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8 気持ちが分かる
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「人生に嫌気ですか?」
タイミングを逃した港だったが、聞こえた言葉が何となく他人事に思えなくて、そう聞き返した。
女性は前を向いたまま静かに頷く。
「私、婚約者がいたんです。高校時代から付き合っていて、それで、もうそろそろ結婚しようって話をしていて。……だけどね、そいつ、二股していたんですよ」
「それは……酷いですね」
「でしょう? たまたまそれを見てしまって追及したら、そいつ、こう言ったんですよ。だってお前より金持ちなんだよって」
「うわ」
嫌悪感に港は思わず素の声が出た。
高校時代からならば、だいぶ長い付き合いだ。
そんな相手に対してあまりにも不義理過ぎる。
「それでね、普通、怒るじゃないですか」
「怒りますよ、それは」
「ですよね。……なのに開き直って、じゃあ、お前なんかもういいわって。ずっと面倒くさいって思っていたって」
女性の目からぽろっと涙が零れる。
(クズだわ、そいつ)
詳しい事情は知らないし、片方だけの意見を聞いて判断するのも問題だ。
けれども話を聞いて港は率直にそう思った。
「そのままどこかへ行ってしまって、連絡先もブロックされて。そいつが住んでいたアパートを訪ねても、ずっと居留守を使われていて。……せめてひと言、ごめんなさいって言えないもんですかねぇ」
女性の目からはポロポロと涙が零れている。
こういう時にハンカチを差し出せたら良いのだが、あいにくと港の身体はほぼ着ぐるみだ。ハンカチを持っていたとしても取り出せない。
「あの、すみません……。俺、こんな姿で、ハンカチひとつ渡せなくて」
「いいんです。私が勝手に話して泣いているだけだから……すみません……」
女性はそう言うと、服の袖でぐい、と涙を拭った。
「……そいつね、将来は役者になるんだって頑張っていて。それで、いつもお金がないから、私が支えてやらなきゃって働いていたんです。それで、貯金もそんなにないし……。もう、頑張らなくてもいいかなって思って……」
「…………」
港は無意識に自分の胸を押えていた。
(――分かる)
状況は違うけれど、彼女の気持ちが港には何となく理解出来た。
「……俺もね、リタイアしようと思っているんですよ」
ぽつりと言葉が漏れた。
すると女性が初めて港の方へ顔を向けた。
「あなたも?」
「はい。高卒から働いていた会社をね、整理解雇……まぁ、クビみたいなもんですね。そうされて。頑張ってきたこととか、今までの自分とか、全部を否定された気がして、ショックで。もういいやって……」
女性に伝えるために言語化していたら、自分自身が何に悲しかったのか、港はふと理解した。
(ああ、俺……自分のこれまでを否定されたことが悲しかったんだ)
そう思いながら、膝の上のカキペンくんの頭部へ視線を落とす。
「友達が、ここのバイトに誘ってくれたおかげで、まだ生きているんですけどね」
「そう。……良いお友達さんなんですね」
「ええ、俺の友達、すげぇ良い奴なんですよ! 気配り上手っていうか! 本当に良い奴なんですよ。昔から、ほんと、変わらなくて。羨ましいなって思います」
ニッと笑って見せると、女性も少しだけ微笑んでくれた。
「……そうだ、私にも、心配してくれる友達がいました」
そしてふと、そう呟いた。
タイミングを逃した港だったが、聞こえた言葉が何となく他人事に思えなくて、そう聞き返した。
女性は前を向いたまま静かに頷く。
「私、婚約者がいたんです。高校時代から付き合っていて、それで、もうそろそろ結婚しようって話をしていて。……だけどね、そいつ、二股していたんですよ」
「それは……酷いですね」
「でしょう? たまたまそれを見てしまって追及したら、そいつ、こう言ったんですよ。だってお前より金持ちなんだよって」
「うわ」
嫌悪感に港は思わず素の声が出た。
高校時代からならば、だいぶ長い付き合いだ。
そんな相手に対してあまりにも不義理過ぎる。
「それでね、普通、怒るじゃないですか」
「怒りますよ、それは」
「ですよね。……なのに開き直って、じゃあ、お前なんかもういいわって。ずっと面倒くさいって思っていたって」
女性の目からぽろっと涙が零れる。
(クズだわ、そいつ)
詳しい事情は知らないし、片方だけの意見を聞いて判断するのも問題だ。
けれども話を聞いて港は率直にそう思った。
「そのままどこかへ行ってしまって、連絡先もブロックされて。そいつが住んでいたアパートを訪ねても、ずっと居留守を使われていて。……せめてひと言、ごめんなさいって言えないもんですかねぇ」
女性の目からはポロポロと涙が零れている。
こういう時にハンカチを差し出せたら良いのだが、あいにくと港の身体はほぼ着ぐるみだ。ハンカチを持っていたとしても取り出せない。
「あの、すみません……。俺、こんな姿で、ハンカチひとつ渡せなくて」
「いいんです。私が勝手に話して泣いているだけだから……すみません……」
女性はそう言うと、服の袖でぐい、と涙を拭った。
「……そいつね、将来は役者になるんだって頑張っていて。それで、いつもお金がないから、私が支えてやらなきゃって働いていたんです。それで、貯金もそんなにないし……。もう、頑張らなくてもいいかなって思って……」
「…………」
港は無意識に自分の胸を押えていた。
(――分かる)
状況は違うけれど、彼女の気持ちが港には何となく理解出来た。
「……俺もね、リタイアしようと思っているんですよ」
ぽつりと言葉が漏れた。
すると女性が初めて港の方へ顔を向けた。
「あなたも?」
「はい。高卒から働いていた会社をね、整理解雇……まぁ、クビみたいなもんですね。そうされて。頑張ってきたこととか、今までの自分とか、全部を否定された気がして、ショックで。もういいやって……」
女性に伝えるために言語化していたら、自分自身が何に悲しかったのか、港はふと理解した。
(ああ、俺……自分のこれまでを否定されたことが悲しかったんだ)
そう思いながら、膝の上のカキペンくんの頭部へ視線を落とす。
「友達が、ここのバイトに誘ってくれたおかげで、まだ生きているんですけどね」
「そう。……良いお友達さんなんですね」
「ええ、俺の友達、すげぇ良い奴なんですよ! 気配り上手っていうか! 本当に良い奴なんですよ。昔から、ほんと、変わらなくて。羨ましいなって思います」
ニッと笑って見せると、女性も少しだけ微笑んでくれた。
「……そうだ、私にも、心配してくれる友達がいました」
そしてふと、そう呟いた。
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