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2 不意打ち
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翌日の十三時、港は二日酔いでずきずきと痛む頭で会社に電話をかけることにした。
有休消化中にアルバイトをしても良いかという確認だ。
もう関係がなくなるのだから、何をやっても良いだろう――と思うかもしれないが、それでもまだ会社に在籍しているので、ルールには従う必要があるのだ。
(電話したくねぇなぁ……)
本音を言えば精神的にマイナスの方面に作用しそうなので、なるべく連絡は取りたくなかった。
港自身が悪いわけではないので、別にこちらが気まずくなる必要はないのだが、それはそれ、これはこれである。
ソファに座った港は、二日酔いの苦痛と微妙に広がる嫌な気持ちのまま、眉間にしわを寄せながら携帯電話を操作する。
すると数コールで電話が繋がった。
「はい、塩見製菓です」
「すみません、営業課に在籍していた願屋ですが……」
「あっ、こんにちは願屋さん!」
名乗ると明るい声が返ってくる。三年前に入社した事務の冴木さんだな、と港は頭の中に顔を思い浮かべた。
営業職ということで、諸々の書類を提出に行っては何度もお世話になっている。
同部署には港が少々苦手なお局がいたので、電話に出てくれたのが彼女でホッとした。
「今日はどうされました?」
「すみません、お忙しいところに。確認したいことがありまして」
「全然大丈夫ですよ! 何でも聞いてください」
「ありがとうございます。その……友人からアルバイトに来てくれないかと頼まれまして。有給消化中にしても大丈夫でしょうか?」
詳しく話す必要はないが、変に嘘を吐いても仕方がないので、港は事実だけ正直に伝える。すると電話の向こうからは「大丈夫です。会社の規則的にも問題はありませんよ」と返ってきた。
「それなら良かった」
「ふふ。願屋さんは真面目ですね」
「こういう時に大丈夫だろって軽く考えると、あとで痛い目を見ますからねぇ」
実際にそれで失敗をしたことが何度かある。思い出して港が肩をすくめた。
どれも若いころの苦い思い出だ。しかし港にとってはそれも大事な成長の記憶だった。
(あ、まずい)
当時のことを思い出すと懐かしさで涙腺が緩みそうになる。
鼻の奥がツンと痛み出す。
(だから電話をするのが嫌だったんだ)
港は自分の仕事が好きだったし、職場にも愛着もあった。
だからこそよけいに悲しいし、悔しいし、空しいのだ。
こうなってしまったら、聞きたい事は聞けたので、さっさと電話を切るに限る。
「ありがとうございます、冴木さん。用件だけですみません。これで失礼します」
「いえいえ、また何かあったらいつでもご連絡くださいね。願屋さんにはいつも助けてもらいましたもの」
「――っ、あ、あはは! 心強いです、ありがとうございます。それでは!」
最後の方であまりにも優しい言葉をもらったものだから、目からポロッと涙が零れ落ちてしまった。
このままでは嗚咽まで出てしまいそうだったので、港は慌てて挨拶をすると電話を切る。
そして携帯電話を隣に放り出すと、両手で顔を覆って俯いた。
「……っ、くそ……」
昨日の酒がまだ残っているせいだ。
どうにもこうにも感情が溢れて来て、目からボロボロと落ちて行く。
精神的に少々きているせいで、少しでも優しくされると、こうなってしまう。
情けないくらい大声を出して、子供みたいに喚きたい気持ちを必死に堪えながら、港は声を殺して泣き続けた。
有休消化中にアルバイトをしても良いかという確認だ。
もう関係がなくなるのだから、何をやっても良いだろう――と思うかもしれないが、それでもまだ会社に在籍しているので、ルールには従う必要があるのだ。
(電話したくねぇなぁ……)
本音を言えば精神的にマイナスの方面に作用しそうなので、なるべく連絡は取りたくなかった。
港自身が悪いわけではないので、別にこちらが気まずくなる必要はないのだが、それはそれ、これはこれである。
ソファに座った港は、二日酔いの苦痛と微妙に広がる嫌な気持ちのまま、眉間にしわを寄せながら携帯電話を操作する。
すると数コールで電話が繋がった。
「はい、塩見製菓です」
「すみません、営業課に在籍していた願屋ですが……」
「あっ、こんにちは願屋さん!」
名乗ると明るい声が返ってくる。三年前に入社した事務の冴木さんだな、と港は頭の中に顔を思い浮かべた。
営業職ということで、諸々の書類を提出に行っては何度もお世話になっている。
同部署には港が少々苦手なお局がいたので、電話に出てくれたのが彼女でホッとした。
「今日はどうされました?」
「すみません、お忙しいところに。確認したいことがありまして」
「全然大丈夫ですよ! 何でも聞いてください」
「ありがとうございます。その……友人からアルバイトに来てくれないかと頼まれまして。有給消化中にしても大丈夫でしょうか?」
詳しく話す必要はないが、変に嘘を吐いても仕方がないので、港は事実だけ正直に伝える。すると電話の向こうからは「大丈夫です。会社の規則的にも問題はありませんよ」と返ってきた。
「それなら良かった」
「ふふ。願屋さんは真面目ですね」
「こういう時に大丈夫だろって軽く考えると、あとで痛い目を見ますからねぇ」
実際にそれで失敗をしたことが何度かある。思い出して港が肩をすくめた。
どれも若いころの苦い思い出だ。しかし港にとってはそれも大事な成長の記憶だった。
(あ、まずい)
当時のことを思い出すと懐かしさで涙腺が緩みそうになる。
鼻の奥がツンと痛み出す。
(だから電話をするのが嫌だったんだ)
港は自分の仕事が好きだったし、職場にも愛着もあった。
だからこそよけいに悲しいし、悔しいし、空しいのだ。
こうなってしまったら、聞きたい事は聞けたので、さっさと電話を切るに限る。
「ありがとうございます、冴木さん。用件だけですみません。これで失礼します」
「いえいえ、また何かあったらいつでもご連絡くださいね。願屋さんにはいつも助けてもらいましたもの」
「――っ、あ、あはは! 心強いです、ありがとうございます。それでは!」
最後の方であまりにも優しい言葉をもらったものだから、目からポロッと涙が零れ落ちてしまった。
このままでは嗚咽まで出てしまいそうだったので、港は慌てて挨拶をすると電話を切る。
そして携帯電話を隣に放り出すと、両手で顔を覆って俯いた。
「……っ、くそ……」
昨日の酒がまだ残っているせいだ。
どうにもこうにも感情が溢れて来て、目からボロボロと落ちて行く。
精神的に少々きているせいで、少しでも優しくされると、こうなってしまう。
情けないくらい大声を出して、子供みたいに喚きたい気持ちを必死に堪えながら、港は声を殺して泣き続けた。
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