17 / 17
ボス戦 3
しおりを挟む1合、2合、3合。
ダンジョンの奥、今や俺とボスだけとなった薄暗い広間に剣戟の音が響く。
未だ入り口の外に立ち尽くすゴブリンどもを観客に、俺たちはひたすらに剣をぶつけ合う。
奴の動きはやはり、やや鈍っていた。
その上邪魔者を排除したことで、俺は目の前のこいつに集中できている。
それでも俺の剣は届かない。力では押し切れないため受け流してのカウンターを中心に何度か斬撃を繰り出すが、革の鎧によって威力は減衰される。
攻めきれないまま疲労が溜まる。
「ッ……」
流しきれなかった斬撃が、魔力障壁をかすめてわずかにジャージを切り裂いた。
体の芯から熱が消えていく。魔力残量が尽きかけているのだ。
剣戟の音が響くたび、俺の体力は削れて奴の体には細かい傷だけが増えていく。
火炎槍を打ち込むことができれば深手を負わせられそうだが、剣を受けながらでは打つ隙がないし、かといって距離を取れば防がれてしまうだろう。
何発も打てば通るかもしれないが、それを試すだけの魔力がない。
そんな状況だというのに、俺の胸の中には静かに熱を持った高揚感と、揺らぎのない水面のような冷静さが同居している。
かつて感じたことのない感情の中で、俺の剣が冴えていく。剣技が飛躍する。
奴の斬撃を悉く受け止め、的確に受け流し、カウンターを叩き込む。
受け流せる斬撃とそうでない斬撃とを瞬時に見極めて対処する。
互いに剣を振るう。何度も、何度も、何度も。
その度に耳障りな金属音が鼓膜を引っ掻き、腕の筋肉が悲鳴を上げる。
もう、何度反撃に出たかわからない。
しかし俺の攻撃は悉く革の鎧に吸収され、浅い傷しかつけられない。
腕の疲労も限界に近い。そろそろ決めなければ。
腕……。チラリとボスの太い腕を見る。防具はついていない───。
俺は振り下ろされた大剣の横っ腹を強く弾いた。
逸らされた斬撃は俺から大きく外れ、地面を削る。無防備に伸び切った腕が目の前で停止する。
この戦いが始まってから最大の隙。
「うおおおお!!」
後の防御のことは考えず、俺は全力で剣を振り下ろした。斬撃が奴の右腕に吸い込まれるようにして落ちていく。
「ギャアアア!!」
剣越しに鈍い感触が伝わり、その一撃は、奴の方腕を切断した。野太い怒声混じりの悲鳴が上がる。
切られた腕が地面に落ち、肘の先から血が吹き出す。奴はタタラを踏んで数歩後ろへ下がる。
それでも奴は戦意を失っていなかった。憎悪と怒りで一層歪んだ表情で俺のことを睨みつけてくる。
だが剣速は落ち、一撃一撃の重みも消えた。
次に狙うは足だ。魔法使いを倒す時に斬り裂いた傷。
そこを狙い、俺は攻勢に出て一気に押し込んでいく。
何度目かの攻撃がその傷にちょうど入り込み、さらに深くまで肉を断つ。
ボスはうめき声を上げながら膝を折る。
それでも叩きつけてくるその剣はしかし弱々しく、脅威であった体格差からくる受けづらさや威力というものは失われ、速度も半減したものだった。
真正面から剣を弾き上げ、ガラ空きの胴体に、おそらく魔力残量が許す最後の1発を叩き込む。
「火炎槍!」
すぐに余波を避けるために後ろに飛ぶ。ほぼ同時に破裂音と共に爆ぜた炎が奴の体を覆い隠した。
少しして炎が消えたそこには、無惨に破損した革鎧と、傷だらけの奴の体があった。
しぶとすぎるだろ。
そう内心で文句を吐きながらも、俺の胸には尊敬にも似た思いがあった。
だが、いい加減に倒さなければ。
すでに鎧はその機能を喪失し、俺の剣を防ぐものは何もない。
俺は勝負を決めるべく、大きく踏み込んだ。
視線が、何故だか奴の目に吸い寄せられた。今までで一番ギラついた目だった。まるで一切諦めていないとでも言わんばかりの眼光だ。
嫌な予感を覚えると同時、奴が動いた。
左腕を大きく背後に引き、それを振り戻してくる。
斬撃に備える俺だったが、しかし、奴がしたのは投擲だった。
「ッ?!」
巨大な剣の先端が高速で飛んでくる。
避けられない。
瞬時にそう判断すると同時、俺はほとんど反射的に剣を振ってそれを打ち払おうとした。
しかし、振り下ろしや薙ぎ払いといった「線」での斬撃ならともかく、初めて受ける「点」の攻撃を、俺は防ぎ切ることができなかった。
ギィィン───。
そんな音を残しながら、わずかに軌道を変えた大剣は、俺の右側を抜けていく。
パリン、と、何かが砕けた音がする。大剣は背後でカランカランと硬質な音を響かせる。
右腕に熱を感じて目をやれば、ボロボロのジャージの切れ目から、赤い液体が滲み出始めていた。遅れて鈍い痛みがやってくる。
「いっっつ……!!」
魔力障壁はどうしたのか。傷はどこまで深いのか。まさか切断されてないよな。後遺症が残る大怪我じゃないよな───。
初めて負った怪我に心が掻き乱される。
奴が笑い声を上げる。
「ガギャギャ」
それでも、俺が今すぐやらなければいけないことはそれじゃない。
俺は痛む腕に鞭打って、剣を頭上に構え、大きく一歩踏み込んでそれを振り下ろした。
「うああああああああ!!!」
武器すら失った奴は何をするでもなく、その一撃によって無防備な片口から深くを斬られ、俺の比ではないほどの血を吹き出し、ぐらりと背後に倒れていった。
少しして全てが黒い靄となり、そこには、カランと音を立てて地面に落ちた大きな魔石だけが転がっていた。
───入り口の奴らは?……いなくなってる。
魔石以外の戦いの痕跡がなくなったその場所で、俺は右腕を押さえて大きく息を吐き出した。
直後、光が満ち、部屋に充満していた薄闇が払われる。
同時に、立て続けに脳内にアナウンスが流れた。
『レベルが上がりました』
『スキル:剣術のレベルが上がりました』
『第一層をクリアしました』
『称号:先駆者を獲得しました』
『称号:冒険者を獲得しました』
本当に終わったのだ。
「はあ───」
俺はその場にどすんと崩れ落ちるように座り込んだ。
少しの間放心したようにぼーっとしていると、腕の痛みを思い出す。
慌てて破れた箇所を捲って傷を確認する。少なくない血が出ていたが、それほど大きな怪我ではなさそうだった。自宅でテキトーに処置すれば大丈夫だろう。
「よかった……。てか疲れた……でも、楽しかったな」
今までよりも多数との戦い、魔法を使ってくるゴブリンや、俺の剣を何度も防いだ奴。そしてボス。おまけに退路は塞がれて、負けるかもしれない戦いだった。
そんなやばい状況を俺は一人で切り抜けたんだ。いろんな恐怖を乗り越えて、一人で戦ったんだ。
余韻と感慨にたっぷり浸りながら明るくなった空間を見渡す。
ここはちょうど学校の体育館と同じくらいの広さで、奥にはボスゴブリンが最初に座っていたと思われる、玉座というにはあまりにも質素な椅子がある。その横には下につながる階段と思しきものがある。
そして玉座の手前、広間の中央付近には、無色の輝きを放つ球体が転がっていた。
これまでに2度手に入れた、”スキルオーブ”なるものだ。
俺はゆっくりと立ち上がり広間の中央に向かう。
無色に輝くそれを拾い上げると宙空にウィンドウが飛び出した。
『スキルオーブ:マップ』
使用しますか?の質問に即答するようにボタンをタッチすると、スキルオーブは光の粒子となって、俺の体に吸い込まれるようにして消えていく。
~~~~~~~~~~~~~~
名前:橘 冬夜
レベル:15→19
スキル:剣術LV1→2 火炎槍LV2 MP回復速度上昇LV1 魔力障壁LV1 マップLV1
固有スキル:霊化
称号:探索者 先駆者 冒険者
体力:51→67
腕力:50→70
器用:38→50
防御:37→49
敏捷:38→50
魔力:45→65
~~~~~~~~~~~~~~
レベルが4つも上がってる。ステータスは軒並み50を超えて、剣術も2になって、新しいスキルも手に入れた。
強くなっているのが一目でわかって、ついつい頬が緩んでしまう。
早く強くなった自分を試してみたくてうずうずする。
そうなると気になるのは、奥に見える階段だ。
アナウンスでも第一層と言っていたし、あの下には第二層があるのだろう。
だけど疲れたし、今日のところはこれで許しておいてやろう。
そう決めて昂っていた気持ちが落ち着くと、俺はふらついてまた座り込んでしまう。魔力も体力も、すっかり底をついていたことに遅れて気づく。
俺は諦めて寝転がり、回復するまでの時間、人工的でも、自然のものでもなさそうな光に包まれた天井を見つめた。
戦いの最中に溢れた感情に、どう向き合えばいいのか。これからどうすればいいのか。結局、それらしい答えは出なかった。
ただ今は、無限に湧き上がる充足感にも似た達成感に、ふわふわと心を預ける事にした。
99
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
魔法3
ダンジョン入り口には警察官居たのでは?
警察が封鎖しているのなら入り口の武器は回収されているのではないか・・・
と思ってしまった。
話数付けて下さると指摘が楽になると思います。
頑張って下さい。