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16 ゆきみや
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ホットサンドを焼いたあと、温めた牛乳とともに、港はダイニングへと向かった。
そしてリモコンをぽちりと押してテレビを点ける。
『本日は一日、穏やかな雨となるでしょう』
ちょうどお天気キャスターが、この辺りの天気の話をしているところだった。
港は「雨かぁ」と呟きいながら、テーブルの上にホットサンドの皿と牛乳のマグカップを置き、自分もソファに腰かける。
それから窓の外を見ると、なるほど確かに、灰色の空からぽつぽつと、小雨が降り注いでいた。
「晴れたらどこかへ行こうと思っていたんだけど……」
先日出会った老紳士に旅をおすすめされたので、少しその気になっていたのだが、雨ならば仕方がない。
今日は一日家でのんびりしていよう。
そう思いながら港はホットサンドを一口食べる。
カリッとした香ばしいトーストの食感と、とろりとしたチーズ、そしてハムの塩気が最高だ。
「うまぁ……」
自分で作っておいて何だが、思わず感嘆の声が零れた。
久しぶりに自炊をしたからというのもあるかもしれない。
港は元々そんなに料理は得意な方ではなかった。
けれど一人暮らしをするようになって、少しずつ自炊を始めたら、ほどほどに上手くなったのだ。
やはり何事も自分が置かれている環境がものを言う――のかもしれない。
そんなことを考えながら食事を進めていると、テレビに映っている番組が変わった。
『ゴールデンウィークのお出かけにおすすめなスポットの一つが、こちらになります』
ラフな装いの女性アナウンサーが、爽やかな笑顔でそう言った。
長めの連休シーズンになると、決まってテレビはこういう番組を放送している。
(ゴールデンウィークは無理だけど参考にしよ)
どうせ有給休暇は一ヶ月以上あるんだし、と思いながら港は牛乳を飲む。
『今日は柿原市に来ています』
「ん?」
聞き慣れた地名に港は目を瞬く。
「柿原市、紹介されるくらい良いところがあるんだ」
誰にも聞かれていないから、少々失礼な感想を呟きつつ眺めていると、見覚えのある店が映った。
この間、港が朝食で海鮮丼を食べた『ゆきみや』だ。
(ここ、美味しかったもんなぁ)
テレビで紹介されるのも頷けるなと思いながら見ていると、アナウンサーの前に、港も注文した海鮮丼とあら汁が並べられた。
「そうそう、これこれ。美味いよな~」
紹介用としてこのメニューを出すならば、実際におすすめのものだったのだろう。
自分の目は確かだったなと港はにんまりと笑う。
見ていると店主夫婦がアップで映った。
『実は夢にお父さんが出てきて、これが美味しいんですよって言ってくれたんです』
『お父様ですか、素敵ですねぇ』
『はい。……一度も食べさせてあげられることは出来なかったんですが、夢の中で、美味しい、美味しいって食べてくれて』
そう話す奥さんは少しだけ涙ぐんでいた。
もしかしたら彼女の父親は、もう会えない人なのかもしれない。
「……夢でも会えて良かったなぁ」
ぽつりと港は呟いた。
(俺は……どうだろ)
港の両親はまだ元気に暮らしているらしいが、八年前に帰省した際に喧嘩をして以来、顔を合わせていないのだ。
もちろん電話で連絡くらいは取っているけれど。
(兄貴と比較されたの嫌で、つい、意地を張っちまったんだよな……)
思い出して、はぁ、と港はため息を吐く。
『お兄ちゃんは順調に昇進しているんだから、港も平のままじゃダメだぞ~』
酒の入った父親からそう言われた港は、兄と比較され自分の頑張りを否定されたように感じて、口喧嘩になり、そのまま実家から帰ってしまったのだ。
直ぐに兄から「ごめんな、港。俺もしっかり言っておくから。父さんも悪気があったわけじゃないのだけは分かってやって」と電話が来た。
(……分かっているよ。父さんが、そういう人だってこと)
港の父親も働いている間ずっと平社員で、それでお金の面で苦労したと言っていた。
実際に兄の大学費用を捻出するのも大変だったようで、それを見ていた港は大学受験を諦めて就職した。
(奨学金の条件……頑張れば良かったかもしれないな)
今になって後悔しても、それこそ遅いのだが。
あの時に頑張っていれば自分も兄と比較されず、お前も頑張っているなと言ってもらえたのかもしれない。
「……俺も、後悔ばかりの人生、だったかもな」
老紳士の言葉を思い出しながら、港はホットサンドの残りを口に放り込んだ。
『旅は、良いですよ。ぜひ、色々な場所を見て回ることをおすすめします』
その時ふと、老紳士のもう一つの言葉が蘇った。
「旅……」
再度、ぽつりと呟く。
それから窓の外へ目を向けた。
雨は相変わらずしとしとと柔らかく降っている。
「……散歩でもしてくるかな」
苦い気持ちと小さな後悔を消しさるように、港はあえて明るくそう言うと、牛乳を飲み干したのだった。
そしてリモコンをぽちりと押してテレビを点ける。
『本日は一日、穏やかな雨となるでしょう』
ちょうどお天気キャスターが、この辺りの天気の話をしているところだった。
港は「雨かぁ」と呟きいながら、テーブルの上にホットサンドの皿と牛乳のマグカップを置き、自分もソファに腰かける。
それから窓の外を見ると、なるほど確かに、灰色の空からぽつぽつと、小雨が降り注いでいた。
「晴れたらどこかへ行こうと思っていたんだけど……」
先日出会った老紳士に旅をおすすめされたので、少しその気になっていたのだが、雨ならば仕方がない。
今日は一日家でのんびりしていよう。
そう思いながら港はホットサンドを一口食べる。
カリッとした香ばしいトーストの食感と、とろりとしたチーズ、そしてハムの塩気が最高だ。
「うまぁ……」
自分で作っておいて何だが、思わず感嘆の声が零れた。
久しぶりに自炊をしたからというのもあるかもしれない。
港は元々そんなに料理は得意な方ではなかった。
けれど一人暮らしをするようになって、少しずつ自炊を始めたら、ほどほどに上手くなったのだ。
やはり何事も自分が置かれている環境がものを言う――のかもしれない。
そんなことを考えながら食事を進めていると、テレビに映っている番組が変わった。
『ゴールデンウィークのお出かけにおすすめなスポットの一つが、こちらになります』
ラフな装いの女性アナウンサーが、爽やかな笑顔でそう言った。
長めの連休シーズンになると、決まってテレビはこういう番組を放送している。
(ゴールデンウィークは無理だけど参考にしよ)
どうせ有給休暇は一ヶ月以上あるんだし、と思いながら港は牛乳を飲む。
『今日は柿原市に来ています』
「ん?」
聞き慣れた地名に港は目を瞬く。
「柿原市、紹介されるくらい良いところがあるんだ」
誰にも聞かれていないから、少々失礼な感想を呟きつつ眺めていると、見覚えのある店が映った。
この間、港が朝食で海鮮丼を食べた『ゆきみや』だ。
(ここ、美味しかったもんなぁ)
テレビで紹介されるのも頷けるなと思いながら見ていると、アナウンサーの前に、港も注文した海鮮丼とあら汁が並べられた。
「そうそう、これこれ。美味いよな~」
紹介用としてこのメニューを出すならば、実際におすすめのものだったのだろう。
自分の目は確かだったなと港はにんまりと笑う。
見ていると店主夫婦がアップで映った。
『実は夢にお父さんが出てきて、これが美味しいんですよって言ってくれたんです』
『お父様ですか、素敵ですねぇ』
『はい。……一度も食べさせてあげられることは出来なかったんですが、夢の中で、美味しい、美味しいって食べてくれて』
そう話す奥さんは少しだけ涙ぐんでいた。
もしかしたら彼女の父親は、もう会えない人なのかもしれない。
「……夢でも会えて良かったなぁ」
ぽつりと港は呟いた。
(俺は……どうだろ)
港の両親はまだ元気に暮らしているらしいが、八年前に帰省した際に喧嘩をして以来、顔を合わせていないのだ。
もちろん電話で連絡くらいは取っているけれど。
(兄貴と比較されたの嫌で、つい、意地を張っちまったんだよな……)
思い出して、はぁ、と港はため息を吐く。
『お兄ちゃんは順調に昇進しているんだから、港も平のままじゃダメだぞ~』
酒の入った父親からそう言われた港は、兄と比較され自分の頑張りを否定されたように感じて、口喧嘩になり、そのまま実家から帰ってしまったのだ。
直ぐに兄から「ごめんな、港。俺もしっかり言っておくから。父さんも悪気があったわけじゃないのだけは分かってやって」と電話が来た。
(……分かっているよ。父さんが、そういう人だってこと)
港の父親も働いている間ずっと平社員で、それでお金の面で苦労したと言っていた。
実際に兄の大学費用を捻出するのも大変だったようで、それを見ていた港は大学受験を諦めて就職した。
(奨学金の条件……頑張れば良かったかもしれないな)
今になって後悔しても、それこそ遅いのだが。
あの時に頑張っていれば自分も兄と比較されず、お前も頑張っているなと言ってもらえたのかもしれない。
「……俺も、後悔ばかりの人生、だったかもな」
老紳士の言葉を思い出しながら、港はホットサンドの残りを口に放り込んだ。
『旅は、良いですよ。ぜひ、色々な場所を見て回ることをおすすめします』
その時ふと、老紳士のもう一つの言葉が蘇った。
「旅……」
再度、ぽつりと呟く。
それから窓の外へ目を向けた。
雨は相変わらずしとしとと柔らかく降っている。
「……散歩でもしてくるかな」
苦い気持ちと小さな後悔を消しさるように、港はあえて明るくそう言うと、牛乳を飲み干したのだった。
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