願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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7 休憩

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 先ほど立っていた場所から少し歩いた先に、自動販売機と、魚の絵の描かれたベンチが置かれてるのを見つけて、港はそこへと近づいた。
 万が一、缶を投げて水槽が壊れないように、との配慮だろう。

 水槽や展示物から離れたその場所に人の姿はなかった。
 ただ、天井は綺麗だった。
 天窓だ。
 海の中にいるような気分にさせる色とデザインの天窓が、頭上高くにある。
 そこから外の光が――夕焼けが僅かに色を変え射し込んでいた。

(夕方か……)

 必死に働いていたら、いつの間にか、そんな時間になっていたようだ。

(とにかく人がいないのはありがたい。ちょっとだけ、コーヒー飲むか)

 港は周囲をきょろきょろ見回すと、おもむろに着ぐるみの頭を取ってベンチに置いた。
 そして首から下げていたお守りサイズの巾着を引っ張り出し、中から小銭を取り出す。

「智のアドバイスのおかげで助かった……」

 実は事前に智から、着ぐるみを被る前に「着ぐるみだとお金を取り出せないからさ」と渡されたのだ。
 ロッカールームに戻っても良いが、こちらの方がてっとり早いと智は言っていた。
 何から何まで気配り上手な男である。

「……今日は甘いのでいいか」

 自動販売機の前まで行き、お金を入れてボタンを押す。
 幾つか缶コーヒーは並んでいたが、良く飲むメーカーのものがあったのでそれにした。
 いつもはブラックコーヒーを飲んでいるが、今日みたいに疲れた時は甘いものが良い。
 ガコン、と落ちた缶コーヒーを手に取って、港はベンチに腰を下ろした。

「ふー……」

 息を吐き、カシュ、とフタを開ける。
 缶コーヒーの、このフタについているこの取っ手のようなものは、ステイオンタブという名称らしい。
 なかなかかっこいい名前だよな、と缶コーヒーを飲むたびに港は思った。

(ま、カキペンくんもなかなか良い名前だよなー)

 コーヒーを飲みながら、隣に鎮座しているカキペンくんの頭部を見る。

(ん?)

 その時、視界の端に、女性の姿が見えた。
 顔を上げると、ベンチから少し離れた場所に、暗い顔の女性が立っていることに気が付く。

(ヤバイ!)

 カキペンくんの中身を見られたことに、港が焦っていると、

「……隣、いいですか?」

 女性は、暗い声でそう訊いて来た。
 港は目を丸くする。
 カキペンくんの中身が見えていることは、特に気にしていないようだ。

「え、あ、はい……」

 何となく、港は了承してしまった。
 そもそもこのベンチは従業員のためにあるものではない。
 彼女のような客のためにあるのだ。
 港はカキペンくんの頭部を持ち上げて自分の膝の上に置く。
 すると女性はそのまま、すす、と近付いて、港の隣に腰を下ろした。

 歳は三十代前半くらいだろうか。
 茶髪のゆる巻きに、少し派手めの化粧と服装をしている。

「…………」
「…………」

 お互いに無言である。

(しまった、これ、俺はもう行くのでどうぞって言えば良かった奴だ……)

 今更ながら港は反省するが、もう遅い。こうなったら缶コーヒーを飲み切ったという体で、早めに退散するに限る。

(よし)

 缶コーヒーを一気に飲み干そうと持ち上げた時、

「私ね、人生に嫌気がさしたんですよ」

 女性が口を開いて話し始めた。
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