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「くっ、殺せ!」と叫びながら、姫騎士は魔王の溺愛に堕ちていく。
中編
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ネメシアが魔王城にきて、七十日目。
「ネメシア。……これを、お前に」
俺は花束を差し出した。
漆黒のバラに、夜明け色のラナンキュラス。魔界と人界、二つの色を束ねたものだ。
「な、ななな、なぜ花など……っ!」
「……今日が、お前の誕生日だからだ。俺は忘れていない」
「くっ……く、……っ……!」
……ん? 今日は殺せと言わないのか?
「変なものでも食ったのか? 熱でもあるのではないだろうな」
俺はネメシアの腕を掴み、グイッと引き寄せた。
そして額を彼女の額に押し当てる。
うむ、熱はなさそうだが……ん? いきなり体温が上昇したぞ。
「大丈夫か、ネメシア。寝室まで連れていこう」
「うびゃああっ」
ひょいと横抱きにすると、ネメシアが可愛い声を上げた。
花束を持って、真っ赤な顔を隠している。
寝室のベッドに下ろしても、ぎゅっと花束を抱えていた。
「この花束は、女官に預けておくか」
「……いやだ」
「ネメシア?」
「いいから私のことなど放っておけ! 私の部屋だぞここは! 出ていけ!」
……ちょっと傷つくぞ。
──さすがに、人間国が恋しくなったのだろうか。
俺のわがままでネメシアがここにいるのだ。
もしも彼女が帰りたいと言えば、俺は……無理にそばに置いておくことはできん。
……くそっ。
「……ゆっくり眠るのだぞ、ネメシア」
「~~ッ、ッ!」
俺はネメシアに背を向けた。思った以上につらい。
っく、殺せ……っ
こんな思いをするくらいなら、いっそ誰か俺を殺してくれ……ッッ
ネメシアの部屋を出て、扉を閉めたその時。
「んああぁぁぁああああ……んくぅ、殺せぇぇ……っ」
やたら色っぽく切ない声で、ベッドでごろごろしてる音が聞こえてきた。
しばらく沈黙していた俺だが、肩の力が抜けた。
まったく……。
「そういうことか」
俺はそっと、扉に背中を預けて小さく笑った。
そうか、そうか。
つまり──あの花束、思ったよりずっと嬉しかったんだな。
「ネメシアのやつ……可愛すぎる」
あんなに頑ななのに、一人の時にだけ、思いきり喜びを出すとは。
本当は、誰よりも素直に、俺の気持ちを受け取ってくれている。
「……なら、もう少しだけ、俺のわがままに付き合ってもらうか」
俺はそっと、扉に手を添えた。
「おやすみ、俺の可愛いネメシア。いい夢をな」
俺が声を掛けると、部屋の向こうではネメシアが転がっている。
「~っ……っふ、ふにゃぁ……っくぅ、こ、ころ……せぇ……っ!」
泣きそうで、でもやたらと色っぽい声。
俺は笑いを堪えながら、静かにその場を離れた。
胸の中には確かな安心と、甘やかな想い。
まさか、最初に出会った時にはこんな気持ちを抱くようになるとは思わなかった。
愛という感情は、実に面白い。
ネメシアが魔王城にきて、七十二日目。
「ネメシア、今日は人間の国でいう“抱きしめたい日”らしいぞ」
「知らん!!! ち、近寄るな!」
でも、腕を引いて抱きしめると。
「~~~~ッッ……! こ、ころ、ころ、ころころころころ、殺せぇえええええ!!!」
……可愛すぎて、俺が死ぬかもしれん。
ネメシアが魔王城にきて七十五日目。
「ネメシア、今日は“好きな人を名前で呼ぶ日”だ」
「ふざけた記念日をでっちあげるな!!」
「いや、本当にあるらしい」
嘘だが。
「だから俺の名を呼べ」
「なななっ」
「恥ずかしがらずともいいだろう。三十五日目に名を呼んでくれたことを、俺は覚えている」
「なんでいちいちそんなことを覚えているのだ、貴様は!」
「ネメシアが初めて俺の名を呼んだ日だからな。忘れるものか」
ネメシアは耳まで真っ赤になった。可愛い。
「ネメシア」
「……貴様は、私が、好き、なのか?」
「ああ、好きだが」
「~~~~ッ!!??」
息しろよ?
「俺の名も、遠慮せず呼んでくれていいんだぞ」
「誰が……っ」
「さては、名前を忘れてしまったか?」
「バカにするな! 忘れるわけがあるか、ラガンロク……っあ」
本当に言ってくれた。嬉しいものだな。
「名前を呼んだということは、ネメシアは俺のことを好きということでいいんだな?」
「……くぅ……こ、殺せぇ……」
「本当に可愛いな、ネメシアは」
思わず抱きしめると、ネメシアはドカンと爆発して倒れた。
ネメシアが魔王城にきて、八十日目。
「今日は“キスの日”だ」
「嘘つけ!! そんな日があってたまるか!!」
「いや、これは本当にあるらしい」
「これは、だと? ラガンロク、貴様まさか……」
しまった、口が滑った。
「小さいことは気にするな。とにかく今日はキスの日だ」
「……また私をからかう気か?」
「からかってなどいない。本気だ。……唇を出せ」
「出せるかぁああああああああああ!!!!」
真っ赤になって怒って、ネメシアは一歩後ずさった。
「安心しろ。無理やりはしない。ただ、お前の、その顔を見たかっただけだ」
「なっ……!」
「耳まで真っ赤になって、どうしてそんなに可愛いんだ、お前は。鏡でも見るか?」
「くっ……くっ、殺せぇええええええええええええ!!!!」
しまった、これは本当に怒らせてしまったようだ。
「残念……お前とのキスは、できないか……したかったのだが」
「~~ッッ!」
「ネメシアの許しが出る時まで、俺は我慢しよう」
「……ッ。……っ、く、くそ……どうして……そういうことを、言うのだ……」
ん? 風向きが……変わったか?
ネメシアは口を尖らせながら。せわしなく視線を動かし始めた。
「……べ、別に、おまえがキスしないって言うなら……私がするとは言ってないが、だが……! 別に、構わん……ような……構うような……どっちだろうな……」
「ネメシア、それは許可か?」
「し、知らん!! 自分で考えろ!!!!」
俺が決めていいのか。
それなら答えは決まってる。
「許可、だな」
そう言って近づいても、ネメシアはもう逃げなかった。
拳も振るわないし、怒鳴り声も飛んでこない。
睨みつけてはいるが、その目は潤んで揺れていた。
ほんの一瞬、指先が彼女の髪に触れる。
ビクリと肩が震えた。
だが、拒絶はされなかった。
「……目を閉じろ、ネメシア」
「っ……閉じん……」
それでも。俺はそっと、彼女の頬を片手で包み。
そっと、唇を重ねた。
やわらかくて、熱い。
一瞬で、世界が静かになる。
触れるだけの、優しいキスだった。
……はずなのに。
「ん……ぁ……」
唇が離れた瞬間、
ネメシアは小さく息を吸い、ひざから力が抜けそうになるのを必死にこらえていた。
赤い。
耳の先まで、首筋まで、きっと全身が。
隈なく見てみたい衝動に襲われる。
「ネメシア?」
「……こ、ころせぇ……」
とろけるような、甘ったるい声。
やばい……これは……
「お前の可愛さで、俺の方が死にそうなんだが」
「……う、うるさい……ッ!! 見るな、見るな……っ!」
俺の胸を押す手も、いつもより力が入っていない。
可愛すぎる。
抱きしめて、奪って、もっと溺れさせたくなる。
……だが、今はこのくらいにしておこう。
また明日、からかいながら続きができるように。
八十一日目。
「ちゅっ」
「こ、こ、こ、殺せぇ……っ」
朝の挨拶がわりに頬へひとつ。
ネメシアは椅子ごとひっくり返りそうになった。
何度見てもこの反応は飽きない。
八十二日目。
「ちゅっ」
「……殺せ……」
もはや定番。頬にひとつ、軽く。
今日は立ちくらみのように壁に手をついて、赤い顔を隠していた。
八十三日目。
「ちゅ、ちゅっ」
「はぁ、ラガンロク、貴様いつまでしているぅっ……!」
おでこ、頬、耳──数カ所に連続で。
そのたびにネメシアの声が高くなる。
俺は涼しい顔をして言ってやった。
「健康のためだ」
「嘘をつくなーーッ!!」
本当なのだがな。愛情は寿命を伸ばすらしいぞ。
八十四日目。
「おいネメシア、顔を見せろ。見えん」
「……無理だ……生きていけぬ……っ」
耳たぶに一つ。
彼女は真っ赤なままソファに顔をうずめ、二時間動かなかった。
八十五日目。
「好きだ、ネメシア」
「っっっっ!!!! わ、私を心臓麻痺で殺す気か!!?」
膝が笑うように座り込んで、クッションを投げてきた。
俺の胸に当たって、軽く跳ねた。
八十六日目。
「今朝は、唇が冷えているな。温めよう」
「そんなところ、冷えているわけが──」
逃げようとするネメシアを後ろから引き寄せ、髪をかきあげてうなじに軽くキスした。
その場で崩れ落ちた。
八十七日目。
「ほら、今日もひとつ」
「い、いらん……いらぬっ……!」
「そうか。残念だ」
俺はさっと引いて椅子に座る。
するとネメシアは、もぞもぞとしながら隣にやってきた。
「し、仕方がないな……一度だけなら、許してもいい」
推してダメなら引いてみろとは言うが、効果は覿面だったようだ。
俺はネメシアを抱き寄せて──初めて、深いキスをした。
「……ころ、殺せぇええええええええ!!!!」
今日もいい叫びっぷりだ。
八十八日目。
「ネメシア、昨日より可愛いな」
「そ、それはラガンロクの錯覚だっ……」
「じゃあ証明しよう」
俺はネメシアを抱きかかえて座る。
じっと見つめるだけでネメシアの顔は赤くなり、ドギマギしていてやはり最高に可愛い。
愛しさが溢れて止まらない。
見つめ合うだけで、俺の心臓は止まりそうだった。
「ネメシア。……これを、お前に」
俺は花束を差し出した。
漆黒のバラに、夜明け色のラナンキュラス。魔界と人界、二つの色を束ねたものだ。
「な、ななな、なぜ花など……っ!」
「……今日が、お前の誕生日だからだ。俺は忘れていない」
「くっ……く、……っ……!」
……ん? 今日は殺せと言わないのか?
「変なものでも食ったのか? 熱でもあるのではないだろうな」
俺はネメシアの腕を掴み、グイッと引き寄せた。
そして額を彼女の額に押し当てる。
うむ、熱はなさそうだが……ん? いきなり体温が上昇したぞ。
「大丈夫か、ネメシア。寝室まで連れていこう」
「うびゃああっ」
ひょいと横抱きにすると、ネメシアが可愛い声を上げた。
花束を持って、真っ赤な顔を隠している。
寝室のベッドに下ろしても、ぎゅっと花束を抱えていた。
「この花束は、女官に預けておくか」
「……いやだ」
「ネメシア?」
「いいから私のことなど放っておけ! 私の部屋だぞここは! 出ていけ!」
……ちょっと傷つくぞ。
──さすがに、人間国が恋しくなったのだろうか。
俺のわがままでネメシアがここにいるのだ。
もしも彼女が帰りたいと言えば、俺は……無理にそばに置いておくことはできん。
……くそっ。
「……ゆっくり眠るのだぞ、ネメシア」
「~~ッ、ッ!」
俺はネメシアに背を向けた。思った以上につらい。
っく、殺せ……っ
こんな思いをするくらいなら、いっそ誰か俺を殺してくれ……ッッ
ネメシアの部屋を出て、扉を閉めたその時。
「んああぁぁぁああああ……んくぅ、殺せぇぇ……っ」
やたら色っぽく切ない声で、ベッドでごろごろしてる音が聞こえてきた。
しばらく沈黙していた俺だが、肩の力が抜けた。
まったく……。
「そういうことか」
俺はそっと、扉に背中を預けて小さく笑った。
そうか、そうか。
つまり──あの花束、思ったよりずっと嬉しかったんだな。
「ネメシアのやつ……可愛すぎる」
あんなに頑ななのに、一人の時にだけ、思いきり喜びを出すとは。
本当は、誰よりも素直に、俺の気持ちを受け取ってくれている。
「……なら、もう少しだけ、俺のわがままに付き合ってもらうか」
俺はそっと、扉に手を添えた。
「おやすみ、俺の可愛いネメシア。いい夢をな」
俺が声を掛けると、部屋の向こうではネメシアが転がっている。
「~っ……っふ、ふにゃぁ……っくぅ、こ、ころ……せぇ……っ!」
泣きそうで、でもやたらと色っぽい声。
俺は笑いを堪えながら、静かにその場を離れた。
胸の中には確かな安心と、甘やかな想い。
まさか、最初に出会った時にはこんな気持ちを抱くようになるとは思わなかった。
愛という感情は、実に面白い。
ネメシアが魔王城にきて、七十二日目。
「ネメシア、今日は人間の国でいう“抱きしめたい日”らしいぞ」
「知らん!!! ち、近寄るな!」
でも、腕を引いて抱きしめると。
「~~~~ッッ……! こ、ころ、ころ、ころころころころ、殺せぇえええええ!!!」
……可愛すぎて、俺が死ぬかもしれん。
ネメシアが魔王城にきて七十五日目。
「ネメシア、今日は“好きな人を名前で呼ぶ日”だ」
「ふざけた記念日をでっちあげるな!!」
「いや、本当にあるらしい」
嘘だが。
「だから俺の名を呼べ」
「なななっ」
「恥ずかしがらずともいいだろう。三十五日目に名を呼んでくれたことを、俺は覚えている」
「なんでいちいちそんなことを覚えているのだ、貴様は!」
「ネメシアが初めて俺の名を呼んだ日だからな。忘れるものか」
ネメシアは耳まで真っ赤になった。可愛い。
「ネメシア」
「……貴様は、私が、好き、なのか?」
「ああ、好きだが」
「~~~~ッ!!??」
息しろよ?
「俺の名も、遠慮せず呼んでくれていいんだぞ」
「誰が……っ」
「さては、名前を忘れてしまったか?」
「バカにするな! 忘れるわけがあるか、ラガンロク……っあ」
本当に言ってくれた。嬉しいものだな。
「名前を呼んだということは、ネメシアは俺のことを好きということでいいんだな?」
「……くぅ……こ、殺せぇ……」
「本当に可愛いな、ネメシアは」
思わず抱きしめると、ネメシアはドカンと爆発して倒れた。
ネメシアが魔王城にきて、八十日目。
「今日は“キスの日”だ」
「嘘つけ!! そんな日があってたまるか!!」
「いや、これは本当にあるらしい」
「これは、だと? ラガンロク、貴様まさか……」
しまった、口が滑った。
「小さいことは気にするな。とにかく今日はキスの日だ」
「……また私をからかう気か?」
「からかってなどいない。本気だ。……唇を出せ」
「出せるかぁああああああああああ!!!!」
真っ赤になって怒って、ネメシアは一歩後ずさった。
「安心しろ。無理やりはしない。ただ、お前の、その顔を見たかっただけだ」
「なっ……!」
「耳まで真っ赤になって、どうしてそんなに可愛いんだ、お前は。鏡でも見るか?」
「くっ……くっ、殺せぇええええええええええええ!!!!」
しまった、これは本当に怒らせてしまったようだ。
「残念……お前とのキスは、できないか……したかったのだが」
「~~ッッ!」
「ネメシアの許しが出る時まで、俺は我慢しよう」
「……ッ。……っ、く、くそ……どうして……そういうことを、言うのだ……」
ん? 風向きが……変わったか?
ネメシアは口を尖らせながら。せわしなく視線を動かし始めた。
「……べ、別に、おまえがキスしないって言うなら……私がするとは言ってないが、だが……! 別に、構わん……ような……構うような……どっちだろうな……」
「ネメシア、それは許可か?」
「し、知らん!! 自分で考えろ!!!!」
俺が決めていいのか。
それなら答えは決まってる。
「許可、だな」
そう言って近づいても、ネメシアはもう逃げなかった。
拳も振るわないし、怒鳴り声も飛んでこない。
睨みつけてはいるが、その目は潤んで揺れていた。
ほんの一瞬、指先が彼女の髪に触れる。
ビクリと肩が震えた。
だが、拒絶はされなかった。
「……目を閉じろ、ネメシア」
「っ……閉じん……」
それでも。俺はそっと、彼女の頬を片手で包み。
そっと、唇を重ねた。
やわらかくて、熱い。
一瞬で、世界が静かになる。
触れるだけの、優しいキスだった。
……はずなのに。
「ん……ぁ……」
唇が離れた瞬間、
ネメシアは小さく息を吸い、ひざから力が抜けそうになるのを必死にこらえていた。
赤い。
耳の先まで、首筋まで、きっと全身が。
隈なく見てみたい衝動に襲われる。
「ネメシア?」
「……こ、ころせぇ……」
とろけるような、甘ったるい声。
やばい……これは……
「お前の可愛さで、俺の方が死にそうなんだが」
「……う、うるさい……ッ!! 見るな、見るな……っ!」
俺の胸を押す手も、いつもより力が入っていない。
可愛すぎる。
抱きしめて、奪って、もっと溺れさせたくなる。
……だが、今はこのくらいにしておこう。
また明日、からかいながら続きができるように。
八十一日目。
「ちゅっ」
「こ、こ、こ、殺せぇ……っ」
朝の挨拶がわりに頬へひとつ。
ネメシアは椅子ごとひっくり返りそうになった。
何度見てもこの反応は飽きない。
八十二日目。
「ちゅっ」
「……殺せ……」
もはや定番。頬にひとつ、軽く。
今日は立ちくらみのように壁に手をついて、赤い顔を隠していた。
八十三日目。
「ちゅ、ちゅっ」
「はぁ、ラガンロク、貴様いつまでしているぅっ……!」
おでこ、頬、耳──数カ所に連続で。
そのたびにネメシアの声が高くなる。
俺は涼しい顔をして言ってやった。
「健康のためだ」
「嘘をつくなーーッ!!」
本当なのだがな。愛情は寿命を伸ばすらしいぞ。
八十四日目。
「おいネメシア、顔を見せろ。見えん」
「……無理だ……生きていけぬ……っ」
耳たぶに一つ。
彼女は真っ赤なままソファに顔をうずめ、二時間動かなかった。
八十五日目。
「好きだ、ネメシア」
「っっっっ!!!! わ、私を心臓麻痺で殺す気か!!?」
膝が笑うように座り込んで、クッションを投げてきた。
俺の胸に当たって、軽く跳ねた。
八十六日目。
「今朝は、唇が冷えているな。温めよう」
「そんなところ、冷えているわけが──」
逃げようとするネメシアを後ろから引き寄せ、髪をかきあげてうなじに軽くキスした。
その場で崩れ落ちた。
八十七日目。
「ほら、今日もひとつ」
「い、いらん……いらぬっ……!」
「そうか。残念だ」
俺はさっと引いて椅子に座る。
するとネメシアは、もぞもぞとしながら隣にやってきた。
「し、仕方がないな……一度だけなら、許してもいい」
推してダメなら引いてみろとは言うが、効果は覿面だったようだ。
俺はネメシアを抱き寄せて──初めて、深いキスをした。
「……ころ、殺せぇええええええええ!!!!」
今日もいい叫びっぷりだ。
八十八日目。
「ネメシア、昨日より可愛いな」
「そ、それはラガンロクの錯覚だっ……」
「じゃあ証明しよう」
俺はネメシアを抱きかかえて座る。
じっと見つめるだけでネメシアの顔は赤くなり、ドギマギしていてやはり最高に可愛い。
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