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婚約破棄されたリザード大好き侯爵令嬢、追放直前に初恋の君が隣国の王子になって迎えにきたようです。
2.戻ってきた初恋の人
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目の前のドン様は、私の〝悪〟とされる部分を次々と並べ立ててくる。
「あんなトカゲ女を妹のように思うなど、頭がおかしいとしか思えん!」
「本当ですわぁ!」
「肌も醜く、今にも人を殺しそうな目をしていて気持ちが悪い!」
「きっと、本当に殺そうとしているのですわぁ! 早く処分してしまった方がいいと、リンダは思いますぅ」
「まったく、リザード族というものは危険極まりない! そんな種族に国を売ろうとする愚かさがわからないのか!」
「そうですわそうですわぁ!」
「大体にして、リザード族とは暴力的で知恵もないバカ、見た目は醜悪、この世に間違えて作り出されたとしか思えん! リザード族など、この世から消えてしまえばいいのだ!」
私のお腹の底から、なにかが沸き上がってくる。
この世に生まれて、同じ世界で暮らしている者同士だというのに……どうしてそんな風に思えてしまうの?!
私は叫び罵倒したい感情を必死で抑えた。
それをしては、ドン様と……いえ、ドンと同じ人種になってしまう。それだけはイヤよ。
「彼らは建国し、もう私たちの手からは離れているのです。いつまでも他国民を侮蔑していては、国政に支障をきたすのではございませんか?」
言いたい言葉をすべて抑え込んでも、怒りはふつふつと湧いて出てくる。
「勝手に独立宣言をしただけだろ。〝国民〟などという言葉であいつらを俺たちと同じ人扱いするな。あいつらは、トカゲだ」
「人とは違う種族であることがなんだというのです。リザード族は強く逞しくあります。私たち人間と比べてもその強さは歴然……この意味がわからないのですか?」
「うるさい! お前は蛮族に肩入れをする反逆者だ! 俺の国を貶めようとする奴は、追放してやる! 衛兵! こいつを捕らえろ!!」
え、うそでしょう?
今は全権をドンに委ねられていると言っても、あまりに横暴がすぎるわ……!
衛兵たちは一瞬躊躇していたけれど、顔を見合わせあった後、命令に忠実に行動を始めた。
暴れたりしても無駄なことはわかっているから、見苦しいことはしない。
けれど、ドンの思うようになってしまうことが悔しい……!
衛兵が私の目の前に来た瞬間、周りが異様にざわつき始めた。
何事かと衛兵が振り返っている。私もその隙間から奥を見た。
「リザードだ……」
「リザード族よ!」
他国では見ることのないリザード族を目の前にして、それでも各国の主要人物たちはさすがにみんな冷静だった。ドンとはわけが違う。
「なんだ、お前はなんなんだ!!」
慌てふためくドンに、そのリザードは悠々と視線を送っている。
堅苦しいと言わんばかりに着ているリザードの服は、王族であることを誇示するべく作られたような、見目鮮やかな刺繍の入ったもの。
その彼の目が、ドンから私に流された。
「彼女を追放するつもりなら、俺がもらい受ける」
彼からの視線と言葉を受けた私の胸は、ドクンと大きな音が鳴る。
もしかして、彼はガイア?
面影が……
「トカゲの国の者など、招待していないぞ!!」
「周辺諸国の要人を招いていると聞いている。なぜ我が国に招待状を出さない」
「気持ちの悪いトカゲなんぞ、呼ぶわけがないだろう!」
「こちらからは対顔すべく何度も打診していたが、誰かがハルヴァン国王への信書を握り潰していたようでな。直接やってきたというわけだ」
「っく! 蛮族が……!」
悪態をつきながらも腰が引けているドンを尻目に、彼は私の前にやってきた。
そしてその大きな体をかがめて膝をつき、長い尻尾をスラリと伸ばしている。
「申し遅れた。俺はレイザラッド王国の第一王子、ガイア・レイザラッドだ」
「ガイア……様」
やっぱりあのガイアだわ……
ガイアが、来てくれた……!
レッド・レイザラッドに息子がいたという話は聞いたことがないけれど、それでもガイアが言うならきっと本当だわ。
それより、再会できたことがなにより嬉しい。
ガイアは私の、初恋の人で……今でもずっと大好きな人なんだもの……!!
「この女とトカゲを早く追い出せ!」
感動に浸っていたいというのに、ドンが邪魔をしてくる。
飛びかかってくる衛兵を前にガイアは立ち上がると、バシンと尻尾で彼らを一蹴した。
衛兵はあっという間にバタバタと倒れて床に臥してしまっている。
……強い。
リザード族は強いとわかっているけれど、その中でもガイアは群を抜いているんじゃないかしら……。
「なにしてる、かかれ! かかれーー!!」
ドンの言葉に衛兵はたじろぎながらも剣を抜いた。
その瞬間、ドンッとでも音の出そうな威圧を肌に受ける。金色の瞳が衛兵を睨み、睨まれた衛兵は金縛りにあったかのように動けないでいる。
呆然としていると、ガイアがもう一度私の方に体を向けた。
「この王子に言いたいことがあるなら、全部ぶちまけてしまうといい」
私がガイアを見上げると、彼はこくりと頷いてくれる。
ずっとずっと溜め込んできた、ドンへの怒り──それを伝えるチャンスだと?
今までのように我慢したところで、もう追放されるだけだというなら……!
私もガイアにこくりと頷き返して、ドンの前へと一歩出た。
「あんなトカゲ女を妹のように思うなど、頭がおかしいとしか思えん!」
「本当ですわぁ!」
「肌も醜く、今にも人を殺しそうな目をしていて気持ちが悪い!」
「きっと、本当に殺そうとしているのですわぁ! 早く処分してしまった方がいいと、リンダは思いますぅ」
「まったく、リザード族というものは危険極まりない! そんな種族に国を売ろうとする愚かさがわからないのか!」
「そうですわそうですわぁ!」
「大体にして、リザード族とは暴力的で知恵もないバカ、見た目は醜悪、この世に間違えて作り出されたとしか思えん! リザード族など、この世から消えてしまえばいいのだ!」
私のお腹の底から、なにかが沸き上がってくる。
この世に生まれて、同じ世界で暮らしている者同士だというのに……どうしてそんな風に思えてしまうの?!
私は叫び罵倒したい感情を必死で抑えた。
それをしては、ドン様と……いえ、ドンと同じ人種になってしまう。それだけはイヤよ。
「彼らは建国し、もう私たちの手からは離れているのです。いつまでも他国民を侮蔑していては、国政に支障をきたすのではございませんか?」
言いたい言葉をすべて抑え込んでも、怒りはふつふつと湧いて出てくる。
「勝手に独立宣言をしただけだろ。〝国民〟などという言葉であいつらを俺たちと同じ人扱いするな。あいつらは、トカゲだ」
「人とは違う種族であることがなんだというのです。リザード族は強く逞しくあります。私たち人間と比べてもその強さは歴然……この意味がわからないのですか?」
「うるさい! お前は蛮族に肩入れをする反逆者だ! 俺の国を貶めようとする奴は、追放してやる! 衛兵! こいつを捕らえろ!!」
え、うそでしょう?
今は全権をドンに委ねられていると言っても、あまりに横暴がすぎるわ……!
衛兵たちは一瞬躊躇していたけれど、顔を見合わせあった後、命令に忠実に行動を始めた。
暴れたりしても無駄なことはわかっているから、見苦しいことはしない。
けれど、ドンの思うようになってしまうことが悔しい……!
衛兵が私の目の前に来た瞬間、周りが異様にざわつき始めた。
何事かと衛兵が振り返っている。私もその隙間から奥を見た。
「リザードだ……」
「リザード族よ!」
他国では見ることのないリザード族を目の前にして、それでも各国の主要人物たちはさすがにみんな冷静だった。ドンとはわけが違う。
「なんだ、お前はなんなんだ!!」
慌てふためくドンに、そのリザードは悠々と視線を送っている。
堅苦しいと言わんばかりに着ているリザードの服は、王族であることを誇示するべく作られたような、見目鮮やかな刺繍の入ったもの。
その彼の目が、ドンから私に流された。
「彼女を追放するつもりなら、俺がもらい受ける」
彼からの視線と言葉を受けた私の胸は、ドクンと大きな音が鳴る。
もしかして、彼はガイア?
面影が……
「トカゲの国の者など、招待していないぞ!!」
「周辺諸国の要人を招いていると聞いている。なぜ我が国に招待状を出さない」
「気持ちの悪いトカゲなんぞ、呼ぶわけがないだろう!」
「こちらからは対顔すべく何度も打診していたが、誰かがハルヴァン国王への信書を握り潰していたようでな。直接やってきたというわけだ」
「っく! 蛮族が……!」
悪態をつきながらも腰が引けているドンを尻目に、彼は私の前にやってきた。
そしてその大きな体をかがめて膝をつき、長い尻尾をスラリと伸ばしている。
「申し遅れた。俺はレイザラッド王国の第一王子、ガイア・レイザラッドだ」
「ガイア……様」
やっぱりあのガイアだわ……
ガイアが、来てくれた……!
レッド・レイザラッドに息子がいたという話は聞いたことがないけれど、それでもガイアが言うならきっと本当だわ。
それより、再会できたことがなにより嬉しい。
ガイアは私の、初恋の人で……今でもずっと大好きな人なんだもの……!!
「この女とトカゲを早く追い出せ!」
感動に浸っていたいというのに、ドンが邪魔をしてくる。
飛びかかってくる衛兵を前にガイアは立ち上がると、バシンと尻尾で彼らを一蹴した。
衛兵はあっという間にバタバタと倒れて床に臥してしまっている。
……強い。
リザード族は強いとわかっているけれど、その中でもガイアは群を抜いているんじゃないかしら……。
「なにしてる、かかれ! かかれーー!!」
ドンの言葉に衛兵はたじろぎながらも剣を抜いた。
その瞬間、ドンッとでも音の出そうな威圧を肌に受ける。金色の瞳が衛兵を睨み、睨まれた衛兵は金縛りにあったかのように動けないでいる。
呆然としていると、ガイアがもう一度私の方に体を向けた。
「この王子に言いたいことがあるなら、全部ぶちまけてしまうといい」
私がガイアを見上げると、彼はこくりと頷いてくれる。
ずっとずっと溜め込んできた、ドンへの怒り──それを伝えるチャンスだと?
今までのように我慢したところで、もう追放されるだけだというなら……!
私もガイアにこくりと頷き返して、ドンの前へと一歩出た。
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