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魔法3
しおりを挟む洞窟の壁に両手をつき、体すらも擦り付けるようにして、一歩、もう一歩。前へと進む。
右手に持った剣が壁と擦れ、カランカランと硬質な音を立てる。ひどく耳障りだが、手放すわけにはいかない。
「うぅ……」
視界はまるで薬物中毒者のそれのように、ぐにゃぐにゃと流動的だ。
去年の冬、インフルエンザにうなされた夜のように、脳みそがぐわんぐわんとかき混ぜられている。ムカムカとした粘着質のある感覚が喉元で渦巻く。
重い二日酔いに高熱を掛け合わせたら、こんな感じになるのかな?
なったことないからわかんないな。
少しでも気を紛らわせようというのか、無意識に身も蓋もない自問自答で現実から逃避する。
が、体の怠さにすぐに意識を引き戻される。
激しい倦怠感に頭痛。吐き気はややマシになった気がするものの、まともに立つことすらままならず、すぐにでも倒れ込んでしまいそうだ。
倒れてでも横になりたい。しかしここで膝を折るわけにはいかない。それが死を意味することは、回らない頭でも明らかだった。
気付かぬうちに落ちていく体を時折持ち上げて進む。砂漠の蜃気楼を追い求める旅人の気分だった。
そうして無限とも思えるほどに長く感じる道を歩くと、曲がり角の先に、ようやく。待ち望んだものが現れた。蜃気楼のようにゆらめく空間、ゲートが見えた。
これで帰れる。
そう思って頬を緩めるのと同時。
ギャギャ───。
どこか近くから魔物の声がした。
「う、あぁあぁあああぁぁ!!」
俺は最後の力を振り絞って、その出口に向かって、崩れ落ちるように転がってダンジョンを出た。
捨てた剣が背後でカランと音を立てた。
まさしく、ほうほうのていと言った有様だった。
ダンジョンを抜け出した俺は、しばらく動けずにゴロリと転がっていた。体感で一時間ほどだろうか。しばらく体を休めると、それまでの不調は綺麗さっぱり治っていた。
「はあ……まじ、死ぬかと思った……」
突然の苦痛にもがき苦しんで地面を転がっていたところでのゴブリンの出現には死を覚悟した。
どうやってあの場を切り抜けたのかも、もはや覚えていない。それだけ必死だった。
ほんと、よく帰ってこれたよ……。
「それにしてもなんだったんだあれ...」
今まであんなことはなかったし、魔法を使った後にああなった。それも最初の何発かは普通に使えた。となると、連発しすぎたのが良くなかったのだろうか。
そうステータスカードに目を落としながら考える。
魔法の使いすぎ、つまりは魔力、ゲームでいうmpの使いすぎなのだと思う。そして時間が経ってmpが少し回復して元気になったんじゃないか。
もちろん確証はないが、他に思い当たる節がないし、とりあえずはそう考えることにしよう。なによりしっくりくる。大外れということはない気がする。
「きもちわる...」
さっきまでのことを振り返ると、それだけであの苦しみを思い出して少し気分が悪くなった。
細かいことは後で考えることにしよう。俺はようやく立ち上がって、地上に向かって傾斜を登り始めた。
異常な不調は鳴りを潜めていたが、単純な疲労で足が重い。
今はとにかく、ただ風呂に入ってベッドにダイブしたかった。
地上に出る直前に警官の後ろ姿が見え、俺は慌ててスキルを使って透明になる。疲れ過ぎてすっかり忘れていた。
家に帰ると、出迎えた母親に心配された。ひどく憔悴していたようだ。すぐに沸かしてくれた風呂に入ると、俺は晩飯も食わずに眠りに落ちた。
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