173 / 320
第三章 嫌われた王子様と呪われた乞食
160
しおりを挟む「心臓とも、肺とも、内臓とも言えない不思議な形状をしたものだった。それ自体に外傷を与えない限り、宿主を変えて復活した」
「待って!」
到底理解できるものではない。
敵が臓器? 宿主を変えて復活?
「そこまで来ると『カリオストロ』も凄い。まるで、図鑑の一覧みたいだ。他にはどんな奴がいた? 猫の形をした奴は?」
「感心している場合か。化物相手だとは聞いていたが、女神の慈悲でも救われない外法の輩だとは聞いていない」
「……やはり、『カリオストロ』なのね。魚は遠目から見たけれど、そんな姿の奴までいただなんて」
臓物が喋っている姿を思い浮かべて血の気が引いた。下手な怪談よりもずっと怖い。
「最終的にその臓器を巡って魚達が共食いをし始めた。そして気が付けば、魚に丸呑みにされてしまったんだ。その魚を撃ち落とし、腹を捌いたがそれらしきものはなかった」
「危機感がないなあ。逃げられたかもしれない」
「だとしても、アレは手下を操る化物だった。自ら手を下すのは自分の中の矜恃が許さないだろう。残った者達は捕らえ、殺した。すぐに反撃とは行かないはずだ」
「それはクリストファーの所感。俺が知りたいのは純然たる事実で、見解じゃない」
空気が乾燥しているようにぴりつく。
お互いに一歩も引かないと表情が語っていた。
「乗っ取っていた腐った肉体から移らなかった男だ。あの男に会う宿主自体が少ないのだと考えるのが妥当だろう。おそらく、宿主の体の魔力を取り込みながら術を操っている。宿主と分離した臓器は力が落ちていた。その場にリュウという男もいたが、確かめるか?」
「……そう? そのリュウというきちんと証言してくれるといいね」
「リュウは清族の血をひいていて、妖精が見えると言っていたわ。証人としては申し分ないはずよ。……というか、あいつも参加をしていたのね」
リュウの話を聞くと、サガルの目が抉られた時を連想してしまう。なんとなく気まずくて、唇を噛む。
「もしも、その臓器がまだ生きていたとして、復讐してくる可能性はないのかしら?」
どちらのしろ、備えはしなくてはならないのではと提案してみる。もし、死んでいなかった場合の方が恐ろしいのではないか。
……いや、考えていて胸焼けがしてきた。殺すだのと物騒極まりない。
「どうだろう、皆を救えると思い込んでいた狂人だったからな。……喋り方に癖があった。ライドルの人間ではない。だが、蘭花のものではないようだった」
蘭花ではない?
では、蘭花と敵対する地域か?
それとも、また別地域の人間なのか。
「貧民街の移民地区を虱潰しに探せば見つけられそうだね」
「不法移民はどこにでもいる。それこそ、ファミ河にも」
「貧しさは死と繋がる死に神のようなもの。移民も、ライドル国民も関係がない。ファミ河は国籍を問わない。福利厚生を充実させて、薬でも配れば違う結果になるかもしれないけど」
「薬で頭を壊せば誰だって幸福になれる。それは正しいだろうが、暴力的だ」
「壊されても本望じゃない? どんな日常も崩壊するものだ。今か、後かの違いならば幸福を享受するほうがマシだと思うけど」
「お前は本当に刹那的なものの考え方をする」
そう? とノアは不思議そうに顔を傾げた。
今が良ければそれでいい。ならば、薬で飛んでいても、狂っていてもいいのでは? と投げかけているのだとしたら、確かに暴力的だ。
ノアのように階級や自由に出来る金がある人間が振るうのは傲慢に思えてしまうかもしれない。
イルやハルを思い出した。彼らが語った煮詰まった泥のような底辺の生活。幸福なんてことを考える余裕もない息継ぎのし難い同じ国の違う場所。
施政者の考えを彼らが聞いたら賛同するのか、否定するのか。
暴力的だと罵るのか、救いだと崇めるのか。
「私は二人の会話を聞いていて、王都にはいないと思ったわよ」
「どうして?」
クリストファーの冴えた瞳は雄弁になぜと問いかけていた。
「だって、ここまでライドル王家をこけにしたのよ。王都で探されるのは相手も分かっているはずだわ。私ならば、一度王都を出てクリストファーがいなくなった頃合いを狙うわね」
「俺がいなくなった頃合い、か」
「だって、私のトーマが酷い目に遭わされたのに、クリストファーはそいつを退けてしまったのでしょう? そいつにとって、クリストファーは天敵だということよね?」
「私のトーマ」
ノアが目を丸くして驚く。
なんだ、その浮気者を見るような目は。
「私の従者なのだから、私のものでしょう。何がおかしいのよ」
「いや……。子供の時のままだなと思って。トヴァイスにも言っていた」
「な、なんでそんなどうでもいいことを覚えているのよ!」
「トヴァイスが怒っていたから。よく、覚えてる」
あの男に甘い顔を見せていた記憶を抹消したい。
どうせ、ノアの前でも私の悪口を吐いていたのだろう。夜会の一場面を思い出す。今でも記憶にこびりついて離れない、酔ったような足元のふらつきも。
あいつが怒っていたから何だって言うんだ。
今更、傷付く心を叱咤する。
「あの男は私の全てが気に入らないから怒るのよ」
「そうかな」
「そうよ。私のことなんて言うことを聞かない獣のように思っているに違いないわ。……話が外れたわね」
こほんとわざとらしく咳をして話を戻す。
「ともかく、クリストファーと再び敵対するのは危険では? そもそも、彼らの最期の攻勢だったはずなのだし。しばらくは様子をするのでは」
二人の視線が絡んだ。何かを確認するように頷くと、肩を竦める。
「カルディアの言う通りかもしれない。再び来ても、時間はおくかもしれない」
ノアはまるで、透明な水のような瞳で私を見遣った。どんな意見にも絶対はないと信じているような、胸が締め付けるような透徹さだった。
「それでも、油断はしないで欲しい。いつも理論的な思考が正しいとは限らない。人は感情で動くし、もっと本能的な生き物だ。絶対なんかない」
「ええ……。分かった」
「説教臭くなっているぞ。お前はそんな親切な男だったか?」
クリストファーはからかうように口の端を上げた。
「カルディアは特別。特別な子だから」
……その言葉は誤解を招くからやめて欲しい。
もう結婚しているくせに。気を持たせる言い方は良くない。
0
あなたにおすすめの小説
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
逃した番は他国に嫁ぐ
基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」
婚約者との茶会。
和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。
獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。
だから、グリシアも頷いた。
「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」
グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。
こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる