若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗

文字の大きさ
38 / 115
第二章 男装王子の秘密の結婚 〜王子として育てられた娘と護衛騎士の、恋の行方〜

038●フロー編●33.王位継承

しおりを挟む
 そうして王となる決意をしてクッキーを食べた三ヶ月後。

「フローリアン・ヴェッツ・ラウツェニングを、第五十七代ハウアドル国王に任命する」

 民衆の前で、前国王となったディートフリートフリートから新国王へと王冠が被せられた。戴冠式だ。

 石造りの城のバルコニーからは、一目見ようと詰めかけた多くの人の姿が見える。
 ディートフリートの退位を惜しむ声と、新国王誕生を喜ぶ声が半々だ。
 フローリアンは代々伝わる煌びやかな王冠の重みを感じながら、人々を一望した。
 上がっていた様々な声が、少し待つと鎮まり返る。皆、新王の言葉を待っているのだ。
 フローリアンは息を吸い込むと、心を落ち着かせながら口を開いた。

「我がハウアドル王国の未来は、常に国民と共にある。僕の使命は、国民の幸福と繁栄を守ることである。僕は皆のために在り、困難な時も、喜びに満ちた時も、共に心を分かち合うことをここに誓う!」

 フローリアンの言葉に、人々が声を上げ始める。
 民衆の喜びの顔を直接見ると、胸に勇気が湧いてくるようで。

「皆で力を合わせ、より良い未来を築いていこう!」

 叫ぶように伝えると、人々の盛り上がりはさらに大きくなった。
 心に響く歓声に胸が熱くなりながら、フローリアンは手を振り続ける。

 こうしてフローリアンは、ハウアドル王国始まって以来の最年少の王となったのだった。

「お疲れ様でした、王子……じゃなくて、王!」

 城の中に戻ると、ラルスがいつものように笑顔で迎えてくれた。

「フロー様、戴冠おめでとうございます。とても感動いたしましたわ」

 婚約者のツェツィーリアが、胸の前で手を合わせて褒めてくれる。

「素晴らしい演説でした、陛下。民の心も掴めたことでしょう」

 本日から正式にフローリアンの臣下となったシャインが、金髪をなびかせながら言った。

「ありがとう、みんな。これからもよろしく頼むよ」

 フローリアンが目を向けると、それぞれにもちろんだと応えてくれる。
 この三人が近くにいてくれることが、本当に心強い。

 兄の方を見ると、すでに煌びやかな衣装は取り払われていた。
 退位と同時にディートフリートは王族を離脱する。やはり寂しさはあるが、もうわがままを言うつもりはない。

「兄さま、もう行かれるんですね」
「ああ。待たせている人がいるからね」

 ディートフリートは、ユリアーナのいるエルベスという町に住む予定だ。
 兄のそばには元護衛騎士のルーゼンもいる。彼も妻のメルミと共に、エルベスへと移住するのだそうだ。護衛騎士ではなくなるが、町の警備騎士として働くのだと言っていた。
 今さら町の警備騎士にならずとも、ここにいれば良い役職がいくらでも用意できるというのに、そんなものに興味はないらしい。
 しかし一般人となる兄を見守ってくれるというなら、ありがたい話だ。

「幸せになってください、兄さま」
「ありがとう、フロー」
「ルーゼンも、兄さまを頼んだよ」
「任せてください!」

 ディートフリートと一緒に行けるルーゼンが羨ましい。
 けれどフローリアンはその気持ちをぐっと押し隠し、ちらりとシャインに目だけを向けた。

(誰より一緒に行きたいのは……僕よりシャインなのかもしれない)

 何十年も一緒にいた三人だというのに、一人だけ行けないのだ。
 シャインは顔に出さないタイプなのでなにを考えているのかわからないが、なんとなく気持ちは推察することができた。

「じゃあ、フロー。頑張るんだよ」
「はい。兄さまも体に気をつけて」
「ありがとう」

 どちらからともなく抱擁する。
 寂しくはあっても、悲しくはなかった。
 兄を祝福で送り出せる自分が、少し誇らしくもある。

「ではシャイン、ラルス、ツェツィーリア。フローのことをよろしく頼む」

 抱擁を解いたディートフリートはそう頼み、三人は力強く頷いた。

「では、またいつか必ず会おう」
「はい、兄さま!」

 フローリアンの明るい声を聞いたディートフリートは、破顔した。
 それは弟が涙を見せずに送り出してくれたことが嬉しかったのか……それとも、ようやく愛する人の元へ行けることが嬉しかったのか。
 おそらく両方だろう。
 あんなに兄の砕けた笑顔を見たのは、フローリアンでも初めてだった。

 そうしてディートフリートはルーゼンと共に、エルベスの町へと旅立ったのだった。

「フローリアン様もシャイン殿も、寂しくなりますね……」

 ラルスが気遣ってくれたのか、少し力のない声でそう言った。

「私は平気ですよ。妻も娘も王都住まいですから行くわけには参りませんし、新しい王に仕えられるなど、望外の喜びです」
「うん、僕も意外に平気だ。ラルスやシャイン、それにツェツィーがいるから」
「王……!」
「フロー様……!」

 ラルスとツェツィーリアが嬉しそうに顔を綻ばせる。
 シャインは「成長されましたね」と喜んでくれて、少し照れてしまったが。

 王となり、気持ちも新たになったフローリアン。
 もちろん問題がなくなったわけではない。しかし。

(悲観的になりすぎず、僕なりに頑張っていくんだ。みんながついてるんだから)

 新国王は、そう前向きになることができたのだった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

ワザとダサくしてたら婚約破棄されたので隣国に行きます!

satomi
恋愛
ワザと瓶底メガネで三つ編みで、生活をしていたら、「自分の隣に相応しくない」という理由でこのフッラクション王国の王太子であられます、ダミアン殿下であらせられます、ダミアン殿下に婚約破棄をされました。  私はホウショウ公爵家の次女でコリーナと申します。  私の容姿で婚約破棄をされたことに対して私付きの侍女のルナは大激怒。  お父様は「結婚前に王太子が人を見てくれだけで判断していることが分かって良かった」と。  眼鏡をやめただけで、学園内での手の平返しが酷かったので、私は父の妹、叔母様を頼りに隣国のリーク帝国に留学することとしました!

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

処理中です...