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20 大忙しの理由
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ゴールデンウィーク初日の水族館は、やはり、とんでもない来場者数だった。
先週の土日なんて比じゃないくらいの賑わいだ。
カキペンくんとして働いている最中に、色んな人の会話も自然と聞こえてきたが、県外から来た人たちもいるらしい。
「あ、見て、いたよ。SNSで見たカキペンくん!」
「ほんとだ~。一緒に写真撮ってもらおっ」
中にはカキペンくん目当てもいて、さすがに港は驚いたが。
柿原シーパラダイスのSNSアカウントに館内の写真もアップロードされていて、その中にカキペンくんの写真もあるらしい。
(ま、ここのマスコットキャラクターだしな~)
カキペンくんは愛嬌のある顔立ちをしているし、ふわふわでかわいい。
中身が港ということを除いて考えれば、人気があるのは分かる。
――しかし。
「カキペンくんを見ると良いことがあるんだっけ」
「そうそう、会いたい人に会えるんだって!」
なぜか、そんな迷信じみた言葉まで聞こえてきた。
(会いたい人に会える?)
カキペンくんにはそんなジンクスが存在するのだろうか。
疑問に思いながらも港が仕事をしていると、カキペンくんと写真を撮りたいと希望する客がひっきりなしにやって来た。
一人一人、丁寧に相手をしていた港だったが、昼過ぎても休む時間がなくてさすがに限界を感じていると、
「はーい! みなさーん! カキペンくんはちょっとご飯の時間だから、ごめんね~!」
様子を見に来てくれた智が助け船を出してくれた。
港は心底感謝しながら、お客さんたちに向かって手を振って、そっとバックヤードへと引っ込む。
そしてカキペンくんの頭を取って、はぁ、と大きく息を吐いた。
「た、助かった……智、ありがとな……」
「いやいや。悪いな、気付くのが遅くなって」
智は両手を合わせてそう謝る。
それから彼は携帯電話を取り出して、画面を見せてくれた。
ツブヤキッターというSNSだ。一つの投稿につき三百文字入力できるタイプで、港も時々覗いてはつぶやいている。
「たぶんこれだ。さっき、他の奴が気付いたんだけどさ」
智はそう言って、とある投稿を表示してくれた。
「カキペンくんのおかげで、亡くなった父と夢で再会することができました……? って、リツイート数すごいな!?」
その投稿が万単位のリツイート数になっているものだから、港は目を丸くした。
「なー。すごいよな。おかげでお客さんが増えて、うちは嬉しい悲鳴だけどさ」
「それは良いことだけど、へぇ。カキペンくんってそんな効果あるんだな?」
「いやー、ないよ」
「え?」
首を横に振る智を見て、港は首を傾げる。
「だってカキペンくんって書いてあるぞ?」
「ああ。今まで一度もこういうことはなかったんだ。港が中身になってからだよ。お前に何かあるんじゃないか?」
楽しそうな智に、港は「俺ぇ?」とぎょっと目を剥く。
(いや、ないない)
今までの人生を思い返してみても、そんなオカルトじみたことが起きた記憶はない。
高校時代の修学旅行で、何人かが「ここ、何かいる」なんて怖がっていても、港は何も感じなかったし見えなかった。
霊感というものが世の中にあるのなら、自分にはそれはまったくない。
(……はず)
うーん、と港が唸っていると、
「ま、うちとしてはありがたいよ。ちなみにこの投稿、柿原市のゆきみやって店のだ」
「そう言えば、この間テレビで紹介されていたな」
「お、見た? そうそう、その時に言っていた話がこれなんだってさ」
「へぇ……」
智の言葉を聞いて、ふと、港の頭の中にゆきみやのご夫婦と洋食店の店主、そして自動販売機のところで出会った老紳士の顔が浮ぶ。
(……亡くなっていた人、だったのか)
恐怖は感じなかった。
ただ、何だか不思議な気持ちになって、港はその投稿をじっと見つめていたのだった。
先週の土日なんて比じゃないくらいの賑わいだ。
カキペンくんとして働いている最中に、色んな人の会話も自然と聞こえてきたが、県外から来た人たちもいるらしい。
「あ、見て、いたよ。SNSで見たカキペンくん!」
「ほんとだ~。一緒に写真撮ってもらおっ」
中にはカキペンくん目当てもいて、さすがに港は驚いたが。
柿原シーパラダイスのSNSアカウントに館内の写真もアップロードされていて、その中にカキペンくんの写真もあるらしい。
(ま、ここのマスコットキャラクターだしな~)
カキペンくんは愛嬌のある顔立ちをしているし、ふわふわでかわいい。
中身が港ということを除いて考えれば、人気があるのは分かる。
――しかし。
「カキペンくんを見ると良いことがあるんだっけ」
「そうそう、会いたい人に会えるんだって!」
なぜか、そんな迷信じみた言葉まで聞こえてきた。
(会いたい人に会える?)
カキペンくんにはそんなジンクスが存在するのだろうか。
疑問に思いながらも港が仕事をしていると、カキペンくんと写真を撮りたいと希望する客がひっきりなしにやって来た。
一人一人、丁寧に相手をしていた港だったが、昼過ぎても休む時間がなくてさすがに限界を感じていると、
「はーい! みなさーん! カキペンくんはちょっとご飯の時間だから、ごめんね~!」
様子を見に来てくれた智が助け船を出してくれた。
港は心底感謝しながら、お客さんたちに向かって手を振って、そっとバックヤードへと引っ込む。
そしてカキペンくんの頭を取って、はぁ、と大きく息を吐いた。
「た、助かった……智、ありがとな……」
「いやいや。悪いな、気付くのが遅くなって」
智は両手を合わせてそう謝る。
それから彼は携帯電話を取り出して、画面を見せてくれた。
ツブヤキッターというSNSだ。一つの投稿につき三百文字入力できるタイプで、港も時々覗いてはつぶやいている。
「たぶんこれだ。さっき、他の奴が気付いたんだけどさ」
智はそう言って、とある投稿を表示してくれた。
「カキペンくんのおかげで、亡くなった父と夢で再会することができました……? って、リツイート数すごいな!?」
その投稿が万単位のリツイート数になっているものだから、港は目を丸くした。
「なー。すごいよな。おかげでお客さんが増えて、うちは嬉しい悲鳴だけどさ」
「それは良いことだけど、へぇ。カキペンくんってそんな効果あるんだな?」
「いやー、ないよ」
「え?」
首を横に振る智を見て、港は首を傾げる。
「だってカキペンくんって書いてあるぞ?」
「ああ。今まで一度もこういうことはなかったんだ。港が中身になってからだよ。お前に何かあるんじゃないか?」
楽しそうな智に、港は「俺ぇ?」とぎょっと目を剥く。
(いや、ないない)
今までの人生を思い返してみても、そんなオカルトじみたことが起きた記憶はない。
高校時代の修学旅行で、何人かが「ここ、何かいる」なんて怖がっていても、港は何も感じなかったし見えなかった。
霊感というものが世の中にあるのなら、自分にはそれはまったくない。
(……はず)
うーん、と港が唸っていると、
「ま、うちとしてはありがたいよ。ちなみにこの投稿、柿原市のゆきみやって店のだ」
「そう言えば、この間テレビで紹介されていたな」
「お、見た? そうそう、その時に言っていた話がこれなんだってさ」
「へぇ……」
智の言葉を聞いて、ふと、港の頭の中にゆきみやのご夫婦と洋食店の店主、そして自動販売機のところで出会った老紳士の顔が浮ぶ。
(……亡くなっていた人、だったのか)
恐怖は感じなかった。
ただ、何だか不思議な気持ちになって、港はその投稿をじっと見つめていたのだった。
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