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二人の出会い篇
1、近衛騎士団のヴィレムさまは素敵です
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「ああ、ヴィレムさまだわ。なんてりりしいお姿なのかしら」
わたしは、うちで飼っている黒猫のミーシャを抱えて、人混みの中でぽうっとしてたの。
だって、今日は「このえき、しだん」が見られるんですもの。
――あらあら、フランカ。『このえき、しだん』ではなく近衛騎士団ですよ。もう十歳なんですから、間違えると恥ずかしいですよ。近衛騎士団は、デニスおじさまの末の息子さん、ヴィレムさんが所属しているはずね。
今朝、お母さまにその話を聞いてから、わたしはもう天にも舞い上がる気持ちでした。
ヴィレムさま。お家に何度かいらしたことがあるわ。お兄さまのお友達よ。
わたしは一年前のことを思い出していました。
◇◇◇
ヴィレムさまが騎士見習いでいらっしゃる頃に「やぁ、こんにちは。フランカ」って、クマのぬいぐるみを抱いているわたしの頭を撫でてくださったの。
ど、どうしよう。わたしも「こんにちは、ヴィレムさま。ようこそいらっしゃいました」ってお返事しないといけないのに。
緊張して、バクバクって音が頭いっぱいに広がって。
それで、クマちゃんをぎゅうううっと抱きしめたから。
「フランカ。クマが窒息しているよ」なんて、ヴィレムさまに苦笑されてしまったの。
わたしは顔を真っ赤にして、お父さまの後ろに隠れて……ヴィレムさまが覗きこむと、今度はお母さまの背中に隠れたの。
ああ、大失敗。ご挨拶もできなかったし、きっとヴィレムさまは、ぬいぐるみの首をもぎそうになる女の子なんてお嫌いよね?
体つきはがっしりなさっているし、肌も日焼けして褐色だけれど。ヴィレムさまの髪は蜂蜜のように甘い色で、瞳は明るい若葉色です。
それにとてもお優しいから、人気者なの。
わたしなんて、まだまだ小さくて。ご挨拶もちゃんと返せないから、きっとヴィレムさまは呆れていらっしゃるわ。
その日以来、わたしはヴィレムさまと直に会うことがなくなりました。
遠くから、そっとヴィレムさまの様子を眺めて、胸をときめかせるだけ。
見習いから騎士になったヴィレムさまは、さらに大人っぽくなって。よく女性に声をかけられている姿もお見かけしたの。
もちろん、わたしはガス燈の陰や煉瓦造りの建物の陰、木の陰、果てはベンチの陰にしゃがみこんで観察するしかありません。
だって、恥ずかしいんですもの。
ヴィレムさまがお家にいらしても、わたしは庭の奥に逃げ込んでいないふりをしたの。
そこは薔薇が咲き乱れていて。ヴィレムさまとお話ししたい気持ちと、また恥をかいて呆れられたらどうしよう、という気持ちと闘っていたんです。
ええ、膝を抱えてしゃがみこみながら。
「え、うそ?」
立ち上がろうとした時、わたしのふわふわした金の髪が、薔薇の棘に引っかかってしまいました。
しかも髪をなんとか外すと、今度はエプロンドレスの袖とスカートも引っかかってしまいました。
ど、どうしよう。動けません。服を破くわけにもいかないし。大声を上げて助けを呼ぶこともできません。
だって、お家の中にはヴィレムさまがいらしているのよ。
そんなみっともないこと、できないもの。
「ふ……ふぇ、ぇぇ」
わたし、いつまでもこのままなのかしら。中途半端に膝を曲げた状態で、立ち上がることも座ることもままなりません。
「大丈夫かい?」
その時、よく通る低い声が聞こえました。
わたしは、口から心臓が飛び出しそうになりました。
わたしは、うちで飼っている黒猫のミーシャを抱えて、人混みの中でぽうっとしてたの。
だって、今日は「このえき、しだん」が見られるんですもの。
――あらあら、フランカ。『このえき、しだん』ではなく近衛騎士団ですよ。もう十歳なんですから、間違えると恥ずかしいですよ。近衛騎士団は、デニスおじさまの末の息子さん、ヴィレムさんが所属しているはずね。
今朝、お母さまにその話を聞いてから、わたしはもう天にも舞い上がる気持ちでした。
ヴィレムさま。お家に何度かいらしたことがあるわ。お兄さまのお友達よ。
わたしは一年前のことを思い出していました。
◇◇◇
ヴィレムさまが騎士見習いでいらっしゃる頃に「やぁ、こんにちは。フランカ」って、クマのぬいぐるみを抱いているわたしの頭を撫でてくださったの。
ど、どうしよう。わたしも「こんにちは、ヴィレムさま。ようこそいらっしゃいました」ってお返事しないといけないのに。
緊張して、バクバクって音が頭いっぱいに広がって。
それで、クマちゃんをぎゅうううっと抱きしめたから。
「フランカ。クマが窒息しているよ」なんて、ヴィレムさまに苦笑されてしまったの。
わたしは顔を真っ赤にして、お父さまの後ろに隠れて……ヴィレムさまが覗きこむと、今度はお母さまの背中に隠れたの。
ああ、大失敗。ご挨拶もできなかったし、きっとヴィレムさまは、ぬいぐるみの首をもぎそうになる女の子なんてお嫌いよね?
体つきはがっしりなさっているし、肌も日焼けして褐色だけれど。ヴィレムさまの髪は蜂蜜のように甘い色で、瞳は明るい若葉色です。
それにとてもお優しいから、人気者なの。
わたしなんて、まだまだ小さくて。ご挨拶もちゃんと返せないから、きっとヴィレムさまは呆れていらっしゃるわ。
その日以来、わたしはヴィレムさまと直に会うことがなくなりました。
遠くから、そっとヴィレムさまの様子を眺めて、胸をときめかせるだけ。
見習いから騎士になったヴィレムさまは、さらに大人っぽくなって。よく女性に声をかけられている姿もお見かけしたの。
もちろん、わたしはガス燈の陰や煉瓦造りの建物の陰、木の陰、果てはベンチの陰にしゃがみこんで観察するしかありません。
だって、恥ずかしいんですもの。
ヴィレムさまがお家にいらしても、わたしは庭の奥に逃げ込んでいないふりをしたの。
そこは薔薇が咲き乱れていて。ヴィレムさまとお話ししたい気持ちと、また恥をかいて呆れられたらどうしよう、という気持ちと闘っていたんです。
ええ、膝を抱えてしゃがみこみながら。
「え、うそ?」
立ち上がろうとした時、わたしのふわふわした金の髪が、薔薇の棘に引っかかってしまいました。
しかも髪をなんとか外すと、今度はエプロンドレスの袖とスカートも引っかかってしまいました。
ど、どうしよう。動けません。服を破くわけにもいかないし。大声を上げて助けを呼ぶこともできません。
だって、お家の中にはヴィレムさまがいらしているのよ。
そんなみっともないこと、できないもの。
「ふ……ふぇ、ぇぇ」
わたし、いつまでもこのままなのかしら。中途半端に膝を曲げた状態で、立ち上がることも座ることもままなりません。
「大丈夫かい?」
その時、よく通る低い声が聞こえました。
わたしは、口から心臓が飛び出しそうになりました。
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