追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第2話 村人レン、静かに笑う

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 雨が上がった翌朝、王都の喧騒はまるで何事もなかったかのように戻っていた。  
 路地裏の石畳は濡れて陽光を柔らかく反射し、通りの人々がいつも通りの一日を始めている。  
 だが俺の中では、何もかもが違って見えた。

 昨日、女神リュミナが現れた。  
 「お前は創造主だ」なんて、どう考えても信じ難い話だ。けれど――あの光景、世界が止まった感覚は夢でも幻でもなかった。  
 今も手のひらに微かな温もりが残っている。少女を助けたあの一瞬の奇跡が、確かに俺自身の意思で起きたのだ。

 とはいえ俺は、騒ぎ立てる気もなかった。  
 そういう“奇跡の男”だと知られたら、きっと王や貴族の連中が放っておかない。  
 勇者パーティーを追放された“凡人”のままでいるほうが、ずっと都合がいい。

 「……静かに生きる。それでいい。」

 朝市のパンをかじりながら、俺はそう呟いた。

 宿屋を出て王都の外へ向かう。もうここに長居する理由もない。  
 遠くに見える青い森――“霧風の森”に住む友人のところへでも行こうと思った。  
 彼は元々冒険者ギルドの研究員で、生物や古代遺跡を調べるような変わり者だ。今は森の奥で暮らしていると聞く。

 「ちょうどいい。しばらく身を潜めるにはうってつけだ。」

 そう思いながら街を出ようとした矢先、背後から声がかかった。

 「あなたが……レンさんですか?」

 振り返ると、そこには昨日助けた少女が立っていた。  
 年の頃は十歳ほど。栗色の髪を結んだ素朴な田舎娘だが、手には神殿の紋章入りの包みを抱えている。

 「昨日は、本当にありがとうございました! あの、これ……お母さんと作ったクッキーです!」

 彼女の顔には無垢な笑顔が咲いていた。  
 ああ、やっぱり助けてよかった。そう思いながら苦笑いで受け取る。

 「ありがとう。気をつけて帰るんだぞ。」

 「はいっ! でも、神殿の人たちがあなたを探してました!」

 「……神殿が?」  
 胸の奥がざわついた。女神リュミナの声がまだ耳に残っている。  
 助けに行くべきか、それとも逃げるべきか。だが、放っておくのも妙に落ち着かない。

 結局、俺は再び神殿へ向かうことにした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 昼下がりの神殿は静かだった。  
 昨日のような眩い光も、女神の気配もない。けれど妙に空気が澄んでいる。  
 中へ入ると、巫女服の少女たちが慌ただしく動いていた。

 「あの……昨日、神殿で光が――」  
 「おや、あなたが! レン様ですね?」

 声をかけてきたのは、金髪の巫女――リリアという若い神官だった。  
 柔らかい表情だが、目の奥に確かな敬意が宿っている。

 「リュミナ様が、あなたをお呼びです。」

 「やっぱり……」

 導かれるまま奥の礼拝堂に足を踏み入れると、あの光の女神が再び姿を現した。  
 ただし今回は人の姿ではなく、白い光の輪郭だけが宙に漂っている。

 『訪れてくれましたね、レン。』

 「昨日の……夢じゃなかったんだな。」

 『夢ではありません。あなたは確かにこの世界の“創造主”。そして今、世界の理があなたの目覚めを求めているのです。』

 「理が……求めている?」

 『はい。長い間、あなたが眠ることで維持されていた均衡が少しずつ崩れています。魔力の流れが歪み、魔族もまた活発化している。いずれ、魔王すら再び目を覚ますでしょう。』

 妙な話だ。  
 勇者パーティーが魔王を討ったのは、たかが数か月前のことだ。  
 だがもし“均衡”とやらが本当に崩れているなら……確かに説明はつく。

 俺は言葉を失ったまま、しばらく女神の光を見つめた。  
 そこから放たれる輝きには、不思議と懐かしさがあった。

 「……でも、今さら俺に何ができる。神だとか創造主だとか言われたところで、そんな実感はない。」

 『あなたは考えるよりも前に“創り出して”しまうのです。昨日もそうだったでしょう? それこそが、創造の根源です。』

 沈黙。  
 言葉の意味が重く胸に残る。  
 偶然、助かった命。偶然、起きた雨。――あれはたしかに俺の意志だった。

 『レン。あなたが動けば、世界が変わります。どうか、この手で再び“平穏”を創ってください。』

 光がゆっくりと薄れていき、神殿は再び静寂に包まれた。  
 俺は深く息を吐き、礼拝堂を後にした。

 

 外へ出ると、西の空が薄く赤みを帯び始めていた。  
 人の営みが続く町並みを眺めながら、ふと心のどこかで笑いがこみ上げる。

 「創造主、ねぇ。結局、俺はまた平凡な旅人に戻るだけさ。」

 そう言いながら歩き出したところで、ふいに背後で声がした。

 「そこのあなた、少しお待ちなさい!」

 振り返ると、黒髪を高く束ねた女騎士が立っていた。  
 鋭い眼差し、金色の鎧。どこかで見覚えがある――そうだ、勇者パーティーの従騎士だったフェリアだ。

 「レン。まさか、まだこの国にいたとはね。」

 「フェリア……。何の用だ?」

 「あなた、昨日の“奇跡”のことを知っているわ。雨を呼び、時間を止めた。それ、本当なの?」

 俺は苦笑いした。「誰がそんな噂を?」

 「王都中よ。王でさえ、あなたを呼び戻すべきだと考えている。」  
 フェリアは一歩近づいて、まっすぐ俺を見つめる。  
 「お願い。真実を教えて。あなたは何者なの?」

 「俺は何者でもない。ただの村人だ。」

 「嘘をつかないで。」  
 彼女の声は震えていた。怒りでも恐怖でもなく、必死の感情だった。  
 「あの勇者アルドが怯えている。『レンを放っておけば世界が狂う』って……。あなた、本当に何をしたの?」

 あのアルドが怯えて? 世界が狂う?  
 あいつらしい傲慢さだ。自分が理解できないものはすべて恐れる。

 俺はしばらく黙り、目を細めた。  
 「フェリア。お前は俺をどうしたい?」

 「……守りたい。あなたが敵でも、味方でも。」

 不意に風が吹いた。雨の名残の匂いが心地よく漂う。  
 その瞬間、俺の中で何かが弾けたように感覚が広がった。  
 フェリアの剣、甲冑、鼓動までもが、手にとるようにわかる。

 望めば、全てが見える――そんな不思議な感覚。

 「おい、どうしたの? 顔色が……」

 「いや、なんでもない。……ただの気のせいだ。」

 俺は首を横に振り、肩をすくめて笑った。  
 その笑顔に、フェリアは言葉を失ったように息をのむ。

 「やっぱり、あなた……前よりも何かが違う。」

 「違わないさ。俺は俺のままだ。」  
 そう言って、ゆっくりと背を向けた。  
 「次に会う時は、“世界の終わり”の話でもしよう。」

 フェリアは息を詰めたまま、ただ立ち尽くしていた。

 

 夜、王都の外れの野宿地。  
 焚き火の赤が風に揺れ、遠くでフクロウが鳴いている。  
 今日一日で多すぎるほどの出来事を思い返しながら、俺は炎を見つめた。

 ――神殿の言葉。  
 ――フェリアの瞳。  
 ――魔王の復活。

 すべてが、どこかで一本の線につながっているような気がする。  
 でも今はまだ、あえて考えない。俺はただ静かに笑った。

 「結局、俺は平凡なままが一番らしい。」

 焚き火に薪をくべながら呟く。  
 けれど炎の奥で、小さな光がふわりと浮かんだ。  
 それはまるで女神の欠片のように、柔らかな声を運んできた。

 ――レン、あなたが笑う限り、この世界は創られ続けますよ。

 「……そうか。」

 俺は微笑み、夜空を見上げた。  
 満天の星々が瞬き、まるで誰かが見下ろしているようだった。
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