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ハッピーエンドな『ごんぎつね』
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ずっと会っていなかった幼馴染から、Facebookを通じて連絡がきました。
売れない絵本作家として地味に活動していることを、Facebookで目にして、風の噂が流れてくるように知ったのだそうです。
メールには、幼かった時分を振り返る数々がつらつらと綴られており、まるで文字の中に納められていた思い出が溶け出すみたいに、私の目の前に広がっていきました。
用水路飛びをやって、いちばんのちびだった彼女はわずか先の対岸に届かず水に落ち、腰まで浸かったま大泣きする姿を思い出しました。ずぶ濡れた彼女を見て、私も友だちもこりゃいかんと飛び込んだのですが、泣きじゃくっていた彼女と来たらするりと立場を入れ替え岸に上がり、「みなずぶ濡れ」とあっけらかん。
こればかりではありません。彼女にはしてやられた思い出ばかりが湧いてきます。
そんな彼女が私の作品(まだ2作しか出していないのですけど)をamazonで買ってくれたとありました。
そこには感想が添えてありました。
長い間ご無沙汰なわけですから、社交辞令もあったのでしょう。そりゃあもうべた褒めです。
褒められて悪い気はしませんが、過ぎると皮肉に聞こえてくる。
読み進めていくうちに胸騒ぎみたいなものが湧いてきました。
昔駄菓子屋に、指に付けて擦ると煙の立つ玩具が売られておりました。ありませんでしたか、そんなの。覚えていませんか?
あの煙に似た胸騒ぎだったのです。
べとっとした粘液が、紙におさまっていればいいものを、故意に変化する。それは、悪い化身のようなものでした。
手紙にはお願いがあるとありました。
ご無沙汰していても連絡をくれるということは、断ち切れた糸を結ぶものと内心喜んでおりましたが、嬉々としたのは私だけ。彼女は水泳の池田選手と同じ病で、1年がひとつの山場だそうです。超えられなければ。そう、越えてしまう、のです。
半分は、終焉に向かうということです。
これが湧いて出た煙の素だったと私はそのときに気づきました。
彼女にはお願いは、幼少時よりずっと心で読み返したいた『ごんぎつね』。
「あなたの筆致で、ごんを幸せにしてほしいのです」とありました。
彼女は自分とごんの定めを重ねていたのでしょうね。
いたずら者でお転婆で。きっと彼女なりにいいことをたくさんしてきたのでしょう。彼女の性格からすれば、手に取るようにわかります。
私は、数ある『ごんぎつね』の物語に逆らって、読む人が幸せになる『ごんぎつね 演じた裏側の物語』という掟破りを創りました。
あるべきところに収まらないストーリーです。世に出すというよりは、彼女に読んでもらうためだけに創ろうと決心したのです。
周知のように、私には余るお金はありません。
きつきつ、いっぱいいっぱいの暮らしの中で、製作費なるものを捻出することはできませんでした。
ですから正直に印刷所、製本所の方に事の成り行きを聞いてもらいました。
流通は必要ないので、今回は出版社の方には話すことはありません。
製本所の田中さん、印刷会社の鈴木さん。
そういうことなら、金のことは心配するな、と大船に乗せてもらえることになったのです。
「ありがとうございます」
頭を下げると、おふたかたとも「水臭い」と言ってくれたことが、嬉しさに輪をかけました。
そして出来上がった10冊のうちの1冊がこれです。
もちろん1冊目は真っ先に彼女に届けました。
あとの8冊は田中さんと鈴木さんに委ねているので、わかりません。
物語は、ごんが兵十の獲ったウナギを盗むところから徐々に流れを変えていきます。
紺碧の空の下、お天道様が見ているのにもかかわらず、ごんはいたずらな顔でウナギをかすめていってしまいます。そのシーンに、お天道様の横に小さな鉱石を足してみたのです。
透明だけど燃えているような青い光の鉱石は、空中でふたつに分かれています。
大きいほうは地球の反対側に飛んでいっています。
のちにスーパーマンになるカプセルです。
もうひとつはカプセルから離れた鉱石で、こちらに向かって飛んできて、ごんの体に幽体が入り込むように溶け込んでしまいます。
物語も終盤に差し掛かるころ、家で盗みを働いていると勘違いした兵十はごんを火縄の銃で撃ってしまいます。
ほかの『ごんぎつね』は、このあとごんが命を落として幕。
それを、この絵本では。
鉱石はスーパーヒーローの力を持ったエネルギー源です。それを得たごんは、銃で撃たれても死ぬことはありません。スーパー・パワーで銃弾を止めることもできるのです。
絵は、飛んできた銃弾を前脚で受け止めています。
ごんは、悪いことをしてしまいましたが、悔いていいこともしました。
そのごんが死なない物語になっています。
読んでくれる彼女の励みになればと思っています。
彼女の命も救われることを願っています。
------
1年が過ぎたころ、出版社から発行の打診が届きました。
田中さん、鈴木さんのご配慮から、でした。
私にも救いの手が、差し伸べられたのでしょうか。
スーパー・パワーが地球をひとまわりして、私に届いた思いでした。
さらに嬉しかったのは、幼馴染の彼女からお祝いが届いたこと。
つまり。
そういうことだったのです。
病に打ち勝った彼女に、こちらからもお祝いを送りました。
売れない絵本作家として地味に活動していることを、Facebookで目にして、風の噂が流れてくるように知ったのだそうです。
メールには、幼かった時分を振り返る数々がつらつらと綴られており、まるで文字の中に納められていた思い出が溶け出すみたいに、私の目の前に広がっていきました。
用水路飛びをやって、いちばんのちびだった彼女はわずか先の対岸に届かず水に落ち、腰まで浸かったま大泣きする姿を思い出しました。ずぶ濡れた彼女を見て、私も友だちもこりゃいかんと飛び込んだのですが、泣きじゃくっていた彼女と来たらするりと立場を入れ替え岸に上がり、「みなずぶ濡れ」とあっけらかん。
こればかりではありません。彼女にはしてやられた思い出ばかりが湧いてきます。
そんな彼女が私の作品(まだ2作しか出していないのですけど)をamazonで買ってくれたとありました。
そこには感想が添えてありました。
長い間ご無沙汰なわけですから、社交辞令もあったのでしょう。そりゃあもうべた褒めです。
褒められて悪い気はしませんが、過ぎると皮肉に聞こえてくる。
読み進めていくうちに胸騒ぎみたいなものが湧いてきました。
昔駄菓子屋に、指に付けて擦ると煙の立つ玩具が売られておりました。ありませんでしたか、そんなの。覚えていませんか?
あの煙に似た胸騒ぎだったのです。
べとっとした粘液が、紙におさまっていればいいものを、故意に変化する。それは、悪い化身のようなものでした。
手紙にはお願いがあるとありました。
ご無沙汰していても連絡をくれるということは、断ち切れた糸を結ぶものと内心喜んでおりましたが、嬉々としたのは私だけ。彼女は水泳の池田選手と同じ病で、1年がひとつの山場だそうです。超えられなければ。そう、越えてしまう、のです。
半分は、終焉に向かうということです。
これが湧いて出た煙の素だったと私はそのときに気づきました。
彼女にはお願いは、幼少時よりずっと心で読み返したいた『ごんぎつね』。
「あなたの筆致で、ごんを幸せにしてほしいのです」とありました。
彼女は自分とごんの定めを重ねていたのでしょうね。
いたずら者でお転婆で。きっと彼女なりにいいことをたくさんしてきたのでしょう。彼女の性格からすれば、手に取るようにわかります。
私は、数ある『ごんぎつね』の物語に逆らって、読む人が幸せになる『ごんぎつね 演じた裏側の物語』という掟破りを創りました。
あるべきところに収まらないストーリーです。世に出すというよりは、彼女に読んでもらうためだけに創ろうと決心したのです。
周知のように、私には余るお金はありません。
きつきつ、いっぱいいっぱいの暮らしの中で、製作費なるものを捻出することはできませんでした。
ですから正直に印刷所、製本所の方に事の成り行きを聞いてもらいました。
流通は必要ないので、今回は出版社の方には話すことはありません。
製本所の田中さん、印刷会社の鈴木さん。
そういうことなら、金のことは心配するな、と大船に乗せてもらえることになったのです。
「ありがとうございます」
頭を下げると、おふたかたとも「水臭い」と言ってくれたことが、嬉しさに輪をかけました。
そして出来上がった10冊のうちの1冊がこれです。
もちろん1冊目は真っ先に彼女に届けました。
あとの8冊は田中さんと鈴木さんに委ねているので、わかりません。
物語は、ごんが兵十の獲ったウナギを盗むところから徐々に流れを変えていきます。
紺碧の空の下、お天道様が見ているのにもかかわらず、ごんはいたずらな顔でウナギをかすめていってしまいます。そのシーンに、お天道様の横に小さな鉱石を足してみたのです。
透明だけど燃えているような青い光の鉱石は、空中でふたつに分かれています。
大きいほうは地球の反対側に飛んでいっています。
のちにスーパーマンになるカプセルです。
もうひとつはカプセルから離れた鉱石で、こちらに向かって飛んできて、ごんの体に幽体が入り込むように溶け込んでしまいます。
物語も終盤に差し掛かるころ、家で盗みを働いていると勘違いした兵十はごんを火縄の銃で撃ってしまいます。
ほかの『ごんぎつね』は、このあとごんが命を落として幕。
それを、この絵本では。
鉱石はスーパーヒーローの力を持ったエネルギー源です。それを得たごんは、銃で撃たれても死ぬことはありません。スーパー・パワーで銃弾を止めることもできるのです。
絵は、飛んできた銃弾を前脚で受け止めています。
ごんは、悪いことをしてしまいましたが、悔いていいこともしました。
そのごんが死なない物語になっています。
読んでくれる彼女の励みになればと思っています。
彼女の命も救われることを願っています。
------
1年が過ぎたころ、出版社から発行の打診が届きました。
田中さん、鈴木さんのご配慮から、でした。
私にも救いの手が、差し伸べられたのでしょうか。
スーパー・パワーが地球をひとまわりして、私に届いた思いでした。
さらに嬉しかったのは、幼馴染の彼女からお祝いが届いたこと。
つまり。
そういうことだったのです。
病に打ち勝った彼女に、こちらからもお祝いを送りました。
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