願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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23 新たな出会い

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 その日から港は、夕方の休憩が取れるタイミングになると、あの自動販売機近くのベンチへ足を運ぶようになった。

(もしかして、カキペンくんが……というよりも、この場所に何かあるんじゃないか?)

 そう思ったからだ。
 もしもこの不思議な現象の起こる理由が、カキペンくんの着ぐるみであるのなら、この場所以外でも何かしらの反応があるはずである。
 しかし港は仕事中にそういう現象・・を感じたことはなかった。

(まぁ、俺が気付いていないだけかもしれないけれど)

 何といっても仕事中だ。
 とんでもなく忙しいその時間に、もしも不思議なことが起きていたとしても、気付く前に終わっている可能性が高い。
 もちろん印象的なお客さんであれば記憶に残っているだろうけれど。

(今までに出会ったあの二人は印象的だった)

 だから――と断言するには少々弱いが、もしもそういう相手であったなら覚えていたんじゃないかと港は思ったのだ。
 そして、それはなかった。
 なのでこの不思議な現象は着ぐるみではなく場所で起こると仮定したのである。

(何か起こっても起こらなくても、何となくね。話を聞くくらいなら俺でも出来るし)
 
 そんなことを考えながらカキペン君の頭を取って、今日もまた甘い缶コーヒーを買い、ベンチに座って飲んでいると、

「こんにちは」

 と声が聞こえて来た。
 声の方へ顔を向けると、眼鏡をかけた少年が自販機の近くに立っていた。
 小学校の低学年くらいの子だろうか。真面目そうな顔立ちをしている。

「こんにちは」

 港は笑って挨拶を返す。

(この子も……そうなのかな。いや、待てよ?)

 一瞬そう思ったが、もしも普通の子供だった場合、港は今カキペンくんの中身丸出しである。ショックを受けてしまうのではとハッとし、港は膝の上のカキペンくんの頭部へ目を遣った。

「あ、大丈夫ですよ。僕、着ぐるみの中身は人間だって知っているので」

 ……すると大人びた――いわゆる社交的な笑みを浮かべてそう言われてしまった。

「あ、そ、そう……?」

 港は片方の手の指で頬をかいた。

(お、大人だ……)

 自分の方が子供なのではと錯覚してしまうくらいの落ち着きっぷりを発揮する子供に、港は軽く慄いた。

「あの、隣に座ってもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ」

 港は頷くとカキペンくんの頭部を膝の上に乗せる。
 すると少年はちょこんと港の隣に座った。

「お兄さんが噂のカキペンくんなんですね」
「あ、うん。そうだよ……って言うのは、少し烏滸がましいんだけどね。最近の中身は俺だよ」
「そうですか。……あの」
「何だい?」
「カキペンくんと会ったら、会いたい人と会えるって……本当ですか?」

 少年は港の目を真っ直ぐに見上げてそう訊いてきた。
 真剣な顔に見えた。
 港は軽く目を見開いた後で「……分からない」と正直に答える。

「そういう人がいたってだけで、実際にどうかは俺にも分からない。偶然が重なっただけかもしれない」
「曖昧ですね」
「本当にね! だけど……そうだったらいいなって思っているよ」
「どうしてですか?」
「ん~、話したいから、かなぁ」
「話したい?」
「そう。……俺ね、人生きついなって思ってさ。それで全部を投げ出したくなっていた時に、友達からここのアルバイトに誘ってもらったんだ。それで噂になっている不思議なことがあって、その人たちと話ができて」

 港の脳裏にあの女性と老紳士の顔が浮かぶ。

「……こんな俺でもさ、そういう人たちの話を聞いて、すっきりしてもらえるくらいなら出来るかなって。そうなってもらえたら嬉しいよな~って思ってさ」
「……お兄さんって、変わっていますね」
「あはは……そうかなぁ」
「そうですよ。普通の大人は怖がって近付かないか、商売にしようと思って邪なことを考えます」
「邪……難しい言葉を知っているね」
「常識です」

 感心して褒めたら、少年はツンと澄ました顔でそう言った。
 ただ、ちょっとだけ頬が赤くなっているので、これは恐らく照れているんだなと港は推測する。

「……話」
「ん?」
「聞いてもらったら、本当にすっきりするんでしょうか」

 少年はぽつりと呟く。
 その時彼の顔の輪郭が、天窓から射し込む夕焼けの光に照らされてキラキラと輝いた、ように見えた。
 ――あ。
 思わずポカンと口が開く。

(やっぱり、この子……)

 あの女性や老紳士と同じなのだろうか。
 港がそう思っていると、

「……お兄さん。僕の話、聞いてもらえますか?」

 少年は少しだけ不安そうな眼差しを港に向け、そう言った。
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