133 / 173
慎ましさで国が守れるなら、どれほど楽なことでしょう?
01.リヴィアの思惑
しおりを挟む
「王太子妃には、慎ましい令嬢が相応しい」
貴族のくだらない話が、侯爵令嬢リヴィア・エステールの耳に聞くともなく入ってきた。
リヴィアはそんな貴族に歩み寄り、涼やかな微笑みを見せる。
「慎ましさで国が守れるなら、どれほど楽なことでしょう」
リヴィアの一言で、貴族たちの間にざわめきが広がった。ここは王宮で開かれた夜会。王太子妃候補として招かれた令嬢たちは、誰もが控えめな笑みを浮かべ、着飾った姿でただ静かに佇んでいる。
だが、リヴィアは違った。
「王太子妃とは、ただ王太子の隣に立つだけの飾りではないはず。ならばその力をどう使うのか、考えるべきではなくて?」
慎ましやかな令嬢など、腹の足しにもなりはしないのだ。
堂々としたリヴィアの物言いに、保守派の貴族たちは顔を顰める。だが、一人だけ愉快そうに微笑んだ男がいた。
この国の王太子である、エドワール・ディアグランツだ。
「それが君の考えか」
低く響く声が、会場のざわめきを飲み込む。リヴィアは臆することなく、まっすぐ彼の瞳を見据えた。
「王太子殿下は、慎ましい令嬢がお好きですか?」
「どうだろうな。つまらない会話に飽きていたところだ」
エドワールはワイングラスを軽く傾けながら、リヴィアを見つめる。琥珀色の彼女の瞳は、ただの興味以上のものが宿っていた。
背中がゾクリとするほどの挑戦的なオーラ。エドワールは、他の令嬢にはないものを感じとり、口の端を上げる。
「面白い。君は、どこまでやれる?」
「試してみます?」
細められる目。令嬢とは思えない不敵な笑み。リヴィアの自信に満ちた挑戦的な態度に、エドワールの心は踊っていた。
エドワールの許可を受けたリヴィアは、翌日から動いた。
王国の問題点を洗い出し、解決策を提案するため、王宮の学者たちを訪ねたのだ。
まず手を付けたのは、貴族の利権が絡んだ税制の見直しである。
手元の資料を見ながら、リヴィアは訴えた。
「商業都市にかかる関税が過剰ですわ。貴族たちが独自に課税し、その収益を私的に流用しているのは明らか。この状況では商人たちの負担が増すばかりで、結果として商業の発展を妨げ、王国全体の経済も停滞するというもの」
リヴィアの発言に、しかし学者たちは眉を顰める。
「だが、それを撤廃すれば貴族たちの反発が──」
「ならば、彼らが不満を言えないようにすればいいのですわ」
凛然とした態度でリヴィアは続けた。
貴族による独自課税を禁じる勅令を起草しつつ、その代替策として爵位ごとの正式な収入保証制度を導入すればいい、と。
「貴族たちが勝手に関税を引き上げるのは、収入を増やす手段が限られているからですわ。ならば、王国が爵位に応じた一定の収入を保証し、不正な課税を行う必要がない仕組みを作ればよいのです」
リヴィアの案では、貴族たちの収入の一部を王国の歳入から割り当てる代わりに、彼らが商業都市に対して独自の課税を行うことを禁止する。
これにより、商人たちは過剰な関税負担から解放され、交易が活発化。商業が発展すれば、流通する商品の総量が増え、結果として国が正式に徴収する税収も増加する、というものだ。
「貴族たちは安定した収入を得られ、不正を働く必要がなくなる。商人たちは余計な負担がなくなり、商業が発展する。結果として王国の税収も増える……三方良しの策ですわ」
ただの令嬢であるリヴィアが、涼やかな笑みで論理的な提案をしたことに学者たちは驚き、王宮の官僚たちも関心を示し始めた。
その方向で検討していこうという話し合いが進む中。
この動きを快く思わない者たちも、存在した。
「エステール侯爵令嬢は生意気だ」
「女が政治に口を出すなど笑止!」
「どうにかして失脚させねば」
一部の貴族たちが集まり、リヴィアを排除する策を練り始めたのである。
「そうだな……ならば、彼女の発言がいかに愚かか、公の場で恥をかかせてやればいい」
貴族たちはニヤリといやらしい口元を上げて頷き合う。
こうして一部の貴族の陰謀のもと、リヴィアは宮廷会議という討論の場に引きずり出されることになった。
「リヴィア・エステール、お前の提案は机上の空論に過ぎん。財政についてなにも知らぬ令嬢が、なにを言っているのやら」
矢面に立たされるリヴィア。王太子エドワールはなにも言わずに、その会議の行方を見守る。
会議の場には貴族や軍の将だけでなく、いつもはいない軍需商人の姿もあった。
リヴィアを追求しているのは、大臣の一人だ。鼻で笑いながら言い放った彼に、周囲の貴族たちも同調し、嘲笑の視線をリヴィアへと向けている。
しかしリヴィアは凛と前を向いたまま、琥珀色の瞳をギラリと大臣に向けた。
「では大臣は、王国の財政の現状について説明できますか?」
リヴィアの鋭い瞳を受けた大臣は、言葉を詰まらせる。
「な……と、当然だ」
「では現在、王国の収入の約三割が不明瞭な支出に消えている事実を、もちろんご存知ですわね?」
リヴィアは用意していた資料を広げ、財務管理の杜撰さを指摘していく。
「この支出の正体を調べたところ、王宮の宴会費や一部の貴族の私的な贈答品に使われていました。これは不正では? あら、大臣のお名前もここにございますわね」
「……っ!」
会議室がどよめく。
リヴィアの徹底的に調査を行っていたのだ。家柄に見合わない贈答品のやりとりが続いていたことに、リヴィアは以前から不信感を抱いていた。
もちろん、行っているのは一部の貴族で、リヴィアのエステール侯爵家は関わっていない。
「王国の未来のため、これらの不正を正すべきでは?」
リヴィアの指摘に、誰も反論できずに目を逸らす。
エドワールだけは面白いものを見るように口元を上げていた。
さらにリヴィアは軍備の整備に手を付ける。
「現在の軍の兵站管理も酷いものですわね。武具の品質は落ち、兵士の給料は遅れがち。軍が弱体化すれば、いずれ隣国に付け込まれます」
「しかし、それは軍の問題だ。令嬢が口を出すことではない!」
反発したのは、軍の一部の将たちだ。もちろんリヴィアは、迫力のある将の言葉にも動じたりはしない。
「では、お聞きしますが……この三年間で どれほどの物資が横流しされたか、ご存知ですか? 」
「は……?」
リヴィアは将軍に憐憫とも侮蔑とも取れる目を送りながら、机に資料を広げる。
「ある武器商人の帳簿を調べたましたところ、王宮が発注したはずの剣のうち、三割が市場に流れていましたわ」
「そんな馬鹿な!」
「さらに、兵士たちへの給金の支払い状況も確認いたしました。ある地域では税収の減少を理由に給金が引き下げられている者もおりましたわ。実際の税収は増加しているにも関わらずです」
軍の幹部たちが騒然とする。末端の兵のことまで、上は把握できていなかったのだ。
「誰がそんなことを──」
「それも当然調べております。この横流しの根源は、貴族派の軍需商人たちですわ」
軍需商人とは、戦争や軍事に必要な物資や武器を提供する商人たちのことである。
リヴィアは軍の兵站部門に食い込んでいた貴族たちの不正にまで目を向けたのだ。
「通常、軍需商人は、政府と契約を結ぶものですわ。けれど彼らの中には、兵士への物資や給料を不正に横流しして市場で転売したり、発注金額を水増ししてその差額を得ようとする者もいます。このような商人たちは、貴族派の後ろ盾を得て、軍の物資調達において大きな権限を握っていたのです」
顔色を悪くする貴族が数名。エドワールはその者たちを強く睨みつける。
そんな王太子に問いかけるように、リヴィアは大仰に手を広げた。
「このままでは、軍の士気は下がり、王国の防衛も危ういでしょう。この不正に関わった者たちの取り調べを即時に行うべきですわ、王太子殿下」
将たちは驚き、貴族派の軍需商人たちは青ざめる。
リヴィアは軍部商人をこの場に招いたように見せかけて、実際には呼び立てていたのだ。腐敗を一掃させるために。自分を潰そうとしてくるこの会議の場を、逆に利用して。
事態を見守っていた王太子エドワールが、おもむろに立ち上がった。
そして威厳に満ちた怒りの声を、室内に響き渡らせる。
「軍を蝕む腐敗など、許されない。今この場で、不正に関わった貴族たちを捕縛せよ!」
王太子の言葉に、王宮の衛兵たちが即座に動いた。軍需商人や不正に関わった貴族たちに、次々と縄をかけていく。
「くっ……エステール侯爵令嬢、貴様……!」
排除しようとしたはずの令嬢に逆に追い詰められた貴族たちは、屈辱で顔を歪めた。
もはや抗う術もなく拘束された彼らは、悔しげに歯を噛み締めている。
リヴィアはそんな姿を見て冷涼に微笑むと。
「これが、わたくしのやり方ですわ」
刺すような琥珀色の瞳で、怯える貴族たちを見下ろした。
「私腹を肥やすことに夢中で、国の行く末を顧みない……そんな方々に、この場に立つ資格などありませんわ!!」
ずっと燻っていた怒りの言葉を解き放つ。
その迫力に貴族や商人はヒッと声を出して怯え、大臣や将は黙り込む。そんな中、一人静かに笑う男がいた。
「見事だな」
エドワールはカツンと音を立ててゆっくりとリヴィアの歩み寄った。そしてその隣でエドワールもまた、捕縛された騎士たち目を向ける。
「貴族の私腹を肥やすための政治は、今日で終わりにする」
エドワールは王族らしく威厳のある態度。そして鋭い瞳と毅然とした声で宣言する。
「王家の名のもとに命じる。不正を働き、国を食い物にした者たちの爵位を剥奪する」
ざわめく貴族たちを一瞥し、エドワールはさらに続けた。
「もはや、お前たちにこの国を支配する資格はない。今日をもって、貴族としての地位も特権も剥奪する。異論は認めない」
その言葉が響いた瞬間、衛兵たちが処分される貴族たちを部屋から連れ出した。
震え上がる者、青ざめて肩を落とす者、わめき散らす者たちを、エドワールは冷然しながら姿が消えるのを待つ。
「これが、正しき王国への第一歩だ」
こうして、リヴィアとエドワールの手により、腐敗した貴族たちと軍の不正に関わった商人たちは一掃された。
王国の防衛力は確実に強化されるはずだと、リヴィアとエドワールは互いに顔を見合わせた。
貴族のくだらない話が、侯爵令嬢リヴィア・エステールの耳に聞くともなく入ってきた。
リヴィアはそんな貴族に歩み寄り、涼やかな微笑みを見せる。
「慎ましさで国が守れるなら、どれほど楽なことでしょう」
リヴィアの一言で、貴族たちの間にざわめきが広がった。ここは王宮で開かれた夜会。王太子妃候補として招かれた令嬢たちは、誰もが控えめな笑みを浮かべ、着飾った姿でただ静かに佇んでいる。
だが、リヴィアは違った。
「王太子妃とは、ただ王太子の隣に立つだけの飾りではないはず。ならばその力をどう使うのか、考えるべきではなくて?」
慎ましやかな令嬢など、腹の足しにもなりはしないのだ。
堂々としたリヴィアの物言いに、保守派の貴族たちは顔を顰める。だが、一人だけ愉快そうに微笑んだ男がいた。
この国の王太子である、エドワール・ディアグランツだ。
「それが君の考えか」
低く響く声が、会場のざわめきを飲み込む。リヴィアは臆することなく、まっすぐ彼の瞳を見据えた。
「王太子殿下は、慎ましい令嬢がお好きですか?」
「どうだろうな。つまらない会話に飽きていたところだ」
エドワールはワイングラスを軽く傾けながら、リヴィアを見つめる。琥珀色の彼女の瞳は、ただの興味以上のものが宿っていた。
背中がゾクリとするほどの挑戦的なオーラ。エドワールは、他の令嬢にはないものを感じとり、口の端を上げる。
「面白い。君は、どこまでやれる?」
「試してみます?」
細められる目。令嬢とは思えない不敵な笑み。リヴィアの自信に満ちた挑戦的な態度に、エドワールの心は踊っていた。
エドワールの許可を受けたリヴィアは、翌日から動いた。
王国の問題点を洗い出し、解決策を提案するため、王宮の学者たちを訪ねたのだ。
まず手を付けたのは、貴族の利権が絡んだ税制の見直しである。
手元の資料を見ながら、リヴィアは訴えた。
「商業都市にかかる関税が過剰ですわ。貴族たちが独自に課税し、その収益を私的に流用しているのは明らか。この状況では商人たちの負担が増すばかりで、結果として商業の発展を妨げ、王国全体の経済も停滞するというもの」
リヴィアの発言に、しかし学者たちは眉を顰める。
「だが、それを撤廃すれば貴族たちの反発が──」
「ならば、彼らが不満を言えないようにすればいいのですわ」
凛然とした態度でリヴィアは続けた。
貴族による独自課税を禁じる勅令を起草しつつ、その代替策として爵位ごとの正式な収入保証制度を導入すればいい、と。
「貴族たちが勝手に関税を引き上げるのは、収入を増やす手段が限られているからですわ。ならば、王国が爵位に応じた一定の収入を保証し、不正な課税を行う必要がない仕組みを作ればよいのです」
リヴィアの案では、貴族たちの収入の一部を王国の歳入から割り当てる代わりに、彼らが商業都市に対して独自の課税を行うことを禁止する。
これにより、商人たちは過剰な関税負担から解放され、交易が活発化。商業が発展すれば、流通する商品の総量が増え、結果として国が正式に徴収する税収も増加する、というものだ。
「貴族たちは安定した収入を得られ、不正を働く必要がなくなる。商人たちは余計な負担がなくなり、商業が発展する。結果として王国の税収も増える……三方良しの策ですわ」
ただの令嬢であるリヴィアが、涼やかな笑みで論理的な提案をしたことに学者たちは驚き、王宮の官僚たちも関心を示し始めた。
その方向で検討していこうという話し合いが進む中。
この動きを快く思わない者たちも、存在した。
「エステール侯爵令嬢は生意気だ」
「女が政治に口を出すなど笑止!」
「どうにかして失脚させねば」
一部の貴族たちが集まり、リヴィアを排除する策を練り始めたのである。
「そうだな……ならば、彼女の発言がいかに愚かか、公の場で恥をかかせてやればいい」
貴族たちはニヤリといやらしい口元を上げて頷き合う。
こうして一部の貴族の陰謀のもと、リヴィアは宮廷会議という討論の場に引きずり出されることになった。
「リヴィア・エステール、お前の提案は机上の空論に過ぎん。財政についてなにも知らぬ令嬢が、なにを言っているのやら」
矢面に立たされるリヴィア。王太子エドワールはなにも言わずに、その会議の行方を見守る。
会議の場には貴族や軍の将だけでなく、いつもはいない軍需商人の姿もあった。
リヴィアを追求しているのは、大臣の一人だ。鼻で笑いながら言い放った彼に、周囲の貴族たちも同調し、嘲笑の視線をリヴィアへと向けている。
しかしリヴィアは凛と前を向いたまま、琥珀色の瞳をギラリと大臣に向けた。
「では大臣は、王国の財政の現状について説明できますか?」
リヴィアの鋭い瞳を受けた大臣は、言葉を詰まらせる。
「な……と、当然だ」
「では現在、王国の収入の約三割が不明瞭な支出に消えている事実を、もちろんご存知ですわね?」
リヴィアは用意していた資料を広げ、財務管理の杜撰さを指摘していく。
「この支出の正体を調べたところ、王宮の宴会費や一部の貴族の私的な贈答品に使われていました。これは不正では? あら、大臣のお名前もここにございますわね」
「……っ!」
会議室がどよめく。
リヴィアの徹底的に調査を行っていたのだ。家柄に見合わない贈答品のやりとりが続いていたことに、リヴィアは以前から不信感を抱いていた。
もちろん、行っているのは一部の貴族で、リヴィアのエステール侯爵家は関わっていない。
「王国の未来のため、これらの不正を正すべきでは?」
リヴィアの指摘に、誰も反論できずに目を逸らす。
エドワールだけは面白いものを見るように口元を上げていた。
さらにリヴィアは軍備の整備に手を付ける。
「現在の軍の兵站管理も酷いものですわね。武具の品質は落ち、兵士の給料は遅れがち。軍が弱体化すれば、いずれ隣国に付け込まれます」
「しかし、それは軍の問題だ。令嬢が口を出すことではない!」
反発したのは、軍の一部の将たちだ。もちろんリヴィアは、迫力のある将の言葉にも動じたりはしない。
「では、お聞きしますが……この三年間で どれほどの物資が横流しされたか、ご存知ですか? 」
「は……?」
リヴィアは将軍に憐憫とも侮蔑とも取れる目を送りながら、机に資料を広げる。
「ある武器商人の帳簿を調べたましたところ、王宮が発注したはずの剣のうち、三割が市場に流れていましたわ」
「そんな馬鹿な!」
「さらに、兵士たちへの給金の支払い状況も確認いたしました。ある地域では税収の減少を理由に給金が引き下げられている者もおりましたわ。実際の税収は増加しているにも関わらずです」
軍の幹部たちが騒然とする。末端の兵のことまで、上は把握できていなかったのだ。
「誰がそんなことを──」
「それも当然調べております。この横流しの根源は、貴族派の軍需商人たちですわ」
軍需商人とは、戦争や軍事に必要な物資や武器を提供する商人たちのことである。
リヴィアは軍の兵站部門に食い込んでいた貴族たちの不正にまで目を向けたのだ。
「通常、軍需商人は、政府と契約を結ぶものですわ。けれど彼らの中には、兵士への物資や給料を不正に横流しして市場で転売したり、発注金額を水増ししてその差額を得ようとする者もいます。このような商人たちは、貴族派の後ろ盾を得て、軍の物資調達において大きな権限を握っていたのです」
顔色を悪くする貴族が数名。エドワールはその者たちを強く睨みつける。
そんな王太子に問いかけるように、リヴィアは大仰に手を広げた。
「このままでは、軍の士気は下がり、王国の防衛も危ういでしょう。この不正に関わった者たちの取り調べを即時に行うべきですわ、王太子殿下」
将たちは驚き、貴族派の軍需商人たちは青ざめる。
リヴィアは軍部商人をこの場に招いたように見せかけて、実際には呼び立てていたのだ。腐敗を一掃させるために。自分を潰そうとしてくるこの会議の場を、逆に利用して。
事態を見守っていた王太子エドワールが、おもむろに立ち上がった。
そして威厳に満ちた怒りの声を、室内に響き渡らせる。
「軍を蝕む腐敗など、許されない。今この場で、不正に関わった貴族たちを捕縛せよ!」
王太子の言葉に、王宮の衛兵たちが即座に動いた。軍需商人や不正に関わった貴族たちに、次々と縄をかけていく。
「くっ……エステール侯爵令嬢、貴様……!」
排除しようとしたはずの令嬢に逆に追い詰められた貴族たちは、屈辱で顔を歪めた。
もはや抗う術もなく拘束された彼らは、悔しげに歯を噛み締めている。
リヴィアはそんな姿を見て冷涼に微笑むと。
「これが、わたくしのやり方ですわ」
刺すような琥珀色の瞳で、怯える貴族たちを見下ろした。
「私腹を肥やすことに夢中で、国の行く末を顧みない……そんな方々に、この場に立つ資格などありませんわ!!」
ずっと燻っていた怒りの言葉を解き放つ。
その迫力に貴族や商人はヒッと声を出して怯え、大臣や将は黙り込む。そんな中、一人静かに笑う男がいた。
「見事だな」
エドワールはカツンと音を立ててゆっくりとリヴィアの歩み寄った。そしてその隣でエドワールもまた、捕縛された騎士たち目を向ける。
「貴族の私腹を肥やすための政治は、今日で終わりにする」
エドワールは王族らしく威厳のある態度。そして鋭い瞳と毅然とした声で宣言する。
「王家の名のもとに命じる。不正を働き、国を食い物にした者たちの爵位を剥奪する」
ざわめく貴族たちを一瞥し、エドワールはさらに続けた。
「もはや、お前たちにこの国を支配する資格はない。今日をもって、貴族としての地位も特権も剥奪する。異論は認めない」
その言葉が響いた瞬間、衛兵たちが処分される貴族たちを部屋から連れ出した。
震え上がる者、青ざめて肩を落とす者、わめき散らす者たちを、エドワールは冷然しながら姿が消えるのを待つ。
「これが、正しき王国への第一歩だ」
こうして、リヴィアとエドワールの手により、腐敗した貴族たちと軍の不正に関わった商人たちは一掃された。
王国の防衛力は確実に強化されるはずだと、リヴィアとエドワールは互いに顔を見合わせた。
71
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました
皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」
頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。
彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。
この一言で彼女の人生は一変した――。
******
※タイトル少し変えました。
・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。
・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
婚約破棄された堅物令嬢ですが、鬼の騎士団長の娘として宮廷の陰謀を暴くのに忙しいので、美貌のカストラート(実は王子)に溺愛される暇はありません
綾森れん
恋愛
「お前のような真面目くさった女はいらない。婚約は破棄させてもらう!」
婚約者だった公爵令息に冷酷に言い放たれたリラ・プリマヴェーラ。
だが、彼女の心にあったのは悲しみではなく―― 十年前の王族暗殺事件を調査したいという情熱だった。
伯爵令嬢であるリラは、鉄の掟を守る『鬼の騎士団長』の娘。
彼女には恋よりも何よりも優先すべき使命があった。それは、十年前に幼い王子が暗殺された事件の真相を暴き、父を、そして王国を陰謀から救うこと。
婚約破棄直後、彼女の前に現れたのは、天使の歌声を持つ美貌のカストラート(去勢歌手)、アルカンジェロだった。
彼が十年前の事件について密かに調べていることを、リラは知ってしまう。
真相を探るため、リラは彼を自分の音楽教師として迎え入れ、距離を縮めていく。
事件解決の協力者として彼と接するうち、リラは謎めいたアルカンジェロに危機を救われることになる。
しかし、リラは知らない。
アルカンジェロの正体が、十年前に暗殺されたはずの第三王子であることを。
そして彼にとってリラこそが、初恋の女性であることを。
彼は十年間、密かにリラを想い続けていたのだ。
王位を狙う者たちから身を隠すため、声楽の技術を駆使して、教会歌手として大聖堂で生き延びてきたアルカンジェロだったが、王家を巡る不穏な陰謀が静かに動き始めていた。
捜査に猪突猛進な堅物令嬢と、彼女を影から支え執着を見せる、カストラート歌手のふりをした王子。
宮廷の闇を切り裂く二人の恋と事件の行方は――?
※本作は、過去に投稿していた『真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています』の設定・キャラクター・構成を大幅に改稿し、新作として再構成したものです。
物語の結末やキャラクターの掘り下げを強化しておりますので、初めての方も、以前お読みいただいた方もお楽しみいただけます。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる