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第1話 雑用係レオン、理不尽な追放
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冒険者ギルド「金の鷹」は、いつだって喧騒に満ちていた。朝から夜まで依頼の受注と報告が続き、冒険者たちの笑い声と怒号が入り混じる場所──ただし、そこには決して笑えない雑用係の姿があった。
レオン。二十歳そこそこの青年。茶色の髪に灰色の瞳。どこにでもいる凡庸な男。冒険者登録こそしているが、戦闘よりも炊事や掃除、荷物運びが主な仕事だ。
「おい、レオン!この薬草、仕分けしとけ!」
「すぐやります、ギルマス!」
「飯はまだか?早くしろよ、雑用!」
嫌味とも呼べないほど日常的に飛んでくる命令。レオンは文句も言わず笑顔で応える。それがいつもの光景だった。「戦闘で役に立たない」──それが彼の評価。
そんな彼にもかつて夢があった。剣を握って世界を救う冒険譚の一員になること。しかし、弱すぎる身体能力、微弱な魔力、努力しても報われない現実が、彼からその夢を奪っていった。
「レオン、依頼から下がってもらう。」ギルドマスターが告げたのは、その日の午後だった。
「え……急に、どうしてですか?」
「お前がいると足手まといだと、勇者パーティから正式に通達があった。『勇者アレン、剣聖カイル、聖女リシア、魔導士ミーナ』、全員から署名入りだ。」
勇者パーティ。レオンがかつて憧れと信頼を寄せていた仲間たち。共にモンスターと戦い、命を張った仲間たちだ。
「そんな……皆、本気で?」
ギルマスターは面倒くさそうに書類をレオンの前に突き出す。そこには確かに彼らの署名が並んでいた。
「でも、俺、雑用も全部やって……後方支援も……」
「それがいらねぇって話だ。」冷たく言い放たれた。
その瞬間、ギルドの奥の階段から勇者アレンたちが降りてきた。
「レオン、悪いな。お前がいると戦闘のテンポが乱れるんだ。」
金の髪を揺らし、完璧な笑みを浮かべるアレン。彼はギルドでも人気者で、周囲の視線も彼に集まる。
「でも俺、今まで──」
「お前がしてたのは荷物運びと飯炊きだろ?」カイルが鼻で笑う。
「そういうのは奴隷にやらせればいい。戦場じゃ足手まといだ。」
「リシアさんも、本当にそう思うの?」レオンは聖女に目を向ける。
ブルーの瞳を伏せたリシアが、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、レオン。でも……癒しの儀式のとき、あなたの魔力が邪魔になるの。かすかだけど波長が乱れるのよ。」
「邪魔……」
胸の奥で何かが痛む。
最後に魔導士ミーナが、あからさまに冷笑しながら言葉を重ねた。
「あなたがいなくても、私たちはもっと強くなるわ。あなたが“潜在的に何かを抑えている”って噂もあるけど、そんなのないわよね?」
「……そんなもの、あるわけないだろ。」
「ならなおさら必要ないわね。」
一方通行の通告。それが“追放”。
バッグひとつを渡され、レオンは裏口からギルドを追い出された。冷たい風が顔に刺さる。
*****
日が沈みかけた森の入り口。レオンは荷物を肩に下げ、ため息をついた。
「……俺、本当にいらなかったのか。」
自嘲のような声が静かな森に溶ける。
だが次の瞬間、足元の地面がふるえ、茂みの奥から唸り声が聞こえた。
「グルルルッ……!」
巨大な黒狼が姿を現した。鋼のような毛並み、牙はナイフを思わせる。普通の冒険者ならパーティを組んで挑むレベルの魔物──ブラックウルフ。
「……っ、逃げるしか──」
言い終える前に狼が飛びかかった。
反射的に腕をかざした瞬間、眩い光がレオンの身体を包んだ。
バリッ──と空気が裂ける音。
次の瞬間、狼は爆風に吹き飛び、地に伏して動かなくなった。
「あ……れ?」
レオンは呆然と狼の亡骸を見つめた。自分の掌が、まだうっすらと光を帯びている。
「今の……俺が?」
そのとき、頭の中に声が響く。
――我が子よ、ようやく気づいたか。
「な、なんだ!?」
空気が震え、金色の光が降り注ぐ。目を凝らすと、そこには透き通るように美しい女性の姿があった。まるで神話の中から抜け出たような存在。
「私はアルシェ。天界の守護神の一柱、そして……あなたの母だ。」
「……母?」
戸惑うレオンに、アルシェは穏やかに微笑む。
「そう。あなたは人と神の間に生まれた者。だからこそ、封じられていたの。人間の世界で“平凡”として生きるように。」
「封じられて……?」
「あの日、あなたを追放した彼らの判断こそが封印を解いた鍵となった。心の楔が外れ、あなたの本来の力が戻り始めている。」
レオンは拳を握る。
「じゃあ、この力……全部、本当の俺のもの?」
「ええ。そしてその力は、世界をも変える。けれど、同時に多くの者があなたを恐れるでしょう。」
遠くで雷が光り、森がきらめいた。
「……また、誰かの邪魔になるのか。」
「違うわ。今度は“誰かを守るため”に動く時よ。」
アルシェの声がやさしく響く。
「まずは、自分を認めて。あなたは、偉大な力を持つ“神の子”なのだから。」
光が消え、静寂が戻る。レオンの掌には、神聖な紋章が刻まれていた。
「神の……子、か。」
夕闇の中、レオンはゆっくりと立ち上がった。
もう二度と、誰かの下で“雑用”として生きる気はなかった。
(続く)
レオン。二十歳そこそこの青年。茶色の髪に灰色の瞳。どこにでもいる凡庸な男。冒険者登録こそしているが、戦闘よりも炊事や掃除、荷物運びが主な仕事だ。
「おい、レオン!この薬草、仕分けしとけ!」
「すぐやります、ギルマス!」
「飯はまだか?早くしろよ、雑用!」
嫌味とも呼べないほど日常的に飛んでくる命令。レオンは文句も言わず笑顔で応える。それがいつもの光景だった。「戦闘で役に立たない」──それが彼の評価。
そんな彼にもかつて夢があった。剣を握って世界を救う冒険譚の一員になること。しかし、弱すぎる身体能力、微弱な魔力、努力しても報われない現実が、彼からその夢を奪っていった。
「レオン、依頼から下がってもらう。」ギルドマスターが告げたのは、その日の午後だった。
「え……急に、どうしてですか?」
「お前がいると足手まといだと、勇者パーティから正式に通達があった。『勇者アレン、剣聖カイル、聖女リシア、魔導士ミーナ』、全員から署名入りだ。」
勇者パーティ。レオンがかつて憧れと信頼を寄せていた仲間たち。共にモンスターと戦い、命を張った仲間たちだ。
「そんな……皆、本気で?」
ギルマスターは面倒くさそうに書類をレオンの前に突き出す。そこには確かに彼らの署名が並んでいた。
「でも、俺、雑用も全部やって……後方支援も……」
「それがいらねぇって話だ。」冷たく言い放たれた。
その瞬間、ギルドの奥の階段から勇者アレンたちが降りてきた。
「レオン、悪いな。お前がいると戦闘のテンポが乱れるんだ。」
金の髪を揺らし、完璧な笑みを浮かべるアレン。彼はギルドでも人気者で、周囲の視線も彼に集まる。
「でも俺、今まで──」
「お前がしてたのは荷物運びと飯炊きだろ?」カイルが鼻で笑う。
「そういうのは奴隷にやらせればいい。戦場じゃ足手まといだ。」
「リシアさんも、本当にそう思うの?」レオンは聖女に目を向ける。
ブルーの瞳を伏せたリシアが、申し訳なさそうに言った。
「ごめんなさい、レオン。でも……癒しの儀式のとき、あなたの魔力が邪魔になるの。かすかだけど波長が乱れるのよ。」
「邪魔……」
胸の奥で何かが痛む。
最後に魔導士ミーナが、あからさまに冷笑しながら言葉を重ねた。
「あなたがいなくても、私たちはもっと強くなるわ。あなたが“潜在的に何かを抑えている”って噂もあるけど、そんなのないわよね?」
「……そんなもの、あるわけないだろ。」
「ならなおさら必要ないわね。」
一方通行の通告。それが“追放”。
バッグひとつを渡され、レオンは裏口からギルドを追い出された。冷たい風が顔に刺さる。
*****
日が沈みかけた森の入り口。レオンは荷物を肩に下げ、ため息をついた。
「……俺、本当にいらなかったのか。」
自嘲のような声が静かな森に溶ける。
だが次の瞬間、足元の地面がふるえ、茂みの奥から唸り声が聞こえた。
「グルルルッ……!」
巨大な黒狼が姿を現した。鋼のような毛並み、牙はナイフを思わせる。普通の冒険者ならパーティを組んで挑むレベルの魔物──ブラックウルフ。
「……っ、逃げるしか──」
言い終える前に狼が飛びかかった。
反射的に腕をかざした瞬間、眩い光がレオンの身体を包んだ。
バリッ──と空気が裂ける音。
次の瞬間、狼は爆風に吹き飛び、地に伏して動かなくなった。
「あ……れ?」
レオンは呆然と狼の亡骸を見つめた。自分の掌が、まだうっすらと光を帯びている。
「今の……俺が?」
そのとき、頭の中に声が響く。
――我が子よ、ようやく気づいたか。
「な、なんだ!?」
空気が震え、金色の光が降り注ぐ。目を凝らすと、そこには透き通るように美しい女性の姿があった。まるで神話の中から抜け出たような存在。
「私はアルシェ。天界の守護神の一柱、そして……あなたの母だ。」
「……母?」
戸惑うレオンに、アルシェは穏やかに微笑む。
「そう。あなたは人と神の間に生まれた者。だからこそ、封じられていたの。人間の世界で“平凡”として生きるように。」
「封じられて……?」
「あの日、あなたを追放した彼らの判断こそが封印を解いた鍵となった。心の楔が外れ、あなたの本来の力が戻り始めている。」
レオンは拳を握る。
「じゃあ、この力……全部、本当の俺のもの?」
「ええ。そしてその力は、世界をも変える。けれど、同時に多くの者があなたを恐れるでしょう。」
遠くで雷が光り、森がきらめいた。
「……また、誰かの邪魔になるのか。」
「違うわ。今度は“誰かを守るため”に動く時よ。」
アルシェの声がやさしく響く。
「まずは、自分を認めて。あなたは、偉大な力を持つ“神の子”なのだから。」
光が消え、静寂が戻る。レオンの掌には、神聖な紋章が刻まれていた。
「神の……子、か。」
夕闇の中、レオンはゆっくりと立ち上がった。
もう二度と、誰かの下で“雑用”として生きる気はなかった。
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