31 / 34
31 夜景
しおりを挟む
食事を終え、ゆきひらを出た港と叶は、夜の柿原市を歩いていた。
町のあちこちに灯る灯りは、どこかほっとする色をしていて、いつも見ていた風景と変わって新鮮だった。
(いやしかし、やっぱりあの店、美味しいよなぁ)
右手でお腹をさすりながら、港は先ほど食べたメニューを思い出す。
アジフライ定食と、ミニいくら丼。二人分なので、普段食べている量より多かったが、ぺろりと食べてしまえるくらい美味しかった。
アジフライはカリッとした外側と、ふわっとした中身の食感が楽しくて、また、揚げ具合もちょうど良い。アジの旨味も感じられて良かった。一緒についていたご飯や味噌汁、サラダも美味しい。ミニいくら丼も言わずもがなである。今度はミニではなく普通サイズのいくら丼を頼んでみようと思うらいにはファンになってしまった。
「ふふ」
思い出していると、叶の楽しそうな声が聞こえた。顔を向けると、彼はくすくすと笑っている。
「お、何か良いことあった?」
「いえ、あの……港さんの食レポを思い出していて」
「あ~、ははは。どうだった?」
「個性的で面白かったです」
「お、上手いね~!」
どうやらあまり上手ではなかったようだが、楽しんでくれたなら何よりである。
港も同じにように、にこっと笑うと、
「そう言えば、叶さんはこのあとどうするの?」
と訊いた。いつも水族館で別れていたから、彼が夜の間、どうしているか分からなかったのだ。すると叶は少し目を伏せて、
「家へ、帰っています」
と言った。
(そう言えば、泣いているご両親を見ていたと言っていたっけ……)
港はそう思いながら、
「じゃあ、送って行こうか?」
「いえ、大丈夫です。ここから近いので」
「そうなの?」
「はい。この通りを少し行った先です」
叶はそう言って、道の向こうを指さした。
近いなら、なおのこと送って行こうかと思ったのだが、断られているのにしつこく言うのは問題だろう。なので港は「分かった」と頷いた。
「漁師のおじさん、喜んでくれるといいですね」
「そうだねぇ。それで、会える方法を知っているといいよね」
「……はい」
こくり、と叶は頷く。そこは、少しだけ不安そうだ。
何となく、悩んでいるように見えた。もしかしたら松谷親子の話を聞いて、何か思うところがあったのかもしれない。ふむ、と港は呟き自分の手首を見た。腕時計だ。電車の終電までは、まだまだ結構、時間の余裕がある。
「叶さん。良かったらさ、レイド行かない?」
レイドというのは、レインボードーナツというドーナツチェーン店の略称だ。オンラインゲームをしている勢だと別の意味になるよな、と港は智と話したことがある。ちなみにその名前のおかげで、そういうゲームと度々コラボしていたりする。
あそこならここから近いし、イートイン席もあるので、話を聞くにはちょう良さそう。そう思って港は提案した。
「行ってみたい、です。一度も行ったことがなかったから」
叶は目を輝かせて頷いた。柿原市にレインボードーナツが出来たのはここ最近だ。たぶん、叶が入院した後で出来たのだろう。
「よっし、それじゃあ延長戦だ!」
「はいっ」
おー、と二人揃って拳を夜空に向かって突き上げると、レインボードーナツへ向かって歩き出した。
町のあちこちに灯る灯りは、どこかほっとする色をしていて、いつも見ていた風景と変わって新鮮だった。
(いやしかし、やっぱりあの店、美味しいよなぁ)
右手でお腹をさすりながら、港は先ほど食べたメニューを思い出す。
アジフライ定食と、ミニいくら丼。二人分なので、普段食べている量より多かったが、ぺろりと食べてしまえるくらい美味しかった。
アジフライはカリッとした外側と、ふわっとした中身の食感が楽しくて、また、揚げ具合もちょうど良い。アジの旨味も感じられて良かった。一緒についていたご飯や味噌汁、サラダも美味しい。ミニいくら丼も言わずもがなである。今度はミニではなく普通サイズのいくら丼を頼んでみようと思うらいにはファンになってしまった。
「ふふ」
思い出していると、叶の楽しそうな声が聞こえた。顔を向けると、彼はくすくすと笑っている。
「お、何か良いことあった?」
「いえ、あの……港さんの食レポを思い出していて」
「あ~、ははは。どうだった?」
「個性的で面白かったです」
「お、上手いね~!」
どうやらあまり上手ではなかったようだが、楽しんでくれたなら何よりである。
港も同じにように、にこっと笑うと、
「そう言えば、叶さんはこのあとどうするの?」
と訊いた。いつも水族館で別れていたから、彼が夜の間、どうしているか分からなかったのだ。すると叶は少し目を伏せて、
「家へ、帰っています」
と言った。
(そう言えば、泣いているご両親を見ていたと言っていたっけ……)
港はそう思いながら、
「じゃあ、送って行こうか?」
「いえ、大丈夫です。ここから近いので」
「そうなの?」
「はい。この通りを少し行った先です」
叶はそう言って、道の向こうを指さした。
近いなら、なおのこと送って行こうかと思ったのだが、断られているのにしつこく言うのは問題だろう。なので港は「分かった」と頷いた。
「漁師のおじさん、喜んでくれるといいですね」
「そうだねぇ。それで、会える方法を知っているといいよね」
「……はい」
こくり、と叶は頷く。そこは、少しだけ不安そうだ。
何となく、悩んでいるように見えた。もしかしたら松谷親子の話を聞いて、何か思うところがあったのかもしれない。ふむ、と港は呟き自分の手首を見た。腕時計だ。電車の終電までは、まだまだ結構、時間の余裕がある。
「叶さん。良かったらさ、レイド行かない?」
レイドというのは、レインボードーナツというドーナツチェーン店の略称だ。オンラインゲームをしている勢だと別の意味になるよな、と港は智と話したことがある。ちなみにその名前のおかげで、そういうゲームと度々コラボしていたりする。
あそこならここから近いし、イートイン席もあるので、話を聞くにはちょう良さそう。そう思って港は提案した。
「行ってみたい、です。一度も行ったことがなかったから」
叶は目を輝かせて頷いた。柿原市にレインボードーナツが出来たのはここ最近だ。たぶん、叶が入院した後で出来たのだろう。
「よっし、それじゃあ延長戦だ!」
「はいっ」
おー、と二人揃って拳を夜空に向かって突き上げると、レインボードーナツへ向かって歩き出した。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。
「だって顔に大きな傷があるんだもん!」
体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。
実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。
寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。
スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。
※フィクションです。
※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる