願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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26 お悩み相談

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 その日から港は夕方に休憩時間を充てて、自動販売機のところで叶と共に、幽霊のお客さんたちを待ち始めた。
 すると意外なことにわりと・・・彼らはやって来る。
 顔色が悪かったり、元気がなかったり、寂しそうだったり。彼らはそれぞれ何かしらの未練を抱えながら、ここへとやって来る。

(理由はやっぱり分からないけれど――)

 港は彼らのことが怖いと思ったことはなかった。
 元々が人間だったわけだし、それに気持ちに変化が現れなければ、港も彼らの仲間入りをするはずだったのだ。
 だから怖くはないし、むしろ親近感を感じてしまう。

 そんな中、やって来たのは体格の良い年配男性だ。短く切りそろえられた白髪混じりの黒髪に日焼けした肌をしている。恐らく屋外で肉体労働に従事していた人だろう。
 そう思って失礼にならない程度に話を振ると、彼は自分が柿原市の漁師だったと教えてくれた。
 
「へぇー、漁師さんですか! 柿原の魚、美味しいですよねぇ。俺、ゆきひらってお店で海鮮丼とあら汁を食べたんですが、めちゃめちゃ美味しくて」
「僕も食べたことがあります。小さい頃にひと口だけでしたけれど。美味しかったです」
「はっはっはっ、そりゃありがたいねぇ! あの店にはうちが直接卸してたんだ。今は倅が引き継いでくれていてなぁ」

 自慢げに笑う彼は少しして「だけどなぁ……」と呟く。

「あいつは本当は……漁師なんてやりたくなかったんじゃねぇかって思うんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。俺の息子はさ、俺に似ずに頭が良くてな。学校の成績だっていっつも一番でさ。それで優しい子でなぁ」

 話しながら彼は懐かしむように目を細めた。
 港と叶は彼の顔を見つめながら、その話に耳を傾ける。

「うちは代々漁師をやっていてな。それで俺も親父の跡を継いで漁師になったんだ。それが当たり前だって疑問にも思わずにな。だけど自分の息子を見て思ったんだよ。こいつには、そういう当たり前じゃなくて、自分の好きな道を選んでもらいたいってな」
「良いお父さんじゃないですか」
「……それを言おうと思っていた直前で死んじまったんだよ」
「ああ……」

 それはとんでもない未練だろうなと港は思った。
 しかもその息子は自分の跡を継いで漁師になっている。きっと嬉しい気持ちもあるのだろうけれど、自分の子供の将来を狭めてしまったのではないかと彼は思っているのだ。

「確認しようにも、方法が思いつかなくてな。今さらそんなことを言われてもって思うかもしれないし……」
「……おじさんも結構臆病なんですね」
「そうなんだよ……」

 叶の言葉に男はため息混じりに頷く。
 大柄な体格なのに、こうして気落ちしていると小さく見えるなと港は苦笑する。

「直接だと接点がないのでアレなんですけど……良かったら、俺、仕事終わりにゆきひらへ食事に行って、それとなく訊いてきましょうか?」
「えっ、いいのかい、兄ちゃん」
「ええ。あ、でも、思ったような答えはもらえないかもですけれど」
「いやいや、大助かりだ! 頼むよ、兄ちゃん!」

 彼はパッと笑顔になると、港の背中をバンバン叩く――フリだけした。実際には触れそうになった手がすり抜けてしまっただけではあるのだが。

「港さん。僕も一緒に行っても良いですか?」
「良いよ。ついて来れる?」
「はい、大丈夫だと思います。ちょっとだけコツが掴めてきました」
「そっか。それじゃ、一緒に行こう。仕事が終わるまで待っていてくれる?」
「はいっ」

 元気に頷く叶に港はニッと笑って見せると、

「それじゃあ、残りのお仕事頑張ってくるか」

 と言って立ち上がり、カキペンくんの頭部をかぶった。
 そんな港に向かって叶と男は「がんばれー」と手を振る。
 港は「はーい」と元気に返事をすると、仕事場へと戻ったのだった。
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