追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第1話 追放。それがすべての始まりだった

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 「レン、お前は今日限りでパーティーから外れてもらう。」

 静まり返った石造りの部屋に、勇者アルドの冷たい声が響いた。  
 仲間たちの視線が一斉に俺へ向けられる。その目は、同情でも怒りでもない。――軽蔑。いや、呆れだ。

 ……ああ、またか。

 俺は静かに息を吐いた。  
 何度も見慣れた表情だ。村でも、訓練でも、冒険でも。  
 「平凡」「才能がない」「何の役にも立たない」。  
 それが俺、レン・アルガスにつけられた烙印だった。

 「おい待てよ、勇者。昨日だって俺が回復薬を――」  
 「それが問題なんだ!」アルドが机を拳で打ち鳴らす。  
 「お前が何かしようとすれば、必ず“偶然”変なことが起きる。モンスターが逃げ出したり、天候が変わったり! お前のせいでパーティーは何度危険に晒されたと思ってる!」  
 「……でも、そのおかげで助かったことも――」  
 「結果オーライなんて通用しない! 俺たちは“勇者パーティー”だ。王の命令で魔王を討つために選ばれた精鋭なんだぞ! 村人上がりの凡人には、もう用はない。」

 ああ、なるほど。  
 俺の“偶然”が気に食わなかったわけだ。

 仲間だった魔法使いのシェリルが肩をすくめた。「悪いわね、レン。あなた、悪い人じゃないけど……正直、足を引っ張ってるのよ。」  
 槍士カイルも苦笑する。「お前とは長かったが、ここまでだ。元気でな。」

 ……そうか。

 俺は、笑った。  
 腹の底から、静かに。  
 「そうだな。俺みたいな凡人が足を引っ張るわけにはいかないよな。」  
 そう言って装備を外し、机の上に置いた。  
 「じゃあな。二度と会うことはないと思う。」

 そして、俺は勇者パーティーを――出た。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 陽射しの強い午後。王都の石畳をひとり歩く。  
 行き交う人々の喧騒の中で、俺の存在は薄い。  
 誰も俺を覚えてなどいない。いや、覚える必要もない。  
 「凡人のレン」なんて、この世界では掃いて捨てるほどいる。

 だけど、胸の奥では、何かがざわついていた。  
 不思議な違和感。まるで、何かが“剝がれ落ちた”ような――。  
 空気が澄んで、世界の輪郭が鮮明になった気がする。

 そのとき、遠くで鐘の音が鳴った。  
 王都の北にある神殿の方角。祈りの時刻だ。

 「あそこ……懐かしいな。」

 俺はふと神殿へと足を向けた。  
 幼いころ、よく母に連れられて行った。  
 “光の女神リュミナ”を祀る神殿。  
 この国で最も広く信仰される、創造と調和の女神。

 今さら祈って何になるか。  
 でも、なぜかあの鐘の音に引かれた。

 

 神殿は荘厳だった。  
 白い大理石の柱が並び、内部はひんやりとして静寂に包まれている。  
 祭壇の前に立つと、懐かしい香の匂いが胸に沁みた。

 「……久しぶりだな。」

 俺は誰に言うでもなく呟いた。  
 その瞬間――

 空気が震えた。

 まるで空間に目に見えない波紋が広がったように、周囲の光景が歪む。  
 心臓が脈打ち、全身の血が逆流する。

 「……あ?」

 光が満ちた。眩しさに目を細める。  
 気づけば、祭壇の上に浮かぶ“光の球”が、おそろしく優しい声で囁いた。

 ――ようやく、目覚めましたね。

 「え?」

 ――あなたがこの世界を創ったのです、レン。忘れてしまったのですね。

 俺は息を呑んだ。理由もなく、胸が痛む。  
 「な、何を……? 俺はただの村人――」

 ――そう思わされていただけなのです。  
 ――あなたの力は、今もこの世界の理を動かしています。

 言葉の意味が理解できなかった。  
 だが、その直後、足元の石畳が淡く光り、神殿の壁に金色の文字が浮かび上がる。

 『すべてはレンの手により創られた。』

 「……冗談だろ。」

 俺が? 創った? この世界を?

 信じられるわけがない。  
 だが、確かに体の奥底に、何かが“反応”していた。  
 見えない力が呼吸に合わせて動く。指先から微かな光が漏れた。

 「……俺が、こんな力……?」

 神殿が静まり返る中、光の球はふわりと俺の肩に降り立った。  
 そこから現れたのは、一人の女性だった。

 透き通るような白髪に、金の瞳。  
 女神リュミナ――伝説に語られる“光の女神”その人だった。

 「お久しぶりです、創造主レン。」

 「あんた……本物の……?」

 「はい。あなたが望んで創った“世界”です。ですが、あなたは人として転生し、自らの存在を忘れていた。」

 胸が締め付けられる。  
 そんな馬鹿な。  
 でも、その瞳を見た瞬間、記憶の奥底で何かが疼いた。  
 遥か昔、果てしない光の中で、俺は確かにこの女神に語りかけていた気がした。

 「また……新しい世界を創ろう。」  
 ――そんな声が、微かに響いた。

 

 女神は静かに微笑み、手を差し伸べる。  
 「創造主よ。あなたの力は、まだ完全には戻っておりません。しかし、あなたが動けば、世界は応えるでしょう。」

 「動けば……?」

 「あなたが望めば、風が吹き、星が落ち、大地が芽吹く。それが“創造主”の理。」

 俺は呆然としたまま、半信半疑で手を見つめた。  
 そして、ほんの冗談半分で、つぶやいた。

 「……雨、降れ。」

 次の瞬間、神殿の天井が鳴り、外でぽつりと雨音がした。  
 それはすぐにざあざあとした本降りへ変わる。

 「……まさか。」

 女神が柔らかく微笑む。「その“まさか”が、真実です。」

 

 それから、外に出た俺は、ぼんやりと雨に打たれながら歩いた。  
 神殿を離れた途端、世界の色が変わって見える。  
 風の流れ、地の鼓動、すべてが俺の中と繋がっている感覚。

 だが、まだ混乱していた。  
 「創造主」? 冗談だろ。  
 俺みたいな凡人が、そんなもの――。

 そのとき、通りの先で悲鳴が上がった。  
 街角の方で、小さな少女が巨大な馬車の馬に弾かれ、倒れている。  
 咄嗟に駆け寄る。  
 馬が暴れ、車輪が迫る。間に合わない――そう思った瞬間、俺は思わず手を伸ばした。

 「止まれ!」

 時間が、止まった。  
 馬も、車輪も、人々も。  
 雨粒でさえ空中に浮かんでいる。

 ……嘘、だろ。

 少女を抱きかかえて道の脇へと運ぶ。  
 心臓が痛いほど脈打ち、全身に光が走る。

 「――動け。」

 世界が再び動き出した。  
 馬車は何事もなかったかのように通り過ぎ、人々が騒ぐ。  
 少女は目をぱちぱちと瞬かせ、俺を見上げた。

 「……お兄ちゃん、ありがとう。」

 俺は苦笑しながら頭を撫でた。  
 「気をつけろよ。もう少しで危なかった。」

 その瞬間、周囲からざわめきが起きた。  
 「今、何が……?」「時間が止まったような……?」

 俺はそっとその場を離れた。  
 胸の中で、雨の音が不思議と心地よく響いていた。

 

 神殿での出来事。  
 女神の言葉。  
 そして今の奇跡。

 ――まさか、本当に。

 世界は俺の言葉に、応えているのか。

 

 そして、その夜。  
 王のもとに報せが届いた。

 “かの勇者パーティーを追放された村人、レン・アルガスが奇跡を起こした”と。  
 “雨を呼び、時間を止めた”と。  
 それを聞いた勇者アルドはただ一言、呟いた。

 「……あいつ、何者だ?」

 その問いに答えられる者は、当時、まだ誰もいなかった。
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