普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎

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最低なセフレから逃げたらヤンデレ化させてしまって逃げられない

受けサイド

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だから嫌なんだ、こいつの部屋に来るのは。
俺よりも5歳も年下のくせに余裕たっぷりで、いつも俺が傷つくのを楽しむ男の部屋なんか、もう一生来ないと思ったのに。


昨日は久々の休みだった。中小企業で働く俺はこのご時世でもサービス残業当たり前。
上司の怒号をBGMにモヤのかかった頭でPCと向かい合う毎日。
そんな中での何十日かぶりの休日に、俺は少し浮かれていたのかもしれない。


普段だったら休みは必ずと言って寝て過ごしていたが、なんだか昨日は気分がよかった。
特別ものすごく晴れていたわけでも、唯一の趣味の宝くじが当たった訳でもない(なんなら天気予報は降水確率60パーセント、先日宝くじはカッスカスだった)。
それでも昨日は柄にもなく、年に何度か行ったことがあり自分の中で勝手に行きつけだと思っているカフェに久しぶりにふらりと立ち寄った。

今日は何を頼もうか。モーニングは終わってしまったが、ランチの時間にはまだ少し早い。
あそこはコーヒーが美味いがたまには紅茶を飲むのもいいか。
まあなんだかんだでいつものコーヒーとサンドイッチになりそうだな。なんて少し通ぶりながら歩いていた。


仕事以外で外に出るなんてどれくらいぶりだろう。
相変わらず疲れからか寝不足からか、頭は上手く動かないし足取りも少し覚束無いがなんだかとても気分がいい。
明日からまた連勤、残業、連勤の毎日だが、なんだか頑張れそうな気がする。
そんなことを考えながら店のドアに手を掛けようとした時だった。
向かいから歩いてくる一人の男と目が合った。


その瞬間、その男は大きい目を更に大きく見開き、俺の腕を痛いくらい引っ張った。

流れていく景色、もつれる足。
俺は連勤明けの動かない頭で、ああ、やっぱりサンドイッチよりホットドッグのほうがいいかなあなどと呑気に考えていた。


たどり着いたのはこの男の部屋だった。
1ヶ月ぶりだ。
1ヶ月──あいつが知らない女と歩いているのを見て以来。


別に俺はこの男とつきあっているわけではないし。
友達というにはなにかが足りない気がするし。


こいつとはバーで知り合った。
まだ仕事に対してやりがいを感じていて、残業し終わっても俺は役に立っている、次の日も頑張るぞ、なんて意気込んでいた時代だ。
まだ若かった。
ヘタレなりに、1人でバーに行く男というステータスが欲しくて背伸びに背伸びをして銀座のバーに向かった。
…シラフで行く勇気はなかったため、チェーンの安い居酒屋で景気づけに何杯か飲んだ後だったが。



地下へ降りていくと重厚な扉があり、いかにもお洒落で大人なバーだと言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
生唾を飲み込み中へ入ると、さっきの居酒屋の騒音が恋しくなるほどの静寂。
正確に言えばなんかよくわからんクラシックのBGMがかかっているような気がするが、俺はそれどころではなかった。
クタクタのスーツによれよれのシャツ、薄汚れた革靴で来た自分がとにかく恥ずかしかった。
お洒落は足元からと言うし、せめて靴だけでも新調しとけば、いや、それよりも髪をきちんとセットした方がよかったか?いや、もうなによりも自分が場違いすぎて今すぐにでも消えてなくなりたい。
帰ろう、今すぐ。あと20年くらいしていい感じの大人に成長したら来よう。
そう考え俯きながら踵を返そうとした時、


「こんばんは」


と、心地よいバリトンの声がした。
ハッとして顔を上げると、彫刻のように綺麗な顔立ちの男が微笑んだ。
綺麗な瞳だった。
色素が薄いのか外国の血でも流れているのか、キャラメルのような、アーモンドのような、しかし光の当たり具合では少しグレーにも見える不思議な瞳だった。

その瞳に吸い込まれるように、俺はカウンターに、というより男の目の前に座った。


「こんばんは」


そうやって再び柔らかく微笑んだ男を見て、俺の心臓は先程の緊張とはまた違う感情でうるさいくらい脈打っていた。


***


この男が俺に微笑んだのなんて後にも先にもこの日くらいだ。
その後俺たちがどうなったかと言うと、いわゆる、セフレ。
もしかしたら、こいつはただの性欲処理のための道具だと思っているかもしれない。
それほどまでにこいつの俺への態度は酷いものだった。


こっちの予定も聞かないでいきなり部屋に押しかけてくるのは当たり前だし、急に呼び出されて部屋に行くと別の相手とお楽しみ中だったこともある。
男の時もあれば女の時もある。まあこの顔じゃほんのちょっと口角を上げただけで誰でも寄ってくるから仕方ない。


一緒に過ごせば過ごすほど、俺への男の態度は酷くなっていく一方だった。
殴る蹴るは日常茶飯事で、こいつの気分次第で抱かれる日もあればシーツ1枚で追い出される日もあった。
それでも、毎日のように美男美女に囲まれてるこの男の中で、平凡な自分だけが1番長く一緒にいる自負はあった。
なぜなら鉢合わせた相手の中で、1人として同じ相手と出会ったことがないからだ。


自分だけには心を許している。
自分だけには感情をぶつけてくれる。
それがたまらなく嫌だった。
1人の、しかも年下の男に振り回される自分が。
そんな俺を見て、楽しそうに口元を歪めるこの男が。


1ヶ月前、知らない女に柔らかく笑ったこいつと、それを見てどろっとした黒い感情が一瞬で湧き上がった自分が。



だから離れた。
もうこいつには振り回されたくない。
次こそは、人並みの幸せな恋をしたい。
別に顔が良くなくても、俺を最優先しなくてもいい。
たまにデートをして、手を繋いで、お互いはにかんで、なんなら少しくらい束縛されてもいい。
そんな普通の恋がしたい。
そう思ったのに。


目が覚めて一番最初に視界に入ったのは、あいつの部屋の天井だった。
容姿も、地位も、名声も。あいつが望めば手に入らないものはない。
悔しいが、この世のすべてがあの男の下僕なのだ。


重い下腹部。
乱れたシーツ。
痛む喉。


1ヶ月前と何も変わらない。

何も、



何も?

関節の痛みに、手首が頭の上、ベッドヘッドに固定されているのに気づく。
昨日抱かれたときにはなかったはずだ。
いつの間に、なんのために。


抱かれたら荷物をまとめてすぐに出て行くことが常だった。
セックスの余韻を楽しむなんてこともあるはずない。
いつもと同じだと思っていた。
あいつに振り回されて、それでもあいつを憎めない自分。


「お目覚めか?」


いつの間にかベッドのそばにいる男。
俺の醜態を一番喜ぶ男。


あぁ、そうか。


「新手の嫌がらせはやめろ。」


こうして自由を奪い、狼狽える俺を見たいんだろう?
俺が1ヶ月、お前からの連絡を無視し、住む場所を変えたのが気にくわないんだろう?
何をしても許される道具が勝手にいなくなって、怒っているんだろう?


目の前の男はひたすら無表情で俺を見下ろしている。
俺の推測は正しいはずだ。
勝手な行動を取った俺への嫌がらせ、そうだろう?


しかし。
何かが、いつもと違う。

底冷えする空気。
まるで銃口を向けられているような。


「お前は何か勘違いしているな。」


形のいい唇から言葉が零れる。


「お前が俺を拒絶していいわけがないんだ。」


今まで、どんなに機嫌が悪くても聞いたことのないような、地を這うような声。
無機質で、冷たい。
ベッドが軋む。
視界いっぱいに映る端正な顔。


「もう、自由はいらないな。」


ジャラリと、頭の上から金属音がした。
きっと俺を仕留めるために、銃を頭につきつけた音。


だってほら。
逃げられない。

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