小さな姫さまは護衛騎士に恋してる

絹乃

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一章

14、びっくりしたの

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 鳥の声がきこえるの。それにお顔がなんだか温かくて。朝日にてらされているせいなのかしら、まぶたを通してオレンジ色が見えるの。

「う、うーん」
「お目覚めですか? マルティナさま」

 おかしいわ。どうして侍女の声がこんなにひくいの? お母さまやお父さまの声でもないし。それにね、ちょっときゅうくつなの。ベッドもねまきも。

 へんねぇ、と思いつつ目を開くと。
 え、なんで? どうして? いっしゅん、ゆめを見てるのかと思ったの。だってアレクがいたから。
 わたしはびっくりして、またぎゅっと目をとじた。で、もう一度ひらくと、やっぱりアレクがそこにいるの。

 おかしいわ、二人して横になってるなんて。もしかしてころんじゃったのかしら。

「アレク。いたくないの?」
「どこがですか?」
「だって、わたしがころんで助けてくれようとして。それでまきこまれて、いっしょにころんじゃったんでしょ」
「ん?」

 アレクは考えこむようにまゆをよせた。
 それから「もしかして寝ぼけていらっしゃいますか?」なんて、しつれいなことを言うのよ。
 もうっ、レディはねぼけたりしないのっ。

 わたしは、ほっぺたをぷーっとふくらませて、アレクのほっぺをつねったの。
「痛いですって。おやめください」なんて言いながら、ぜんぜんいたそうにしてないのよ。

「昨夜、姫さまは離宮から戻る馬車の中で眠ってしまわれました。僭越ながら、私が姫さまをお部屋まで運ばせていただいたのですが。その……」

 思い出した。やだ、わたしったらお家についてもおきなかったの?

「姫さまは、私の手を握ったままお放しにならず。あの、それで、こうしてお供することになったのです」

 そーっとしせんを下ろすと、わたしの手はアレクの大きな手をぎゅっとにぎりしめていた。

「うわ、うわわぁ、きゃああっ」
「姫さま?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。アレクったら、アレクじゃないのに。アレクはどこ?」

 頭がこんらんして、わたしはいつものぬいぐるみのアレクを目でさがしたの。でも、いつも枕元に置いてあるのに、アレクがいないの。
 代わりに人間のアレクはいるんだけど。

「ごめんなさい。わたし、ねるときはいつもアレクといっしょに……アレクをぎゅーっとだっこしてねてるの」
「えーと、それはぬいぐるみの話ですね?」

 こくこくとうなずくけれど。顔があつくて、ああきっとわたしの顔は真っ赤になってるにちがいないわ。だって耳まであついんだもの。今にも耳がちぎれてしまいそうなほどよ。

「どうやら犬のアレクは落ちてしまったようですね」

 アレクが床に手をのばした。わたしは手をはなすのをわすれていたから。いっしょにひっぱられてしまったの。
 そのせいで、アレクのむねに顔をうずめるかっこうになって。

 いやーん、はずかしい。なんとかのがれたくてもがいていたら、アレクが小さく笑う声が聞こえた。

「姫さま、何を今更。いつでも私に飛びついたり、しがみついたりなさっていたではありませんか」
「それ、いつの話?」

 ああ、はずかしくて声がふるえちゃう。みっともないよぉ。しかもねまきかと思ったら、わたしったらおぎょうぎ悪く、お着がえもしていないの。
 こんなのレディじゃないわ。

「去年までですから、五歳の頃までは私が抱っこするとしがみついて離れませんでしたね」
「……五さいは、こどもだもの」
「いえ、六歳もなかなか子どもかと」

 くちびるをかみしめながらアレクを上目づかいでそーっと見ると。やっぱりわらってるんだもの。
 ちがうの、マルティナはもう子どもじゃないのっ。
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