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第九話 クラスメイト
しおりを挟む無事に入学式を終えると、ミツバ達はそのまま自分達のクラスへと移動した。
もちろんソウジと一緒にだ。すると入って早々に、
「おい、十和田。君、天秤の子と婚約するとは良い度胸だな……」
「そうですわよ! あなた、どういう了見でございますの!」
何て、鬼人の男女に絡まれてしまった。
艶やかな長い黒髪をした少女の鬼人と、短い赤毛の少年の鬼人だ。
二人はキッと目を吊り上げて、ミツバ達へと詰め寄って来る。
「ずるいだろう、私も天秤の子と婚約がしたかったんのに」
「私はそもそもソウジさんとお付き合いしたかったのに!」
二人は口々にそう言う。
恋愛絡みの話かぁ、とミツバは内心ちょっとげんなりした。苦手な部類の諍いの気配がしたからだ。
「モテますね、ミツバさん」
「そこに私の人格は不在ですので。ですから私よりソウジ君の方がモテていますよ」
「嬉しくないですねぇ」
ふふ、とソウジは笑う。
そんなやり取りをしていると、
「いちゃいちゃするな」
「そうですわ! いちゃいちゃしないでくださいまし!」
目の前の鬼人達は、面白くなさそうにそう言った。
そんな事を言われても……とミツバが思っていると、ガラ、と教室のドアが開かれる。
入って来たのはミツバ達の担任の八村先生だ。着物姿が美しい美人な女性である。
「はいはい、そこ~。顔を合わせたとたんに喧嘩はやめましょうね~」
「何ですの!?」
「やめましょうね~。御堂さん、森川さん~」
にこり、と微笑んで八村先生はそう言う。
おっとりとした口調が何だか心地良いなぁとミツバは思った。
――のだが。
ミツバとは正反対に、目の前の二人はうっ、と呟き静かになった。
心無しか顔色が悪い。
美人だから照れて静かになったわけでもなさそうだ。
(月猫のマスターの時と似ているような)
頭にレンジが説教を受けている姿が浮かぶ。
たぶんあの時と同じように、鬼人にしか分からない何かで怒られたのだろう。
この優しそうな先生からどんな恐ろしいものが発せられているのか、それはそれで興味を引かれるが――まぁ、今は遠慮しておこう。
そんな事を考えていると、八村先生がミツバ達の方を見てにこりと微笑んだ。
「それじゃあ、吾妻さんと十和田さんも席についてね。名前の札が置かれている席よ~」
「はい、先生」
「うふふ、良い子ね。先生嬉しいわ~」
良い子、良い子、と八村先生から頭を撫でられてしまった。
何だかくすぐったい。同じように撫でられたソウジは、少々顔を強張らせていたが。
ミツバ達は促されるままに自分達の席へと向かう。
ソウジとは隣の席だった。
知り合いと隣なのは有難いなと思いながら、ミツバは椅子に座る。
すると、同じく座ったソウジが小声で、
「先程の鬼人ですが、男子の方が御堂コウ、女子の方が森川ヒメカと言います。どちらも祓い屋の家ですよ」
と教えてくれた。
おや、とミツバは目を瞬く。祓い屋はあまり人数が多くないのではなかっただろうか。
「祓い屋の家の方、思っていたよりもいらっしゃるのですね」
そう思ったので聞くと、
「この学園、祓い屋の選択コースがありますから」
と答えてくれた。なるほど、とミツバは思う。
だからこの学園に集まるのか。
――――それにしても。
(入学早々、厄介な事にならないと良いけれど)
ちらり、と先ほどの二人の方を見ながらミツバは小さくため息を吐いた。
◇ ◇ ◇
入学式の初日は、ホームルームという名前の顔合わせで終了だ。
他の学年も同様らしい。
なのでミツバは先ほどの事もあるため、早めに帰ろうと思っていた。
すると、先生が出て行ったとたんに、
「ねぇねぇ、吾妻さん! 吾妻さんって、十和田君と婚約したのよね!」
なんてクラスメイトから声を掛けられた。
鬼人の女の子達だ。
ワッと集まってきた彼女達は、ミツバとソウジを囲んで興味津々な目を向けて来る。
(こうして囲まれると、なかなか圧巻)
鬼人達は男女問わず身長が高めだ。なのでこうして囲まれると少し圧倒される。
おお、と思いながらも、ミツバは頷いた。
「あ、はい。一カ月前に」
「きゃー♪」
すると鬼人女子達は、黄色い声をあげた。頬に手を当てている子までいる。
「鬼人と人間の婚約……素敵だわっ! 浪漫だわっ!」
「浪漫?」
「ええ! 鬼人にとって、天秤の子との婚約って、すっごく幸運な事だもの!」
「吉兆って言われているんだよっ」
彼女達は少し興奮した様子でそう教えてくれた。
それは初耳だ。ミツバはひょいと隣のソウジへ聞く。
「あらま、そうなんですか?」
「そうですねぇ。ミツバさん自身も面白い方なので、そういう意味でも僕は幸運です」
「きゃー♪」
聞いた内容にプラスで答えを返されてしまった。鬼人女子達はさらに楽しそうに笑う。
(鬼人の事情はいまいちよく分からないけど、女の子達が楽しそうで何より)
そんな風にミツバは思った。
好意的な反応ならば有難い。何だか仲良くなれそうである。
なれたらいいな、嬉しいな、とミツバがソワソワしていると、
「…………」
「…………」
少し離れた席から、彼女達とは種類の違う感情が乗せられた視線を二つ感じた。
ちらりと目だけでそちらを見れば、御堂コウと森川ヒメカがミツバ達を見ている。
「……見られていますね」
「ええ、とても。明日以降も絡まれそうですねぇ」
ソウジも同じように目だけで二人を見ると、呆れたようにそう言った。
明日以降と聞いてミツバのテンションが下がる。とても面倒そうだから。
「……私、正直に言いますと、色恋沙汰のトラブルはとても苦手なんですよ。私利私欲の方が気楽です」
「吾妻さん、大人だ……! ねぇねぇ、ミツバさんって呼んでも良い?」
「あ、はい。どうぞ」
結構、身もふたもない事を言ったのに、鬼人女子達は好意的に受け取ってくれたようだ。
にこにこ笑顔を浮かべる彼女達を見て、ミツバは何だか不思議な気持ちになった。
ミツバは人間の中では、両親の件で腫物のように扱われる事が多かった。
だから施設の人間や家族以外で、親しくなれた相手は少ない。
けれどもここは何かちょっと違う。
居心地が良くて、同時に居心地が悪い。変な感じだ。
もちろん悪い意味ではないのだが。
「おい、ちょっと良いか」
「お話がありますのよ」
新鮮だなぁとミツバが微笑んでいると、水を差す声が聞こえた。件の二人だ。
思わず顔に出しかけて、さすがに失礼かとミツバは踏みとどまり顔を向ける。
でも面倒だ。あまり対応したくない。
けれどもそうも言っていられないので、ミツバはうーん、と唸った後で、
「ツバキ姉さんを待って帰るので、その間の時間で良かったら」
と答えた。
するとコウとヒメカの顔色がサッと悪くなる。
「……吾妻ツバキが来るのか」
「……べ、別に、構いません事よ!」
そして目に見えて動揺し始めた。
どうやらツバキの事が苦手らしい。
義姉は物言いで誤解されやすいが優しいのに……とミツバが思っていると、まずはコウが一歩前に出た。
「ではまずは私からだ。吾妻ミツバさん、十和田ソウジと婚約を解消して、私と婚約して欲しい」
「お断りします。次の方どうぞ」
「そんな診察の順番待ちみたいに……」
「私、ソウジさんの事が大好きですの。ぽっと出のあなたに取られるなんて嫌ですの。ソウジさん、吾妻ミツバさんとの婚約を解消して私と婚約してくださいませ」
「嫌です。お話は以上ですね」
「にべもなくバッサリ……」
ミツバとソウジでささっと返答してしまうと、周囲から、おお、と歓声が上がる。
こういう相手には柔らかく包んだ言葉で伝えても届かない。なので怒らせない範囲で、シンプルに返した方が良い。
(院長先生の教えはためになる)
うんうん、とミツバが恩師の言葉を思い出していると、ガラッと教室のドアが開いた。
現われたのはツバキだ。
「ミツバ~、ついでにソウジ~。迎えに来たわよ~」
「あ、姉さん! それでは皆さん、今日はこれで失礼します。また明日」
「うん、また明日お話しようね!」
「ソウジ君も進展聞かせてね!」
「頑張ります。それでは」
固まっているコウとヒメカを置いて、ミツバとソウジは足早にツバキの方へと向かい、教室を出た。
一瞬、我に返ったコウ達は追いかけて来ようとしたが、ツバキを視界に入れたとたん、再度固まった。やはり苦手らしい。
横目でそれを見ながら向きを変えたツバキは、怪訝そうな顔になる。
「ねぇ、何か様子が変なの二人いたけど、アレどうしたの?」
「うん。婚約解消を希望されたの」
「困ったものです、ふふ」
「ふーん? あれ、御堂と森川のところの子よね。しつこいようならあたしが対処してあげるから、言いなさいよ?」
「うん。ありがとう、姉さん」
「ふっふーん。姉さんだもの!」
そんな話をしながら、三人は昇降口へと向かった。
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