96 / 173
不惑になっても独り身ですが、年下男子の魔法の笑顔に癒されています。
前編
しおりを挟む
小さくて安い借家が立ち並ぶ、夕方の裏通り。
私が仕事から帰ってくると、家の前で妹が近所の子ども達と遊んでいた。
きゃあきゃあと騒ぐ妹のティーファとその友人たち。そしてそれを見守りながら一緒に遊んでくれている、ダレルの姿。
この辺りは、誰もが助け合いをしながら生きている。
私も周りに助けてもらわなければ、十歳の妹を置いて仕事に行くことは叶わなかっただろう。
「あ、お姉ちゃん、おかえりー!!」
ティーファが私の姿を見て駆け寄ってきた。
「ただいま、ティーファ」
ティーファは私を見上げて嬉しそうにふふっと笑顔を向けてくれた。
こんな顔を見せられると、疲れも吹っ飛んじゃうわね。ああ、かわいい。
「おかえり、ウェンディ」
「ただいま。ダレル、今日もありがとうね」
そういうと、ダレルもにっこりと笑ってくれて、私も微笑み返した。
この笑顔を見ると幸福感? のようなものが溢れてくるのよね。ティーファもすぐ笑顔になるし、私はダレルの笑顔を密かに『魔法の笑顔』って呼んでる。
それにしても、ダレルも大きくなったわねぇ。今は十八歳で、士官学校も卒業だものね。
彼にはよくティーファの面倒を見てもらって、本当にお世話になった。
私のお母さんは、ティーファを産んだあと、予後が悪くて亡くなっている。私が二十歳の時だ。
だから私がティーファの母親代わりとなって育てて、お父さんは必死になって働いてくれた。そして無理がたたって過労で倒れて、今は寝たきりになってしまったけれど。
ダレルは小さな頃からしっかりした男の子で、ティーファの面倒を買って出てくれ、遊ばせてくれた。どれだけ助かったことか、感謝しても仕切れない。
でも、それもおしまいね。ティーファも随分と大きくなって他に友達もできたようだし、ダレルはこの春から騎士団に入団する。帰りは私と同じくらいの時間になるに違いないもの。
「ダレル、今まで本当にありがとうね。あなたがいてくれて助かったわ」
私がそうお礼を言うと、隣で聞いていたティーファが不意に泣きそうな顔になってしまった。
「え! ダレルお兄ちゃん、もう私たちと一緒に遊べないの!?」
うーん、ティーファはダレルが大好きだもんね。そうなるわよね。
「いや、俺は来るつもりでいるけど……一体なに、ウェンディ」
「いえ、これからはダレルも忙しくなると思って……ティーファももう大きくなったし、無理しないで大丈夫って意味なのよ」
私の言い方が悪かったと思って言い直すと、二人は息ピッタリに空気を吐き出した。
「良かったー、ダレルお兄ちゃんと会えなくなるのかと思っちゃった!」
「ははっ、俺もだよ、ティーファ!」
「ダレルお兄ちゃん、ずっとそばにいてね!」
「わかってるよ」
ティーファとダレルはとっても仲良しだ。十歳と十八歳で少し年は離れているけど、もしかしたら二人は将来結婚しちゃうかもしれないわね。
そんな想像をしたら、ふふっと笑えてしまった。
「ウェンディ、嬉しそうだね。なんかあった?」
「ふふ、そうね。ヒミツよ」
私がそう言って見せると、なぜかダレルがむっと口を尖らせる。
「なに、彼氏でもできた?」
ダレルのあり得ない問いに、私はプッと吹き出した。
「あはは、ないない! 私はもう三十よ! 誰も見向きもしないわ!」
「そんなことないよ。ウェンディはキレイだから」
あら、お世辞でも嬉しいわ。そんなことが言える年になったのねぇ。
「はいはい、ありがと」
「誰かいい人いないのか?」
「いないし、いたとしても今はいいの。私はティーファとお父さんのことで手いっぱいだもの」
「そっか」
心配してくれたのかしら?
それにしても、なんだか嬉しそうだけど。
「俺、騎士団に入っても、ここに遊びに来ていい?」
「もちろんだよー! ね、お姉ちゃん!!」
飛び跳ねて喜ぶティーファを見て、だめだなんて言えるわけがない。
ダレルもティーファが好きなんだから、来るななんていうのは酷よね。
「そうね、ダレルがかまわないなら来てくれる? ティーファが喜ぶわ」
「ウェンディは?」
「え、私? そうね、夕飯のおかずを一品持ってきてくれるなら、大歓迎よ」
私がそう言うと、なぜかダレルは大真面目な顔で頷いていた。
それから、十年が経った。
ダレルは仕事が定時にあがった日は、必ず一品のおかずを持って我が家に現れた。
仕事帰りに惣菜屋さんで買ってくるのが日課になっている。
あの十年前の言葉は、冗談だったんだけどなぁ。でも助かるのは本当だから、頂いている。
ダレルは結構出世をしているようで余裕があるらしく、ここ二、三年はおかずが三品に増えてるのよね。
お父さんは、一年前にとうとう亡くなってしまった。最初は悲しくて辛かったけれど、ティーファとダレルのお陰で立ち直れた。
ティーファには、随分とお父さんの介護を手伝ってもらっていて、「ありがとう」と抱き締めると、ティーファも私を抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。
良い人がいるなら結婚しなさいと、私は何度もティーファに言い続けてきたけど、ティーファが頷くことはなかった。『お姉ちゃん一人じゃ、お父さんを看るのは大変だから』って。
でもお父さんが亡くなった後に言った時は、初めて素直に頷いてくれた。『お父さんがいなくなった生活に慣れた頃に、結婚するね』って。
それもきっと、私のことを考えてくれてのことだ。
いきなり父親も妹もいなくなると、この家に残される私のことが心配だからだろう。
ティーファの結婚したい相手は、きっとダレル。だからティーファが結婚して出て行ったら、必然的に彼も来なくなる。
私はいずれ、この家に一人になる。
そう考えると、胸が苦しくなって涙がこぼれそうになった。
私はもう、四十歳だ。
ティーファは二十歳。もう子どもではなくなった。お父さんももういない。
今まで二人のためにと頑張ってきたけど、もう頑張らなくてもいい。嬉しいのか悲しいのかわからない。
これからは孤独に生きなきゃいけない事実が、ただ苦しい。
「泣いていても仕方ないわね……」
私はぐしっと涙を拭って夕飯を作り始めた。
お父さんが亡くなってから、ティーファも働いている。そろそろダレルと二人揃ってこの家に戻ってくるはずだ。
「「ただいまー!」」
二人分の声が家に響いた。ダレルもすっかりこの家の住人のように振る舞っている。
「おかえり、ティーファ、ダレル」
私は二人を迎えて、料理をお皿に盛り付ける。いつものように買ってきてくれたお惣菜を、ダレルも出してくれた。
三人での夕食。
いつまで続くのかな。できれば少しでも長くこの三人で夕食を囲みたい……
「お姉ちゃん、私、結婚することに決めたから!」
そう思ったのも束の間、ティーファの言葉に私は笑って見せた。
そうよね、ティーファは可愛いもの。二十歳まで独身だったことの方がおかしいのよ。
「そう、おめでとう。よかったわね」
私は、ティーファと横に並んで食べているダレルを交互にみやってそう言った。
どうしよう、うまく笑えているかどうかわからない。
二人が仲良かったのはわかってる。いつかこうなる日がくることも、知ってた。
私の、ばか……。
妹の好きな人に、好意を持っていただなんて。
妹を好きな人に、恋してしまっていただなんて。
だって、仕方ないでしょう?
毎日毎日、『ただいま』ってお惣菜を出しながら微笑んでくれる。
いつもいつも、体は大丈夫かって気にかけてくれる。
たったそれだけでも、私は嬉かったんだから。
私を気にかけてくれる男の人なんて、ダレルしかいなかったんだから。
「やだ、お姉ちゃん泣いてるの?! なんで?!」
「あら、やだ……ティーファが立派に育ってくれて、嬉しくてつい……」
「もう、大袈裟だよ! 次はお姉ちゃんの番だからね。私、お姉ちゃんには幸せになってほしいんだから」
ティーファの気持ちに胸がぎゅっとなる。でも私には相手なんかいないし、お見合いをしたとしても私をもらってくれる人がいるとは思えない。
「私はいいのよ、ティーファ。私は、二人が仲良く暮らしてくれたなら、それでいいの」
「お姉ちゃん……」
「ティーファのこと、よろしくね、ダレル」
私が最高の演技で微笑んでみせると、ダレルのフォークの動きが空中で止まった。
「え……俺?」
ポカンとしているダレル。何を間抜けな声をあげているのかしら。
こういうとき、男はピシッと決めて欲しいものだというのに、ティーファが可哀想だわ。
けれどティーファの方もなぜかポカンと口を開けている。
「どうしたの? 二人とも」
「お姉ちゃん、どうしてダレルお兄ちゃんに私のことを頼むの?」
「どうしてって……あなたの夫となる人にあなたのことを頼むのは、当然じゃない!」
「ッゴホ!」
ダレルがいきなり咽せて、慌てて水を流し込んでいる。
「ちょっとダレル、大丈夫?!」
「あはっ、やだーーお姉ちゃん! 私の恋人、ダレルだと思ってたの?!」
「違うの?!」
私が驚いてティーファを見ると、お腹を抱えて笑い始めた。
「ダレルお兄ちゃんのわけないじゃーん! だってお兄ちゃんは、昔からおねえ……いでっ」
「余計なことを言うな」
ダレルがティーファの頭を優しく叩いて、ティーファはクスクス笑いながらダレルを突っついてる。
誰がどう見ても、イチャイチャしている恋人同士よね?
「私の彼氏はね、ダレルお兄ちゃんの後輩の騎士なの。中々正騎士になれなくて、ずっと見習いだったんだけどさ。この間、ようやく正騎士なれてね、プロポーズしてくれたんだ」
えへへと嬉しそうに笑ってるティーファ。
本当に? 本当に相手はダレルじゃないの?
「そうなの……全然知らなかったわ。おめでとう」
「ごめんね、彼が正騎士になるまでは言うなって言うから」
「そんなの、構わなかったのに」
「だよねー。お姉ちゃんはそんなこと気にしないって言ったんだけどさ、なんかちっぽけだけどプライドはあったみたい。今度、彼を連れてくるね!」
「え、ええ……」
そうして後日連れてきてくれた彼は、優しそうな二十歳の青年だった。
二人はすぐに結婚して、ティーファはこの家を出て行った。
私が仕事から帰ってくると、家の前で妹が近所の子ども達と遊んでいた。
きゃあきゃあと騒ぐ妹のティーファとその友人たち。そしてそれを見守りながら一緒に遊んでくれている、ダレルの姿。
この辺りは、誰もが助け合いをしながら生きている。
私も周りに助けてもらわなければ、十歳の妹を置いて仕事に行くことは叶わなかっただろう。
「あ、お姉ちゃん、おかえりー!!」
ティーファが私の姿を見て駆け寄ってきた。
「ただいま、ティーファ」
ティーファは私を見上げて嬉しそうにふふっと笑顔を向けてくれた。
こんな顔を見せられると、疲れも吹っ飛んじゃうわね。ああ、かわいい。
「おかえり、ウェンディ」
「ただいま。ダレル、今日もありがとうね」
そういうと、ダレルもにっこりと笑ってくれて、私も微笑み返した。
この笑顔を見ると幸福感? のようなものが溢れてくるのよね。ティーファもすぐ笑顔になるし、私はダレルの笑顔を密かに『魔法の笑顔』って呼んでる。
それにしても、ダレルも大きくなったわねぇ。今は十八歳で、士官学校も卒業だものね。
彼にはよくティーファの面倒を見てもらって、本当にお世話になった。
私のお母さんは、ティーファを産んだあと、予後が悪くて亡くなっている。私が二十歳の時だ。
だから私がティーファの母親代わりとなって育てて、お父さんは必死になって働いてくれた。そして無理がたたって過労で倒れて、今は寝たきりになってしまったけれど。
ダレルは小さな頃からしっかりした男の子で、ティーファの面倒を買って出てくれ、遊ばせてくれた。どれだけ助かったことか、感謝しても仕切れない。
でも、それもおしまいね。ティーファも随分と大きくなって他に友達もできたようだし、ダレルはこの春から騎士団に入団する。帰りは私と同じくらいの時間になるに違いないもの。
「ダレル、今まで本当にありがとうね。あなたがいてくれて助かったわ」
私がそうお礼を言うと、隣で聞いていたティーファが不意に泣きそうな顔になってしまった。
「え! ダレルお兄ちゃん、もう私たちと一緒に遊べないの!?」
うーん、ティーファはダレルが大好きだもんね。そうなるわよね。
「いや、俺は来るつもりでいるけど……一体なに、ウェンディ」
「いえ、これからはダレルも忙しくなると思って……ティーファももう大きくなったし、無理しないで大丈夫って意味なのよ」
私の言い方が悪かったと思って言い直すと、二人は息ピッタリに空気を吐き出した。
「良かったー、ダレルお兄ちゃんと会えなくなるのかと思っちゃった!」
「ははっ、俺もだよ、ティーファ!」
「ダレルお兄ちゃん、ずっとそばにいてね!」
「わかってるよ」
ティーファとダレルはとっても仲良しだ。十歳と十八歳で少し年は離れているけど、もしかしたら二人は将来結婚しちゃうかもしれないわね。
そんな想像をしたら、ふふっと笑えてしまった。
「ウェンディ、嬉しそうだね。なんかあった?」
「ふふ、そうね。ヒミツよ」
私がそう言って見せると、なぜかダレルがむっと口を尖らせる。
「なに、彼氏でもできた?」
ダレルのあり得ない問いに、私はプッと吹き出した。
「あはは、ないない! 私はもう三十よ! 誰も見向きもしないわ!」
「そんなことないよ。ウェンディはキレイだから」
あら、お世辞でも嬉しいわ。そんなことが言える年になったのねぇ。
「はいはい、ありがと」
「誰かいい人いないのか?」
「いないし、いたとしても今はいいの。私はティーファとお父さんのことで手いっぱいだもの」
「そっか」
心配してくれたのかしら?
それにしても、なんだか嬉しそうだけど。
「俺、騎士団に入っても、ここに遊びに来ていい?」
「もちろんだよー! ね、お姉ちゃん!!」
飛び跳ねて喜ぶティーファを見て、だめだなんて言えるわけがない。
ダレルもティーファが好きなんだから、来るななんていうのは酷よね。
「そうね、ダレルがかまわないなら来てくれる? ティーファが喜ぶわ」
「ウェンディは?」
「え、私? そうね、夕飯のおかずを一品持ってきてくれるなら、大歓迎よ」
私がそう言うと、なぜかダレルは大真面目な顔で頷いていた。
それから、十年が経った。
ダレルは仕事が定時にあがった日は、必ず一品のおかずを持って我が家に現れた。
仕事帰りに惣菜屋さんで買ってくるのが日課になっている。
あの十年前の言葉は、冗談だったんだけどなぁ。でも助かるのは本当だから、頂いている。
ダレルは結構出世をしているようで余裕があるらしく、ここ二、三年はおかずが三品に増えてるのよね。
お父さんは、一年前にとうとう亡くなってしまった。最初は悲しくて辛かったけれど、ティーファとダレルのお陰で立ち直れた。
ティーファには、随分とお父さんの介護を手伝ってもらっていて、「ありがとう」と抱き締めると、ティーファも私を抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。
良い人がいるなら結婚しなさいと、私は何度もティーファに言い続けてきたけど、ティーファが頷くことはなかった。『お姉ちゃん一人じゃ、お父さんを看るのは大変だから』って。
でもお父さんが亡くなった後に言った時は、初めて素直に頷いてくれた。『お父さんがいなくなった生活に慣れた頃に、結婚するね』って。
それもきっと、私のことを考えてくれてのことだ。
いきなり父親も妹もいなくなると、この家に残される私のことが心配だからだろう。
ティーファの結婚したい相手は、きっとダレル。だからティーファが結婚して出て行ったら、必然的に彼も来なくなる。
私はいずれ、この家に一人になる。
そう考えると、胸が苦しくなって涙がこぼれそうになった。
私はもう、四十歳だ。
ティーファは二十歳。もう子どもではなくなった。お父さんももういない。
今まで二人のためにと頑張ってきたけど、もう頑張らなくてもいい。嬉しいのか悲しいのかわからない。
これからは孤独に生きなきゃいけない事実が、ただ苦しい。
「泣いていても仕方ないわね……」
私はぐしっと涙を拭って夕飯を作り始めた。
お父さんが亡くなってから、ティーファも働いている。そろそろダレルと二人揃ってこの家に戻ってくるはずだ。
「「ただいまー!」」
二人分の声が家に響いた。ダレルもすっかりこの家の住人のように振る舞っている。
「おかえり、ティーファ、ダレル」
私は二人を迎えて、料理をお皿に盛り付ける。いつものように買ってきてくれたお惣菜を、ダレルも出してくれた。
三人での夕食。
いつまで続くのかな。できれば少しでも長くこの三人で夕食を囲みたい……
「お姉ちゃん、私、結婚することに決めたから!」
そう思ったのも束の間、ティーファの言葉に私は笑って見せた。
そうよね、ティーファは可愛いもの。二十歳まで独身だったことの方がおかしいのよ。
「そう、おめでとう。よかったわね」
私は、ティーファと横に並んで食べているダレルを交互にみやってそう言った。
どうしよう、うまく笑えているかどうかわからない。
二人が仲良かったのはわかってる。いつかこうなる日がくることも、知ってた。
私の、ばか……。
妹の好きな人に、好意を持っていただなんて。
妹を好きな人に、恋してしまっていただなんて。
だって、仕方ないでしょう?
毎日毎日、『ただいま』ってお惣菜を出しながら微笑んでくれる。
いつもいつも、体は大丈夫かって気にかけてくれる。
たったそれだけでも、私は嬉かったんだから。
私を気にかけてくれる男の人なんて、ダレルしかいなかったんだから。
「やだ、お姉ちゃん泣いてるの?! なんで?!」
「あら、やだ……ティーファが立派に育ってくれて、嬉しくてつい……」
「もう、大袈裟だよ! 次はお姉ちゃんの番だからね。私、お姉ちゃんには幸せになってほしいんだから」
ティーファの気持ちに胸がぎゅっとなる。でも私には相手なんかいないし、お見合いをしたとしても私をもらってくれる人がいるとは思えない。
「私はいいのよ、ティーファ。私は、二人が仲良く暮らしてくれたなら、それでいいの」
「お姉ちゃん……」
「ティーファのこと、よろしくね、ダレル」
私が最高の演技で微笑んでみせると、ダレルのフォークの動きが空中で止まった。
「え……俺?」
ポカンとしているダレル。何を間抜けな声をあげているのかしら。
こういうとき、男はピシッと決めて欲しいものだというのに、ティーファが可哀想だわ。
けれどティーファの方もなぜかポカンと口を開けている。
「どうしたの? 二人とも」
「お姉ちゃん、どうしてダレルお兄ちゃんに私のことを頼むの?」
「どうしてって……あなたの夫となる人にあなたのことを頼むのは、当然じゃない!」
「ッゴホ!」
ダレルがいきなり咽せて、慌てて水を流し込んでいる。
「ちょっとダレル、大丈夫?!」
「あはっ、やだーーお姉ちゃん! 私の恋人、ダレルだと思ってたの?!」
「違うの?!」
私が驚いてティーファを見ると、お腹を抱えて笑い始めた。
「ダレルお兄ちゃんのわけないじゃーん! だってお兄ちゃんは、昔からおねえ……いでっ」
「余計なことを言うな」
ダレルがティーファの頭を優しく叩いて、ティーファはクスクス笑いながらダレルを突っついてる。
誰がどう見ても、イチャイチャしている恋人同士よね?
「私の彼氏はね、ダレルお兄ちゃんの後輩の騎士なの。中々正騎士になれなくて、ずっと見習いだったんだけどさ。この間、ようやく正騎士なれてね、プロポーズしてくれたんだ」
えへへと嬉しそうに笑ってるティーファ。
本当に? 本当に相手はダレルじゃないの?
「そうなの……全然知らなかったわ。おめでとう」
「ごめんね、彼が正騎士になるまでは言うなって言うから」
「そんなの、構わなかったのに」
「だよねー。お姉ちゃんはそんなこと気にしないって言ったんだけどさ、なんかちっぽけだけどプライドはあったみたい。今度、彼を連れてくるね!」
「え、ええ……」
そうして後日連れてきてくれた彼は、優しそうな二十歳の青年だった。
二人はすぐに結婚して、ティーファはこの家を出て行った。
95
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。
この一言で彼女の人生は一変した――。
******
※タイトル少し変えました。
・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。
・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
もふもふ子犬の恩返し・獣人王子は子犬になっても愛しの王女を助けたい
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
カーラは小国モルガン王国の王女だ。でも、小国なので何かと大変だ。今国は北の大国ノース帝国と組んだ宰相に牛耳られており、カーラは宰相の息子のベンヤミンと婚約させられそうになっていた。そんな時に傷ついた子犬のころちゃんを拾う王女。
王女はころちゃんに癒やされるのだ。そんな時にいきなりいなくなるころちゃん。王女は必死に探すが見つからない。
王女の危機にさっそうと現れる白い騎士。でもその正体は……
もふもふされる子犬のころちゃんと王女の物語、どうぞお楽しみ下さい。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる