「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗

文字の大きさ
19 / 173
君の魅了は俺の魔眼よりずっと強い

前編

しおりを挟む
 俺はこの街で一番モテる男、デリック。
 高貴で超絶イケメンなのだから、当然ではある。
 だがそれだけではなく、生まれ持った魔眼をウインクで発動させると、人を魅了することができるのだ。

「デリック様だわ!」
「デリック様、ぜひうちに寄っていらしてー!」
「うちの店にも来てくだせえ、デリックさん!!」

 ひとたび街を歩けば、誰も彼もが目をハートにして寄ってくる。
 男も女も老人も子どもでさえも、みーーーんな俺の虜だ。
 ちやほやされるのは、気分がいい。

「あの、占いは、占いはいかがでしょうか」

 俺の周りに人垣が出ているのを見て、ひとりの女が道のはしでそう声をあげている。
 この街では見たことのない顔だ。俺は魅了している者たちを仕事に戻らせると、その女の元へ向かった。

「見ない顔だな」
「はい。昨日この街に入ったばかりです」
「ふうん……まぁ、せっかくだから占ってもらおうか」
「はい、ありがとうございます!」

 女は亜麻色の髪をなびかせながら、俺を見上げにっこりと笑った。
 その瞬間、俺の体は雷が落ちたんじゃないかと思うほどに衝撃が走った。

「ふぐうっ!」
「ど、どうされましたか?」
「い、いや、なんでもない……」

 な、なんなのだこの女の笑顔の破壊力は?! まさか、こいつも魅了魔眼の持ち主か?!
 だが魔眼特有の光は発していなかった。一体どういうことだ。
 女は簡易テーブルを出し、俺はその前へと立つ。

「では、お名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「ああ。デリックだ」
「デリックさんですね」
「お前の……いや、君の名前は」
「私はチェルシーといいます」

 なんともかわいらしい名前だ。なんだか食べちゃいたい衝動が走るのはなぜだろうか。
 始めていきますとカードを出して、チェルシーは一枚ずつテーブルの上に並べていく。
 白くて美しい手だ。一枚めくってチラリと俺を見る透き通った空色の目は、全てを見透かされているようでドキドキする。

 まさかこれは………恋?

「あなたは今、恋をしていらっしゃいますね」
「んな!! なぜわかった!!」

 っく、当たって動揺してしまった。
 占いの腕はなかなか良いらしいな。

「あなたの初恋だと出ていますが、合ってます?」

 俺の、初恋。
 そう言われるとそうかもしれない。
 俺は、いつも、誰でも、気に入ったものを魔眼で魅了してきた。
 そこに恋心があったかと言われると、答えは否だ。
 俺は好かれるのが好きだった。だから誰も彼もを魅了してきた。けれど、自分から恋心を抱いたことは……ない。

「は、初恋のようだ……これが、はじめての……」
「ふふ。素敵ですね」

 二十五にもなって初恋だなどと言うのは、恥ずかしすぎて顔が熱い。
 けれどこんなにも顔が熱くなるのは、素敵だと微笑んでくれたチェルシーのせいでもあるんだからな。

「お、お前は……いや、チェルシーはいくつだ」
「私の年ですか? 二十六になりました」

 まさかの年上だった件。

「若いですね」

 何言ってんだ俺?

「もう若くないですよ。地元じゃみんな十代で結婚してますから、私は立派な行き遅れです」
「いや、十代といっても十分に通じる容姿をしている。かわいらしいのに美しい」
「褒めても占い代は安くしませんからね?」

 チェルシーは困ったように笑っていて、俺の心は嵐がきたかのように荒ぶっている。
 それはもう、ビュンビュンビュンビュン大荒れだ。

「あなたは、その人と結婚したいと思っていますね」
「俺の心を先読みするような、すごい占いだ!!」
「ふふ、この道のプロですから」
「どうすれば、結婚できる!?」
「ちょっと待ってくださいね」

 そう言ってチェルシーは次のカードを捲り始めた。すると、チェルシーの顔が少し暗くなり、俺は不安で彼女の顔を覗き込む。

「な、なんだ、悪い結果が出たのか?」
「あの、大変言いにくいんですけど……」
「言ってくれ!」

 まさか、チェルシーとは結婚できない……?
 そう思うと俺の胸は、深海に突き落とされたように沈んだ。

「デリックさんは、なにかの能力持ちと出ています。なんの能力かはわかりませんが……もしそれを使うと、結婚できたとしても、お相手の女性を幸せにすることができない、と出ています」
「な、なにぃ!」

 俺の魔眼は、強制力が強い。チェルシーを魅了し、俺と結婚させることは不可能じゃないが……それは、チェルシーの意思ではないんだ。
 つまり、魔眼を発動すると、チェルシーは本当は好きではない俺と結婚させられてしまうことになる。それは確かに幸せとは言えないだろう。

「俺は──好きな人を、幸せにしたい……」
「デリックさん……良い人ですね。その思いがあれば、きっと大丈夫ですよ」

 優しく微笑んでくれるチェルシー。まるで女神のようだ。
 俺は、この人を幸せにしたい。魔眼なんか使わず、両思いになり、いつかは結婚したい。
 さっき出会ったばかりで、こんなふうに思うのはおかしいのかもしれない。
 でも、彼女に恥じる生き方はしたくなかった。
 すでに魔眼を使用してしまった者はどうしようもないが、これから先、俺はこの魔眼を使わずに生きていく。
 ありのままの自分で、俺は彼女の心を射止めていく。俺は今、そう決めた。

「あ、風が……!」

 その時ぶわっと強い風が吹いて、カードが飛び散っていった。
 俺も思わず右目を瞑ってしまい──

「きゃ……?!」

 俺の左目は一瞬熱くなり、チェルシーの顔を照らした。
 あ……発動しちゃった、俺の魔眼……。

「カードが……」

 チェルシーは急いでカードを拾い集めている。嘘だろ? ウインクしようとしてしたんじゃないのに!!
 終わった。俺の人生終わった。
 彼女を幸せにするために、魔眼は使わないと決めたばかりだぞ!
 なのに、魅了してしまった……どうしてこうなった。

「すみません、もう一度占いのやり直しをさせてください!」

 カードを拾って戻ってきたチェルシーが、うるうると俺を見上げている。
 それは、俺に……魅了されている顔。

「っく……」

 涙が出てきそうだ。
 俺は今まで、この力を使うことに罪悪感など感じたことはなかった。
 皆が俺に魅了され、ちやほやされることに疑問を感じたこともないし、むしろ優越感しかなかったんだ。

「デリックさん、私の占いの結果は、努力次第でいくらでも変わりますから……!」

 もう遅い。俺はチェルシーにこの魔眼の力を使ってしまった。つまり、幸せに出来ないってことだ!

「な、泣かないでください……っ! 私にできることなら、なんだってお手伝いしますから……!」

 それは、魅了された者がよく使う言葉だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】キズモノになった私と婚約破棄ですか?別に構いませんがあなたが大丈夫ですか?

なか
恋愛
「キズモノのお前とは婚約破棄する」 顔にできた顔の傷も治らぬうちに第二王子のアルベルト様にそう宣告される 大きな傷跡は残るだろう キズモノのとなった私はもう要らないようだ そして彼が持ち出した条件は婚約破棄しても身体を寄越せと下卑た笑いで告げるのだ そんな彼を殴りつけたのはとある人物だった このキズの謎を知ったとき アルベルト王子は永遠に後悔する事となる 永遠の後悔と 永遠の愛が生まれた日の物語

処理中です...