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八章 陽だまりの花園
6、十六歳なので
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「共犯ならば。わたしは、光柳さまや雲嵐さまの未来の数の中に入っていますか?」
何気なく問いかけて、はっとした。
(待って、わたし、何を訊いてるの?)
これではまるで、一緒に連れていってほしいと主張しているようなものではないか。
確かに光柳は後宮から出たがっている。翠鈴は、姉の復讐のために自ら望んで宮女になったけれど。彼は違う、無理強いされたのだ。
「あの、今のは、違うんです。忘れてください」
翠鈴の声が上ずった。自分の顔は見えないが、きっと情けない表情をしているのだろう。
「忘れない……」
聞こえてきたのは、雲嵐の声ではなかった。
まさかっ。
翠鈴は立ち上がって逃げようとした。でも、できない。声を発した光柳の頭が、太ももにのっているからだ。
「退いてください。降りてください」
「いやだ。断る」
「無理です。今の記憶を消してください」
もはや悲鳴だ。
花園に植えられた木にとまっていた鳥が、一斉に飛びたった。バサバサと空気を叩く音。白い羽毛が舞い落ちる。
「ふっ。残念だな。そんな都合のよい記憶喪失にはなれない」
膝枕をされた状態のまま、光柳は思わせぶりな笑みを浮かべた。
「落としますよ」
脅しはしたものの、翠鈴にそんなひどいことができるはずもない。
「もう……もうっ」
湧きあがってくる羞恥に、翠鈴は穴があったら入りたくなってしまう。なければ穴を掘ってもいいくらいだ。
「翠鈴」
横向きの状態の光柳の声は、静かだった。
「君の膝から退くつもりはない。なので、このまま格好をつけさせてもらうが」
「……そうとう、格好悪いですよ」
「まぁ、気にするな」
光柳の耳が赤いのが、翠鈴の目に映った。
ふだんから、品のよさを最上のものとして生きている光柳なのに。信条に反しているはずなのに。
「私と雲嵐が、君を置いていくわけがないだろう? もっと自信を持て」
「どのような自信でしょうか」
質問をしたのは自分だ。だが翠鈴は、訊くんじゃなかったと後悔した。
光柳は、耳だけではなく頬まで染めている。
「すみません。今のは、なしです。質問は取り消します」
「いいから返事を聞きなさい」
強い調子の口調ではあるが。なぜか光柳の声は、微かに震えている。
「翠鈴。君は、私に愛されているという自信を持つべきだ」
あい、という音が脳内で意味とつながるまで間があった。
かあぁぁぁっと翠鈴の顔が熱くなる。
耳が痛い、ちぎれそう。慌てて触れると、耳朶は熱を帯びていた。
耐え切れずに翠鈴は、雲嵐に視線を向ける。助けを求めて。
だが雲嵐はうつむいて右手で顔を覆っている。
あまりにもまっすぐな主の言葉に、照れているのだろう。
(光柳さまと一緒に育ってきた雲嵐さまですら、こんな状況をご存じないんだわ)
ふと、胡玲の顔が浮かんだ。
だが、花園に胡玲はいない。彼女を頼ることもできない。
知らなかった。好きだと告げることは、度胸がいると分かっていたけれど。告白される方も、勇気が必要だなんて。
春の光を集めたような白い蝶が、ふわりと飛んでいる。
翠鈴はこぶしを握りしめた。深く息を吸う。
「わたしも好きですっ。大好きですっ。一緒につれていってください」
大声で発してしまってから、翠鈴は気づいた。これはどう考えても、賢さに欠ける。でももう発言は取り消せない。
「もちろんだ」
光柳は笑った。軽やかに。
ようやく頭を上げた光柳が、翠鈴の両手を包む。
とても大人とは思えない告白だったけれど。十六歳の小娘としてならば、許されるかもしれない。
何気なく問いかけて、はっとした。
(待って、わたし、何を訊いてるの?)
これではまるで、一緒に連れていってほしいと主張しているようなものではないか。
確かに光柳は後宮から出たがっている。翠鈴は、姉の復讐のために自ら望んで宮女になったけれど。彼は違う、無理強いされたのだ。
「あの、今のは、違うんです。忘れてください」
翠鈴の声が上ずった。自分の顔は見えないが、きっと情けない表情をしているのだろう。
「忘れない……」
聞こえてきたのは、雲嵐の声ではなかった。
まさかっ。
翠鈴は立ち上がって逃げようとした。でも、できない。声を発した光柳の頭が、太ももにのっているからだ。
「退いてください。降りてください」
「いやだ。断る」
「無理です。今の記憶を消してください」
もはや悲鳴だ。
花園に植えられた木にとまっていた鳥が、一斉に飛びたった。バサバサと空気を叩く音。白い羽毛が舞い落ちる。
「ふっ。残念だな。そんな都合のよい記憶喪失にはなれない」
膝枕をされた状態のまま、光柳は思わせぶりな笑みを浮かべた。
「落としますよ」
脅しはしたものの、翠鈴にそんなひどいことができるはずもない。
「もう……もうっ」
湧きあがってくる羞恥に、翠鈴は穴があったら入りたくなってしまう。なければ穴を掘ってもいいくらいだ。
「翠鈴」
横向きの状態の光柳の声は、静かだった。
「君の膝から退くつもりはない。なので、このまま格好をつけさせてもらうが」
「……そうとう、格好悪いですよ」
「まぁ、気にするな」
光柳の耳が赤いのが、翠鈴の目に映った。
ふだんから、品のよさを最上のものとして生きている光柳なのに。信条に反しているはずなのに。
「私と雲嵐が、君を置いていくわけがないだろう? もっと自信を持て」
「どのような自信でしょうか」
質問をしたのは自分だ。だが翠鈴は、訊くんじゃなかったと後悔した。
光柳は、耳だけではなく頬まで染めている。
「すみません。今のは、なしです。質問は取り消します」
「いいから返事を聞きなさい」
強い調子の口調ではあるが。なぜか光柳の声は、微かに震えている。
「翠鈴。君は、私に愛されているという自信を持つべきだ」
あい、という音が脳内で意味とつながるまで間があった。
かあぁぁぁっと翠鈴の顔が熱くなる。
耳が痛い、ちぎれそう。慌てて触れると、耳朶は熱を帯びていた。
耐え切れずに翠鈴は、雲嵐に視線を向ける。助けを求めて。
だが雲嵐はうつむいて右手で顔を覆っている。
あまりにもまっすぐな主の言葉に、照れているのだろう。
(光柳さまと一緒に育ってきた雲嵐さまですら、こんな状況をご存じないんだわ)
ふと、胡玲の顔が浮かんだ。
だが、花園に胡玲はいない。彼女を頼ることもできない。
知らなかった。好きだと告げることは、度胸がいると分かっていたけれど。告白される方も、勇気が必要だなんて。
春の光を集めたような白い蝶が、ふわりと飛んでいる。
翠鈴はこぶしを握りしめた。深く息を吸う。
「わたしも好きですっ。大好きですっ。一緒につれていってください」
大声で発してしまってから、翠鈴は気づいた。これはどう考えても、賢さに欠ける。でももう発言は取り消せない。
「もちろんだ」
光柳は笑った。軽やかに。
ようやく頭を上げた光柳が、翠鈴の両手を包む。
とても大人とは思えない告白だったけれど。十六歳の小娘としてならば、許されるかもしれない。
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