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#189 台風襲来
しおりを挟むニュースは朝から「観測史上最大級の台風接近」を繰り返していた。街の人々は慌ただしく窓に板を打ち付け、スーパーは水とパンが空っぽだ。
だが、この街だけは別だった。
空は晴れ渡り、風もない。カフェには客がのんびり新聞を広げ、子どもたちは公園で凧を揚げている。まるで別の世界のようだった。
「やっぱり効いてるんだな」
市長は役所の屋上から、遠くに渦を巻く暗雲を眺めながら満足げにうなずいた。数年前に始めた「台風祓いプロジェクト」。科学者と祈祷師と土木業者を一堂に集め、巨大なドーム型の結界装置を街全体に張り巡らせたのだ。
以来、この街には一滴の雨も降らなくなった。
台風はすべて進路を変え、他の都市を直撃していった。毎年のように壊滅的被害を受ける隣県の人々が避難してきても、市民たちは「運が悪いね」と肩をすくめるだけだった。
その夜。
市庁舎に緊急連絡が入った。「台風が、街を避けていない」と。
市長は目を疑った。確かに結界は正常に稼働しているはずだ。しかし、空の渦は直進してこちらに迫っている。
気象庁の担当者は震える声で言った。
「結界を“避けて”ではなく、“狙って”来ているように見えます。まるで……今まで押し付けられた分をまとめて回収するかのように」
窓の外で、これまで一度も吹き込まなかった突風が初めて街路樹を揺らした。
市長は血の気を失った顔で呟いた。
「……ツケを払えと、自然が言っているのか」
学者は首を振る。
「違います。これは今まで押しつけられてきた他県からの贈り物です」
その瞬間、晴れ渡っていた空に、黒い壁のような暴風雨が音もなく垂直に落ちてきた。
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