→📚️賛否分かれる面白いショートストーリー（1分以内で読了限定）

ノアキ光

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#166　全ての制約を解除すると

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彼は今日も同じ電車に揺られていた。満員の車内、押しつぶされるような通勤ラッシュ。
遅刻ギリギリの時間に会社へ駆け込む。上司の小言を聞き流しながら、山積みの仕事をこなす。昼休みにはコンビニ弁当。
夕方になればまた満員電車で帰宅。

　彼はため息をついた。

「なんでこんなに自由がないんだ……」

　机の上に転がるストレス解消用のガジェットを無意識に握りしめる。小さなスイッチがついた、シンプルな黒いデバイス。ふと、説明書の文字が目に入った。

――このスイッチを押すと、現実の制約が解除されます。

　冗談みたいな話だ。こんなもの、会社の誰かが悪ふざけで置いたに違いない。だが、彼は思わず親指でスイッチを押した。

　カチッ。

　次の瞬間、オフィスの天井が消えた。いや、それだけじゃない。ビル全体が溶けるように消え、彼は青空の下に立っていた。通勤電車も、会社も、上司も、締め切りも、全部なくなっていた。

　彼は驚きつつも、笑みを浮かべた。

「まさか、本当に制約がなくなるなんてな……！」

　彼は足を踏み出した。空を歩くことも、好きな場所に瞬間移動することもできた。思いのままに世界を作り変えられる。頭に思い浮かべるだけで、美味しい食べ物、豪華な別荘、美しい景色が次々と現れる。

　だが、しばらくすると違和感が生まれた。

　空腹を感じない。疲労もない。時間の概念もない。ただ「できる」だけで、そこに達成感も努力も存在しない。何をしても、何を手に入れても、満たされることがなかった。

　彼は再び手のひらを見た。そこには、あのスイッチがあった。

「もしかして、この制約がない世界こそが最大の制約なのか？」

　彼は深く息を吸い込み、スイッチを押した。

　カチッ。

　次の瞬間、彼は満員電車の中にいた。汗ばむサラリーマンたち、吊革に掴まるOL、車窓に流れるいつもの景色。

　そして彼は気づいた。

　現実の「制約」と思っていたものこそが、彼を生かし、満たし、前に進ませる「力」だったのだ、と。

　彼は小さく笑った。

「さあ、今日も頑張るか。」

　電車はいつもの駅に滑り込んだ。

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