憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃

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お見合いとお付き合い篇

13、どうなさったの? お兄さま

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 あれから雨宿りをしていたんですけど。結局、ヴィレムさまとわたしは雨に濡れてしまいました。

「済まない……俺の所為だな」
「いえ、平気です」

 でも、わたしはヴィレムさまのお顔がちゃんと見れません。
 だって、キスをされて。知らぬ内に動いてしまったのか、わたしの体にも雨がかかってしまったのですから。
 しかも、キスを終えるまでそれに気づかないなんて。

「うちの方がヴィレムさまのお家よりも近いですから。着替えに寄ってください」

 雨上がり、雲間から美しい青空が覗き、空気は洗われたように清らかでした。

 石畳は濡れてきらきらと煌めいて。二人で手を繋いで、家まで送ってもらったんです。
 歩く速度が同じで、時々見上げると凛々しい彼の横顔が素敵で。

 だから、わたしは繋いだ手に、さらにきゅっと力を込めるんです。
 そうしたら、ヴィレムさまがわたしを見て、とても嬉しそうに微笑んでくださったの。

 なんてまばゆい笑顔。
 好き、大好き。そう思っていたら……。

「俺もだよ、フランカ。俺も君のことが大好きだ」
「え? あの、なぜ」
「声に出ていたよ。恥ずかしがり屋さんなのに、フランカは情熱的だよな」

 笑顔でそんな風に言われて、わたしは頭から湯気が出そうになりました。
 羞恥に手を離そうとすると、逆にヴィレムさまにぎゅっと握られて。

「駄目だよ。離さない」と、仰るものですから。
 卒倒しそうになりましたけど。意志の力でなんとか堪えました。
 でないと次から、気付け薬持参のデートになってしまいますから。

◇◇◇

 わたしの家に戻って、それぞれ体を拭いて着替えをした二人(ヴィレムさまは、わたしのお兄さまの服ではサイズが合わないので、ガウンをはおっていらっしゃいます)
を見たお兄さまは、それはもう怒っていらっしゃいました。

 なぜこんな時間に、家にいらっしゃるのでしょう。今日は仕事が始まるのが遅くて、終わるのが早いんですね。

「不安になって戻ってみれば」

 お兄さまの握りしめた拳は、ふるふると震えています。

「ヴィレム……貴様のことは信じていたのに。たとえ体力馬鹿で脳が筋肉で出来ていようとも……」
「いや、ラウレンス。医者の君なら、脳に筋肉はつかないと分かっているだろう?」

「正論などどうでもいい」と、お兄さまはなおも拳を握りしめて、声を震わせておいでです。

「やめておけ。君の腕力では俺には勝てん」
「だから、正論など聞いていない。ぼくはフランカのことが心配で心配で」

「ああ」と、ヴィレムさまは納得したように頷きました。

「案ずるな、ラウレンス。既成事実はないぞ。今はまだ……」

 ヴィレムさまのその言葉に、お兄さまは目を見開き。そして頭を抱えて応接室の床にしゃがみこんでしまいました。

「今はまだ……?」
「そう、安心しろ。今はまだ、そこまではしていない」
「そこまでは……?」

 ヴィレムさまが言葉を重ねれば重ねるほど、お兄さまの声は小さくなっていきます。
 なぜでしょう。ちゃんと説明を聞いていらっしゃるはずなのに。いつもの冷静さはどうなさったのかしら。

「俺はフランカの幸せを願っているだけだ。ヴィレム、決してお前の幸せを願っているわけではない。なのに……なぜフランカはお前に懐き、お前を好きだといい、お前を追いかけて……理解できん」

 お兄さまにミーシャが「にゃあ」と鳴きながら、体をすり寄せていました。まるで慰めるかのように。

「俺はお前のことが嫌いなのに、フランカが幸せになればお前まで幸せになってしまうんだ」
「別にいいだろ。妹が幸せなら、兄としては喜ばしいじゃないか」
「お前のそういう無神経さが嫌いなんだっ!」

 わたしはミーシャを抱き上げて、二人の口論を眺めていました。飄々としたヴィレムさまと妙に躍起になるお兄さま。
 昔からこの関係は変わりません。
 まぁ、喧嘩するほど仲がいいと申しますものね。



    【 完 】  
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