追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第5話 神の瞳が俺を見つめている

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 森を抜けてから二日が経った。  
 ディアナと二人で南へ進み、小さな宿場町にたどり着いた。  
 木造の家々からはパンの焼ける匂いが漂い、通りには行商人や旅人が活気を取り戻しつつあった。  
 世界の歪みが進んでいるとはいえ、この町はまだ“普通”の時間を保っているようだった。

 「ここなら一晩くらいは安全でしょう。」  
 ディアナが微笑む。その頬にはまだ疲労の影が残っていたが、表情は穏やかだった。  
 「リュミナ様の加護が届く範囲です。私が祈れば、結界を張ることもできます。」  

 俺は頷いた。  
 「助かる。ゆっくり休める場所がほしかったんだ。」  

 宿に荷を下ろし、部屋を取る。  
 小さな木の机とベッド、一枚の窓ガラス。豪華さはないが落ち着く空間だった。  
 長い旅と戦いで身体も心も荒れていた。椅子に腰を下ろすと、じんわりと疲労が押し寄せる。  

 窓の外を眺めながら、ぼんやりと考えた。  
 ――女神、創造主、理、そして俺自身。  

 「何も望まなければ世界は変わらない。でも、生きている限り、望まずにはいられない。」  
 あの日ディアナに言われた言葉が脳裏でよみがえる。  
 “想いが形になる”。それが俺の持つ創造の力らしい。  

 無自覚に生きてきた俺が、世界を変えていたかもしれない――そう思うと笑い出したくなる。  
 だが同時に、底の見えない恐怖も感じた。  
 俺の一言、感情の揺れひとつで、誰かが消えることすらあるのかもしれない。  

 「……気を引き締めて生きねぇとな。」  
 苦笑交じりに呟いたとき、コンコンと扉がノックされた。  

 「レン様、入ってもよろしいですか?」  
 ディアナの声だ。  
 「どうぞ。」  

 扉が開き、彼女は小さなトレイを持って入ってきた。  
 湯気の上がるスープと、焼きたてのパン。それに香草が浮かぶハーブティー。  
 「ささやかですが、町の方がもてなしてくださったんです。ふたりで食べましょう。」  

 「随分と歓迎されてるな。」  
 「あなたが森を浄化したこと、町の守衛たちが見ていたそうです。もう、“浄化の旅人”として知られてますよ。」  
 ディアナがクスリと笑う。  
 俺は肩をすくめた。「面倒なあだ名だ。」  
 「悪くありません。少なくとも、恐れられるよりずっといい。」  

 ふたりで食事を済ませると、ディアナが真剣な面持ちに変わった。  
 「レン様、ひとつお願いがあります。」  
 「お願い?」  
 「あなたの力を調べたいのです。リュミナ様の神殿に伝わる“創造の試練”を行えば、あなたの真なる姿が見えるはず。」  

 俺は驚いて眉を上げた。  
 「姿が見える……どういう意味だ?」  
 「創造主の魂には、“神の瞳”が宿るとされています。世界の理を見通し、命の糸の流れを視る瞳。それが現れれば、あなたが本物かどうかが判明します。」  

 何となく嫌な予感がした。  
 だが、正体を知る好機でもある。曖昧な恐怖を抱いたままでは、いずれ暴走する気がした。  

 「……いいだろう。」  

 夜。  
 宿の裏手、森に隣接した小さな泉のほとりで、ディアナは儀式の準備を始めた。  
 銀の器に月光を受け、淡い光が水面に広がっていく。  
 「この泉は、かつてリュミナ様が“創造の涙”を落とされた場所。ここでなら真実を映せます。」  

 彼女の声が静かに響く。  
 ディアナは泉の中心に立ち、両手を組んで祈った。  
 「我らの源たる光よ、創造の名において瞼を開き、真の姿を示したまえ――」

 風が吹いた。  
 泉が光り、空気が振動する。世界そのものがわずかに揺れる感覚。  
 次の瞬間、俺の全身に熱が走った。心臓の鼓動が変調する。  

 「どうなって……る……?」  
 視界が滲む。  
 目の奥が焼けるように熱い。  

 「レン様……その瞳、やはり……!」  
 ディアナが息を飲んだ。  

 泉に反射した自分の瞳は――金色に輝いていた。  
 その奥では、網のような光の線が無数に絡み合い、どこまでも繋がっている。  
 頭の中に膨大な情報が流れ込んだ。  
 地の脈動、風の力、斜め上空を走る魔流の流れ。森の木々一つひとつの生命の模様。  
 全てが、まるで自分の神経の延長のように感じ取れる。  

 「見える……世界の輪郭が……」  
 声が震える。  
 見ただけで、この町の“未来の道筋”まで感じ取れる気がした。  
 「これが……“神の瞳”……。」  
 ディアナが涙を浮かべながら呟いた。「間違いありません、レン様。あなたは本物です。」  

 「本物、ね……俺はこの力を求めた覚えなんてない。」  
 「それでも選ばれたのです。リュミナ様は創造主の魂を世に宿し、地上に巡るよう設定されました。あなたこそ、最初に世界を描いた存在。」  

 信じたくなくても、瞳が見せる真実が否応なく物語る。  
 この世界の最初の瞬間。光と闇がせめぎ合い、海と大地、人の姿が生まれる。  
 そのすべての視点が――俺の中にあった。  

 「……思い出してしまったのかもしれない。」  
 呟くと、ディアナが心配そうに俺を見上げた。  
「何を、ですか?」  
 「俺が、どうしてこの世界を創ったのかを。」  

 泉の輝きが弱まり始める。  
 だがディアナが祈る口調を止めようとした瞬間、突如として強烈な震動が足元を襲った。  
 「今度は……なんだ?」  
 地の奥から、黒い靄が吹き上がる。  
 同時に俺の瞳の中の網が一部、真っ黒に塗り潰されていくのがわかった。  

 「封印……が、破られていく……」  
 ディアナが叫ぶ。  
 「誰かが創造の核に干渉しています!」  

 咄嗟に目を閉じ、集中する。  
 網のような光が形を変え、遠くに影を映した。  
 ――王都。  
 ――勇者アルド。  
 その剣が、神殿の聖印を砕き、黒い魔力を喰らっている光景が見える。  

 「アルド……何をしてやがる。」  

 怒りでも不安でもない。ただ、世界の一部が疼くような痛みが走る。  
 俺が立ち上がると、泉の周囲の水が激しく泡立ち、空気が震えた。  

 ディアナが焦りの声を上げる。「レン様、これ以上は危険です! 今はその瞳を閉じて!」  
 「駄目だ、今感じた。“誰か”がこの現実を書き換えようとしてる。放っておけば、この世界は崩壊する。」  

 一歩踏み出すたびに地面が光る。  
 空が割れ、月が二重に重なる幻が広がった。  
 風が悲鳴のように渦巻き、町の遠くで建物の灯りがちらつく。  

 俺は金色に輝く瞳を宿したまま、夜空を睨んだ。  
 遠く王都の方向を見据え、静かに呟く。  

 「見えてるぞ、アルド。お前が壊そうとしてる理も、女神が隠してきた真実も。」  
 「誰が神で、誰が創造主か――全部、終わらせてやる。」  

 ディアナはその背を見つめ、息を詰めた。  
 彼女の瞳にも、うっすらと光が宿っている。  

 「レン様……。その瞳は、世界があなたを“思い出した”証。もう、誰も止められません。」  

 夜風が吹き、泉の表面が波打った。  
 金色の光が薄れ、瞳の輝きが収まる頃、俺は静かに息を整えた。  

 「神の瞳、ね……。見え過ぎるのも考えものだな。」  
 「それでも、必要でした。」とディアナが答える。  
 「この瞳がある限り、あなたは決して一人ではありません。」  

 闇に溶けるような静けさが訪れた。  
 俺は夜空を見上げ、再び歩き出した。  
 その先に待つのは、過去か、未来か。だが確実に――何かが変わり始めていた。
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