思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル

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待ち受けていた景色

未来はその手に

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ゆっくりと扉が開いた方を見ると、医師らしい初老の女性が現れて、私達に手招きをした。
「Frau Bergen」
とても敬意を払った態度でクラウスが手を差し出し、ベアゲン先生が笑顔で頷きながらゆっくりと握手をした。様子からして初対面ではなく、お互い良く知っている様子だ。
ベアゲン先生は、優しそうな女性で、私より少し背が低いくらい小柄だったけれど、見るからに教養の高そうな哲学者っぽい雰囲気だ。
クラウスが斜め後ろに居た私の背を押して、ベアゲン先生に紹介してくれた。
「私が交際しているのが、こちらのカノンです」
「こんばんは、初めまして」
少し緊張しながら手を差し出して、先生と握手を交わすと、ベアゲン先生は嬉しそうに目を細めて頷いた。
「クラウスから女性を紹介されるなんて、光栄なことね」
その言葉に、どうやらずっと昔からクラウスのことを知っているらしいと気がつく。私がクラウスと先生を交互に見ると、先生がにこにこしながら言う。
「彼を診るのは年に一回の健康診断くらいなのよ。でも、私の主人が仕事の関係でクラウスと繋がりがあるから、診療所で会うより会合や食事会など、外で会うことのほうが多いの」
「そうだったんですか」
「貴女も何かあったらいつでも診てあげるから、気軽に頼ってちょうだいね」
「有り難うございます、宜しくお願いします」
ベルリンに来て風邪で寝込んだくらいで大病や怪我はしたことなかったけれど、よく考えてみたら、万が一何かあった時に診てもらえる先生が必要だったんだと今頃気がつく。勿論、きっと私が大怪我をしたりしたら、クラウスが病院へ連れて行ってくれただろうけど、そういうことは彼の不在時だってありえるわけだ。
「さて、クララのことだけど……」
先生が診療室のほうを振り返ったので、私達も中を覗くと、ベッドに横たわっている彼女の姿が見えた。
「今、点滴を打っているから、後1時間くらいで終るかしら。多分、点滴が終ればかなり体調はよくなるはずだけど、効果は2、3日間だから、早めに自宅へ戻って、かかりつけのお医者様のところで診てもらうほうがいいわね」
「先生、クララは眠っているのですか?」
私が聞くと、先生はもう一度クララのほうを見て、それから笑顔で首を振った。
「起きているでしょう。点滴が終るまで、付き添ってあげてもいいと思うわ」
私とクラウスは頷いて、診療室の中に入ると、隅にあった折りたたみ式の椅子をそれぞれ取って、ベッドに横たわる彼女の側に行く。折りたたみ式椅子をそっと開いて腰掛け、クララを振り返るともう彼女は目を開いて私達を見ていた。
その表情は、まるで女神様のように落ち着いていて、顔色も先ほどよりは改善しているようだった。左腕に点滴の針が刺さっている姿は痛々しそうではあるけれど、明らかに気分がよくなっている様子にほっとする。
しばらく3人とも黙っていたが、やがてクララの細い声が聞こえた。
「……急に、ごめんなさいね」
彼女がまっすぐに私のほうを見ていたので、その言葉が私に向けられたものだと気がつき、何故かドキンとして頬が熱くなるのを感じた。
嫉妬していたはずの相手なのに、誤解が解けて状況が変わったということもあるけれど、彼女のあまりにも美しく穏やかな表情に目を奪われて、痛々しい様子で横たわっている姿さえ優雅でつい、見とれてしまったからだろう。ギリシア神話のヴィーナスのようなクララが私を見つめていると、女同士なのにドキドキしてしまった。
赤面して言葉を失っている私を見て、クララが少し微笑み、それからクラウスの方に目を向けた。
「ご迷惑をかけてごめんなさい。出て来る時はここまで具合は悪くなかったのに……でも、点滴を始めたら随分、気分もよくなって来たわ」
「先生の話だと、まだ妊娠初期の段階だから、無理すると危険な状態になりかねないらしい。点滴の効果が継続している間に、ミュンヘンへ戻った方がいい」
「ええ、わかっています」
クラウスの言葉に彼女はゆっくりと頷いた。
それから、自分のお腹のあたりに視線を動かし、両手で包み込むようにそっと撫でた。お腹の赤ちゃんを気遣う彼女の顔は、もう母親のように温かで慈しみに溢れていて、その美しさにまた見とれてしまう。わずかに微笑みを浮かべた唇も、さきほどと違って赤みがさしている。
その姿は、聖母マリア様のような神々しささえ感じるものだった。
「大事に、してね」
そう言うと、クララが顔を上げて私を見て、少し恥ずかしそうに瞬きをした。そして、小さく溜め息をつく。
「後で詳しいことはクラウスが説明してくれると思うけれど……私がここに来たのは、母に見つかる前に貴女達に知らせておきたかったからなの」
「うん」
やっぱりダニエラはまだ知らないんだ。
クラウスと結婚させるつもりだった娘が、妊娠しているなんて知ったら、どれほど怒るか想像しなくても分る。ダニエラの計画を台無しにするわけだから、クララに取ってはその身に危険さえ及びかねない状況だ。
「母はきっと」
クララは苦しそうに眉を潜め、自分のお腹を見下ろした。
「私の妊娠を知れば、当然、堕胎処置を迫って来るでしょう」
最悪の状況は予想していたけれど、本人の口から聞くとさらに壮絶な印象を受けてショックを受ける。これが、彼女の向き合っている過酷な現実だ。
「そんなこと、例え母親であっても、貴女に強制するなんて許されることじゃない。貴女は、生みたいと思っているんでしょう?」
そう聞くと、クララはにっこりと微笑んだ。
「それは勿論」
それまで黙っていたクラウスが口を開いた。
「相手は知っているのか」
確かに一番気になる所だ。
私も黙ってクララのほうを見て、彼女の返事を待つ。
彼女は少し考えるように押し黙り、やがて困ったように微笑んだ。
「まだ、知らせてないの」
「……だったら、やっぱり知らせたほうが」
遠慮がちにそう言うと、彼女は頷いた。
「そのつもりよ。ただ、今は居なくて……」
「えっ?」
居ないとはどういうことだろうと思っていると、既に話を聞いていたらしいクラウスがクララの代わりに私の疑問に応えてくれた。
「ジャス・バンドのサキソフォーン奏者で、ツアーでフランスに行っているらしい」
「サキソフォーン奏者?」
想像していなかった職種にびっくりした。
ダニエラの話だと、クラウスの婚約者としての立場上、異性との交際は制限されてきたような印象を受けていたから、クララがミュージシャンと付き合っていたこと事体に驚いた。交際している相手がいたのなら、クララにとっても、強制的にクラウスと結婚を強いられるのは迷惑な話だっただろう。
「母と違って、私が暮らしていた父は自由な人だったから、私も母と会わない時は割と普通の生活をしていたのよ」
「普通の生活?」
びっくりしていると、クララがクスッ笑いながら頷いた。
「習い事やお教室の合間をぬって、クラブやバーにも行っていたわ」
「えっ、貴女が」
気品に溢れるお嬢様然としたクララなら、クラシックコンサートやオペラという印象だったが、まさかクラブやバーに行っていたとは、私より行動派じゃないか。
驚いて目が点になっている私の様子に、クラウスが吹き出した。
クララも点滴のお陰か、随分と顔色がよくなっていた。
「でも私は、クラウスと結婚するのだと聞かされていたから、その他の生き方を考えた事はなかったの」
クララはそう言いながらクラウスのほうを見て穏やかに微笑んだ。
「貴方は、家柄と財産だけの男性ではなかった。恵まれた将来を約束してもらえる相手としてだけではなく、人間として尊敬出来る方だと思ったから、母の幸せのためにも貴方と結婚したいと思ったわ」
その言葉に少しだけチクリと胸が痛んだが、クララは穏やかな微笑みを絶やさなかった。
「ミュンヘンでお父様がおっしゃられた言葉。目の前の光を失っては二度と取り返せないと。あの言葉に、私はとても心が揺さぶられました。私の光とは何かを考える機会を与えられて」
クララはそう言うと、お腹を守るように両手を乗せた。
「私達を照らす太陽はひとつだけ。偽りの太陽では、満たされない何かがあるのだと気がついたわ……母が追っている光は、幻であって、実在するものではないのに、母はそれを認めようとしない。だから、あのように振る舞うのだと思うの」
「ダニエラは、自分自身を見失ってしまっているのだろう」
クラウスが顔色を曇らせてそう言った。
彼の言葉は正しいだろう。
ダニエラは、ユリウスの心を完全に自分へ向ける事が出来ない苛立ちに自分を見失い、ありとあらゆる方法で、ユリウスの妻という自信を得ようと暴走しているのだろう。それが、娘とクラウスを結婚させるという計画に固執させた理由のひとつなのだろう。
「クラウス」
クララがまっすぐに彼を見つめると、少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。
「私と、カノンを二人にしてもらえないかしら」
その言葉に彼は怪訝そうに彼女を見返した。クララはちょっぴり困ったように瞬きをして、私のほうを見た。
「大丈夫よ。彼女を傷つけるようなことは言わないわ。男性抜きで話したいことがあるの」
クララの表情はとても穏やかで、どこか甘えるような可愛らしい微笑みを浮かべている。あれだけ別世界の女性に見えていたのに、急に親近感を感じて、私はクラウスの返事を待たずに頷いた。
「うん、私もそうしたい」
「カノン?」
非難するような目でクラウスが私を見た。私がまっすぐに彼を見つめ返すと、クラウスは私の意思が固いことを感じ取ったのか、諦めたように大きく溜め息をついて立ち上がった。
「いいだろう。だが、長くても、その点滴が終るまでだ」
クララはその言葉にクスッと笑って頷いた。クラウスは一度私の頭を撫でると、静かに部屋を出て行った。バタン、とドアが締まって、私がクララを振り返ると、彼女が手招きをした。
「もっと側に来てくれるかしら」
「うん」
私は椅子を引いて彼女のベッドの側に寄ると、もう一度座り直す。
クララはすっと手を伸ばして私の膝にあった私の手に触れた。びっくりして彼女を見ると、クララは少し頬を染めて私を見ている。それを見た私はつられて照れてしまった。
「ごめんなさいね。いろいろ、嫌な思いをさせて」
最初の言葉は謝罪だった。とても、心の籠ったその言葉に、私は胸が詰まる様な感動を覚えて、涙がこぼれそうになった。
最初に彼女に会った時、まるで人間でないような感情の読めない人だと思ったけれど、汚れのない瞳をしていると感じたのは、やはり間違いではなかった。
「ミュンヘンでユリウス様が入院されていた時、私はこの子の父親に別れを告げられた直後だったの」
「えっ」
驚いてクララを見ると、彼女は溜め息をついて自分のお腹を見下ろした。
「母が、彼の存在を見つけてしまって……」
「それって……まさか、じゃぁ、ダニエラが、彼に、貴女と別れるように言った、ということ?」
「そうね。私のいない所で、彼に直談判に行ったらしいわ。私には将来を約束された婚約者がいるから、私の幸福を願うなら今すぐ別れろと言われたらしいの」
「そんな……」
「でも私は、心のどこかで、その日が来ると分っていたから、彼からその話を聞いた時は、諦めてその事実を受け入れたのよ。そして、母に連れられてユリウス様のお見舞いへ向かったの」
「……そんなことがあったなんて」
あの病室に来た時のクララの様子がどこか不自然だったのは、彼女は愛していた彼と強制的に別れさせられて、クラウスとの結婚に向き合う以外、他の選択肢がなかったからだったからなのか。
「さっきも言ったけれど、私は、クラウスのことは素晴らしい方だと思っているから、母の言う通りに彼と結婚しようと思っていたのよ」
クララは少し困ったように微笑んで、私の目をじっと見つめた。
「貴女のことをよく考える余裕もなかったから、あんな行動を取ってしまって……でも、あの時は、他に進むべき道がなかったから、私もどうかしてたのね。貴女には、酷いことをしてしまったわ」
「クララ……私も、影で貴女がそんな大変な思いをしていたなんて全く気がつかなかった……そんな辛いことを抱えていたなんて」
私は当時のことを思い出しながら、クララのお腹を見つめた。私の視線に気がついた彼女が、そっと両手を自分のお腹に乗せる。
「でも、ユリウス様の言った言葉。光を失っては二度と取り戻せない、というその言葉に、目が覚めたの。クラウスにとっての光は貴女であって、私ではないわ。そして、私にとっての光も、クラウスではなかった」
クララは顔を上げて私に微笑みかけた。
「あの後、怒り狂っている母を置いて、私は嘘を付いて彼に会いに行ったの」
「……貴女が、嘘をついて?」
あのダニエラに嘘を付くなんてそんな度胸がありそうには見えないクララ。
驚いていると、彼女は少し照れたように肩をすくめて笑った。
「私自身、よくあんな行動を取れたと驚いているわ。後先なんて考えていなかったのね。でも、後悔はしていないわ。私は、彼にすべてを打ち明けたの。そして、私が、母の言いなりにならないと決心したということも」
強い決意の言葉に私は目を見張る。この、女神のような彼女の口から、まるで戦士のように強い意志を帯びた言葉がはっきりと聞こえた。
「母の意思に背くなんて、考えた事はなかったけれど……私は、自分の道を自分で選ぶと決めたのよ。そして、神様がそれを認めてくれたんだわ。だから、この子が来てくれた」
クララはとても嬉しそうに微笑んでお腹をそっと撫でた。
私は大事そうにお腹を抱くクララを見て、涙が溢れそうな感情の昂りに座っていられず、椅子から立ち上がって彼女の側に寄った。
「大事にしないと。皆、幸せになるべきだもの。貴女も、お腹の赤ちゃんも、そして彼も」
「そうね。勿論、クラウスも、あなたも、ユリウス様も……いつか、母にも幸せが来て欲しいけれど、母はまだ、目が覚めていないから」
クララは自分の母親を大事に思っている。自分を利用しようとしていた母親であっても、クララにとっては大切なたった1人の母親であることにはかわりない。母の哀れな姿に心を痛めているクララ。だからこそ、彼女は未来に母の幸せを願うのだろう。
「母が私の妊娠に気がついたら、これが明るみに出る前に堕胎させられるとわかっていたの。だから、先に貴女達に知らせておきたかったの。自分勝手だと分っているのだけど、今の私が助けを乞える人は、他に考えつかなくて……」
「……大丈夫!」
私はクララの肩に手を乗せて、はっきりとそう言った。
思ったより大きな声でそう言ってしまったので、クララがびっくりしたように目を見開いて私を見上げた。まるで幼い少女のように純真な彼女の心が見えた、その瞬間。私は、自分はクララが好きなんだと確信した。
「ダニエラだって貴女を生んだ母親だもの。きっと、わかってくれる。ううん、必ず、わかってくれるはずだから……」
少しだけ道を外れてしまっているダニエラだけど、それも、愛というものを追うが故のことだ。その彼女に、たった1人の愛娘の幸せを願うことが出来ないはずがない。何か、きっかけだけが必要なのだ。彼女の目が覚める、その瞬間さえ訪れたら。
私達が作れるはずの、その瞬間。
一体、どうしたらいいのだろう?
「カノン」
クララに名前を呼ばれてふと我に帰る。
見れば、少し涙ぐんだクララがじっと私を見つめて微笑んでいた。
彼女だって、私にこんな話をするのは容易なことではなかったはずだろう。
きっと、深く悩んだすえに決心したに違いない。
「ありがとう、カノン。やっぱり、貴女に話して、本当によかった……」
その声は、以前聞いた感情のこもらない声でなく、私の魂に届くものだった。
私達の間に芽生えた友情は、自然と二人を笑顔にする。
「もう1人じゃないよ、クララ」
私がそう言うと、クララが大きく頷き、私達はぎゅっと抱きしめ合った。
一緒に同じ方向を目指していたら、きっと解決出来るはず。
そしてノックの音と同時にドアが開き、クラウスとベアゲン先生が入って来た。






クララの点滴の間に、クラウスはオフィスへ戻り、車を取りに行っていた。少し前にクララをホテルに送り届けて、私達はアパートへ帰宅するところだ。

明らかに機嫌が悪そうな様子で車を運転しているクラウス。
「本当に、君たちはどうなっているんだ」
「どうって、友達になったんだけど……」
他に答えようがなくてそう返事をすると、クラウスは横目で私を見て、小さく溜め息をついた。
「点滴が終る頃だからと、ベアゲン先生と一緒にドアを開けた時は、自分の目がおかしいのかと思った」
それを聞いて、私は苦笑した。
部屋に入って来たクラウスは、目にした光景に驚きのあまり、しばし固まっていた。
私はほんの少し前までクララを警戒し、彼女に嫉妬していた。そのことを心配したクラウスが、私が嫌な思いをしないようにと、あれこれ気配りをしていたのに、点滴の終る時間には、その私がクララと抱き合っていたのだから、彼が驚くのも無理は無い。
しかも、クララは心細かったのか、その後もずっと私の手を握りしめていたので、クラウスはそれも気に食わなかったらしい。
「1人で赤ちゃんを守ろうと必死で、きっとものすごく心細かったんだと思うし」
「……あのままだったら、君もクララのホテルに泊まりかねなかったじゃないか。いくら心配だからと言っても、物事には程度というものがある」
「だって、急に、具合が悪くなったら……」
「緊急時には電話で連絡をよこせばいいことだろう」
「それは、そうだけどね。心理的なものだし、病気の時と同じで、1人だと不安になっても仕方ないと思うよ」
私がそう言うと、クラウスは呆れたように私を見て、それから苦笑した。
ホテルまで送り届けた後、念のため部屋まで連れて行ったのだが、クララがなかなか手を離さなくて名残惜しそうな様子だったので、1人になるのが不安なのかと思って、私も泊まった方がいいかな、なんて言ってしまった。
クララの顔がぱあっと明るくなったと同時に、逆にクラウスが不機嫌になってしまい、私も自分の軽卒な発言に慌てた。
結局、泊まる準備もしていなかったことを理由に引き上げることにして、代わりに、明日はドイツ語の学校を休み、夕方のバイトまでクララに付き合うことを約束してなんとかその場を切り抜けたのだった。
「クララの食事まで気にして、フロントでリゾットの注文をしていていたほどだから、よほど気が合った、ということか」
機嫌が少し良くなって来たクラウスが、からかうように笑いながらそう言う。
クララと別れてエレベーターに乗ってからクラウスに聞いたら、彼等が二人で話していた時、クララはハーブティしか飲んでいなかったと聞いて、さすがに全く食べないのも良くないだろうと思い、勝手だけどフロントでルームサービスの手配をしてしまった。食べないかもしれないけれど、もしかすると少しだけでも口にするかもと思ったからだ。
「クララって、やっぱりどこか幼い気がするの。クラブやバーに行っていたって話だけど、それでもきっと、私達みたいに自由奔放に生きて来たって感じがしなくて。もしかすると、本当に心を開いて話せる相手がいないのかもしれない」
「確かに、その可能性はあるだろう」
クラウスが頷いた。
しばらくしてようやくアパートに到着する。
時刻はもう9時半になっていた。
キッチンで急いで遅くなった夕食をを温めたりしている間、クラウスはヨナスに電話して状況を説明していた。
夕食を取りながら、クラウスがヨナスと相談して決めた事を説明してくれた。
現在、クララがミュンヘンの父親宅を家出した状態で、ダニエラもクララの行方を心配してミュンヘンへ戻っているということから、このまま放置しておくと、明日にでも警察に捜索願を出してしまう可能性があるため、やはり、早めに所在は連絡しておくべきだということで意見が一致したそうだ。だが、何故突然ミュンヘンを出たかという本当の理由を説明をしてしまう段階ではない。その為、ここは苦肉の策ということで、クララはクラウスと二人で話し合いをする目的でベルリンへ来ているということにしておくことにし、ダニエラが押し掛けて来ない様に予防線を張る事にした。
そして、この週末に、ドレスデンの実家のほうへクラウスがクララを連れて行く、という手順にしたらしい。それに合わせて、ダニエラもドレスデンのほうへ戻って来るのは間違いないので、その際に、事実を伝えるのがベストだろうと考えたそうだ。そして実家のほうへは、クラウスとクララだけでなく、ヨナスも、マリアも、勿論、私も一緒にそろって、全員で行くことが決定された。
クララ本人にはまだこの件を伝えてはいないけれど、やはり、突然行方不明になってしまって周りも心配していることは間違いないため、今晩中にクラウスが実家の執事、カールに電話を入れて、クララがベルリンのホテルに滞在しており、週末にドレスデンのほうへ連れて行くということを伝えた。そして、こちらでいろいろ話し合いをしているので、ダニエラは決してこちらへ来ないように計らうようにと念を押したらしい。勿論、ダニエラが電話等でクララに接触しないよう、滞在中のホテル名は伏せて、どうしても緊急の場合のみ、クラウスへ連絡するようにという細かい指示もつけたので、恐らくこれで、クララの身の安全は確保され、週末までゆっくりと過ごす事が出来ることになった。



それから数日、クララは純粋にベルリン滞在を楽しんでいた。
火曜日は朝から私がホテルへ行って、彼女と朝食を取り、体調も良かったし天気もまずまずだったので、ゆっくりと市内の観光に連れて行き、私のバイトの時間前には今度はマリアが来て、彼女のアトリエに連れて行き、夜はヨナスとマリアがクララを食事に連れて行った。
水曜日は、日中は1人でベアゲン先生のところで、また点滴を打ってゆっくり過ごしてもらい、夜は私とクラウスがクララと一緒に食事を取り、木曜日は、昼間はマリアがクララの買い物に付き合って、夜は私と、マリアと、クララで食事。そして、金曜日は私も学校がなかったので、クララに付き合って美術館へ行き、またベアゲン先生のところでベルリン最後の点滴を打ってもらい、その晩はクララの滞在しているホテルで、二人で食事を取った。
まさかクララとこんな濃厚な付き合いをすることになるなんて想像したこともなかったけれど、月曜日から連日、5日間に渡って会っていたせいで、まるで昔からの友達のような不思議な感じになってしまった。クララも、最初はマリアの迫力に緊張していたようだけど、木曜日に3人で会った時にはすっかり打ち解けて、マリアの冗談に大きな笑い声をあげていたくらい慣れた様子だった。
そうなってくると妙なもので、以前、クララに対して持っていたネガティブな印象がどんどん記憶から消えて行き、一体どうして、以前は彼女に嫉妬していたのだろうなんて考えてしまうくらい、仲がよくなっていた。
そしてついに、ドレスデンの実家へ行く土曜日の朝がやってきた。
片道2時間ほどで着くので、私達は日帰りの予定だ。
ヨナスとマリアが先に私達をピックアップして、それからクララをホテルでピックアップし、朝の9時すぎにベルリンを出発。クラウスとヨナスが前に座って、私達は後ろに2列で座っていたのだが、クララは緊張のせいか顔色は優れず、殆ど喋ろうともしなかった。これから自分の身に起きていることを母親のダニエラへ告白しなければならないのだ。私達が付いているということで多少なりとは不安も和らいではいるようだけれど、恐らくダニエラは、クララが自分でなく私達に先に妊娠の事実を告白したことを知って激怒するだろう。ただ、少なくとも皆が知っているとなれば、クララに堕胎を無理強いすることは不可能だから、赤ちゃんを守るためには、これしか方法はなかった。
娘をSommerfeld家の跡継ぎと結婚させることを何より望んでいたダニエラにとって、肝心のその娘が恋人との子を身籠るということは、彼女の夢が叶わないということだけでなく、娘が自分の期待を裏切る行為をした、ということになる。
ドレスデンのSommerfeld家で起きるその修羅場を想像し、皆、殆ど口を聞く事も無く、車は高速を走っていた。クララは一番後ろの座席で窓の外へ目をやって、ただじっと外の景色を見つめていたし、私もマリアもそれぞれ黙って外を眺める。運転をしているヨナスも、その隣のクラウスも、仕事に関する話を時折交わす程度。
車の中で流れる曲は、いつもとは違って、クラシック音楽だ。
これらの曲は、バッハの「G線上のアリア」、モーツアルトの「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」、ショパンの「雨だれ」、ヨハン・シュトラウスの「美しく青きドナウ」など、事の状況をきいたアナが選んで、アダムがCDにまとめてくれたものだった。彼女によると、これらの曲には自律神経を安定させ、脳内のα波を誘発させてリラックス状態へ導いてくれる曲らしい。確かに、まるで穏やかな音楽のシャワーを浴びるかのように、どんどん注ぎ込まれて行く旋律で頭の中が満たされていき、余計なことを考えずに済むくらい無の状態になっていく気がした。
やがて高速を下りると、車はどんどん緑の深いエリアへと入って行く。初めて訪れるクラウスの実家は、各世帯、柵で囲まれた広い敷地のずっと奥に屋敷があるという、奥深い森の中の高級住宅街にあった。生い茂る背の高い樹々は紅葉し、辺り一面、落ち葉が降り積もり、少し遠くのほうでは枯葉を集める作業をしているトラックや作業員の姿も見えた。
「あ、リス」
マリアが声をあげたのでそちらを見ると、オレンジ色のまるっこい影が森の奥へぴょんぴょん走って消えて行く姿が見えた。
「ほんとだ!初めて見た」
ベルリンにもいるらしいが、実物を見たのは今回が初めてだ。
「このあたりは、ウサギもキツネもよく見かける」
ヨナスが少し車のスピードを落としてそう言ったので、私達も動物の姿を探して外を見る。今は降り積もった落ち葉と、動物達の毛の色が同化して、小鳥一羽でさえそう簡単には見つけられない。なにか動いているのが見えてそちらを見たら、柵の向こうを走り回っている犬達だった。これだけ広い敷地の中に建つ屋敷だから、番犬も必要なのかもしれない。
「俺はこういうところに住みたいとは思わないが、たまに来る分はいいものだ」
クラウスがそう言うと、ヨナスが少し笑いながら頷いた。
「俺も1週間以内ならここに居てもいいが、季節にもよるな」
「季節?」
マリアが聞き返すと、ヨナスはバックミラーごしに私達のほうを見て笑う。
「緑が生い茂る夏と、雪が積もる時期はいい。夏の薪の準備は嫌いじゃないし、冬の雪景色はなかなかのものだ」
ヨナスの言葉に頷きながらクラウスが後ろの私達を振り返る。
「最近は行っていないが、初夏にその冬に使う分の薪を準備するんだ。広葉樹を切り出して薪のサイズに切断した後、屋外に積み上げて、3ヶ月から半年は乾燥させておく必要がある。ヨナスは特にチェーンソーを使うのが昔から気に入っているんだ」
「最近は俺達がやっていないから、毎冬分の薪を業者から仕入れているんだろうな。クラウス、おまえがやる気なら、今度の夏、来年分の薪は俺達が準備してやるか」
「腕が鈍る前に、か? それもいいだろう」
クラウスが笑いながら頷く。
車内が和やかな雰囲気になったが、ふと一番後ろのクララを振り返るととても顔が青ざめて私達の会話なんて全く聞こえていない様子だった。
どんどんと近づいて来る運命の瞬間に、生きた心地じゃないのだろう。
両手をお腹に乗せて、何かを真剣に考えている様子で外を見つめているクララを見て、私は胸が苦しくなった。こんな時に、彼女を支えてくれるはずの彼は、ツアー中で不在というのが残念でならない。彼女は、ツアー中の彼を動揺させたくないからと、帰国するまでは妊娠のことは連絡しないと固く決心していた。彼女の気持ちはよく分るし、きっと、彼女は母、ダニエラとの対峙に彼を巻き込みたくないのだろう。クララの父はもうこの事実を知っていて、全面的に娘のサポートをするつもりだというその意思を伝えて来ていることがせめてもの救いだ。
今日成し遂げたいことは、とにかく、ダニエラにどうにか理解してもらい、クララを安全にミュンヘンの父のところへ帰す手はずを整えるということだ。
来週半ばには、彼が戻って来るということらしいので、クララはその時に彼と今後どうするかを決めるつもりらしい。
「さぁ、着いたぞ」
ヨナスの声にはっとして窓の外を見ると、真っ白い外壁に覆われた敷地のずっと向こうに、生い茂る木々に半分くらい隠れている大きな洋館が見えた。煉瓦の外壁に白い窓枠、まるで古城のような塔の形をした屋根の一番上には風見鶏がある。モダンな屋敷に作り替えられているところも多いらしいが、Sommerfeld家は、昔ながらの外観を大切に保ち続けているらしく、ここだけが中世の騎士の館で時代が違うような佇まいだった。
その奥には車の駐車用に作られたらしいモダンな建物があり、半分開いている扉の隙間からは高級車が何台も停められているのが見える。表玄関の門からは、立派なアンティーク調の街灯が、屋敷までの道に沿って建てられていた。屋敷の要所要所にセキュリティ用と見られる防犯カメラも見えたので、やはり24時間監視されているらしい。
深い森の中の高級住宅街ということで、物音ひとつ、聞こえない。聞こえるものは、たまに走っている車の音か、庭師などの作業員の立てる音、もしくは小鳥のさえずりか犬の吠える声、風の音くらいで、都会で聞こえて来るような騒音はほぼ、皆無だ。
どうやらカメラで誰が到着したのかわかるのか、濃い緑の蔦が絡み付いている鉄枠の門扉が自動で解錠され、重々しい音を立てながらゆっくりと開く。ヨナスが車を再発進させて敷地内に入っていくと、その後方で門扉がまた、自動でゆっくりと閉まるのが見えた。
駐車場のほうへ行くのかと思ったら、屋敷の入り口前で車が停まり、ヨナスとクラウスが車から降りたので、私とマリアも降りる。遅れて、クララがゆっくりとドアを開けて降りて来た。
「クララ、大丈夫?気持ち悪くなったの?」
私が声をかけると、クララは小さく頷いた。
「森の中は思ったより冷えるわね。中に入ったら温かい飲み物を作ってもらいましょう」
マリアは優しくそう言うと、自分の着ていたオリーブグリーンのストールをクララの肩にかける。クララはそっとそれを両手で掻き合わせて力なく微笑んだ。
「大丈夫。1人じゃないって、もうわかってるでしょ」
マリアが明るくそう言うと、クララは少し照れたように目を細めて頷いた。
「女の敵は女、とはいうけれど、女の味方も女なの。一度結束したら、これほど固い絆はないんだからね。こういう時は、男なんかより女仲間が一番。そうよね、カノン?」
「うん、ほんとに!やっぱり、女心は、女性にしかわからないしね」
私達がそう言って、クララの左右の腕を取っていると、ヨナスとクラウスが微妙な微笑みを浮かべて顔を見合わせていた。
「お待ちしておりました」
聞き覚えのある声が聞こえて振り返ると、大きな古い木製の扉が開いて、カールが出て来た。後ろから別の使用人らしき若い男性が出て来て、挨拶を述べるとすぐにヨナスの車に乗り込んで駐車場へ移動させ始めた。
ヨナスが黒のレザージャケットを脱ぎながらカールに聞いた。
「カール、いろいろ面倒をかけていてすまない。父は?」
「ユリウス様は皆さんがいらっしゃると聞いてからご機嫌でお待ちですよ。今は中庭のほうにいらっしゃってます」
「ダニエラは?」
「まだ到着されていませんが、しばらく前に駅のほうへ迎えの者が出ましたので、まもなくお着きになると思われます」
「あの、すみません」
皆が中のほうへ歩き始めたので私は後ろから声をかけた。カールが立ち止まって私を振り返ってくれたので、私はマリアを見てからもう一度カールのほうに目をやった。
「クララに温かいものを飲んでもらいたいので、私はキッチンのほうへ行かせてもらいたいのだけど」
「勿論です」
カールが頷いて、奥のほうに声を掛けたら、女性の使用人らしき人がこちらに来るのが見えた。
「じゃぁ、私がクララを連れて入っておくわね」
「うん、わかった。マリアも飲むよね?」
「そうね。甘めにお願い!」
マリアがウインクして、クララの肩を抱いたままヨナス達の後を追う。
私は使用人に連れられて厨房のほうへ向かった。
案内されたキッチンは、レストランの厨房なみの広さで驚く。ステンレスの大型冷蔵庫、冷凍庫が何台も並べられ、ワインやブランデーなど酒類は地下の貯蔵庫にあるらしく、丁度、キッチンスタッフがその地下室から出て来るのが見えた。今は使用人以外はユリウスしか居ないはずなのに、カウンターに大量の野菜や肉類などが山積みされているので驚いたが、そこで下準備作業をしていたスタッフの話だと、私達が来るのでユリウスの指示で豪勢な食事を準備することになっているらしい。
スタッフの方に茶葉のストックを見せてもらって、ルイボスティを見つけた。
私もお茶屋でバイトしているのでいろいろとお茶全般のことを学んでいるが、今まで悪阻に効能のあるハーブティなんて考えた事はなかった。それで、今回調べてみたら、悪阻に利くハーブティがいくつかあって、特に、ルイボスティはおすすめのお茶らしかった。カフェインフリーなのは勿論、カルシウムやマグネシウムを含み、抗酸化作用のアンチエイジング効果もあって、胃腸にも優しい。南アフリカ共和国では牛や山羊のミルクとお砂糖を入れてミルクティーにして飲むのが一般的らしく、私はいつもストレートで飲んでいたけれど、今回は試しに、ミルクと蜂蜜もまぜてみた。
出来あがったのは、赤みを帯びた奇麗なクリーム色のハニーミルク・ルイボスティ。
「カノン様、こちらをご覧くださいな」
キッチンへ案内してくれた女性の使用人が、私を大きな戸棚の前に案内してくれて、そしてゆっくりとその扉を開けた。
「……わぁ、すごい!」
私は驚いて目も口も大きく開いてその棚に並ぶものを見た。
まるで、日本の食品店かと見まごう種類の日本食関連のものがずらりと並んでいた。醤油だけでも数種類、米酢や本みりん、料理酒は勿論、鰹節や海苔、だし用のいりこ、とろろ昆布など、常温保存出来るものが棚一杯に並んでいた。すべて、ドイツ語の説明書きのシールが添付されている。
「カール様の指示で、ユリウス様の取引先繋がりの日本人の方にお願いして、デュッセルドルフの輸入食品店へ代理注文していただいたんですよ。こちらまで配送してもらえるので助かっています。冷凍ですが、魚介類も仕入れていますので、この所はよく、私どもは魚と根菜、酢や海草を使うようにしています」
「ユリウス様も、和食の味に慣れてきていらっしゃるんですか?」
「そうですね。最初は不思議な顔をされていましたが、最近は、海草サラダと炊き込みご飯がお気に入りでいらっしゃいます」
「海草サラダと炊き込みご飯?」
びっくりして聞き返すと、キッチンで大きいゴボウを洗っていたスタッフが声を挙げた。
「いつも、鶏肉に根野菜などを使った炊き込みご飯にしていますが、おすすめの具材があれば……」
「炊き込みご飯……うーん、そうですね、食材を見せてもらえたら」
私も気になってきて、冷蔵庫や冷凍庫の食材を見せてもらうことにし、ルイボスティはスタッフの人に中庭へ運んでもらうようお願いした。
そのままキッチンに残り、戻って来たシェフのミヒャエルやスタッフの方と食材を見ながらメニューの相談をする。夕方の食事のメニューが和食ということで、お昼はもう、アフタヌーンティの準備が出来ているとのことだった。
結局、ミヒャエルと一緒に、彼等が持っている和食調理の専門本を開いて、本日のメニューを決めた。
前菜は、ほうれん草と豆腐のゴマ白和え、海草と刺身用タコに黒酢タマネギの和え物、そして蓮根、人参やゴボウのキンピラ。
そして、ごぼう、ひじきと水煮大豆の炊き込みご飯、大根に椎茸、ワカメのお吸い物。メインは、サンマの生姜煮、冷凍豚肉をハム用のマシンで薄切りにしてもらって薄切り豚肉のシソ巻、となった。
かなりの品数になったので、私もせめて少しはお手伝いをと申し出て、そのままエブロンを借りて調理場に残った。
早めに作っておいても良いメニューであるサンマの生姜煮は、圧力鍋にセットしてしまえばあっという間だし、根野菜のキンピラもアシスタントの人が千切りなどあっという間にやってくれたので、すぐに出来上がる。あとのメニューは材料を計るのを手伝って、実際の調理は夕食前にやってもらうだけにしておく。
さすがにこれだけ和食用の材料を揃えていると、日本に居るのと全く変わらないメニューを作ることが出来る。
まさかドレスデンに来て、完璧な和食をいただけることになるとは思わなかった。
「カノン?」
エプロンを外していると厨房の出入り口に呆れ顔のクラウスが立っていた。
「いつまで経っても戻って来ないから、様子を見に来てみたら……やぁ、ミヒャエル。久しぶりだ」
「クラウス様、申し訳有りません。私どもがカノン様をお引き止めして」
シェフのミヒャエルが手を洗ってタオルで拭きながらクラウスの所へ行き、握手をしている。スタッフの1人が、壁に掛かっているいる時計を見上げて声をあげた。
「そろそろ、ユリウス様のご指示になられた昼食のお時間になりますが、中庭のほうへお持ちしましょうか」
そろそろ午後の1時になるところだった。
こちらに到着してから本来なら真っ先にユリウスに挨拶すべきだったのに、厨房に入りっぱなしでもうこんな時間になってしまった。
クラウスに連れられて屋敷の中を歩きながら辺りを見渡す。広々としたホールは3階までの吹き抜けで、中央に螺旋式の階段があり、巨大なシャンデリアがつり下げられていた。オフホワイトの壁には歴代のSommerfeld家の当主やその家族だろうと思われる肖像画が掛けられている。屋敷中のあちこちにアンティークのチェストや壷などの調度品が飾られて、まるで美術館のようだ。古い建物をメンテナンスすることは決して容易なことではないだろう。それなりの技術を要するし、修繕に使う材料も年代が変わるに連れて入手しづらいものも有るに違いない。恐らくそういうこともあって、多くの屋敷は、現代風の窓枠に入れ替えたり、壁の塗装を変えたりと、少しずつ現代風に改装されているのだと思う。
薄暗かったホールを通り過ぎると急に明るい日差しが差し込むところに来て、そこにはガラス張りのサンルームがあった。そこだけが暖かくまるで春のような雰囲気で、思わず微笑みが溢れる。
「ここは、レオナが指示して作った中庭へ続くサンルームだ」
クラウスが少し小さい声でそう囁いたので、私は大きく頷いた。
彼女らしい、明るくて温かな空間だ。
どちらかというと薄暗く肌寒い印象を受ける屋敷全体の中央に、春の光を取り込むような眩しい空間。
ここは間違いなく、ユリウスのお気に入りの場所に違いない。
「クラウス、あれは持ってる?」
「中庭の君の席に置いてある」
「ありがとう」
あれ、とは、私がレオナ・ローサのラベンダーファームで買って来た、ラベンダーのウァーマーだ。
明るいサンルームの通路を通り過ぎて、解放されているガラス扉から一歩でると、そこは小さな森のような中庭だった。奇麗に手入れされた樹々と、あちこちに飾られた大理石の彫刻や、小鳥用のエサ台、小振りな噴水もあある。
「カノン、ここには日本の錦鯉も飼われている」
「錦鯉?」
クラウスに連れられて楕円形に掘られた石造りの池に言ってみると、優雅に泳ぐ鯉が何匹も居た。
赤や白、金など大小様々の鯉。ドイツの森の中のお屋敷に、まさか鯉が泳いでいるとはびっくりだ。
池の淵に近づくと、エサをもらえると勘違いした鯉がいっぱい寄って来て、水面の上で口をぱくぱくしている。
少し離れた広場のほうからマリアの笑い声が聞こえて来た。
そこには日差しを取り込めるガラスの屋根がついたところで、地面より一段上に上がったログハウス風のテラスになっており、大きなガーデン用カウチやソファがコの字型に配置されて、皆はそこに腰掛けて談笑していた。
やってくる私達に気がついたユリウスが身を起こして手を振る。
「こんにちは、ユリウスさん。遅くなって失礼しました」
私はまっすぐにユリウスのところに行って挨拶をした。ユリウスは両手で私の手を取り、優しい微笑みを浮かべ頷く。
「いや、よく来てくれたね。君が準備してくれたお茶は大変好評だった」
「そうでしたか、よかった」
ほっとして見渡すと、マリアが可笑しそうに笑いながらヨナスを指差した。
「本当はクララにたくさん飲ませたかったのに、ヨナスが何杯も飲んじゃったのよ。甘党には止められないお茶だったみたい」
そう言われてふと見渡すと、クララの姿がなかった。私がキョロキョロしているのに気がついたクラウスが説明してくれる。
「少し眠いと言って、そこのリビングで休んでいる」
「あ、そうなの?具合は?」
「割と良さそうだった。多分、昨晩はあまり眠れていなかったんだろう」
言われてみれば、今日のこの日を前にして、前夜はよく眠れる事が出来なかったというのも納得だ。とりあえず、調子は悪くないと聞いてほっとしていると、クラウスが何か思い出したように私を見て、それから私が髪をまとめていたクリップに手を伸ばした。
さっき、厨房で手伝う時に髪をまとめていたことを思い出す。
どうりで首周りが寒かったわけだ。
クラウスは私が髪を下ろしているのが好きらしい。いつも、調理中はきつく縛ったり、クリップでまとめていて、食事の時もすっかり忘れてそのまま席に付くことがあるのだが、その度に、クラウスが私の髪をほどく。
クリップを受け取ってバッグに片付けていると、ふと、ユリウスが私達を見ているのに気がついた。
興味深そうにこちらを見ているので、どうしたのかなと思っていると、ユリウスは目を細めて微笑んだ。
「昔の私と、クラウスの姿を重ねて見てしまった」
その言葉に、私とクラウスは顔を見合わせた。
ユリウスと、レオナのことなんだろう。
言われずとも、もう気がつく。
きっと、レオナも時折髪を束ねていて、ユリウスがそれを解いたりしたことがあったという事に違いない。
彼女のことを思い出しているユリウスの表情に哀しげなものはなく、ただ懐かしそうに微笑んでいるだけだった。彼女を失った喪失感は消え失せてはいないだろうけれど、今はこうして、しばらく距離を置いていた息子達が自分の側にいるということで寂しさも和らいでいるのだろう。ミュンヘンの病室で彼が言ったように、今、ユリウスを照らしている光は、彼の子供達だからだ。
私はラベンダーファームで会った、レオナを思い出し、彼女のことをユリウスに伝えられたらどんなに幸せだろうと思う。レオナはユリウスに会う約束はしてくれなかったし、彼女には彼女の事情があるのは当然のこと。そう脳裏では理解しているけれど、私は、レオナがきっぱりと再会を断らなかったことから、状況さえ許せばきっとユリウスと会ってくれるのではないかと思っていた。勿論それは、ユリウス自身の状況にもよるけれど……ダニエラという妻がいる状況で、前妻と再会なんていうのは、やっぱり、世間的に考えても良識ある人間のすることではないかもしれない。ただの再会ではなく、少なくともユリウスがまだ、レオナを愛しているという事実があるからだ。
静かに輝いていたレオナの苔色の目。私を見つめて微笑んでくれた彼女の目は、私達人間を癒してくれるこの森のように優しかった。
「お食事をお持ちしました」
給仕担当の使用人達が、木製のティーワゴンにアフタヌーンティセットを乗せてテラスへ入って来た。
テラスの中央にあった大きなテーブルには、深紅のテーブルクロスと純白のテーブルクロスが重ねられ、アンティークゴールドの枠に白磁のお皿がセットされた、三段トレイのアフタヌーンティセットが3つも並ぶ。一番下のトレイには、焼きたてスコーン。ジャムやクリームなどが入ったガラスの小皿が添えられている。中央のトレイには、様々なサンドイッチにミニサイズのキッシュ。一番上には、フルーツがたっぷりのケーキやタルト、プディングやゼリーが置かれて、それは見事なものだった。
給仕の人が香り高い紅茶を注いでくれる。
ヨナスもクラウスもまるで珍しいとも思わない様子で、さっさと食事を始めているが、マリアと私は心なしか緊張して、お茶を入れていただく間、背筋を伸ばして待っていた。
貴族の家庭というのは、自宅でこんなランチを食べることが出来るのだ。大体、厨房に調理担当の人がいるということ自体、一般家庭とはまるで違うのだから、私の知っている常識の世界と、この家庭の常識が異なるのは当然だ。
私は美味しそうなサーモンのキッシュを最初にいただいた。
使っている銀のカトラリーも何やらSommerfeld家の紋章みたいな細工が付いていて、代々使われているものだと一目で分るものだった。
お茶を飲み干すとすぐに給仕の人がまた注いでくれる。
至れり尽くせりとはこのことだ。
ユリウスは息子達と何か仕事の話をしていたので、私とマリアはおしゃべりをしながらこの豪華なアフタヌーンティを楽しむ。小鳥達のさえずりが聞こえ、明るい日差しの差し込む中庭での食事は、これから起きるであろう修羅場への緊張を忘れさせるつかの間の休息だった。
食事が一段落して、給仕の人達が片付けを始めた頃、カールがやってきた。
「ご主人様。もうまもなく、ダニエラ様がご到着されます」
その言葉に皆、一瞬で沈黙する。
ついに、その時が来たのだ。
ユリウスが凍り付いたその場の雰囲気に苦笑して、それからヨナスとクラウスを振り返った。
「ところで、今回、お前達が揃ってここに来たその理由をまだ聞いてはいなかったが」
ヨナスとクラウスは目を見合わせた。
ユリウスは訝しげに息子達を眺め、それから私とマリアのほうへ目を向けた。
「私としては、皆が来てくれるのはいつでも大歓迎だ。ただ今回不思議なのは、クララがお前達と一緒に来たということだ」
「その理由は、もうまもなく分る」
ヨナスが静かにそう答えると、ユリウスもそれ以上追求するのは止めたようで、苦笑いをして黙った。
「私、クララの様子を見て来るね」
私は立ち上がった。
食事の際に声をかけようか迷ったけれど、休息のほうが先だろうと思い、せっかく休んでいるのを邪魔するのはどうかと考えて、結局そのまま様子を見に行かなかった。
それに、やはりダニエラが到着することを誰かが伝えなければならないだろう。
クラウスを見ると、静かに頷いたので、私はテラスからリビングルームへ繋がる扉へ向かった。
ホテルのロビーのように広いリビングルームを見渡すと、隅のソファに座っているクララが見える。
「クララ?」
起きているようだったので声をかけると、クララがこちらを見て小さく微笑んだ。
「少し、眠れたの?」
「ええ、ついさっき目が覚めたの。車でも少しうたた寝していたのにね」
「休める時は休まないと!お腹、空いてる?さっき、食事の時間だったんだけど、起こすのはどうかなと思って……キッチンに行って、何か取って来るよ」
「そうね……あまり、お腹は空いていないんだけど」
「一口くらいでも食べておいた方がいいと思うよ」
私がそう言うと、クララがちょっぴり照れたように微笑み、頷いた。
「スープがあれば……」
「わかった。今、行って来るから待ってて」
私はすぐに立ち上がって、ホールのほうへ続く扉を開けて厨房へ急いだ。
キッチンにはスープのストックがあるというのはもうミヒャエルから聞いていたので、いくつかあったストックの中から、パンプキンスープを温めてもらう。給仕の人が運ぶと言うのを断って、私はプレートにスープを乗せてリビングのほうへ運んだ。
「生クリームは入っていないんだって。パンプキンと人参がベースだからさらりとしているし、きっとお腹にも重くないと思う」
「有り難う」
クララはスプーンを取って、湯気のたつスープをそっとすくった。
ゆっくりとスープを口に運ぶクララ。それだけのことなのに、その上品で優雅な所作に目を奪われる。熱いスープをふーふーと冷ましながら口へ運ぶ私とは全然違う。
なんて奇麗なんだろう。
女神様という表現が一番ぴったりくるのではないだろうか。
「美味しい」
クララがそう呟いてにっこり微笑んだ。
ほっとして私も笑顔になる。思ったより食欲が出たのか、お皿に入っていたスープをぺろりと平らげたので、私は嬉しくなった。
「おかわり、もってこようか?」
聞くと、クララは少し悩む様な感じで空のスープ皿を見下ろした。
「食べれるかどうかわからないとしても、一応、持って来る」
そう言って立ち上がると、クララが思い出したように聞く。
「母は?」
ぎくりとして私は彼女を振り返った。
「……あのね、もうすぐ、着くって」
「……そう」
クララの顔が曇り、彼女は黙り込んだ。しかし、やがて大きく溜め息をつくと、大事そうにお腹を手で抱きしめて笑顔を浮かべた。
「大丈夫よ。きちんと、話してみせるわ」
健気なその様子に胸が詰まりそうになり、私は彼女の隣に座って、クララの手を取った。たった今、温かいスープを飲んだばかりなのに、その手は冷たい。クララは勇気を振り絞るように私の手を握りしめて、空のスープ皿を見下ろした。お腹に宿る小さい命を守れるのは、彼女しかいない。
突然、ドアがきしむ音がしてはっと顔をあげると、リビングの入り口に立つダニエラの姿が目に入った。
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