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第4話 魔物襲来!村を守る無能(?)の青年
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村に戻る途中、曇天がどんどん厚みを増していった。森を抜ける風は湿って寒く、草木がざわざわと不気味に揺れている。リーナは心配そうに空を見上げた。
「これ、嵐ですか?」
「いや……違う。この風は生きてる。」
レオンは一歩立ち止まり、耳を澄ませた。空気の奥底に濁った魔力の渦がある。懐かしいようで、最も忌まわしい気配。それは確かに知っていた。勇者として召喚された直後、戦場で感じた“魔族の瘴気”だ。
胸の奥がきゅっと軋む。「まさか、あの時みたいに……。」
村の屋根が見えたその瞬間、遠くから悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ!魔物だああ!」
「武器を持て! 急げ!!」
砂煙を上げながら、畑の方角に黒い群れが押し寄せてくる。翼のない犬のような形をした魔獣たち。牙をむき出しにし、聖樹を狙うように走っていた。
「リーナ、後ろに下がれ!」
レオンは剣を引き抜き、疾風のように前へ出た。
村人たちは農具を手に必死に抵抗しているが、相手は数十匹。どう見ても素人では相手にならない。村長エドワードが声を枯らして叫んでいた。
「うろたえるな! 守るんじゃ、神樹を!」
レオンは最前線まで駆け抜け、盾の前に躍り出た。
一体の魔獣が村人を噛み殺そうと跳びかかる。
「させるかッ!」
反射的に剣を横に振り払うと、轟音と共に閃光が走った。
刃が白く爆ぜ、魔獣の体が灰となる。衝撃波が周囲を吹き飛ばし、土煙が上がった。
「な、なに今の……!?」
「レオンだ、レオンがやった!」
「すげぇ、魔物が一瞬で消えた!」
村人の歓声など耳に入らない。
レオンは次々と襲い来る魔獣を見据え、迫りくる牙に剣を突き立てる。光が弾け、二体、三体と薙ぎ払われていく。
まるで刃が意思を持ったかのように敵を見つけ、自動で追尾していく。聖剣などという高尚な品ではない。彼の古びた剣が、勝手に“世界の理”から力を吸っていた。
「レオンさん、後ろ!」
リーナの声に振り向くと、一際大きな影が迫ってきていた。狼よりも巨大で、背中に骨の翼を生やしている。赤い瞳がぎらりと光り、唸り声が響く。
「中級魔獣、デスファングか……!」
かつて勇者パーティで戦ったことがある。討伐には四人がかりでやっとだった。だが今はひとり。
それでも、体が勝手に前へ出る。
レオンは剣を握り直し、地を蹴った。
魔獣の爪が振り下ろされ、風が裂ける。ギリギリで横に回り込み、剣先を奴の脇腹に突き込む。
「おおおおっ!」
爆音と共に光が弾け、空間そのものが揺れた。
魔獣が断末魔を上げて砕け散り、粉塵となって消える。
その瞬間、村中の風が止まり、聖樹が煌々と輝き始めた。
「……終わった?」
そう呟いた瞬間、レオンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
地に刻まれた黒い紋様、邪悪な気配が一気に立ち上がる。
「しまった、封印式か! やつら、群れじゃなく召喚だったのか!」
叫びながらリーナを見ると、彼女は村人たちを避難させようとしていた。が、すでに陣の一部が彼女の足元まで広がっている。
「リーナ、逃げろ!」
「動けない……!」
レオンは迷わず走った。魔法陣が発光し、闇の塊が一斉に飛び出す。
その中心で、彼はリーナを抱き寄せ、軽く跳躍した。
次の瞬間、眩い白光が爆ぜて爆風が一面を薙ぎ払う。
意識が戻ったとき、レオンは聖樹の根元に倒れていた。
リーナは腕の中にいて、気を失っているが無事だ。
周囲を見渡すと、黒い陣が真っ二つに割れ、焦げた地面が煙を上げている。
「……ギリギリ間に合ったか。」
立ち上がろうとした瞬間、聖樹の光がゆらぎ、声がするように風が鳴った。
“守りなさい、この地を。汝、選ばれしもの――”
頭の中に直接響いたその声に、レオンは目を見開いた。
「今の……聖樹の声?」
それとも幻聴か。わからない。ただ、あの一瞬の力が、以前よりはるかに強い。
カデルが駆けてくるのが見えた。鎧に泥をつけ、全身を震わせている。
「レオン……今の戦い、まさかひとりで?」
「まぁ、誰も間に合わなかったからな。」
「信じられん……。あれは王都でも討伐部隊が苦戦する相手だぞ。」
レオンは肩をすくめた。
「俺はただ、村を守っただけだ。それ以上でも以下でもない。」
「だが、これは報告せねばならん! 聖樹の加護は現実に存在する! 君こそ真の勇者だ!」
その言葉に、レオンは苦い笑いを浮かべた。
「勇者、ね。追放された人間を、今さら勇者って呼ぶのかよ。」
エドワードが村人たちを引き連れてやって来た。
「レオン、すまん。助かったよ……おぬしのおかげで誰一人死ななかった。」
「守れてよかった。」
リーナがゆっくりと目を開いた。
「レオンさん……ありがとう。」
「何言ってんだ。お互い様だろ。」
そう答えながらも、彼の胸の奥では強い違和感が残っていた。
あの魔法陣、王都で勇者召喚の儀を見たときと似ていた。ということは――。
「この襲撃、偶然じゃない。」
「なんだと?」カデルが目を細める。
「狙いは俺だ。あるいは聖樹ごと、“この村を”。」
沈黙が落ちる。
この辺境で、誰がそんな術式を扱えるのか。
カデルが呟いた。「まさか、魔王軍が動き始めたのか……?」
聖樹が再び風に鳴り、黄金の光を放った。
まるで答えるように、空を翔ける鳥たちが遠方へ飛び立っていく。
新たな運命が近づいているのを、レオンは肌で感じていた。
リーナがか細く言った。
「レオンさん……また戦うことになるんですか?」
「できりゃ避けたい。でも、俺が動かないと誰かが泣くなら……仕方ないな。」
そう言って、レオンは聖樹を見上げた。
その枝先で小さな金の果実が生まれ、柔らかく揺れている。
村は静けさを取り戻したが、夜風は次の嵐の気配を運んできていた。
(続く)
「これ、嵐ですか?」
「いや……違う。この風は生きてる。」
レオンは一歩立ち止まり、耳を澄ませた。空気の奥底に濁った魔力の渦がある。懐かしいようで、最も忌まわしい気配。それは確かに知っていた。勇者として召喚された直後、戦場で感じた“魔族の瘴気”だ。
胸の奥がきゅっと軋む。「まさか、あの時みたいに……。」
村の屋根が見えたその瞬間、遠くから悲鳴が聞こえた。
「きゃあああっ!魔物だああ!」
「武器を持て! 急げ!!」
砂煙を上げながら、畑の方角に黒い群れが押し寄せてくる。翼のない犬のような形をした魔獣たち。牙をむき出しにし、聖樹を狙うように走っていた。
「リーナ、後ろに下がれ!」
レオンは剣を引き抜き、疾風のように前へ出た。
村人たちは農具を手に必死に抵抗しているが、相手は数十匹。どう見ても素人では相手にならない。村長エドワードが声を枯らして叫んでいた。
「うろたえるな! 守るんじゃ、神樹を!」
レオンは最前線まで駆け抜け、盾の前に躍り出た。
一体の魔獣が村人を噛み殺そうと跳びかかる。
「させるかッ!」
反射的に剣を横に振り払うと、轟音と共に閃光が走った。
刃が白く爆ぜ、魔獣の体が灰となる。衝撃波が周囲を吹き飛ばし、土煙が上がった。
「な、なに今の……!?」
「レオンだ、レオンがやった!」
「すげぇ、魔物が一瞬で消えた!」
村人の歓声など耳に入らない。
レオンは次々と襲い来る魔獣を見据え、迫りくる牙に剣を突き立てる。光が弾け、二体、三体と薙ぎ払われていく。
まるで刃が意思を持ったかのように敵を見つけ、自動で追尾していく。聖剣などという高尚な品ではない。彼の古びた剣が、勝手に“世界の理”から力を吸っていた。
「レオンさん、後ろ!」
リーナの声に振り向くと、一際大きな影が迫ってきていた。狼よりも巨大で、背中に骨の翼を生やしている。赤い瞳がぎらりと光り、唸り声が響く。
「中級魔獣、デスファングか……!」
かつて勇者パーティで戦ったことがある。討伐には四人がかりでやっとだった。だが今はひとり。
それでも、体が勝手に前へ出る。
レオンは剣を握り直し、地を蹴った。
魔獣の爪が振り下ろされ、風が裂ける。ギリギリで横に回り込み、剣先を奴の脇腹に突き込む。
「おおおおっ!」
爆音と共に光が弾け、空間そのものが揺れた。
魔獣が断末魔を上げて砕け散り、粉塵となって消える。
その瞬間、村中の風が止まり、聖樹が煌々と輝き始めた。
「……終わった?」
そう呟いた瞬間、レオンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
地に刻まれた黒い紋様、邪悪な気配が一気に立ち上がる。
「しまった、封印式か! やつら、群れじゃなく召喚だったのか!」
叫びながらリーナを見ると、彼女は村人たちを避難させようとしていた。が、すでに陣の一部が彼女の足元まで広がっている。
「リーナ、逃げろ!」
「動けない……!」
レオンは迷わず走った。魔法陣が発光し、闇の塊が一斉に飛び出す。
その中心で、彼はリーナを抱き寄せ、軽く跳躍した。
次の瞬間、眩い白光が爆ぜて爆風が一面を薙ぎ払う。
意識が戻ったとき、レオンは聖樹の根元に倒れていた。
リーナは腕の中にいて、気を失っているが無事だ。
周囲を見渡すと、黒い陣が真っ二つに割れ、焦げた地面が煙を上げている。
「……ギリギリ間に合ったか。」
立ち上がろうとした瞬間、聖樹の光がゆらぎ、声がするように風が鳴った。
“守りなさい、この地を。汝、選ばれしもの――”
頭の中に直接響いたその声に、レオンは目を見開いた。
「今の……聖樹の声?」
それとも幻聴か。わからない。ただ、あの一瞬の力が、以前よりはるかに強い。
カデルが駆けてくるのが見えた。鎧に泥をつけ、全身を震わせている。
「レオン……今の戦い、まさかひとりで?」
「まぁ、誰も間に合わなかったからな。」
「信じられん……。あれは王都でも討伐部隊が苦戦する相手だぞ。」
レオンは肩をすくめた。
「俺はただ、村を守っただけだ。それ以上でも以下でもない。」
「だが、これは報告せねばならん! 聖樹の加護は現実に存在する! 君こそ真の勇者だ!」
その言葉に、レオンは苦い笑いを浮かべた。
「勇者、ね。追放された人間を、今さら勇者って呼ぶのかよ。」
エドワードが村人たちを引き連れてやって来た。
「レオン、すまん。助かったよ……おぬしのおかげで誰一人死ななかった。」
「守れてよかった。」
リーナがゆっくりと目を開いた。
「レオンさん……ありがとう。」
「何言ってんだ。お互い様だろ。」
そう答えながらも、彼の胸の奥では強い違和感が残っていた。
あの魔法陣、王都で勇者召喚の儀を見たときと似ていた。ということは――。
「この襲撃、偶然じゃない。」
「なんだと?」カデルが目を細める。
「狙いは俺だ。あるいは聖樹ごと、“この村を”。」
沈黙が落ちる。
この辺境で、誰がそんな術式を扱えるのか。
カデルが呟いた。「まさか、魔王軍が動き始めたのか……?」
聖樹が再び風に鳴り、黄金の光を放った。
まるで答えるように、空を翔ける鳥たちが遠方へ飛び立っていく。
新たな運命が近づいているのを、レオンは肌で感じていた。
リーナがか細く言った。
「レオンさん……また戦うことになるんですか?」
「できりゃ避けたい。でも、俺が動かないと誰かが泣くなら……仕方ないな。」
そう言って、レオンは聖樹を見上げた。
その枝先で小さな金の果実が生まれ、柔らかく揺れている。
村は静けさを取り戻したが、夜風は次の嵐の気配を運んできていた。
(続く)
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