願屋港は幽霊さんたちの雑談相手

石動なつめ

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 仕事が終わったあと、港は叶と一緒にゆきひらへ向かって歩いていた。
 夕焼けの端に夜の色が混ざり出した時間帯だからか、帰宅途中の学生や社会人たちと道ですれ違う。
 楽しそうに笑って話をしていたり、仕事の緊張感から解放された顔をしていたり。皆、それぞれに穏やかな表情をしていた。

(俺もそうだったんだろうなぁ)

 スーツを着て、電車に揺られて、職場と家を行き来する毎日。
 自分がどんな表情をしていたかなんて、あまり考えることはなかった。
 もちろんあちこちの会社に営業へ行くので、身だしなみを確認するためにコンパクトミラーは一応持っていたけれど、あれは自分の表情を確認するというよりは、他人が見た時に不快に思わないかのチェックだった。

(そう言えば自分よりも他人の方が気付いてくれるんだよな)

 だいぶ前に風邪を引いて少し熱があった時、自分では「ちょっとだるいな」くらいだったのだが、職場の同僚が「願屋さん、顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」と声をかけてくれたことがあった。そのおかげで自覚して、周りも心配してくれて、早退して休むことが出来たのだ。人は意外と他人を見ているんだなぁと、布団の中で頭痛に魘されながら港は思った。

「お兄さん、どうしました?」

 そんなことを思い出していると、叶に声をかけられた。

「ん?」
「何だかぼうっとしていましたから」
「ああ……ごめんごめん。心配してくれてありがとう。いつもの癖っていうか……俺さ、ちょっと前に会社を辞めることになったんだけど、それから色々と考えごとが増えちゃってね」
「考えごとですか」
「うん。客観的に自分を見られるようになったというか……そんな感じ」
「客観的……FPS視点がTPS視点になったってことですか?」

 叶は少し考えてそう言った。
 おや、と港は目を丸くする。彼が言ったのはゲームで使われている視点の話だ。
 FPS――First Person Shooterとは一人称視点のシューティングゲームの視点のこと。
 対してTPS――Third Person Shooterとはキャラクターの背後等を映すシューティングゲームの視点のことだ。

「叶さん、ゲーム好きだった?」
「はい。入院中はやることがなくて、お母さんとお父さんが持ってきてくれたんです。今の身体では皆と遊べないけれど、ゲームなら色んな人と一緒に遊べるからって」
「そっか」

 本当に良いご両親なんだろうなと港は思った。それにゲームに対して理解もある。港が子供の頃なんて、ゲームで遊ぶことは悪だと露骨に嫌悪感をぶつけられることもあったからだ。幸い港の両親はそこまでではなかったけれど、それでもあまり良い顔はしなかったなと思い出す。
 肩身が狭い思いをしながらゲームをしていたせいか、大人になってから港は、そこそこゲームを遊ぶようになった。据え置きゲーム機、携帯ゲーム機、ネットゲーム――色んなゲームを遊んでいる。
 大人になって良かったことの一つは、自由に使えるお金を自分で判断できることだと港は思う。だからと言って、諸々にのめり込み過ぎるのも危険だとは理解しているけれど。

「最近何にはまったっけな。あ、そうだ。水をキューブ状にして、色んなものを作るゲームだ」
「あ、僕もやっていました。楽しいですよね、あれ」
「楽しいよな~。光にキラキラ反射して、まるで芸術家にでもなったような気持ちになるよ」
「ふふふ」

 叶が楽しそうに笑う。
 彼は出会った頃と比べて、ずいぶん柔らかい表情をしてくれるようになった。少しずつ信用してくれているのかもしれない。

(年の離れた友達……ってのはこういう感じなのかな)

 友達というにはまだまだ距離はあるけれど。
 ――そんなことを考えている間に、二人はゆきひらへと到着したのだった。
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