願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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4 柿原シーパラダイス

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 電車を降りたあと。
 港は適当な店で軽く朝食を済ませてから、柿原シーパラダイスへと向かった。

 時刻はまもなく八時というところだ。
 約束した時間に余裕をもって到着できて、港は安堵する。
 昔から、待ち合わせには最低でも五分前に来ていないと、落ち着かないのである。

「それにしても久しぶりに来たなぁ……」

 入り口の上に、柿原シーパラダイスと書かれた建物を見上げて、港はそう呟いた。
 青い屋根と白い壁。爽やかで特徴的なその配色は、海と砂浜を表現しているらしい。
 しかし、記憶にあるものよりは幾分小さく感じられた。

(こんなもんだったかな……。あー、でも、最後にここへ来たのは中学二年生の時だったっけ……)

 あのころと比べると、港も身長がだいぶ伸びているので、小さく見えるのはそのせいだろう。
 自分の成長を今更ながら実感して、不思議な気分になりながら港は周囲をぐるりと見回した。

 入り口前の広場は、開園時間までまだ二時間あるため人はおらず、とても静かだ。
 広場のあちこちには、魚やイルカ、クジラにペンギンと、子供に人気のある海洋生物たちを模した白い像が設置されている。

(ま、ここにはイルカはいないけど)

 そこまで大規模な水族館ではないので、飼育されている生物も限りがある。
 それでもここのホームページはなかなか凝っていて目を惹く。
 水槽に設置されているライブカメラの映像も見ることができて、この間、港もインターネットで検索して驚いたものだ。

「港!」

 そんなことを思い出しながら眺めていると、入り口からスーツ姿の智が出て来た。

「おはよう!」
「おはよう」

 手を振る港に自分も振り返し、挨拶をする。

「いや~、時間通り! さすが港だな~。学生時代から一度も遅刻したことねーじゃん」
「五分前集合は基本だろ?」
「いやいや、意外といないのよ、これがさ。新入職員にも、たまにすげーのがいるのよ」
「度胸あるなぁ」
「ほんとんほんと。……ま、ベテランにもたまーにいるけどさ」

 肩をすくめる智に港は苦笑する。
 まぁ、そういう類のベテランは、自然と淘汰されていくものだ。

(逆のパターンもあるけどな)

 そんな話をしながら港は智と並んで建物の中へと入る。
 館内では開園時間に向けて、職員たちが忙しそうに動いていた。

(へぇ、客がいないとこうなってるんだ)

 お上りさんのようにキョロキョロしながら、港はしみじみとそう思った。
 客として来た時と印象が変わって目に映るのが、仕事をする際に感じる面白さだと港は思っている。

(ま、俺は一つの会社しか知らないんだけど)

 高卒で入ったっきり、転職も考えずにずっと働いてきたものだから。

(あー、いかんいかん)

 ふっとした時に、会社のことに繋がって複雑な気分になってしまう。
 港は軽く首を横に振って考えを振り払った。

「明日からは、どこから入ればいいんだ?」
「おう、あとで職員用の入り口を教えるよ。裏側にあるんだ。ま、ちょうど反対側だな」
「頼む。それにしてもさ、ずいぶん久しぶりに来たわ」
「はは、そりゃ良かった! 職員は仕事中は入館料無料だから、お得だぞ~? 働いている間、ずっと見放題だから楽しんでくれよ~?」

 智は、それこそ楽しそうに笑ってそう言った。

「おいおい、楽しんでる場合じゃないだろ」
「楽しむ余裕を持ってこそだよ。何なら土産物も職員割引有りだ」

 ちょうど、ミュージアムショップの前にさしかかり、智がそちらを指さす。

「へ~?」

 興味を引かれ目を向ける。そこには様々なグッズが、棚に綺麗に陳列されていた。
 デフォルメされた魚やイルカ、帽子をかぶったペンギンのぬいぐるみにキーホルダー。
 海洋生物たちがプリントされたタオルに、柿原シーパラダイスクッキー……。
 全体的にパステルカラーなものが多いので、ファンシーなイメージを受ける。

「おお……」

 見ていたら、少々、物欲が刺激された。
 ……あとで買おう。
 そんなことを決意しながら、港はミュージアムショップの前を通り過ぎた。
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