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#165 火のないところに煙は……
しおりを挟む「最近、町のあちこちで謎の煙が立ち上るって話、知ってるか?」
居酒屋での一杯が進む中、友人の佐々木がそんな話を切り出した。
「煙? 火事か?」
「いや、それが火の気がないのに煙だけが出るらしいんだよ」
まるでことわざの逆じゃないか、と俺は苦笑する。火のないところに煙は立たないってのが常識のはずだ。
「しかもその煙、めちゃくちゃ匂いがいいらしいんだ。高級焼肉の匂いだったり、炊きたての米だったり、屋台のたこ焼きだったり……」
「いい匂いの煙? なんだそりゃ?」
「謎だろ? しかも、その煙が立った場所には必ず誰かが押し寄せて、行列ができるんだと。で、いざ行ってみると、何もない。ただの道端だったり、公園のベンチだったり」
「まるで幻覚商売だな」
俺は半ば冗談のつもりで言ったが、佐々木は「それが、どうも本当に商売っぽいんだよ」と真顔になった。
「噂によると、その煙の周りに集まった人たちが『せっかくだから何か食べよう』ってなって、近くの店がやたら繁盛するらしい」
「まさか、それを狙って誰かが……?」
「そう、噂じゃ『幻煙商会』ってのが裏で動いてるらしい」
翌日、俺はその『煙の発生現場』とやらを見に行った。確かに、何の前触れもなくふわりと白い煙が現れ、甘辛い焼き鳥の香りが漂ってきた。
すると、周りの人たちが「焼き鳥食べたくなったな」と口々に言い始める。気づけば、煙の立っている場所のすぐ近くにある焼き鳥屋に長蛇の列ができていた。
俺は人混みをかき分け、煙の発生源を探る。しかし、火はない。ただ、じんわりと地面から湧き出すように煙が……。
そこで、俺は見つけた。
地面に貼られたシール。
「……スモーク・ディフューザー?」
シールには微細な孔が空いていて、そこから煙が漏れている。たぶん、中に仕込まれた香料が時間差で発煙する仕組みだろう。
さらに、地面をよく見ると、煙の立つ場所は必ず飲食店の近くだ。
「まさか、本当にビジネスなのか……?」
その晩、俺は佐々木に報告した。
「完全に計画的なマーケティング戦略だな」
「すげえよな。火のないところに煙を立たせて、客を呼ぶなんて」
「いや、違う。火はあるんだよ」
「え?」
「人の食欲っていう火がな」
俺たちは、まさに『幻煙商会』の策にハマりながら、焼き鳥を片手にビールを煽った。
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