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第19話 ハーレムと平穏の日常(束の間)
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魔王ベルタザールとの戦いが終わってから、いくつの日が経っただろう。
再び訪れた静寂の世界は、まるで長い夢のようだった。
崩れ落ちた灰の峡谷の一部は緑地に変わり、小川が流れ出していた。
理の再創造は確かに機能している。だが、それでも均衡が完全とは言えない。
俺はその川辺で、ぼんやりと空を見上げていた。
心の奥に、ようやく宿った“静けさ”があった。
「……ようやく息ができる。」
呟いたその時、背後から軽やかな足音。
「レン様、朝食の準備ができました。今日は果実のパンとスープです。」
ディアナが白いローブを翻しながら現れる。彼女の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
昔の巫女らしい孤高さは薄れ、今では柔らかい“人”の表情をしている。
「ありがとな。お前も少しは休めよ。」
「創造主に仕える巫女が休んでなどいられません。」
そう言いながらも、ディアナは頬を膨らませた。
そこへ木剣を振り回しながらエレナがやって来る。
「おーい! レン様! この辺りの森に新しい魔獣が住みついてるらしいぜ! 狩りに行かないか?」
「お前は休むって言葉を知らないのか。」
「体を動かしてこそ平和を実感できるんだろ?」
朗らかに笑うエレナの姿は以前の剣士そのものだが、その手首には俺が与えた理の紋章が光っている。彼女はすでに“創造の理”に半ば融合しており、世界の平衡を守る剣として存在している。
ディアナが呆れつつ苦笑した。
「まったく……あなたは落ち着くということを知りませんね。」
「巫女こそ、じっと祈ってばかりで飽きないのか?」
「祈りは世界の呼吸です。」
「えー、私は剣で風を起こす方が性に合うな。」
ふたりのやり取りを聞いて、思わず笑みがこぼれた。
平和という言葉が、少しだけ現実に近づいたのかもしれない。
そう思った矢先、丘の上から聞き慣れた声が飛んできた。
「あなたたち、本当に賑やかね。」
声の主はリーゼだった。
王都へ残っていた彼女が数日ぶりに戻ってきたのだ。赤いマントを緩やかにたなびかせ、凛とした姿で歩み寄る。
「王都の修復作業は順調よ。でも……あなた、突然いなくなるから心配したの。」
「悪かった。少し世界の“音”を確かめていたんだ。」
リーゼがため息をつきながら、俺の目の前に籠を置いた。中にはリンゴやチーズ、そして焼きたてのパンが入っている。
「持ってきたわ。朝食にでも使って。」
「さすが王女様、気が利くな。」
「もう王女ではないわ。私はただの人間。……それでも、あなたの隣にいる理由くらいは、あっていいでしょう?」
その言葉に、ディアナとエレナが同時に反応する。
「隣って……どういう意味だ?」
「リーゼ様、また変なことを。」
「変なことじゃないわ。私なりの“忠誠”よ。」
そう言って、リーゼはさらりと笑った。その視線の柔らかさに、俺は思わず目を逸らす。
場の空気が、どこか妙に甘くなる。
「レン様。」
ディアナがわざとらしく咳払いを一つ。
「あなたには……その、誰を想っておられるのですか?」
その問いに、何か言おうとした瞬間、エレナが割り込んでくる。
「そりゃあもちろん、みんなに決まってるだろ?」
「ちょっと! あんたじゃない!」
「レン様、誤魔化さないでください。巫女としても、答えを知りたいです。」
「わ、私はただ……! あ、朝食冷めるから! 食べましょう!」
慌ててパンをちぎって渡すと、三人は半ば呆れながらも笑い合う。
穏やかな時間が流れた。
鳥の鳴き声、風の音、火のはぜる音、それらすべてが懐かしい。
遠い昔、俺が世界を初めて創ったときに望んだものは、結局この光景だった。
「こうして笑っているのが、理が安定している証拠ですね。」
ディアナが微笑む。
「レン様の心が穏やかである限り、世界も平和でいられるでしょう。」
「違うさ。お前たちが笑っているから、世界が穏やかなんだ。」
そう言うと、全員が同時に顔を赤らめた。
「もう! そういうことを……!」
「う、うるさいっ!」
リーゼが少し拗ねたように顔を背けるが、その頬に浮かぶ笑みを俺は見逃さなかった。
空に雲が流れた。
小鳥が川辺を渡って飛び去っていく。その穏やかな光景は、永遠に続くようで、どこか儚げでもあった。
エレナが剣を手に言う。
「なぁレン様、このまま旅を続けないか? 魔物退治でも、巡礼でもいい。こうして一緒にいると、何でもできる気がする。」
「そうね。」リーゼが頷く。「王都を整えるのも大事だけど、あなたがいる場所こそが、今の“中心”なのかもしれない。」
「私も賛成です。創造主が歩くことこそ、理を示すことになります。」
全員がこちらを見ていた。
俺は少しだけ苦笑した。
「……あいにく、俺は旅に出るほどの目的を失くしてるかもしれない。」
「また謙遜を!」とエレナ。
「いいえ、レン様。」ディアナが言葉を重ねた。「世界はもう、あなたが“居ること”そのものが理なんです。」
どんな言葉よりも、その一言が胸に響いた。
誰かのために創り、壊し、また創り直した世界。
気付けば、俺を支えるのはこの三人の想いだった。
「……なら、もう少しこの場所で生きてみるのも悪くないな。」
「ええ!」ディアナが嬉しそうに笑う。
「それじゃ決まりだな!」エレナが頷き、リーゼは小さくため息をついた。
「……まったく、あなたがどれだけ世界を創り直しても、やっぱりハーレム体質なのね。」
「は?」
「ふふっ、冗談よ。」
風が吹いた。
小さな砂埃の渦が巻き上がり、太陽の光を反射する。
俺たちは笑い合いながら朝食を終えると、各々が焚き火の横で休息に入った。
今日という日は特別ではない。
ただの穏やかな朝。
けれど、世界のどこかでまた小さな歪みが生まれるということを、俺は感じていた。
平穏とは、永遠ではなく、ほんの束の間の贈り物。
それを知るからこそ、この瞬間に感謝できる。
川辺の風が優しく頬を撫でた。
俺は空を見上げ、眼を細めながら小さく呟いた。
「……もう一度、守ってみせるさ。この光景を何度でも。」
その声は誰にも聞こえなかったが、空の彼方で、微かに女神の笑い声が響いた。
日常は静かに続いていく。
だが、創造主の心が揺れるとき、再び世界は次の頁を開くだろう。
再び訪れた静寂の世界は、まるで長い夢のようだった。
崩れ落ちた灰の峡谷の一部は緑地に変わり、小川が流れ出していた。
理の再創造は確かに機能している。だが、それでも均衡が完全とは言えない。
俺はその川辺で、ぼんやりと空を見上げていた。
心の奥に、ようやく宿った“静けさ”があった。
「……ようやく息ができる。」
呟いたその時、背後から軽やかな足音。
「レン様、朝食の準備ができました。今日は果実のパンとスープです。」
ディアナが白いローブを翻しながら現れる。彼女の顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。
昔の巫女らしい孤高さは薄れ、今では柔らかい“人”の表情をしている。
「ありがとな。お前も少しは休めよ。」
「創造主に仕える巫女が休んでなどいられません。」
そう言いながらも、ディアナは頬を膨らませた。
そこへ木剣を振り回しながらエレナがやって来る。
「おーい! レン様! この辺りの森に新しい魔獣が住みついてるらしいぜ! 狩りに行かないか?」
「お前は休むって言葉を知らないのか。」
「体を動かしてこそ平和を実感できるんだろ?」
朗らかに笑うエレナの姿は以前の剣士そのものだが、その手首には俺が与えた理の紋章が光っている。彼女はすでに“創造の理”に半ば融合しており、世界の平衡を守る剣として存在している。
ディアナが呆れつつ苦笑した。
「まったく……あなたは落ち着くということを知りませんね。」
「巫女こそ、じっと祈ってばかりで飽きないのか?」
「祈りは世界の呼吸です。」
「えー、私は剣で風を起こす方が性に合うな。」
ふたりのやり取りを聞いて、思わず笑みがこぼれた。
平和という言葉が、少しだけ現実に近づいたのかもしれない。
そう思った矢先、丘の上から聞き慣れた声が飛んできた。
「あなたたち、本当に賑やかね。」
声の主はリーゼだった。
王都へ残っていた彼女が数日ぶりに戻ってきたのだ。赤いマントを緩やかにたなびかせ、凛とした姿で歩み寄る。
「王都の修復作業は順調よ。でも……あなた、突然いなくなるから心配したの。」
「悪かった。少し世界の“音”を確かめていたんだ。」
リーゼがため息をつきながら、俺の目の前に籠を置いた。中にはリンゴやチーズ、そして焼きたてのパンが入っている。
「持ってきたわ。朝食にでも使って。」
「さすが王女様、気が利くな。」
「もう王女ではないわ。私はただの人間。……それでも、あなたの隣にいる理由くらいは、あっていいでしょう?」
その言葉に、ディアナとエレナが同時に反応する。
「隣って……どういう意味だ?」
「リーゼ様、また変なことを。」
「変なことじゃないわ。私なりの“忠誠”よ。」
そう言って、リーゼはさらりと笑った。その視線の柔らかさに、俺は思わず目を逸らす。
場の空気が、どこか妙に甘くなる。
「レン様。」
ディアナがわざとらしく咳払いを一つ。
「あなたには……その、誰を想っておられるのですか?」
その問いに、何か言おうとした瞬間、エレナが割り込んでくる。
「そりゃあもちろん、みんなに決まってるだろ?」
「ちょっと! あんたじゃない!」
「レン様、誤魔化さないでください。巫女としても、答えを知りたいです。」
「わ、私はただ……! あ、朝食冷めるから! 食べましょう!」
慌ててパンをちぎって渡すと、三人は半ば呆れながらも笑い合う。
穏やかな時間が流れた。
鳥の鳴き声、風の音、火のはぜる音、それらすべてが懐かしい。
遠い昔、俺が世界を初めて創ったときに望んだものは、結局この光景だった。
「こうして笑っているのが、理が安定している証拠ですね。」
ディアナが微笑む。
「レン様の心が穏やかである限り、世界も平和でいられるでしょう。」
「違うさ。お前たちが笑っているから、世界が穏やかなんだ。」
そう言うと、全員が同時に顔を赤らめた。
「もう! そういうことを……!」
「う、うるさいっ!」
リーゼが少し拗ねたように顔を背けるが、その頬に浮かぶ笑みを俺は見逃さなかった。
空に雲が流れた。
小鳥が川辺を渡って飛び去っていく。その穏やかな光景は、永遠に続くようで、どこか儚げでもあった。
エレナが剣を手に言う。
「なぁレン様、このまま旅を続けないか? 魔物退治でも、巡礼でもいい。こうして一緒にいると、何でもできる気がする。」
「そうね。」リーゼが頷く。「王都を整えるのも大事だけど、あなたがいる場所こそが、今の“中心”なのかもしれない。」
「私も賛成です。創造主が歩くことこそ、理を示すことになります。」
全員がこちらを見ていた。
俺は少しだけ苦笑した。
「……あいにく、俺は旅に出るほどの目的を失くしてるかもしれない。」
「また謙遜を!」とエレナ。
「いいえ、レン様。」ディアナが言葉を重ねた。「世界はもう、あなたが“居ること”そのものが理なんです。」
どんな言葉よりも、その一言が胸に響いた。
誰かのために創り、壊し、また創り直した世界。
気付けば、俺を支えるのはこの三人の想いだった。
「……なら、もう少しこの場所で生きてみるのも悪くないな。」
「ええ!」ディアナが嬉しそうに笑う。
「それじゃ決まりだな!」エレナが頷き、リーゼは小さくため息をついた。
「……まったく、あなたがどれだけ世界を創り直しても、やっぱりハーレム体質なのね。」
「は?」
「ふふっ、冗談よ。」
風が吹いた。
小さな砂埃の渦が巻き上がり、太陽の光を反射する。
俺たちは笑い合いながら朝食を終えると、各々が焚き火の横で休息に入った。
今日という日は特別ではない。
ただの穏やかな朝。
けれど、世界のどこかでまた小さな歪みが生まれるということを、俺は感じていた。
平穏とは、永遠ではなく、ほんの束の間の贈り物。
それを知るからこそ、この瞬間に感謝できる。
川辺の風が優しく頬を撫でた。
俺は空を見上げ、眼を細めながら小さく呟いた。
「……もう一度、守ってみせるさ。この光景を何度でも。」
その声は誰にも聞こえなかったが、空の彼方で、微かに女神の笑い声が響いた。
日常は静かに続いていく。
だが、創造主の心が揺れるとき、再び世界は次の頁を開くだろう。
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