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第3話 神の声が響く夜
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夜の森には不気味な静けさがあった。
焚き火の明かりが小さく揺れ、レオンとユリィの影が岩壁に長く伸びている。
洞窟の入り口を乾いた風が吹き抜けるたびに、炎がちらちらと揺れた。
「……寝られないの?」ユリィが布を肩にかけながら声をかけた。
レオンは焚き火越しに彼女を見る。
「まぁな。こうも急に色々あったら、落ち着けってほうが無理だ。」
「そりゃそうよね……神の力を持ってるとか、追放されたとか、私だって信じられない話だもの。」
「俺自身が一番信じられないさ。」
レオンは火に薪をくべた。小さな火花が散る。
ユリィは少しためらいながら言う。
「でも、神の声を聞いたって言ってたわよね?今も聞こえるの?」
レオンは首を振る。
「いや、今は……静かだ。けど、なんとなく胸の奥で何かが見てるような感じはする。」
「見てる?」
「うまく言えないけど、俺が変な方向に行かないように、誰かが見守ってる……そんな感じだ。」
ユリィはゆっくりうなずいた。
「きっとそれが、あなたの“母神”ね。アルシェ様……だったかしら。」
「ああ。もし本当に母親なら、会いたいような、怖いような、変な気分だ。」
沈黙。ふたりの間を、焚き火の音だけが埋めていた。
ユリィは目を閉じて小さく呟く。
「……私ね、王都を出てからずっと怖かったの。信じていた人に裏切られて、命を狙われて。でも、今日あなたに助けられて思ったの。この世界にはまだ“優しい人”がいるんだって。」
「優しいかどうかはわからない。ただ、放っておけなかっただけだよ。」
「そういう人を、優しいって言うのよ。」
焚き火の火が彼女の瞳を柔らかく照らす。
レオンはその光景を見つめながら、胸の奥でふと妙な感覚を覚えた。
──懐かしい。まるで何度もこうして誰かと夜を越えたような。
だが次の瞬間、洞窟の奥から低い唸りが響いた。
「……っ、なに?」ユリィが立ち上がる。
「後ろに下がってろ。」
レオンは立ち上がり、手をかざした。洞窟の外から冷たい風が流れ込み、焚き火の炎が吹き消えそうになる。
闇の奥で、赤い光が二つ、浮かんだ。
それは魔物の目だった。
「また魔物か……いや、違う」
その存在から漂う気配は、先ほどまでの獣のものとは違った。より冷たく、理性的な何か。
「侵入者、神の血を持つ者よ……」
無機質な声が、低く響く。
姿を現したのは、黒い霧のような人影。魔族でも魔獣でもない。半透明の存在。
「なんだお前は。」
「我は監視者。天と地の狭間に立つ者。汝の覚醒を確認した。」
声に感情はない。だが、その言葉は重く、空気を叩いた。
「覚醒を……?どういうことだ。」
「汝の中に眠りしもの、完全には解き放たれてはおらぬ。ゆえに干渉し、選定を行う。」
突然、影がレオンに手を伸ばした。
途端に体が凍りつくような感覚に襲われ、頭の中で無数の光景が一気に流れ込んだ。
戦場、炎、崩れ落ちる都市、泣き叫ぶ人々。そして、天へと昇る巨大な影。
「これは……何だ……!」
「未来だ。」監視者が言う。「汝、神の血を継ぐ者。世界を変える力を持つがゆえに、破滅を呼ぶ存在にもなり得る。」
「ふざけるな……俺はそんなつもりは──!」
「意図ではない、運命だ。」
レオンの内側で何かが震えた。再び紋章が光り、眩い光が洞窟全体を包み込んだ。
「レオン!!」ユリィの叫びが遠くなる。
次の瞬間、レオンの意識は真っ白な空間に引きずり込まれた。
***
そこは現実とは違う静寂の世界だった。
足元には水面のような光が広がり、上空には無数の星が瞬いている。
レオンは息を整え、周囲を見回した。
「ここは……?」
「あなたの“内”よ。」
いつの間にか、目の前に白銀の髪の女性が立っていた。
アルシェ──神の血を与えた母なる存在。
「アルシェ……!」
「久しいわね、我が子よ。」
その声は穏やかだが、どこか悲しみを含んでいた。
「どうして俺にこんな力を?俺はただ普通に生きたかっただけだ。」
「普通の人間として生きてほしかった。それが私の望みだったのよ。けれど、封印が解けた今、もうその道は閉ざされた。」
「封印を解いたのは、俺じゃない。追放したあいつらだ。」
「そう。そして、それすらも運命の導き。」
アルシェは一歩近づき、レオンの胸に指を当てた。
「でも、覚えておきなさい。力は呪いにもなる。あなたが怒りや憎しみで使えば、すべてを焼き尽くす。それは神の血の宿命。」
「……俺にどうしろって言うんだ。」
「選びなさい。“壊す者”になるか、“救う者”になるか。」
レオンは拳を握った。
「俺は、誰も傷つけたくない。ただ、守りたい人がいる。それだけだ。」
アルシェは微笑む。
「それでいい。その想いがあなたを導くはず。」
徐々に光景が薄れていく。アルシェの姿も霞んでいく中、彼女が最後に囁いた。
「……いずれ“勇者”が再びあなたの前に現れる。その時、真の世界の形が見えるでしょう。」
***
「レオン!しっかりして!」
ユリィの声に目を開くと、洞窟の中。彼女が必死に揺さぶっていた。
ふと見ると、黒い影は跡形もなく消えている。
外では、夜明けの光が森を照らしていた。
「夢……じゃないよな。」
レオンは起き上がり、手を見る。紋章が弱く光を放っている。
「大丈夫?何があったの?」
「少し……神様と会ってた。」
「また!?」ユリィが目を丸くするが、レオンは苦笑した。
「この力、きっとまだ一部しか解放されてない。でも、それでいい。焦らずに進むさ。」
「あなたなら、きっと大丈夫。」ユリィが微笑む。
朝の光が洞窟の中まで差し込み、レオンの瞳を照らす。新しい一日の始まり。
その光の中で、彼の背中からは見えないほど淡い光の羽が、一瞬だけ現れて消えた。
(続く)
焚き火の明かりが小さく揺れ、レオンとユリィの影が岩壁に長く伸びている。
洞窟の入り口を乾いた風が吹き抜けるたびに、炎がちらちらと揺れた。
「……寝られないの?」ユリィが布を肩にかけながら声をかけた。
レオンは焚き火越しに彼女を見る。
「まぁな。こうも急に色々あったら、落ち着けってほうが無理だ。」
「そりゃそうよね……神の力を持ってるとか、追放されたとか、私だって信じられない話だもの。」
「俺自身が一番信じられないさ。」
レオンは火に薪をくべた。小さな火花が散る。
ユリィは少しためらいながら言う。
「でも、神の声を聞いたって言ってたわよね?今も聞こえるの?」
レオンは首を振る。
「いや、今は……静かだ。けど、なんとなく胸の奥で何かが見てるような感じはする。」
「見てる?」
「うまく言えないけど、俺が変な方向に行かないように、誰かが見守ってる……そんな感じだ。」
ユリィはゆっくりうなずいた。
「きっとそれが、あなたの“母神”ね。アルシェ様……だったかしら。」
「ああ。もし本当に母親なら、会いたいような、怖いような、変な気分だ。」
沈黙。ふたりの間を、焚き火の音だけが埋めていた。
ユリィは目を閉じて小さく呟く。
「……私ね、王都を出てからずっと怖かったの。信じていた人に裏切られて、命を狙われて。でも、今日あなたに助けられて思ったの。この世界にはまだ“優しい人”がいるんだって。」
「優しいかどうかはわからない。ただ、放っておけなかっただけだよ。」
「そういう人を、優しいって言うのよ。」
焚き火の火が彼女の瞳を柔らかく照らす。
レオンはその光景を見つめながら、胸の奥でふと妙な感覚を覚えた。
──懐かしい。まるで何度もこうして誰かと夜を越えたような。
だが次の瞬間、洞窟の奥から低い唸りが響いた。
「……っ、なに?」ユリィが立ち上がる。
「後ろに下がってろ。」
レオンは立ち上がり、手をかざした。洞窟の外から冷たい風が流れ込み、焚き火の炎が吹き消えそうになる。
闇の奥で、赤い光が二つ、浮かんだ。
それは魔物の目だった。
「また魔物か……いや、違う」
その存在から漂う気配は、先ほどまでの獣のものとは違った。より冷たく、理性的な何か。
「侵入者、神の血を持つ者よ……」
無機質な声が、低く響く。
姿を現したのは、黒い霧のような人影。魔族でも魔獣でもない。半透明の存在。
「なんだお前は。」
「我は監視者。天と地の狭間に立つ者。汝の覚醒を確認した。」
声に感情はない。だが、その言葉は重く、空気を叩いた。
「覚醒を……?どういうことだ。」
「汝の中に眠りしもの、完全には解き放たれてはおらぬ。ゆえに干渉し、選定を行う。」
突然、影がレオンに手を伸ばした。
途端に体が凍りつくような感覚に襲われ、頭の中で無数の光景が一気に流れ込んだ。
戦場、炎、崩れ落ちる都市、泣き叫ぶ人々。そして、天へと昇る巨大な影。
「これは……何だ……!」
「未来だ。」監視者が言う。「汝、神の血を継ぐ者。世界を変える力を持つがゆえに、破滅を呼ぶ存在にもなり得る。」
「ふざけるな……俺はそんなつもりは──!」
「意図ではない、運命だ。」
レオンの内側で何かが震えた。再び紋章が光り、眩い光が洞窟全体を包み込んだ。
「レオン!!」ユリィの叫びが遠くなる。
次の瞬間、レオンの意識は真っ白な空間に引きずり込まれた。
***
そこは現実とは違う静寂の世界だった。
足元には水面のような光が広がり、上空には無数の星が瞬いている。
レオンは息を整え、周囲を見回した。
「ここは……?」
「あなたの“内”よ。」
いつの間にか、目の前に白銀の髪の女性が立っていた。
アルシェ──神の血を与えた母なる存在。
「アルシェ……!」
「久しいわね、我が子よ。」
その声は穏やかだが、どこか悲しみを含んでいた。
「どうして俺にこんな力を?俺はただ普通に生きたかっただけだ。」
「普通の人間として生きてほしかった。それが私の望みだったのよ。けれど、封印が解けた今、もうその道は閉ざされた。」
「封印を解いたのは、俺じゃない。追放したあいつらだ。」
「そう。そして、それすらも運命の導き。」
アルシェは一歩近づき、レオンの胸に指を当てた。
「でも、覚えておきなさい。力は呪いにもなる。あなたが怒りや憎しみで使えば、すべてを焼き尽くす。それは神の血の宿命。」
「……俺にどうしろって言うんだ。」
「選びなさい。“壊す者”になるか、“救う者”になるか。」
レオンは拳を握った。
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アルシェは微笑む。
「それでいい。その想いがあなたを導くはず。」
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「大丈夫?何があったの?」
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「また!?」ユリィが目を丸くするが、レオンは苦笑した。
「この力、きっとまだ一部しか解放されてない。でも、それでいい。焦らずに進むさ。」
「あなたなら、きっと大丈夫。」ユリィが微笑む。
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