赤い瞳を持つ私は不吉と言われ、姉の代わりに冷酷無情な若当主へ嫁ぐことになりました

桜桃-サクランボ-

文字の大きさ
29 / 41
桔梗家と鬼神家

第29話 発現

しおりを挟む
 雅様についていき、森の中を歩く。
 周りに立ち並ぶ木の隙間から、月光が降り注ぐ。それのお陰で、足元が照らされ転ぶ心配はない。

 ですが、明るいとも言い難い森は、少し怖い。風も冷たく、体が冷えてしまう。

 雅様が近くにいるとわかっていても、怖いものは、怖い。
 不安に思っていると、雅様が振り向いた。

「怖いか?」
「い、いえ」
「もう少しだ。あと少しで、怖いなどという感情はなくなる。楽しみにしていろ」

 ケラケラ笑いながら歩みを進める雅様は、なぜか楽しそう。

 ――――そういえば雅様、最近よく笑うようになった気がする。

 雅様の笑みで、先ほどまで抱いていた恐怖心が無くなった。
 今は、ドキドキと胸がうるさくて、それどころではない。

 足元に気を付けながら歩いていると、やっと森が開けてきた。

 森を抜けると、満点の星空が広がる光景に、思わず言葉を失った。

「綺麗……」
「心を休めるには、自然に触れるのが一番だ。ここは空気が澄んでおり、星が綺麗に見える。とっておきの場所だ」

 私の肩に手を回し、引き寄せる。
 見上げると、雅様が柔和な笑みを浮かべ星空を見上げていた。

 ――――幸せだ。
 こんな幸せが今後も続く、続かせたい。

 雅様を失うなんて、私、絶対に耐えられないっ!

「それにしても、ここは――どうした?」
「――――え?」

 雅様が微かに目を開き、私の目元に手を伸ばす。
 頬を撫で、いつの間に流れていた雫を親指で拭いてくれた。

 雫、涙?
 私、泣いているの? なんで?

「…………美月、話してもらえんか? 何が貴様を、そこまで苦しめているのか」

 細められた漆黒の瞳は、涙を流す私を映し出す。

 どうしよう。夢の話を伝えていいのだろうか。あんな、気分の悪くなる夢を……。

 雅様に、雅様が殺されてしまう夢を伝えていいのか、分からない。
 いや、伝えない方がいい。何も言わない方がいい。

 分かってる。けれど、もう、一人では抱えきれない。

「美月、俺様を信じろ」

 真っ直ぐで、強い視線。優しく添えてくれている手。

 口が、勝手に動いてしまう。
 優しい雅様に、縋ってしまう。

「――――夢を、見るんです」
「夢?」

 雅様に、今まで見てきた夢を何も隠すことなく話した。

 最初はただ、雅様が殺されてしまう場面が映るのみだったと。
 徐々に背景がわかり、屋敷の裏であることがわかり、誰かに殺されてしまうこと。

 それが、私の姉である美晴姉様だったと言う事も話し、私は口を閉ざした。

「――――なるほど。俺様が、貴様の姉に殺される……か」
「絶対にありえません。絶対に、そんなこと……。でも、怖くて……」

 体が震える。声も、震える。
 怖い、現実で起こるはずなんてないのに。なんで、こんなにも怖いの。

 自分の身体を包み込むが、震えは止まらない。
 寒気までしてきて、歯がガチガチと音を鳴らす。

「美月よ、それは貴様の力が発現したという事ではないか?」
「え、力?」
「あぁ。今、考えられるのは、予知夢。それか、未来視。今回見た夢は、今後、起こりうる一つの可能性なのかもしれん」
「そ、そんな…………」

 なら、私は雅様を失ってしまうのですか?
 美晴姉様が殺してしまうって、こと?

 美晴姉様が雅様を殺す。それは、私が雅様に嫁いでしまったから。
 つまり、私が、雅様を殺してっ――……

「ありがとう、美月」
「――――っ、え」

 雅様は、微笑みを浮かべ、私の頭を撫でる。

 なぜ、ありがとうと言うのだろうか。
 なぜ、そんな清々しい表情を浮かべるのだろうか。

「もし、それが予知夢なのだとしたら、今後の対策がしやすい。それに、桔梗家が裏で手を引いているのも確信に変わった」

 まだ、雅様はブツブツと呟いている。
 しかも、イキイキと。

「ふむ。美月に深い傷を与えた桔梗家を苦しめる算段が出来たぞ。今後どうなるか。俺様を怒らせた罪を、思い知らせてやる」

 ――――あっ……。

 雅様、なんか、あの、これは本でしか見た事がないので何とも言えないのですか、あの、閻魔様のような顔を浮かべていますよ。

 私もさすがに、少し、怖いです。

「では、美月よ。風をひいても困る、早く屋敷に戻ろうぞ」
「あ、あの、雅様。その、楽しそう、ですね?」

 私の手を繋ぎ歩き始めた雅様は、なんだか、楽しそうです。

 私の話を聞いてから、やる気が満々のように感じます。

「あぁ、そうだな。俺様は基本、平和に事を終らせることを一番に考えているが、今のように策略を練り、相手を追い込めるのも楽しくてたまらんのだ」
「…………え?」
「つまり、俺様は本来、平和主義者ではない。我慢はできるがな」

 閻魔様が、目の前に降臨しました。

 でも、楽しそうにブツブツと作戦を考えている雅様は、今まで見ていたどんな雅様より子供のように無邪気で、なんだか可愛いです。

 ……………………考えていることは物騒だけど…………。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

永遠の十七歳なんて、呪いに決まってる

鷹 綾
恋愛
永遠の十七歳―― それは祝福ではなく、三百年続く“呪い”だった。 公には「名門イソファガス家の孫娘」として知られる少女キクコ。 だがその正体は、歴史の裏側で幾度も国を救ってきた不老の元聖女であり、 王家すら真実を知らぬ“生きた時代遺産”。 政治も権力も、面倒ごとは大嫌い。 紅茶と読書に囲まれた静かな余生(?)を望んでいたキクコだったが―― 魔王討伐後、王位継承問題に巻き込まれたことをきっかけに、 まさかの王位継承権十七位という事実が発覚する。 「……私が女王? 冗談じゃないわ」 回避策として動いたはずが、 誕生した新国王アルフェリットから、なぜか突然の求婚。 しかも彼は、 幼少期に命を救われた“恩人”がキクコであることを覚えていた―― 年を取らぬ姿のままで。 永遠に老いない少女と、 彼女の真実を問わず選んだ自分ファーストな若き王。 王妃になどなる気はない。 けれど、逃げ続けることももうできない。 これは、 歴史の影に生きてきた少女が、 はじめて「誰かの隣」を選ぶかもしれない物語。 ざまぁも陰謀も押し付けない。 それでも―― この国で一番、誰よりも“強い”のは彼女だった。

婚約破棄されて追放寸前だったのに、なぜか冷徹なはずの氷の公爵様から世界で一番甘く愛されています。

黒崎隼人
ファンタジー
「リゼット・フォン・ヴァインベルク! 貴様との婚約を、今この時をもって破棄する!」 卒業パーティーの夜、公爵令嬢リゼットは婚約者の王太子から冤罪を突きつけられ、全てを失った。 絶望の淵に沈む彼女に手を差し伸べたのは、『氷の公爵』と噂される冷徹な美青年、キリアン・アシュフォード。 「ならば、俺が君を娶ろう」 彼の屋敷で始まったのは、戸惑うほどに甘い溺愛の日々。 不器用な優しさに触れるうち、凍てついた心は少しずつ溶かされていく。 一方、リゼットを陥れた偽りの聖女は王宮で増長し、国に災いを招き寄せていた。 やがて真実が暴かれる時、元婚約者は後悔の涙を流すけれど――もう、遅い。 これは、不遇の令嬢が本当の愛を見つけ、世界で一番幸せになるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるような溺愛があなたを待っています。

【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立

黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」 「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」 ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。 しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。 「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。 だが、彼らは知らなかった。 ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを! 伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。 これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

処理中です...