鬼人の養子になりまして~吾妻ミツバと鬼人の婚約者~

石動なつめ

文字の大きさ
11 / 28

第十話 帰り道のたい焼き屋

しおりを挟む

「おーい! おーい! おいコラ、入学したってのに、俺に会いに来ないってのはどういう事だっ」

 ミツバ達がちょうど校門を出た時、後ろからそんな風に声をかけられた。
 振り返ると赤髪の鬼人が、右手をぶんぶん振りながら追いかけてきている。
 賀東レンジだ。ちょっと拗ねた顔をしている。
 レンジはミツバ達に長い脚で追いつくと、

「ったくよ~、生徒会長だって分かっただろ~? 会いに来たっていいじゃんよ~」

 と言った。
 入学式の時にあれだけアピールしたのに、と彼は口をとがらせている。
 思わずミツバは小さく噴き出してしまった。

「ふふ、それは失礼しました。こんにちは、レンジ先輩。入学式でのお話、とても良かったです」
「へへへ、そうか?」
「レンジ先輩ぃ~~?」

 ミツバが挨拶を返していると、先輩、という部分でツバキが嫌そうな顔になった。
 そしてレンジを睨むように見上げる。

「レンジ、あんた、あたしの妹とどういう関係よ?」
「ああん? この間友達になったんだよ」

 訝しんだ目を向けられたレンジは、堂々とそう答えた。
 しかし、

(そうだっけ?)

 ミツバは軽く疑問を抱く。
 果たしてあれは友達になったと言えるのだろうか、と。

「そうだっけって顔しているじゃない!」

 するとどうやら顔に出ていたらしい。
 心の中の呟きはツバキにしっかり伝わってしまっていた。
 すると今度はソウジが小さく噴き出す。

「ふふ。まぁ、知り合いであるのは確かですよ。婚約の顔合わせの時に、天窓を突き破って乱入してきたくらいで」

 そしてあっさりバラした。
 げっ、とレンジの顔色が悪くなり、ツバキの目がつり上がる。

「ハァ!? どういう事よ! あんた、そんな事したわけ!?」
「ちょ、ちょっと話の行き違いがあったんだ! てめぇ、ソウジ!」

 詰め寄るツバキに、レンジは大慌てで両手を横に振り、ソウジに向かって怒った。しかしソウジはどこ吹く風である。
 何となくツバキがソウジの事を「性格が悪い」と言っている理由の片鱗が見えた気がした。
 まぁ、些細な事である。
 そんなやり取りをしながら四人は揃って歩き出した。

「レンジ先輩のお家は、こちらの方向なんですか?」
「ああ、そうだぜ。途中まで一緒だな」
「ツバキさん、この人下手すると明日以降もついて来ますよ」
「ええ? ……ちょっとレンジ、自重しなさいよ。っていうか、あんた生徒会長でしょう? そっちはいいの?」
「今日の大仕事は入学式だけだよ。生徒会のメンバー増えてから本格始動だ……っていうか、そうだよ。お前ら生徒会入れよ、ちょうどいいわ」
「嫌です」
「こいつ、良い笑顔で……」

 即座にお断りをしたソウジにレンジが半眼になる。
 勧誘には即断が大事と、ミツバの恩師が言っていた。
 そう思っているとレンジから縋るような目を向けられる。

「……ミツバは?」
「私は特に部活とかにも入る予定がないので、様子次第では入っても良いかなぁとは思いますが」
「ミツバさん、正気ですか?」
「正気ではありますよ。……実はこういうのドラマとか本で読んで、ちょっと興味がありますし」
「あんた、わりとミーハーよね」
「うーん……。ミツバさんが入るなら、僕もやりますかねぇ……」

 ミツバが少しうきうきしながら答えれば、ソウジとツバキからは生暖かい目を向けられてしまった。
 解せぬ、とミツバは思う。
 思うが――まぁ確かにミーハーであるのは否めない。 
 ドラマや本の登場人物達がやっている「格好良い事」を自分でも体験してみたい気持ちはとてもあるのだ。
 するとレンジが嬉しそうにニカッと笑った。

「よし、オーケー。確か二組の担任、八村先生だったよな? 声かけとく」

 どうやらレンジは、どのクラスの担任の先生が誰かもちゃんと覚えているらしい。
 この人は意外と生徒会長の適正があるのでは?
 少し失礼な感想だったがミツバはそう思った。



◇ ◇ ◇



 四人はそのまま他愛ない話をしながら歩いて行く。

「っていうか珍しいな、あの吾妻さんが送り迎えしねぇのは」
「あの……?」
「過保護じゃん?」
「どう……ですかね? 今回は自分で歩いた方が道順を覚えやすいからと言われました」
「あ~なるほど」

 ミツバがそう答えると、レンジは納得したように軽く頷いた。
 ちなみにその理由を細くすると「娘達が迷子にならないか心配」である。
 この辺りは幼い頃のツバキが道に迷った事が理由でもある。だから迷子という言葉にミツバの義両親達は敏感なのだ。
 
(そう言えば、姉さんが泣いたのを見たの、あの一回だけだったな)

 そんな事をミツバは思い出した。
 歯を噛みしめて、必死で泣くまいと堪えていたツバキ。
 けれども我慢できなくなって、ぽろぽろと涙を零していた。
 ミツバはそれを偶然見つけたのだ。
 そうして手を繋いで、一緒に家族を探して歩いて――ようやく見つかった時には夕暮れだった。
 その時のスギノとキキョウは今にも死にそうな顔を浮かべていた。
 二人はツバキを抱きしめて、安心したようにぼろぼろ泣き出して。
 とても優しくて暖かい光景だった。同時に羨ましくも思って、見ていてミツバもつられてちょっと泣いた。

(……それがまさか、家族になるとは思わなかったな)

 何となく当時の事を思い出していると、

「……バ、ミツバ」
「えっ、あ、はい!」

 ツバキから呼びかけられた。
 ハッとしてミツバは彼女の方を向く。ツバキは少し首を傾げていた。

「どうしたの? ぼうっとして」
「いえ、ちょっと考え事を……」

 さすがに正直に「姉さんが迷子の時の事を思い出していました」とは言えない。
 ツバキが拗ねそうだから。
 拗ねたツバキも可愛いが、しばらく口を聞いて貰えない可能性も僅かにある。
 さすがにそれはミツバは耐えられない。
 なので曖昧に誤魔化すと、

「ハハ。入学式で疲れたんだろ。んで、疲れた時には甘いものだ」

 レンジが笑ってそう言った。ナイスアシストである。ミツバの心の中のレンジ評価ゲージがぐんと上がった。
 まぁそれはそれとして――ところで彼は今、気になる事を言わなかっただろうか。

「甘いものですか?」
「おう、アレだよアレ」

 レンジはそう言って、ミツバ達の進行方向を指さした。
 あと数歩進んだ先。建物と建物の間にちょこんと構えたその店には、たい焼き、と書いてある。
 ミツバはパッと目を輝かせた。

「たい焼き!」
「ふふん、入学記念に今日は俺が奢ってやるよ」
「へぇ、太っ腹じゃない。じゃあ、あたしはあんこね!」
「僕はカスタードを」
「こいつら遠慮がねぇ……」

 スッ、とごくごく自然な流れで自分の分をオーダーするツバキとソウジ。
 レンジは若干呆れた顔になったが「自分で払え」と言わない辺り、やはり人が良いのだろう。

「俺もあんこにするかねぇ。ミツバ、お前はどれにする?」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、えっと……」

 店の前まで来ると、ミツバはたい焼きのメニュー表を眺める。
 あんこ、カスタード、クリームチーズ、チョコレートなどなど。
 意外と種類がたくさんあった。
 おお、と思いながらミツバはじっとメニュー表を見つめた後、お店の主――おばあちゃんに顔を向けた。

「はい、いらっしゃい。何がいいかしら?」
「あの、ご婦人。おすすめは何ですか?」
「あら、ご婦人だなんて、うふふ。そうね。うちのおすすめは白あんのたい焼きよ~」
「ではそれをお願いします!」

 ミツバの大好きな『おすすめ』オーダーである。
 わくわくしながらミツバが注文するとツバキ達も続く。
 
「すぐ焼いちゃうわね~」

 おばあちゃはそう言った。どうやら焼き立てをいただけるらしい。最高なのでは、とミツバが思っていると、

「お」
「あら」
「おや」

 ミツバの後ろの三人の表情が、ピリ、と変わった。

「――レンジ、ちょっと手ぇ貸しなさい」
「ああ、分かってる。おいソウジ、守りはお前だけだ。やれるか?」
「ええ、もちろんです」

 そして三人はそんなやり取りをしている。

「何かありました?」
「ええ、ちょっとね、小さめの邪気を感知したのよ。大丈夫よ、あんたの事はあたしが守るから」

 どうやらそういう事らしい。
 ミツバにはまったく分からないが、鬼人には何か感じるものがあるようだ。
 人間には知らない世界が色々あるのだなとミツバはしみじみ思いながら、

「姉さんが格好良くてときめきます」

 と言うと、ツバキは軽く咽た。ついでにボン、と顔も赤くなる。

「そ、そうよ、存分にときめきなさい!」

 ツバキは腰に手を当てて、ふふん、と胸を張る。
 その直後、ツバキの背後でポンポンッと、地面から何か湧き出して来た。
 黒くて、ミツバの膝までくらいの大きさで、二本角っぽいものが生えている何かだ。

「……小鬼?」
「邪気の塊ね。こういう形を取る奴がいるのよ。行くわよ、レンジ!」
「おう、まかせろ!」

 鞄を放り投げて、ツバキとレンジは小鬼に向かって行った。
 それを見送りながらミツバは二人の鞄を拾い上げる。

「祓い屋のお仕事って、こういう感じなんですね」
「そうですね。まぁでも、三分の一くらいは戦いではなくて、その場に漂う邪気を祓う事なんですが」

 ソウジはそう言いながら、す、と右手を軽く掲げた。
 すると二人の目の前に、この間『月猫』で見た半透明な光の幕が現れる。
 同時に、ソウジは小鬼に向かって行ったツバキやレンジの前も、的確に光の幕を出し二人を守っている。
 ミツバの素人目でも、技術のいる事をしているのだろうという事が分かった。

「そう言えば、祓い屋の資格がどうのと聞きましたが、大丈夫なんでしょうか?」
「報酬を貰ってしまうとまずいですが、偶然遭遇した際の対処なら問題ないですね。放っておくと危ないですから」
「なるほど~」

 それならば安心だとミツバは頷く。

「それにしても、ツバキ姉さんもレンジ先輩もすごいですね」
「あの二人、同じ年代の祓い屋の子供の中では、かなり強い部類に入りますからね」
「なるほど……。そう言えば、どうして賀東家は十和田家を目の敵にされてらっしゃるので?」
「レンジ君の曽祖父が好きだった相手と、十和田家の曽祖父が結婚したからですね」
「ああ、そういう……。面倒くさいですね」
「まったくです。ご理解いただけて嬉しいです」

 にこり、とレンジは笑う。その後で軽くため息を吐いた。

「……それが今も続いているのですから、色恋沙汰は本当に厄介な話ですよ」
「ソウジ君がそちら方面にあまり関心がない理由がよく分かりました。私も似たようなものです」
「おや、それは偶然」

 そんな話をする後ろでは、たい焼き屋のおばあちゃんがのんびりたい焼きを焼いている。
 甘くてとても美味しそうな香りに包まれながら、ミツバはツバキ達の戦いを見守ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...