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5 アルバイト内容
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「というわけでお前に任せたい仕事はこれだ」
職員用のロッカールーム。
そこへ荷物を預けたあと、港は智から着ぐるみを渡された。
「ペンギンの着ぐるみ?」
愛嬌のある顔立ちに、ふっくらした体躯のペンギンだ。
頭には果物の柿の上半分をのせたような帽子をかぶっている。
「柿原シーパラダイスのマスコット、カキペンくんだ」
智の言葉に、そういえばミュージアムショップに並んでいたなと思い出す。
「お前にはこの着ぐるみで館内に立って、お客さんたちと一緒に写真を撮ったり、道順を案内したりする役を頼みたい!」
内容こそ聞いていなかったが、なるほど、そういう役割かと港は納得する。
館内の配置は覚える必要はあるが、それならば確かに、アルバイトに任せても大丈夫そうな仕事だ。
営業であちこち歩き回っていた港は体力の方もそこそこ自信がある。
「分かった。……あ、だから楽しめって言ったのか?」
「楽しんだ方が、どこに何があるか覚えやすいだろ?」
智は片目を瞑って、悪戯が成功した子供のように笑った。
昔から、智はこういう愛嬌がある。
(奥さんもここに惚れたって言ってたな)
前に、智の家へ遊びに行った時のことを思い出す。
おっとりとした優しそうな奥さんだった。
(そう言えば、子供……)
来月の終わりが出産予定日だったはずだ。
人生をリタイアしようと思っていたが、精神的に悪影響を及ぼしたら、まずいかもしれない。
(とりあえず、子供が産まれました報告が来るまでは待つか……)
そんなことを考えながら港はカキペンくんの着ぐるみに着替えた。
カキペンくんの着ぐるみは、意外と着心地が良かった。
動き辛さは仕方がないものの、視界も思ったよりは確保できる。
(ただ、ちょっと暑い)
館内が涼しいのは幸いだったなと港は思った。
「そんじゃ、これマニュアルな」
「ああ。……んっ!?」
渡されたマニュアルを見て港は変な声を出した。
だって、そこに書いてあったのは、カキペンくんの振る舞いについてのマニュアルだったからだ。
マニュアル曰く、カキペンくんは空を飛ぼうと夢見てたまに羽ばたいている。
カキペンくんは嬉しくなるとくるくる回る。
カキペンくんは水槽に張り付いて魚を眺める癖がある……などなど。
なかなか覚えなければならない動作が多い。
(ほぼほぼ演劇じゃん……)
聞いていないぞと気持ちを込めて智を見ると、ニカッと笑ってサムズアップされた。
「好きだろ、演劇」
「好きだけどさ」
体育会系みたいな見た目をしている港だが、実は中学・高校と演劇部に所属していた。
だから演劇自体は好きだし、休日には現地へ観劇こそ行けないものの、サブスクで舞台のライブ配信や過去動画を見ていたりする。
(将来は役者になりたいって思ったこともあったっけな)
夢というにはふんわりした、こうなったらいいなとぼんやり描いた淡いもの。
残念ながら港には、それに向かって進む勇気はなかったけれど。
「…………」
ここは舞台の上ではない。
けれども少しだけワクワクして、港はカキペンくんマニュアルを読み始めた。
職員用のロッカールーム。
そこへ荷物を預けたあと、港は智から着ぐるみを渡された。
「ペンギンの着ぐるみ?」
愛嬌のある顔立ちに、ふっくらした体躯のペンギンだ。
頭には果物の柿の上半分をのせたような帽子をかぶっている。
「柿原シーパラダイスのマスコット、カキペンくんだ」
智の言葉に、そういえばミュージアムショップに並んでいたなと思い出す。
「お前にはこの着ぐるみで館内に立って、お客さんたちと一緒に写真を撮ったり、道順を案内したりする役を頼みたい!」
内容こそ聞いていなかったが、なるほど、そういう役割かと港は納得する。
館内の配置は覚える必要はあるが、それならば確かに、アルバイトに任せても大丈夫そうな仕事だ。
営業であちこち歩き回っていた港は体力の方もそこそこ自信がある。
「分かった。……あ、だから楽しめって言ったのか?」
「楽しんだ方が、どこに何があるか覚えやすいだろ?」
智は片目を瞑って、悪戯が成功した子供のように笑った。
昔から、智はこういう愛嬌がある。
(奥さんもここに惚れたって言ってたな)
前に、智の家へ遊びに行った時のことを思い出す。
おっとりとした優しそうな奥さんだった。
(そう言えば、子供……)
来月の終わりが出産予定日だったはずだ。
人生をリタイアしようと思っていたが、精神的に悪影響を及ぼしたら、まずいかもしれない。
(とりあえず、子供が産まれました報告が来るまでは待つか……)
そんなことを考えながら港はカキペンくんの着ぐるみに着替えた。
カキペンくんの着ぐるみは、意外と着心地が良かった。
動き辛さは仕方がないものの、視界も思ったよりは確保できる。
(ただ、ちょっと暑い)
館内が涼しいのは幸いだったなと港は思った。
「そんじゃ、これマニュアルな」
「ああ。……んっ!?」
渡されたマニュアルを見て港は変な声を出した。
だって、そこに書いてあったのは、カキペンくんの振る舞いについてのマニュアルだったからだ。
マニュアル曰く、カキペンくんは空を飛ぼうと夢見てたまに羽ばたいている。
カキペンくんは嬉しくなるとくるくる回る。
カキペンくんは水槽に張り付いて魚を眺める癖がある……などなど。
なかなか覚えなければならない動作が多い。
(ほぼほぼ演劇じゃん……)
聞いていないぞと気持ちを込めて智を見ると、ニカッと笑ってサムズアップされた。
「好きだろ、演劇」
「好きだけどさ」
体育会系みたいな見た目をしている港だが、実は中学・高校と演劇部に所属していた。
だから演劇自体は好きだし、休日には現地へ観劇こそ行けないものの、サブスクで舞台のライブ配信や過去動画を見ていたりする。
(将来は役者になりたいって思ったこともあったっけな)
夢というにはふんわりした、こうなったらいいなとぼんやり描いた淡いもの。
残念ながら港には、それに向かって進む勇気はなかったけれど。
「…………」
ここは舞台の上ではない。
けれども少しだけワクワクして、港はカキペンくんマニュアルを読み始めた。
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