追放された凡人、実は伝説の創造主だった ~気づけば女神も勇者も俺に跪いていた件~

fuwamofu

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第9話 創造の力、無意識に発動

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 夜が更け、風が冷たくなった。  
 俺とディアナは山道を登っていた。北東にある“神の塔”を目指す途中だ。  
 塔はこの世界の中心を示す場所。女神リュミナにより封印された古域《オールドレイヤー》への門があり、そこへ行けばアルドが何を求めているのかがわかるとリュミナは言った。  

 「霧が濃いですね……。」  
 ディアナが立ち止まり、杖を握る手を強める。  
 いつになく彼女の声がかすれていた。聖女である彼女でも、魔力の流れが乱れているこの地域では回復の術すら使えないらしい。  

 俺は周囲を見回す。  
 気配がおかしい。風も止まり、音も消えている。まるで世界が呼吸を止めたような空間だった。  
 次の瞬間、暗闇から落雷のような衝撃が走った。  

 「危ない、下がれ!」  
 地面が崩れ、光の筋が地を割る。  
 その中から現れたのは、陶器のような白い皮膚を持つ“人型の魔”だった。  
 顔のない兵士。だが人間と同じ形をしている。  
 「……創造兵か。」  

 ディアナが驚く。「それをご存じなのですか?」  
 「古い時代に造られた自律型の戦闘兵器だ。創造主、つまり俺が創ったもの。」  
 「あなたが……。」  
 そう。記憶の奥に、確かにこの姿を見た覚えがある。  
 “永遠に壊れぬ守護者”――そう言って、俺自身がこの地に置いたのだ。  

 “創ったくせに、自分で忘れていたか。”  
 心の内で、誰かが皮肉を言った気がした。  
 俺の中のもう一つの何か――“始原の意志”が微かに動く。  

 「レン様!」  
 兵が動いた。音もなく地を滑り、無機質な脚が俺の前に迫る。  
 反応する前に、俺の腕が勝手に動いた。  
 空気が震え、白い光線が走る。  
 次の瞬間、兵士は一体残らず霧散していた。  

 「……また、勝手に。」  
 俺は息を吐く。  
 意識していない。なのに、世界が勝手に動いて結果だけを差し出してくる。  
 それは明確な意思というより、周囲の理の方が俺に合わせようとしている感覚だった。  

 「レン様、大丈夫ですか?」  
 「問題ない。」  
 だが、内側の声が囁く。  
 ――お前の“問題ない”が、一つの世界を壊す。  

 思考を振り払う。今は進むしかない。  

 それから数刻後、俺たちは峠を越えた。  
 眼下に広がるのは深い峡谷と、その先にそびえる光の塔――神の塔。  
 夜の闇を切り裂くように、青白い輝きが天へ伸びている。  
 だがその光は神聖ではなかった。濁っている。  

 「アルドが、あそこにいる。」  
 ディアナが頷く。「感じます。塔の中で何かが封印を破ろうとしている気配……まるで世界の心臓に針を刺すような歪みです。」  

 風が強くなり、雲が渦巻く。  
 稲妻が塔の周囲を取り巻くように走り、その中心で巨大な影が蠢いた。  
 遠目にも、それが人の形に見える。  

 アルドの姿だった。  
 彼の背後に、女神像のような光の虚影が浮かび、まるで彼自身が神となったかのような光景だった。  

 「アルドォォォ!」  
 俺は叫んだ。  
 だが、その声に応えるように、塔から黒い波動が吹き荒れた。  

 空間が歪み、峡谷から無数の黒い線が湧き出してくる。  
 それはかつての“理の根”。この世界の輪郭を支えるはずの基幹コードが、今は黒く腐食していた。  
 「くそ、全部逆流してやがる!」  

 俺は手を振りかざした。  
 世界の線が光に染まり、一瞬で修復されていく。  
 それは無意識。だが止められなかった。  
 神経を通じて、力が勝手にあふれ出し、空間そのものを書き換えてしまう。  

 地面が滑らかに再構築され、塔を取り巻いていた黒い瘴気が一気に晴れた。  
 だが、それは同時に大地の“法則”すら変えてしまったようだった。  
 風が止まり、音が消える。目の前の空間が鏡のように透けていく。  

 「レン様、何を……?」  
 「わからない! 勝手に体が……!」  
 意志に反して、俺の手が俺のものではなくなる。  
 足元の岩が宙に浮かび、空の色が時間によって逆転する。  

 “創造の力、全開放”――頭のどこかで、そんな文字が響いた。  

 気がつけば俺は光の中に立っていた。  
 足元に地はなく、世界が透けている。  
 視界の果てまで、数え切れない幾何学模様が連なり、銀の糸が全方向に走っていた。  

 「ここは……」  
 「“基盤界”。あなたの思考が作り出した世界の骨格です。」  
 声が聞こえる。ディアナのものではない。女とも男ともつかぬ無機質な声。  
 「あなたの内に眠る“始原の意志”、それが今、あなたを完全に取り込もうとしています。」  

 目の前に姿が立ち上がる。  
 自分と同じ顔、同じ声――だがその瞳は漆黒だった。  

 「お前が……俺の中のものか。」  
 「違う。お前こそ、私の欠片だ。」  
 声が重なる。  
 「世界を創るのは私。そして、壊すのも私だ。」  

 音が途切れ、白と黒の空間が衝突した。  
 理の構造がぶつかり合い、形を変える。  
 周囲の模様がひび割れ、現実世界の景色が流れ込んできた。  
 ディアナが光の裂け目から手を伸ばす。  

 「レン様ぁっ!」  
 その声で意識が一瞬戻る。  
 俺は強く息を吸い込み、黒い自分に言葉を叩きつけた。  
 「俺とお前に違いなんてない! だが、支配される気はない!」  

 拳を突き出す。それは攻撃ではなく、衝突。  
 黒い俺が笑い、光の粒になって溶けていく。  
 「いずれ、わかる。創造というのは、選択ではなく反応だ。」  

 光が弾け、世界が戻った。  
 気がつくと地に膝をついていた。空は再び夜の色に戻り、ディアナが目の前で涙ぐんでいた。  

 「レン様……よかった……!」  
 「大丈夫だ。……たぶん。」  
 俺は苦笑しながら立ち上がる。  
 塔の光が再び強く輝き、その上空に黒い影が浮かんだ。  

 「アルド……この異変を利用している。」  
 ディアナが叫ぶ。「封印層が開きます! 間に合わなくなります!」  
 「行くぞ。もう、無意識になど任せておけない。」  

 強風が吹き荒れる中、俺たちは神の塔へ向かって走り出した。  
 遠雷のような轟きが空を裂き、そこに微かに女神の声が重なっていた。  

 ――レン、力を恐れずに。意思を持って使いなさい。  
 ――それが、“創造主”と呼ばれたあなたの本質なのです。  

 俺は頷き、黒い夜を駆け抜けた。  
 運命を変える戦いが、すぐそこに待っている。
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