかけすぎたのだ、当然である。
2メートルの距離に迫ったゴブリンが、雄叫びを上げて剣を振り上げる。
「火炎槍っ!」
俺は大慌てで狙いを定め、魔法を発動。
手のひらから炎が流れ出て、槍を形成していく。
その流れがやけに遅く感じるが、なんとか間に合いそうだ。
(あれ?)
ようやく出現したフレイムランスは、しかし、先ほどのそれと比べると一回り小さなものだった。
「なんで」
疑問が口をついて出るのと同時、炎の槍が敵へと向かって駆け出した。速度は変わらないようだが、これで倒せるのか?
魔法が標的まで到達する数瞬、不安を抱きつつ目で追う。
火炎槍はゴブリンの首元に到達すると、小爆発を起こし着弾付近を煙で包み込んだ。
念の為に剣を構えようとするが、一拍遅れて、黒煙の尾を引いてゴブリンの頭部が地面へと落下した。
緊張を解く。
どうやらサイズが小さくても、ゴブリンを倒すのに威力に不足はなかったようだ。
死体はすぐに黒いモヤへと姿を変え、紫の結晶を残して消滅する。
「はあ、なんとかなった……」
俺はその様子に安堵のため息を吐いた。
なんとか倒せたけど、なんだったんだろう、今のは。やはり気掛かりだ。
首を捻りつつもとりあえずは魔石の回収だと足を踏み出した瞬間、ゾクリと悪寒が全身を走った。
めまい。次いでひどい倦怠感が全身を覆う。腹から込み上げて来る吐き気、破裂するかと思えるほどの頭痛に体を制御できなくなる。
「な、なんだよっ、これ……!?」
とても立ってはいられない。俺はその場で膝を折って地面に崩れ落ちた。
そのはずみにポケットから魔石がこぼれ落ちたのだろう、カララン、と乾いた軽い音が数個重なって鼓膜を揺らした。
普段なら心地のいい音であるはずのそれが、ひどく耳障りだった。鼓膜の揺れがそのまま脳を揺さぶる感覚に襲われて、耳を塞いでうずくまる。
視界はぐるぐると周り、もはや周囲を知覚できない。
ぐにゃりと歪んだ視界が気分の悪さを助長する。
「うああぁあああぁぁ」
堪えきれない嗚咽が漏れ出し、喉元まで迫り上がった異物が口にまで逆流、俺は1秒も堪えることすら出来ずにそれを吐き出した。
吐けば楽になるというがされど気分は少しも良くなってはくれず、吐瀉物や剣のことを気にする余裕もなく、呻き絶叫を上げながら地面をのたうち回る。
終わりの見えない苦痛に耐える。
ふと直感的な警鐘に突き動かされるように、瞼を押し上げて重い眼球を動かした。
歪み、涙で滲んだ視界の真ん中。
黒い何かが地面から湧き出し、見慣れたシルエットを象っていくのが、やけに明瞭に見えた───。
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