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一章
7、ねむくて
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アレクのだっこがぬくいから。マルティナ、おねむになってしまったの。
ふふ、アレクいいにおーい。
あのね、レモンみたいなの。
レモンってきいろい、きいろいのはたんぽぽ。
そうだ。アレクにたんぽぽのわたげのふきかたを、おしえてあげなくちゃ。
マルティナ、とってもじょうずなのよ。
おかあさまのばらと、マルティナのたんぽぽで、おにわをいっぱいにするの。
それでね、アレクをパーティによぶの。
――すばらしいですね、姫さま。お花は美しく、ケーキもとてもおいしいですよ。
――それだけ?
――ああ、失礼いたしました。姫さまもとてもお美しいです。
ふふ。やだぁ、てれちゃう。ケーキもじょうずにつくれるし、たんぽぽのわたげもとおくまでとばせるし、おうつくしいし。
うれしくて、もぞもぞしちゃう。
アレクはたんぽぽをわっかにあんで、わたしのあたまにのせてくれるの。
おはなのかんむりよ。
――よくお似合いです。
――まぁ、そんな。うれちうございますわ。あら? うれちゅうございますわ?
こまったわ。うまくしゃべれない。
こんなおこさまじゃ、あきれられちゃう。
でもアレクは、わたしをばかにしたりしなかった。
にっこりとして「だいじょうぶですよ」っていってくれたの。
やさしいね、アレク。わたしね、アレクがやさしいってずっとずーっとまえから、しってるよ。
アレクのおかおがこわいって、みんなはいうけど。そんなことないの。こわくないのよ。
◇◇◇
マルティナさまを子ども部屋までお連れする時、廊下でクリスティアン殿下とすれ違った。
「マルティナは、夢でも見ているのかな? 顔がにやけているが」
「殿下。にやけているではなく、微笑んでいると仰った方が」
「ん? そうか。そうだな四歳といえども女の子だものな。アレクは女心が分かるのだなぁ」
いえ、分かりませんよ。これっぽっちも。
丸いものが並んでいるのを見れば投擲弾だと真っ先に疑うのは、自分でもどうかと思います。
遊びの途中で熟睡してしまった愛娘を、殿下は面白そうに眺めていらっしゃる。
「そなた相手だと、マルティナは安心しきっているようだ」
「勿体ないお言葉です」
「マルティナを大事にしてくれて、本当に感謝しているのだ。私もマルガレータも」
殿下に、どう答えていいのか分からなかった。
護衛という名のお世話係は、仕事であり任務である。だが、たとえ殿下にマルティナさまの護衛を命じられなかったとしても、私は彼女のままごとに同席したのではないか?
まぁ、誘われなければ同席しようもないか。
肩をすくめたせいで、マルティナさまが「うーん」と寝返りを打った。
いけない、ここは廊下だ。落とすことがあってはならない、と抱っこし直す。
「私よりも抱っこが上手だ」
「殿下は腕力が足りないのでは?」
「暴れるんだよ、マルティナが。しがみついて、よじ登ろうとするんだ」
ああ、それは抱っこの仕方が不安定で怖いのでしょうね。抱っこされると高さもあるし、殿下がお歩きになると姫さまの恐怖が増すのでは?
さすがに口にするのは憚られたので「殿下が椅子にお座りになって、マルティナさまを膝に乗せるといいですよ」と申し上げた。
「なるほど、アレクは頼りになるなぁ」
「恐れ入ります」
私は頭を下げる。それにしてもこれだけ耳元近くでしゃべっているのに、マルティナさまはぐっすりだ。
どんな夢をご覧になっているのだろう。
庭でせっせと泥団子……もといケーキを作る夢だろうか。
ふふ、アレクいいにおーい。
あのね、レモンみたいなの。
レモンってきいろい、きいろいのはたんぽぽ。
そうだ。アレクにたんぽぽのわたげのふきかたを、おしえてあげなくちゃ。
マルティナ、とってもじょうずなのよ。
おかあさまのばらと、マルティナのたんぽぽで、おにわをいっぱいにするの。
それでね、アレクをパーティによぶの。
――すばらしいですね、姫さま。お花は美しく、ケーキもとてもおいしいですよ。
――それだけ?
――ああ、失礼いたしました。姫さまもとてもお美しいです。
ふふ。やだぁ、てれちゃう。ケーキもじょうずにつくれるし、たんぽぽのわたげもとおくまでとばせるし、おうつくしいし。
うれしくて、もぞもぞしちゃう。
アレクはたんぽぽをわっかにあんで、わたしのあたまにのせてくれるの。
おはなのかんむりよ。
――よくお似合いです。
――まぁ、そんな。うれちうございますわ。あら? うれちゅうございますわ?
こまったわ。うまくしゃべれない。
こんなおこさまじゃ、あきれられちゃう。
でもアレクは、わたしをばかにしたりしなかった。
にっこりとして「だいじょうぶですよ」っていってくれたの。
やさしいね、アレク。わたしね、アレクがやさしいってずっとずーっとまえから、しってるよ。
アレクのおかおがこわいって、みんなはいうけど。そんなことないの。こわくないのよ。
◇◇◇
マルティナさまを子ども部屋までお連れする時、廊下でクリスティアン殿下とすれ違った。
「マルティナは、夢でも見ているのかな? 顔がにやけているが」
「殿下。にやけているではなく、微笑んでいると仰った方が」
「ん? そうか。そうだな四歳といえども女の子だものな。アレクは女心が分かるのだなぁ」
いえ、分かりませんよ。これっぽっちも。
丸いものが並んでいるのを見れば投擲弾だと真っ先に疑うのは、自分でもどうかと思います。
遊びの途中で熟睡してしまった愛娘を、殿下は面白そうに眺めていらっしゃる。
「そなた相手だと、マルティナは安心しきっているようだ」
「勿体ないお言葉です」
「マルティナを大事にしてくれて、本当に感謝しているのだ。私もマルガレータも」
殿下に、どう答えていいのか分からなかった。
護衛という名のお世話係は、仕事であり任務である。だが、たとえ殿下にマルティナさまの護衛を命じられなかったとしても、私は彼女のままごとに同席したのではないか?
まぁ、誘われなければ同席しようもないか。
肩をすくめたせいで、マルティナさまが「うーん」と寝返りを打った。
いけない、ここは廊下だ。落とすことがあってはならない、と抱っこし直す。
「私よりも抱っこが上手だ」
「殿下は腕力が足りないのでは?」
「暴れるんだよ、マルティナが。しがみついて、よじ登ろうとするんだ」
ああ、それは抱っこの仕方が不安定で怖いのでしょうね。抱っこされると高さもあるし、殿下がお歩きになると姫さまの恐怖が増すのでは?
さすがに口にするのは憚られたので「殿下が椅子にお座りになって、マルティナさまを膝に乗せるといいですよ」と申し上げた。
「なるほど、アレクは頼りになるなぁ」
「恐れ入ります」
私は頭を下げる。それにしてもこれだけ耳元近くでしゃべっているのに、マルティナさまはぐっすりだ。
どんな夢をご覧になっているのだろう。
庭でせっせと泥団子……もといケーキを作る夢だろうか。
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