願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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17 野良猫

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 朝食を終えた港は傘を持って外へ出た。

 相変わらず空からは小雨が静かに降っている。
 そんな天候のせいか、出歩いている人はいつもよりも少ない。
 雨が傘に当たる、ぽつぽつとした音を聞きながら、港はのんびりと歩き出した。

 目的地は特にない。
 ただ、昼くらいまでのんびりと散歩をして、昼ご飯をどこかで食べて帰ろう。
 そんなくらいの感覚だ。

(でも、近所ってあんまり、ちゃんと見たことなかったな……)

 自分が住んでいる場所の周辺もそうだが、実家のある辺りも、思い出してみればあまり良く知らない。
 小学生くらいまでのころは、どこへ行くのも冒険みたいで、今よりもしっかり見ていた気がする。

(……いつの間に、通り過ぎるようになったんだろう)

 道路の反対側に建つ花屋を見て、港はふとそう思った。

 あっという間に過ぎていく時間のように、周りの景色も自分の頭に残らず、すっと通って忘れていく。
 覚えているのは飲み会でいつも使う店とコンビニ。それから、食料品やたまに服を買うための大型ショッピングモールくらい。
 欲しい本や雑貨は、最近では全部インターネット通販だ。ショッピングサイトで購入すればポイントが貯まるし、家まで届けてもらえる。
 何て楽な生活だ。

(……と思っていたけれど)

 ネット通販は楽だし、欲しいものは大体手に入る。
 けれども書店で本を探すのは宝探しのようで楽しいし、セール品を見て「これはいい」と思って買ったら使わないものが家に溜まっているのも、何だかんだで面白い。
 あの体験は直接足を運ばなければ出来ないものだ。

(どっちが良くてどっちが悪いって話ではないけどさ)

 そんなことを考えながら歩いていると、道の先に、ぶち模様の猫が顔を出した。
 しっかりと肥えて、なかなか貫禄がある猫だ。
 首輪をしていないところから考えて、恐らくは野良だろうか。
 見ていると、野良猫は「みゃあ」と体躯に似合わないかわいらしい声を出して、港の方へ歩いて来た。

「お」

 思わず声が出た。
 野良猫は港の足元までくると、その身体をすりすりと、脚に擦りつけてくる。
 しゃがんで、雨に濡れてしっとりとしている野良猫を撫でてみると、野良猫は「にゃあ~」と、気持ち良さそうな声で鳴いた。

「ごめんな、食べ物持ってないんだわ。あの、何だっけ。スティックシュガーの小袋に入っているような奴」
「みゃーう」
「そうそう、ちょうどそんな感じの名前。……お前、俺の言葉が分かるのか?」
「にゃー」

 港の質問に野良猫はそう鳴くと、そのままサッと離れて去って行った。

「あれは人慣れしているな」

 どうすれば人間から食べ物をせしめられるのか、良く分かっている。
 港が餌をくれないと分かっても直ぐに離れず、愛想を振りまいてくれたあたり、先行投資までばっちりだ。なかなか強かな野良猫である。

「もしかして地域猫……とかいう奴なのかねぇ」

 住んでいるわりに、港はまったく知らないけれど。

「あっ」

 立ち上がろうとした時、港の目に自分のズボンが映る。
 先ほど、野良猫にすりすりされた場所だ。
 野良猫の毛がつき、野良猫の身体の水分で濡れて色が変わっている。

「帰ったらこの手入れか……」

 このまま洗濯機に放り込むわけにはいかない。
 帰宅後のタスクが一つ出来たことに、港は苦笑したのだった。
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